Saturday, November 08, 2025

AIのフーガ

米株式市場を追いかけて縋りつくような日本株式ですが、今週興味深い動きが見られました。前エントリー*1で株価の上昇トレンドを取り上げましたが、5日に大幅に下げて終値は5万円を割りました*2。AIバブル崩壊の懸念からか一部ファンドがエヌビディアなどテック株に大量の皮売りを仕掛けて値下がりした前日のNY市場の流れから日本市場でもAU関連の売りが出て下げたもので、ソフトバンクグループのような大型株が下げた結果ですが、面白いことに翌6日には相場が5万円台に戻ります*3。AI関連は軟調ですが、内需株その他好業績企業がぶっ浴された結果ですが、ザックリ言えば日本株に流入した資金は引き続き日本に留まっているということになります。

勿論これは円安インフレによるもので素直に喜べないのですが、傾向として輸出その他で外需依存が強く関税の影響で利益を減らす製造業よりも内需関連のサービス業が業績を伸ばしています*4。まあ万博の影響もあると思いますが。それでも資本効率が改善しない日本企業の何が問題なのかということで、面白いコラムを見つけました*5。自己資本利益率(ROE)は自己資本で純利益を割った比率ですが、業績好調で利益は増えても分母の自己資本が増えれば比率は改善しない訳で、特に海外法人の売上が大きい外需依存企業では利益の本社送金をせずに海外法人が内部留保していると、決算時に為替変動を反映した含み益含み損が連結決算で自己資本に算入される訳で、円安による含み益が分母を押し上げているとすれば、なるほどROEは改善しない訳です。しかも国内からの輸出分の関税も円安効果で負担が軽くなるから利益減も圧縮される訳です、つまり日本株は円安で押し上げられているということですね。円安が反転しインフレが収まらない限りこのトレンドは続きます。

その意味では高市政権の所信表明演説で積極財政を打ち出したことは、財政悪化で円安もインフレも止まらず、企業業績が良くてもそれが賃金に反映されない限り賃金がインフレに追いつかず、国民生活は窮乏化することになります。そしてアメリカではさらに気になる動きがあります。アメリカの政府閉鎖が続いて航空管制官が無給で働いているものの、このまま続ける訳にもいかず、連邦運輸省は管制官を休ませるために航空便の減便に踏み込みます*6。言ってみれば政府によるロックアウトのような状況で、当然航空券は入手困難になり出張やレジャーは自粛または片道レンタカーなどの自衛策となり国民生活に多大な影響が出ています。

そしてそのこと自体の経済的損失もさることながら、既に1ヵ月を越える政府閉鎖で予算執行が滞った結果、政府支出による通貨の流動性の低下に影響が出ていると見られることです。つまり日本とは逆に意図せざる歳出削減効果が働いてそれが金融市場の量う同姓を低下させている疑いがあるということです。暗号資産ビットコインの暴落がそれをよく表していますが、この流れから本当にAIバブル崩壊に至るシナリオもあり得ます。その場合は日本も無事でいられるかどうか。但し企業が外需依存をリスクと捉えて内需関連の投資が増えれば局面が変わる可能性はあります。但し高市政権下では逆方向の動きが気になります。

例えば経済安全保障重視で造船などの海外事業の支援ってのは結局造船能力を喪失したアメリカの艦船製造を支援するって話で外需依存なんですよね。海底ケーブル敷設なども日本のデジタル赤字を拡大させるだけならサービス収支悪化で円安になるだけだし、何より明らかに大砲とバターの大砲重視の姿勢は確実に国民生活を圧迫します*7。そして台湾有事への言及が寧ろ安全保障環境を悪化させる恐れもあります*8。タイ湾に関しては当事者である中国も台湾も現状維持を求めており、アメリカも動けない。加えて日米共に台湾を国家承認していないから集団的自衛権行使の対象にはならないし、国際法上は内戦となりそれに対する軍事介入は重大な主権侵害になります。つまり現状の法的枠組みでは動けないから歴代政権が曖昧にしてきたところへ踏み込んだ訳で、寧ろ事態を悪化させます。

ってことでいろいろ心配はありますが、鹿を指して馬と為す*9東急田園都市線梶が谷駅の事故で政府は鉄道各社にシステム点検を指示し*9、他社でも同じ問題がありました。JR西日本や阪急阪神HD、関東ではJR東日本と京急で見つかり、それぞれ対策を発表しています*10。システム設定のミスが見つかり、今までは事故に繋がったケースはないものの、新しいシステムを導入しても設定ミスの見落としは防げない訳で、東急の見習い運転士のささやかなミスが将来の事故の可能性を摘み取ったと見れば良かったということになります。天下国家を論じて大きな物語に酔うよりも、新しいものを確実に社会実装して役立てていくというこうしたことが、国民生活を豊かにするということは声を大にして言いたいところです。

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Saturday, November 01, 2025

株価以外全部沈没

ほとんど前エントリー*1の続編ですが、事態が動いているのでフォローアップせざるを得ない状況です。

まずガソリン減税ですが、今年12月31日からの暫定税率廃止で与野党が合意しました*2。与野党6党合意ですから国会通過もすんなりいくでしょう。軽油も来年4月1日からということですが、インフレ対策なら物流費に影響する軽油を後回しというのは軽油引取税が地方税で地方から反対の声が上がっていますが、同時にガソリンが安くなることの方が国民へのアピールになるということもあるでしょう。AIが壊す社畜エスカレーター*3でも触れましたが、価格が下がって需要を喚起すると原油の輸入が増えて貿易収支が悪化して円安インフレを招くことになります。

また財源は曖昧なままで、当面税収上振れによる剰余金や法人税の特措法減税の見直しなどとされてますが、特に剰余金は繰り越して次年度の国債発行抑制に用いることが法定されてますから、年度をまたいだ単なるトバシでしかありません。具体的に道路予算削るとか自動車関連税例えば重量税の増税とか、揮発油税の負担がないEVを考慮した走行距離税とか燃料税の炭素税への1本化とかには踏み込まずに済まそうとしている訳です。この調子ですから財政規律の緩みを質そうとはしていない訳で三つ子の赤字*4はますます進みます。

そして自動車半導体を巡るオランダと中国の対立がエスカレートしています*5。ネクスペリアは元々オランダの電機大手フィリップスの半導体部門を独立させた企業ですが、中国資本に買収された結果、オランダ政府から製造技術流出の恐れということで冷戦時代に作られた忘れられた法律で規制をかけたものですが、どうも裏でアメリカが動いているようで、怒った中国政府がネクスペリアの中国にある最終製品工場からの海外出荷を制限した結果、ドイツVWや日本のホンダその他の自動車メーカーが巻き添えになっております。自動車用半導体の世界シェア4割を占める同社の製品の8割は中国工場で最終製品に加工されることから、世界中の自動車メーカーがトバッチリを食っている訳です。これ結局日欧などアメリカの同盟国が傷つくだけの不毛な争いですが、今度はオランダ政府がネクスペリアのシリコンウエハーの中国工場への供給を止めて泥仕合になっています。中国資本のオランダ企業というネクスペリアがまた裂き状態になっている訳で、トランプと習近平がにこやかに握手しても事態は解決しません。中国を除く世界の自動車産業のピンチです。

そのせいか最高値を更新する日本株でも自動車関連はパッとしません。主にAI関連半導体関連の値上がりが支えているようで、相場全体が上げ相場という訳ではありません、円安で割安感があっても海外勢は万遍なく買っている訳ではないということです。高市トレードと言われる株高も一皮むけばという感じですが、特に欧州勢の買いが優勢なのは変わりません。インバウンドやタワマン完売などに見られる安いニッポン現象です。

ほぼ500兆円で動かなかった日本の円建てGDP名目値ですが、ドル建てでは5兆~6兆ドルだったものが、インフレで600兆円を超えた円建て名目値がドル建てでは4兆ドルになっているのが現状な訳で、その分日本の購買力が低下している訳で、一番のインフレ対策は日銀の利上げしかない状況ですが*6、またも日銀は動きませんでした*7。ベッセント国務長官は別に親切心で言っているのではなく、日本政府のドル売り介入を牽制する意図でしょう。実際米ドルは円を除く主要通貨に対して下げており、ユーロ・ポンド・スイスフランなどに対して安値となっていて通貨防衛の意図ですが、欧州の主要通貨は既に米FRBに先駆けて利下げに動いていて、スイスフランに至っては日本よりも低金利なのに上昇してます。そしてFRBも今回は動いたものの*8為替は寧ろ円安に動いてドル円153円台が定着しつつあります。その意味では日銀が利上げしても大勢に影響はないのかもしれませんが、金融正常化の姿勢を示す意味はありますし、利上げを遅らせた分だけ正常化が先送りされます。

てことでインフレ下で株式の高値更新はある程度持続すると思いますが、銘柄ごとに動きはバラバラで、下げている銘柄もあります。例えばリニア事業費倍増で嫌気されたJR東海です*9。財務の健全性は複雑系エントリー*10で指摘した通りですし、財投の3兆円も30年据え置きという破格条件で現状無利子ですから利払いの負担はなく、現状のインフレが続くなら負担にならないかもしれませんが、それ故に居心地の良い現状を抜けられなくなっているとも言えます。東海道新幹線のぞみ増強とインバウンド需要で既にライバルの国内航空便に対しても優位な状況ですから、仮に似リニアが開業しても航空からの移転はほぼ見込めないとも言えます。逆に東海道新幹線の好調でキャッシュを稼ぎ過ぎると自社株買いや配当などの株主還元を求められるから現状煩いアクティビストに狙われることもないということも言えます。この辺は伝統的日本企業的なスタンスで、既に赤字ローカル線の名松線に至るまで線路も車両も更新されこれ以上の投資先が見当たらない贅沢な悩みでもあります。何ならJR西日本が渋っている北陸新幹線米原ルートを整備スキーム無視で自前整備するとか。まあやらないでしょうけど。

一方でインバウンド対応は京阪が始めたプレミアムカーが阪急やJR西日本でも取り入れられ、老舗の近鉄特急も差別化された豪華特急のラインナップを整備してます。そんな中で京阪は更にプレミアムカー2両体制と攻めてます*11。上限運賃が決められていて航空鵜のようなダイナミックプライシングが難しい中でJR東日本の中央線グリーン車や私鉄各社の着席サービスが次々に登場してますが、京阪の場合沿線開発が終わって沿線の高齢化や松下・サンヨーといった大手電機産業の撤退やJR西日本との競争激化もあって乗客が減少する中での増収策ですが、当然一般車の乗車定員を削っている訳で、それに対する批判もありますが、背に腹は代えられないということですね。

同様の動きは関東でもありまして、1つは京成電鉄の空港連絡有料特急の増強計画です*12。成田空港第三滑走路供用と3つのターミナルビル統合を成田空港会社が打ち出し、末端が単線のJRと京成の成田空港線の増強を視野に入れてスカイライナーに加えて押上発着の有料特急を2027にも導入ということで、押上が観光名所でもある東京スカイツリー最寄りで浅草にも近いからインバウンド需要の取り込みが見込めるということですね。アクティビストから将来への追加投資を迫られていた京成が動きを見せた訳ですが、同時に都営浅草線への直通も視野に入っていると考えられます。そしてそれを裏付けるような動きが出ました*13。具体策はこれからですが、JR東日本のN'EXの牙城に切り込む可能性もあります。

両社ともにアクティビストの標的にされており、投資をせがまれてしないなら株主還元を求められているという点で共通しています。加えて都営浅草線を通じて関係も深く保安装置も同じ1号線型ATSの上位互換のC-ATS*14でハードは共通で運用が異なるだけなので擦り合わせは容易です。具体的にダイヤに落とし込むときに現状のインフラの貧弱さがネックになる可能性はありますが、インバウンド対応というところは引っ掛かるものの、とりあえず投資に向かうことは評価できます。殆どシナジーのない新京成電鉄の子会社化と統合とか、系列バス会社の再編とかで守りを固める一方だった京成と、やはり沿線の高齢化と立地企業の撤退で京阪と似た苦境にある京急がアクティビストに促されて動いたということですね。日本の現状は明らかに国内の民間投資が不十分だった結果と言えますから。

その意味で日本政府が合意文書を交わした5500億ドルの対米直接投資はヤバいです*15。というのも同様に対米投資を迫られた韓国のこのニュースです*16。長くなりましたのでさわりだけですが、韓国は外貨準備の80%超に及ぶ3500億ドルの直接投資でウォン安によるインフレ昂進を懸念して抵抗していたもので、それ故自動車関税交渉が遅れたのですが、日本のように自動車関税緩和を優先してやはり確実に円安を招く巨大投資を受け入れたことは、国民生活を犠牲にして大企業を救ったということでもあります。とりあえず今回はここまでにしておきますが追って深掘りします。

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Sunday, October 26, 2025

100年殺しのアベノミクスvoL.2

100年殺しのアベノミクス*1の続編です。予想されたことですが、高市政権はインフレに関わらず積極財政に舵を切ります。個別にツッコミ入れるよりも、日本が置かれている現状の構造問題を明らかにして問題点をあぶり出したいと思います。

まず原油価格*2。トランプ政権のロシア産原油を輸入する中国やインドへの牽制として追加制裁を課した結果、原油価格は急騰しましたが、ウクライナ戦争で急騰した原油価格も落ち着いてきて1バレル50ドル台まで下がった局面での急騰で60ドル台になったというニュースですが、原油価格の相場がここまで下がっていたのにガソリン価格は下がっていません。元売りへの補助金減額の影響と円安の結果ですが、欧米では軒並みガソリン価格が下がっている訳で、日本だけ高止まりしている状況で、円安がガソリン価格を押し上げている訳です。その意味では暫定税率廃止はインフレ対策になり得るのですが、ガソリンが安くなって消費が増えれば原油の輸入が増えて貿易収支を悪化させるから結局円安で調整されてしまう恨みがあります。但し公共交通の脆弱な地方は恩恵がありますし、物価高の原因となる物流費の上昇を抑制する効果はありますので、まったく意味がないとまでは言いませんが、効果は限定的です。

あと輸出の稼ぎ頭の自動車にも異変が出ていて輸出が減っています*3。台数は維持しながら関税分の値引きで金額が減った形で、それだけ自動車メーカーの収支を圧迫します。日産の窮状はこうした背景があります。加えて別の火種もあります。中国の半導体メーカーのオランダ工場を巡る中国とオランダの対立で中国メーカーの中国国内工場の出荷制限をして独VWや日本のホンダ等の自動車メーカーがトバッチリを食うというものです*4。所謂経済安全保障をオランダ政府が重視した結果ですが、日本政府も経済安全保障重視の立場から同様の問題が発生する可能性もあります。あと財源を定めない防衛費増額前倒しも輸入装備品増による貿易収支悪化と財政出動によるインフレで国民生活を圧迫する要因となります。

そして新興国の追い上げもあり、日本は来年にもインドに抜かれます。その後ろにはイギリスも*5。2010年に中国に抜かれ、2023年にドイツに抜かれ*6、ゆくゆくイギリスにも抜かれる現状です。国じゃないけどカリフォルニアにも抜かれてます*7。中国やインドのような人口大国に抜かれるのはある意味必然で、中国に至っては今や日本の4.5倍の経済規模ですが、人口2/3のドイツや半分のイギリスに抜かれるのは話が別です。しかも独英共に一時10%を超えるインフレに見舞われて経済は絶不調なのに日本を越えていくというのは、円安による日本の購買力の低下がもたらしたものということができます。

その結果が株高になっているというと違和感を覚えるかもしれませんが、高市トレードの正体は円安です*8。円安は外貨建ての日本の株価を安く見せますから、海外勢の日本買いで租プ場が上昇したもので、特に欧州系の投資家が目立ちます。ドル円でも1週間で5円以上の円安が進み153円をつけてますが、それ以上に対ユーロで170円とか対スイスフランで190円とかで大バーゲン状態になっている訳です。だから株価は上がるけどその結果株式を保有する富裕層の資産効果で消費が増えてインフレを助長する一方、株式を持たない一般国民はインフレのマイナス面を引き受けることになる訳です。

特に食費の上昇が深刻ですが、食料自給率の低さが作用して円安は食料品価格を押し上げます。しかも食料品は値上げりしたから量を減らすという訳にはいきませんから買うしかないし、逆に値下がりしても胃袋の大きさで消費量が制約されるから、価格弾力性が低く、その意味で野党が求める良品の消費税率ゼロはインフレ政策として一定の効果は期待できます。但しガソリン減税以上に実務面の制約が大きく、例えば包材や物流費などの課税仕入れの負担がある一方、課税売上で税率ゼロということはその分食品の製造加工や流通の負担が増えてしまいますし、減税を反映した値下げが起こらなければ実質的な効果を減殺してしまうことになります。という訳でやはり筋が悪い。それ以前に食料自給率を高めることこそ経済安全保障の一丁目一番地です。

にも拘らず新しい農相はコメ減産をぶち上げています*9。石破政権で打ち出されたコメ増産方針は撤回された訳です。当然コメ不足は続き価格は高止まりし、米国産米のミニマムアクセス米増枠で価格逆転でトランプ大喜びでも輸入米需要が伸びて、下手すればミニマムアクセス枠を超えた分の関税負担後の価格も逆転の可能性もあり、貿易収支を悪化させて円安となり、ほぼ自給率100%だったコメまで輸入依存ということになりかねません。

あとインバウンドや土地所有問題で揺れる外国人問題ですが、インバウンドの拡大がもたらす弊害は観光公害だけじゃなく、ホテルや飲食のインバウンド価格によってつり上がり国内旅行を圧迫しています*10。同様の問題は国内航空輸送でも起きていて、JALやANAにとっては悩みの種の国内線の不振をカバーするのに国際線コードシェアという裏技で凌いでいます。鉄道と違ってダイナミックプライシングが認められている航空運賃を押し上げる要因になっている訳です。逆に上限運賃制で割安な鉄道へのインバウンド客の負荷も増えていて国内旅行の抑制要因になってもいます。事実上のクラウディングアウトが起きている訳です。

てことで東名阪の三大都市圏を繋ぐ東海道新幹線の営業成績は絶好調ですが、その稼ぎをリニアで溶かしているために*11、業績好調にも拘らずJR東海の配当性向は低いという現実があります。ちなみに鉄道株では東京メトロの配当性向の高さは特質もので、1,600円台という買いやすい価格でお勧めです。次いでJR東日本です。やや苦しい鉄ネタ締めです^_^;。

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Sunday, October 19, 2025

日出ずる国のたそがれの副首都

日本維新が自民党との連立協議で12項目の要求の中で、連立離脱した公明党が要求していた企業献金規制より厳しい企業献金廃止を打ち出しましたが*1、結果的に高市首班に乗ることになりました*2。そして12項目には含まれるものの緊急性の乏しい議員定数削減が前面に出てきました*3。企業献金廃止はどこへやら、厳しい要求を示して見せて有権者にアピールしつつシレっと論点をずらしてしまう維新流のゴマカシ。元々自民党大阪府連の内ゲバでできた大阪維新の会としては本気で自民党を追い詰める気はサラサラなかった訳で、大阪で対立していた公明党の政権離脱は逆にチャンスでもあった訳です。維新変身は以心伝心-_-;。

実はこれ大阪府や大阪市では議員定数削減が行われていて、1人区が増えて維新議員ばかりが増えて地方の二元代表制が事実上停止した結果、議会の行政監視機能が低下して維新の首長のやりたい放題になっています。味をしめた維新は他府県でも同様のことをやって兵庫県のようにパワハラ知事が職員や県議を自死に追い込む事態となりました*4。国政に移植すれば比例票頼みの小政党が議席を減らす一方、大阪の小選挙区を独占している維新は無傷で身を切らないし、人口減少で合区が続く地方の代表が減るし、国会議員になるハードルが高くなって議員が特権化するし何もいいことありません。本気で身を切るなら議員歳費を削れよ!

こうした政局が有権者の目が届かないところで動くのは今に始まった話ではありませんが、国民を愚弄するものでもあります。そして維新と国民民主党に政権交代の為の連立協議を模索した立憲民主党は、結果的に失敗しましたが連立協議を通じて表に出にくい各党の本音を可視化した点で評価できます。メディアの取り上げ方はは政権交代を目的化した数合わせというものが多かったのですが、政治家のウソを暴くのはメディアの役割なのに時として敢えてナイーブになる政治報道にウンザリです*5。しかも議員定数削減を自民執行部は吞んだ一方、所属議員には慎重派がいます*6。また維新が席巻する大阪の小選挙区で自民党候補に反維新の意思表示で投票した有権者も裏切っていることも指摘しておきます。

同じく12項目にある副首都構想も自民執行部は理解を示したようで、大阪銘柄が思惑買いで株価を上げてます*7。阪急阪神HD、京阪HD、近鉄グループHDといった私鉄株の他、建設株の淺沼組や金融株の池田泉州HDなど幅広い銘柄が買われてます。短期的には大阪関西万博終了に伴うパビリオン解体工事や跡地再開発と、既に着手されているIR誘致などとりあえず再開発案件が多数あり、鉄道関連では工事中のなにわ筋線*8の他JR西日本桜島線の夢洲延伸、京阪中之島線延伸、阪急なにわ筋新大阪連絡線、近鉄特急の地下鉄中央線乗入れを狙った架線・第三軌条のハイブリッド集電車両開発などがあり、近鉄以外はなにわ筋線関連ですが、事業者によってスタンスに濃淡はあります。

副首都構想の欺瞞は首都機能移転が既に国会で決議され法令も整備されていますが、中央省庁の移転というよりも東京の首都機能のミラーリングによる災害等のバックアップ体制整備であり、大阪とは限らないと言いながら同時被災の可能性が低い人口集積地という意味で大阪が有力候補にある訳で、この点にゴマカシがありますし、ミラーリングですから基本的に二重化によるレジリエンス確保なので行政の効率性は低下しますがそれには言及せずにいる訳です。そのくせ議員定数削減でもそうですが、公的部門の非効率をあげつらって批判している訳で矛盾します。どこでもいいんだったら本土決戦を想定して大本営の移転地とされた長野県松代でもいい筈です。突貫工事で整備された巨大地下壕を活用することが可能ですし、万が一の核戦争でシェルターになる可能性もあります。

この手の施設は今でも結構残ってたりしますが、例えば旧国鉄大船工場跡地も元を質せばやはり本土決戦を睨んだ横須賀海軍工廠の移転先として接収された土地を戦後国鉄工場に転用されたもので、JR東日本に継承され鎌倉総合車両センター深沢事業所となった後工場集約で「廃止され、跡地を巡って藤沢市域の東海道線村岡新駅計画と連動して鎌倉市役所移転その他の開発計画が市議会で2度の否決でとん挫してます*9。長くなりましたけど真に必要なのは地方分権による地方の自立であって中央省庁の二重化ではないということです。レジリエンスは自律分散型の身の丈に合った自立した地方の自治の深化と役割分担こそ重要です。例えば原発のような大規模電源よりも地産地消型の小規模分散電源の方がレジリエンスが優れているということですね*10。

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Saturday, October 11, 2025

鹿を指して馬と為す

自民党総裁選で高市総裁選出されました。

高市氏「馬車馬のように働いて働いて・・・・・・」
いやあんた馬車馬じゃなくて御者でしょ。臆病な馬車馬は視界に入る情報に過剰反応して立ち止まったり暴れたりするから、前しか見えないように遮眼角つけて御者の手綱の合図で進んだり止まったり向きを変えたりするもの。鹿虐待で掴んだ地位で*1馬になるって始皇帝没後の宦官超高の故事じゃあるまいし。あそうか御者は別にいるんだwwwwwwwwww*2。
高市「ワークライフバランス捨てる」*3
自民議員「いいぞいいぞ、働き方改革何するものぞ」
政府官僚「やめてくれ、議員のハッパで仕事増えてまうやないか」
自治体職員「コロナ給付金やマイナカードみたいに政府の無茶振り増えるやないか」
企業経営者「新リーダーえーこと言うなー」
社員「やめてくれ、ブラック企業に逆戻りじゃん」
無能なリーダーの頑張りはただただ迷惑です。

翌日夜、東急田園都市線梶が谷駅構内で衝突脱線事故が起こりました*4。

回送列車の見習い運転士「ありゃ、急に止まっちゃいました」
添乗の指導運転士「過走防止装置で停止したんだ、慌てず解除してゆっくり再力行しなさい」
上り渋谷駅各停運転士「ATC現示に従って運行していたら回送列車の進路支障を目視して非常制動かけたけど間に合わず衝突し防護無線を発報」
衝突
見習い運転士「防護無線受信して停止」
東京メトロ「ヤバい、復旧に時間がかかるぞ。鷺沼出庫できないと明日電車足らなくなるぞ」
鉄ちゃんたち「渋谷行きATCで何でとまれなかったん?」
恥ずかしながら当初下り副本線(2番線)から留置線に進入した回送列車が脱線して上り副本線(3番線)に進入する各停がぶつかったのかと思い、回送列車の急制動による荷重移動で輪重抜けしたのかと勘違いしてよほどの速度で留置線に侵入したのかと考えていました。実際は3番線から留置線への進入で速度超過があって装置解除して再力行していた時の衝突ということで、各停渋谷行きの防護無線が発砲してから回送列車が停止した結果、衝突のショックは緩和されていたかもしれません。死傷者が出なかったのは幸いです。またATCが作動しなかったことも勘違いを補強しました^_^;。
東急電鉄公式「10年前の連動装置改修の時に設定ミスがありました。全線の連動装置を緊急点検いたします」*5
東急電鉄公式「大井町線二子玉川駅構内1カ所、新横浜線新横浜駅行内2カ所で設定ミスが見つかりました。防護措置を講じた上で設定を改修します」*6
新横浜もヤバいけど区間運休で二子玉川折り返ししてた大井町線もヤバかった?おそらく軌道回路で制御する継電連動システムの応答速度改善で高密度運転のために電子連動へ改修して設定ミスしてしまったってことでしょう。

翌6日には高市政権発足を先取りして市場が動きました。高市トレードの始まりです。

外国人投資家「過去発言から積極財政派だから円安が進むぞ。割安な日本株は買い時だ。タカ派発言から防衛その他も買いだ」*7
国内投資家「値上がりは嬉しいけど続くかどうかわからんから適当に利益確定売りで益出ししとこう」
為替ディーラー「政治空白で為替介入も見込めず円安は当面続くぞ」*8
結局爆上がりした後の一進一退で株価は頭打ち感も米市場のAI相場を受けてソフトバンクグループの値上がりで終値最高値を更新しました*9。
日本国民「インフレで株価が上がってるだけでこっちには恩恵ないよな。寧ろ株の資産効果で消費が強まってインフレが酷くなるかも」
財務省「政治空白で政治の圧力は弱いけど、長期国債の売り先が見つからない」
実際長期金利は上がっています。ということは日銀その他の保有国債の含み損が増えていることでもあり、日銀の金融政策の選択肢を狭めます。インフレ基調は当面続く訳です。

そして輪をかけた政治空白が広がっています。

公明党「あんたらの裏金問題のトバッチリでうちの候補者も落選してもうたやないか。せめて企業団体献金を規制せいや!」*10
自民党「煩いこと言うなら国民民主取り込んで切っちまえ!」
国民民主党「さっさと国会開いて年収の壁引き上げとガソリン減税済ませたら連立入りしてもいいよ」*11
自民党「めんどくせえなあ。公明との連立協議済ませよう」
他方立憲民主党が野党共闘で新機軸。
立憲安住幹事長「野党でまとまれるな玉木首班でもいいよ」*12
そして自公の連立協議。
公明党「企業献金規制吞めや」
自民党「呑めるかい!」
公明党「グッドラック」*13
立憲民主党「公明党の連立離脱で政権交代の環境は整った。野党共闘の機は熟した」
国民民主党「やめてくれ、政権交代してまうやないか。首班指名されたら責任生じるやないか」*14
日本維新の会「玉木氏でまとまるなら立憲案に乗ってもいいよ」
国民民主党の正体がバレました。年収の壁のウソ*15の段階でわかっていましたが。

一方政治空白のお陰で邪魔されることなく戦後80年の所感*16を発表した石破首相。大きな論点は3つ。事前にまけることが分かっていた戦争を止められなかったことの問題意識から、政府も議会も軍部の暴走を止められず文民統制が機能しなかったこと。帝国憲法の統帥権の拡大解釈が横行して戦争遂行に向かったこと。メディアも戦争を煽ることで売上を伸ばして権力の監視役としての社会の木鐸の八鍬ろりを放棄したこと。安保環境が悪化する中、その反省を踏まえることなく平和を維持できないと結んでおり、強権外交でも謝罪外交でもなく評価できる内容です。そんなこんなで政局の流動化で臨時国会も開けず、外交日程は詰まっていて、自民党内や政府の一部から当面石破首相首相で良くね?の声も。トランプに会うのは誰かな?*17結局石破降ろしは何だったんだ?

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Sunday, October 05, 2025

10月の鹿

花札の十月札で描かれている紅葉に鹿の絵柄で鹿がそっぽ向いていることから鹿十(しかとう)転じてシカトという意図的に人を無視する嫌がらせの意味で使われています。てことで敢えてシカトしてたコップの中の嵐*1が終わりましたが,、迷惑ユーチューバー*2のフェイク動画に乗って外国人の奈良の鹿の虐待や通訳が見つからず外国人犯罪が不起訴になるというフェイクを垂れ流した女性候補が勝利しました*3。対立候補のステマや一部党員の排除などの嫌がらせがありましたが*4、決め手は唯一残った麻生派の支持ということで、派閥選挙そのもの、どこが解党的出直しやねん。

キングメーカーを気取る麻生太郎氏ですが*5、勝ち馬に乗って影響力を保持したいだけの老害です。しかも石破おろしにも関わったろくでなしですが、参院選が示した構造変化*6は変わらず、寧ろ壺や裏金で離反した自民党員が多かったと見えて、残った党員にタカ派と呼ばれる極右の比率が上がって党員による地方票が右に傾いたんですね*7。右派取り込みに精出してきた国民民主党や参政党には先がないとも言えます。そして連立協議に維新が積極的ですが、一方で他党の連立参加で存在感が低下する公明党は連立離脱を示唆したりして、首班指名は予断を許しません。まあ政局はどうでもいいから、ちゃんと熟議して国民の負託に応えてほしいところです。

で、日本をシカトとばかりに世界はお構いなしに動いており、アメリカがつなぎ予算が通らずに10月1日の新年度を迎えて政府機関閉鎖に追い込まれた結果、労働省が閉鎖されて9月の雇用統計が発表できなくなりました*8。9月の利下げを判断したFRBにとっては年内追加利下げの判断材料の1つが失われた形で、一方インフレは落ち着きつつあるとはいえ2%超の高水準で判断を難しくしています。一方米利下げにもかかわらず為替が動かず円安基調が続く中で日銀が利上げを見送ったけど、今後日銀への利下げ圧力や財政出動が増加するという見立てから市場は円安株高を予想しています*9。それでも政治にシカトされてた隙をついて困難と見られていたETFとREITの売却を決めたことは日銀のグッジョブかも*10;。

てことで前途多難は変わりませんが、再三言いますがアベノミクス復権はインフレを助長する地獄への道です。既に市場の気配が見えますが同様に市場が意外な動きを示すJR西日本の将来です*11。米原ルート見直しが言われる中でJR西日本トップの発言が事実上の敦賀周転固定に繋がり将来の成長を見込みにくいことから株式市場で出遅れているというアナリストの見解の記事です。民営化ドミノの現在地*12でも取り上げましたが、JR西日本にとってはダイヤ編成権が制限される米原ルートに消極的なのはわかりますが、全幹法に則った国の事業であり国と地方の同意が得られない中で駄々こねても前へ進めない中で、打つ手があるとすればせめてサンダーバードの湖西線区間160km/H化によるスピードアップなどの現実解を模索することの筈です。強風の影響でサンダーバードの米原迂回が日常化していることや将来並行在来線として切り離したいから追加投資したくないとしても、公益を担う企業としての在り方としてどうなのか?市場の声にシカトしてんじゃねえよ!

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Sunday, September 28, 2025

進まない再エネ発電と地方創生

カラータイマー地価地価*1で取りあげたREITなどの不動産流動化の結果、寧ろ過疎地の土地がクラウディングアウトで価格がつかない状況にあることを指摘しました*2。首都圏の地価上昇が地方へ飛び火しているのですが、あくまでも都市部や観光地の話で過疎地は寧ろ取引自体が成り立たず市場から締め出されている現実があります。そんな視点から注目したいのが北海道鶴居村の釧路湿原隣接地のメガソーラー計画です*3。

報道にメガソーラー嫌いが過剰反応してネットでは話題になりましたが、報道で見る限り国立公園隣接地で樹木が生えて湿地の機能を失いつつある土地です。国立公園内の湿地なら日本が批准しているラムサール条約の対象で国内法でも開発が制限されるのみならず、環境保全の義務もある訳ですが、対象外の地域で、またメガソーラーは導入時に普及のために建築物から外されていて建築確認申請も不要と自治体が規制する根拠が乏しいことは確かです。道庁が森林法を盾に中止勧告しましたが、木が生えているから森林法という湿地ではない現状追認の結果です。環境面ではオジロワシやタンチョウの生育への影響など生態系の異変や破壊につながる可能性はありますが、建築物ではないから環境アセスメントも不要だし都市計画法に基づく原野開発の規制も微妙です。

報道では明らかではありませんが、民有地ですから地権者がいる訳ですが、地権者と開発事業者の関係が不明で、以下は推測の域を出ませんが、仮にかつて蔓延った詐欺的な原野商法で買わされた不在地主で、例えば相続で売るに売れない土地に収益性を持たせることで地権者を救済することになりますし、自治体にも固定資産税が入る訳で、この観点から言えば一概に規制すべきとも言い難いことになります。寧ろ「湿原にソーラーパネル」という短絡的な見方がされているとすれば、そもそも湿原にソーラーパネルを固定するコストはバカにならない訳で事業性を損ないます。

釧路市が規制条例制定に動いていることから、不在地主が地権者である可能性は高いと見られます。環境保全でナショナルトラストという意見もありますが、ラムサール条約で保護対象になっていない土地に善意に基づく多数の1坪地主を爆誕させても問題は解決しませんし、寧ろ問題を複雑化します。地権者を含む当事者間の意見調整にゆだねるしかない問題です。また法の不備は国の立法府が動くべき問題ですが、現状休眠中です*4。これ社畜の怨念エントリーで示したコメ増産問題*5とも通底しますが、地方の産業基盤の脆弱さを無視するより身の丈に合った産業政策こそ重要です。

その意味では再生エネルギーはメガソーラーに限らず地方に収益をもたらす可能性が高いのですが、残念なニュースが続きます*6。洋上風力発電の三菱商事による安値受注問題はインフレなんだよ愚か者*7でも取り上げましたが、メガソーラーで起きたFITによる電力高値買い取りで計画が乱立したばかりか権利の転売が横行して発電事業が進まなかった反省を活かせず、FIT価格を入札で決める形にしたところ、三菱商事が相場の半分の低価格で独占受注したものです。そのJ結果2回目以降の入札はFIP(フィードインプレミアム)と呼ばれる方法で卸市場価格との差額補助の形に変わり、三菱商事の参加は排除されました。

加えて有力視されていたデンマークの風力大手べスタスが断念し、日本国内に予定していた組み立て拠点を整備する計画を白紙撤回しました。事実上の撤退ですが、とにかく巨大な風力発電設備は輸送が困難故に現地組み立てが基本ですし、同時に開業後の保守点検拠点になりますから、継続的に仕事が発生して売電のみならず地場の経済を潤します。典型的な地産地消型産業なんですが、大手商社のお構いなしの利権独占の強引さが台無しにしたものです。ある意味過疎地故に可能な産業をみすみす潰したとも言えます。にも拘らず経産省は三菱商事に対してFIP契約にシフトして救済しようとしているというから呆れます。大手企業に甘い日本政府の在り方こそ脱炭素や地方創生を阻害しているのが現実です。

ここまでは過疎地の問題ですが、地方の都市部でも異変が起きています。JR九州が博多駅空中都市計画の中止を発表しました*8。jr各社の中では早くから不動産開発事業に傾注して本業の鉄道業を補完してきた結果、三島会社初の株式上場を果たしたものの、その屋台骨と言える不動産事業でブレーキです。既に基礎工事の為のスペースを生み出す線路移設に取り組んでいたものの、建設費高騰で断念しました。同様の問題は既に東京では起きていますが、地方の大都市にも飛び火した訳です。地価上昇とインフレに加え人口減少で作業員の確保もままならずこうなりました。JR九州に限りませんが、JR各社は大手私鉄モデルで不動産開発を進めただけでなく、REITなどの流動化事業で開発後に転売して次の開発資金を得るビジネスモデルを構築してきましたが、その持続可能性にブレーキがかかった訳です。

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Sunday, September 21, 2025

100年殺しのアベノミクス

アベノミクスが日本経済の停滞を招いたという主張を続けてきましたが、やっと社会的に認知されてきたようです。しかしコップの中の嵐*1では逆行する訴えもあり、本当に社会の変化を自覚していないんだなと。仮に首班指名されても国民はそっぽを向くだけですね。

実態として日銀の異次元緩和以外は機能しなかったアベノミクスですが、安倍官邸と黒田日銀の間にすき間風があったことは記憶にとどめておく意味はあります*2。黒田バズーカと言われた異次元緩和は結局日銀の国債大量購入による金融圧迫であり、影のテーマは日米金利差による円安誘導だった訳ですけど、政府はそれをいいことに放漫財政で財政再建目標を先送りし続けますし、企業も成長戦略を海外投資に見出して国内投資を蔑ろにするばかりで賃金は増えずデフレ脱却どこ吹く風で黒田総裁がややキレたなんてことがありましたが、結局政府には逆らえず効果の出ない異次元緩和をずるずる続けることになります。

そして国債発行が増えて当然のように長期金利に上昇圧力がかかりイールドカーブコントロール(YCC)が困難になります*3。また企業の国内投資抑制の影響で国内産業の空洞化が進み貿易収支が赤字基調となり、コロナ禍で財政拡大を余儀なくされたこととウクライナ戦争による資源高とやはりコロナ禍で財政が緩んでいた諸外国のコロナ明けのリベンジ消費によるインフレ昂進で日本は貿易収支が悪化して円安が進み、異次元緩和の見直しを余儀なくされたものの、諸外国が利上げに動いても日銀は直ぐには動けませんでした。その流れが今のインフレを呼び込んだ訳で、将にアベノミクスの呪いです。

その結果米雇用統計エントリー*4で予想した通りFRBは利下げに動きました*5。一方で日銀は今回は利上げを見送ったものの、利上げスタンスは維持しております。寧ろ今回のトピックスはこちらでしょう*6。日銀ETFは簿価37兆円時価70兆円、REITは簿価6500億円時価7000億円と含み益がある訳で、以前からその市場消化を財務省に打診していましたが*7、今回そこに踏み込みました。前段として2002~2010年頃まで緩和策として銀行保有株式と交換する形で資金提供する形で株式を取得した訳ですが、異次元緩和で拡大解釈して株式ETFやREITの購入に踏み込むという中央銀行の禁じ手に手を染めたものです。

なぜ禁じ手かといえば、国債や民間の社債ならば償還期限があって償還されれば残高が減る一方、償還期限のない株式ETFやREITはどこかで売る必要があります。しかし当然売れば市場価格を押し下げて影響が大きいだけに財務省は難色を示していたのですが、銀行引き受け株式の売却は認められ、市場消化を進めた結果、市場に負の影響を及ぼさない売却レベルで時間をかけて消化するということで実現に向かいます。FRBの利下げに拘わらず為替の安定で日経平均が最高値をつけた今の市況も後押しします*8。実際には年明け以降の実行となりますが、市場消化で残高を減らすと同時に含み益の益出しで利上げによる日銀当座預金の付利による日銀自身の収支悪化を防ぎつつバランスシート調整を進めることで利上げスタンスを維持するものでもあります。

ただしこのペースでの市場消化は終わるまで100年以上かかることになり、相変わらず出口は遠く、金融正常化は見通せない状況は続きます。その間にバブル崩壊や大規模災害やパンデミックや戦争などの非常事態への対応ののりしろがない訳です。AIバブル崩壊*9も南海トラフ地震もコロナ級パンデミックも台湾有事も起きないことを祈るしかありません。余談ですがFRBにあからさまに圧力をかける米トランプ政権のスタンスは将来日本の轍を踏むことになる公算大です。実際いろいろ不具合が出ています。

例えば日鉄が買収ししたUSスチールで黄金株を交付した米政府に高炉停止を差し止められました*10。同じく米政府が出資したインテルに同業のエヌビディアが出資して協業を提案してます。エヌビディアが国内企業なので事実上の経営権取得です*11。AIデータセンターの壁に Nvidea inside とか^_^;。その結果電力爆食いで電力会社が設備投資を強化して家庭向け電力料金2割高。テック企業の都合で国民生活を追い込む状況です*12。これ日本でも原発新増設その他で同じことが確実に起きます。北陸新幹線の敦賀以西延伸で小浜経由を譲らない福井県の態度も原発受入れのバーターという意識があるかもしれませんが。

テック企業と国民の関係は実は日本でも起きていて、スマホ保険証がスタートしましたが、医療機関はマイナ保険証に続いて読み取り装置や専用アプリの導入で負担がかかり、個人経営のクリニックでは対応が困難だったりします*13。これもデバイスメーカーやソフトベンダーにとっては取りっぱぐれのない国の事業で利益を出して医療機関等にコストを転嫁している訳で、国民の為にはなっていません。そしてJRも上場4社が共同記者会見でネット予約システムで連携を発表しました*14。

1度のログインで他社サイトにも移動できるということのようですが、各社バラバラに開発された結果、独自のルールやインターフェースうやポイント制度の壁は残りますから、例えば東京で東海道新幹線と東北新幹線を乗り継ぐ場合など単純な打ち切り合算となって却って高くつくケースもありますし、事前登録を擁するなどユーザーにわかりやすいものにもなりそうにありません。つまりクソUI^4+α^_^;。元々マルスシステムという共有の基幹システムを持ちながら、各社の都合でバラバラにシステム開発を行った結果、相互連携が取れなくなったわけで、事業者の都合で乗客にコスト負担を強いることになってしまった訳です。加えて各社別々にシステム開発してベンダーに支払っている訳ですから、その分開発費を余分に払っているとも言えます。これ全国共通IC乗車券でも見られますが、結果的に開発コストをペイできずに高コスト故に地方に普及せず逆に離脱まで起きていることにも通じます*15。

結局政府もダメ企業もダメ、頼みの綱の中央銀行も動くに動けず、100年の時を重ねる憂鬱な現実は動かずです。失われた世紀を生きる覚悟をした方が良さそうです。

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Sunday, September 14, 2025

案外シンプルに終わりそうな複雑系経済学

90年代に日本でブームになった複雑系経済学ですが、米サンタフェ研究所を中心に科学分野のパラダイムシフトとしての複雑系の科学から、元々多様なパラメータで非線形的な変化が見られることから経済学への援用が試みられ、多数の試みがなされましたが、ゲーム理論のような定着した理論に昇華されることなく、最近ではあまり顧みられておりません。そんな中でここではスタンフォード大のブライアン・アーサー教授が提唱した収益逓増のJ経済学に注目します。

同教授は性能の優れたアップルのマッキントッシュよりも性能の劣るIBM-PCのMS-DOSが優位に立ち、GUI実装版のWindowsで駆逐された現象に注目し、コピーが容易なデジタル分野では主流派経済学の常識とされる収益逓減の法則が成り立たず、逆に収益逓増が見られることで、所謂ロックインと呼ばれる経路依存現象として注目されました。簡単に言えば収益逓減は例えば農地は広い平地で土壌が肥沃で市場へのアクセスが容易なところから農地になりますが、徐々に条件の悪いエリアに拡大することで投資収益が低下するという現象で、デジタル世界ではロックインによる経路依存で逆にに収益が拡大逓増するというもので、本来の複雑系の科学の視点からはシンプル過ぎるきらいはあります。しかし勃興するデジタル経済の説明に好都合ということでブームになった訳です。そしてこれが株式市場にも影響し、多くのIT企業が競い合って株式上場して資金を集め、アイデアを競い合ったものの、その多くは赤字決算で期待だけで株価を押し上げていて、2000年代のITバブル崩壊へつながる訳です。

前エントリー*1の続きになりますが、現在のAIブームが相似相のフラクタル現象*2に見えてしまいます。その帰結はバブル崩壊ってことですが。先週の米株式市場でも相変わらずAI関連株が買われています。しかもその中身がエヌビディアやアルファベットなどのテック大手に限らず、例えば需要増が見込める通信や電力などのインフラ関連株まで買われるようになっています。

但しこれらのレガシー企業の投資マインドはかなり異なります。そもそも時間軸からして投資から回収までの期間が長いし、リスクも大きいから必然的に保守的な投資スタンスとなります。テック企業が競争環境の中で先んじて投資を加速するのとは異なったスタンスになる訳です。故にAI投資として行われるデータセンター投資が加速する一方、その電力需要増に備えた電源や送電網の投資はなかなか着手されない結果、ミスマッチが起きてAI投資にブレーキとなる可能性はあります。これ日本でも同様の問題があって、例えば関西電力の美浜原発敷地内への次世代革新炉建設の実現可能性の疑義が指摘されてます*3。反原発派ではない中立的な論者の指摘だけにリアリティがあります。

そしてもう1つ指摘したいのは経路依存による収益逓増が持てはやされた理由として、グローバル化の進捗による国境を越えた水平分業の拡大を後押しした面もあります。特に半導体やソフトウエアのように物理的に軽い一方付加価値の高い財が国境を越えt流通した結果、ハードウエアなどのレガシーな製造部門を外注して付加価値率を高める動きを後押ししました。その結果垂直統合の権化のようなアップルでさえ製造部門を切り離してファブレス企業となり高収益化するという動きを見せます。所謂アセットライト経営です。

所謂選択と集中で自社のコアコンピタンスをOSやアプリなどのソフトウエア及びそのプラットフォームとなるハードウエアのアーキテクチャの開発に置いて再定義した訳です。これでWindows陣営に対する競争力を回復するに留まらず、iPodから始まる携帯デバイスと音楽配信を進化させiPhoneに結実させるなどして世界をリードします。更に開発キットを公開して社外の開発者が開発したアプリをAppStoreで販売するというビジネスモデルで飛躍します。

それに対してGAFAMと呼ばれるテック大手はアップル以外はAI向けのデータセンター投資に余念がないのですが、アセットライト経営という意味ではマイクロソフト、フェイスブック、グーグル共に製造部門を持たないアセットライト経営だった訳で、その各社が自前のデータセンターを建設しエヌビディアのGPUを大量購入している訳で、インフラ企業化しています。つまり過大な資産を抱えることになる一方、AIの競争環境の中でレッドオーシャン化して収益逓減に直面する訳です。当然ながらどこかで淘汰の嵐が起きることになります。インフラ企業の宿命を背負う訳です。

てことで伝統的インフラ企業の鉄道においても、JR東日本の2代目社長の故山之内秀一郎氏がJR東日本のコアコンピタンスとして首都圏を中心とした高速大量輸送の技術とオペレーションを掲げていたことが思い出されます。その流れで東北の50系客車の後継にオールロングシートの701系を投入して鉄ちゃんに悪口言われましたが、首都圏の大量輸送を基準にすればこうなる訳です。勿論乗客の反応が良くなかったこともあり、E731系では国鉄以来の伝統的な3扉セミクロスシートになりました。また電車化でスピードアップが実現したことはあまり評価されなかったようです。しかしIGR銀河鉄道や青い森鉄道でも701系が使われているように、結局ローカル需要を前提に低コストで実現可能な輸送サービスとしては意味があるとは言えます。

最近ではコロナ禍をきっかけとした大都市輸送の低迷で内部補助に頼れなくなった赤字ローカル線問題が顕在化しており、幾つかの動きが出てますが、1つは電化区間の電化設備撤去でありもう1つはBRT化です*4。非電化化では磐越西線会津若松~喜多方間と奥羽本線新庄~院内間で実施されましたが、特に後者は9か月かかった災害復旧で非電化になったもの。JR東日本の説明では災害復旧の迅速化が謳われてます。これも一種のアセットライト経営と言えますが、BRTなら更に迅速化できますし、一般道迂回で見做し復旧も可能という意味で、地方線区の災害復旧や存続のメニューとして上下分離や並行在来線のような三セク鉄道化と並び自治体へ提案できるというものです。元々需要が先細りの中で、現実的な選択肢を増やす取り組みということはできます。JR西日本でも美祢線の災害復旧で地元協議会でBRT方式が有力になっています*5。

その意味では整備新幹線も整備費用を国と地方が公金を負担する一方で受益の範囲のリース資産として負債計上するという意味ではアセットライト経営の一形態という見方もできます。しかし西九州と北陸のミッシングリンクのようにスキーム自体が機能しなくなってくると見直しは避けられません。その意味では石破首相の国会答弁で示され、経済財政諮問会議の「骨太の方針」にも明記された中速鉄道構想はまじめに考えてみる余地はあります*6。

例えばJR東日本が改良を表明した山形新幹線福島~米沢間で県境を峠トンネルで越える大掛かりな改良工事が予定されてますが、可能な限りの曲線緩和と踏切除去で現行130km/hを160~200km/h程度にスピードアップする事業を整備新幹線と同等のスキームで実現するあたりが初めの1歩になりそうです。フル規格と比べれば低コスト且つ短時間で可能です。また例えば踏切のないJR西日本湖西線でサンダーバードの160㎞/h化のようなつなぎの対策にも使えます。財政規律を考えればこの辺が妥当なやり方ではないかと思います。

最後にJR東海は赤字ローカル線問題どこ吹く風で東海道新幹線の収益をリニア工事で溶かしまくってますが、財投の3兆円を負債計上して資産圧縮していて財務の健全性を見せていますが、開業が見通せず投資額が膨らんでいる中で名古屋まで開業して完成引き渡しされた時点で地獄に落ちます。だから現状のダラダラと資金を溶かす状況はある意味居心地は良いんですが、将来を展望することか困難です。それでも経営が傾かないのは立地条件が良く戦前の弾丸列車計画で取得した用地を利用できたことによるもので、山陽以降の新幹線が東海道新幹線と比べれば収益は1/3という明らかな収益逓減法則が働いていることは付記しておきます。

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Sunday, September 07, 2025

米雇用統計悪化で終わる世界

不毛な国内政局が進行中ですが、自民党総裁選前倒しして誰が総裁になったところで、臨時国会の首班指名選挙が関門になります。逆に言えば新総裁に石破さんが選ばれない限り、冒頭解散という奥の手が残されています。そんなコップの中の嵐にお構いなく世界は動いています。そして日米関税交渉で自動車関税等の懸案が解決した一方、5500億ドル(80兆円)対米投資に関わる覚書が交わされ、驚きの中身が明らかになりました*1。アメリカ側から発議されて日米で協議して合意した後にアメリカ側が承認するという流れはまるで日米合同委員会の経済版。日本が拒否権を発動しにくい建付けです。

ラトちゃんアカちゃんの交渉がこんな形で着地するとすると、少なくともトランプ政権期間中はほぼ言いなりのATM状態になりかねません。仮に石破首相続投でも、臨時国会は間違いなく荒れます。相互関税特例や自動車J関税の大統領令署名のためとはいえTACOでも烏ー賊の軟体ポチ*2に成り下がり、おそらく日本の財投資金を米国内の投資に充てる形になりますが、ある意味口約束で密約化するよりはマシとはいえとんでもない地雷を抱え込むことになります。自動車メーカー保護のために国民を犠牲にしてアメリカの国内投資に資金を提供するということですね。

経済好調なアメリカも、ここへ来て変調を来しており、それだけ日本の対米投資を本気であてにしているということです。まず7月発表の雇用統計で予想に届かない結果となりました*3。しかも5~6月の速報値の下方修正もあってFRBの9月利上げが確実視されました。その結果株価上昇と長期金利低下と先取りされ、さらに8月の雇用統計でも予想に届かず、6月の数値もさらに下方修正されてマイナスになり、失業率もマイナス1%となりました*4。これでFRBの9月利下げは確実視されただけでなく、あと2回のFOMCでも利下げが続くかもという展望が出てきました。景気悪化で株高という奇妙な現象ですが。

しかし雇用統計の数字には複雑な要素があり、DOGIによる連邦職員のリストラやAI活用によるITエンジニアの解雇によって減っている一方、不法移民取り締まりによる労働力不足もあり、失業率はさほど下がっていない現実があります。高給取りが減った一方、非熟練工やサービス部門は相変わらず人手不足でミスマッチが起きていることになります。加えてバイデン政権時代に投資を決めた韓国現代自動車のバッテリー工場では建設工やエンジニアの就労ビザを発給せず、仕方なく観光ビザで入国して作業に当たった韓国人が不法就労で摘発されて、韓国では対米不信から投資を引き揚げろという世論に火がついています*5。対米投資でも意に添わなければ平気で潰す訳です。つまり投資先としてはリスクが高い訳です。

というわけで米経済の先行きは不透明なままですが、FRBが利下げに動く一方、日銀は利上げを模索しています。つまり日米の金融政策は逆向きで、通常ならば円高ドル安に振れそうなものですが、ドル円はあまり動いていません。理由は日本の政治情勢から財政拡大が連想され、インフレが予想されるからです。その一方トランプ関税で心配されたアメリカのインフレは今のところ落ち着いており、結局両国のインフレ率が為替を動かしていることになります。コップの中の嵐をしている場合ではありません。日銀の利上げをやり易くするには財政規律の確保が重要です。しかしインフレは当然政府支出も増やしますから、26年度予算の概算要求は122兆円と過去最高で、せめて不要なバラマキを抑制して今年度予算を使い残して決算繰越金を増やすJことが必要な財政運営となります。それを怠ればインフレで調整される一方、国債金利の上昇で日銀の手足を縛ることになります。

財政運営の泥縄はアメリカも同じで、トランプ減税の恒久化で関税を財源のあてにしてますが、交渉で決まる関税は貿易の阻害要因でもあり二重に歳入の不安定化をもたらします。そうなると米国債の引き受けが難しくなりますし、対ロ制裁や中国の人民元決済拡大などでドル離れが進むし、銀行は既発債の評価損 で新発債の引き受けを躊躇するとなると、新たな引受先を見つける必要があります。そんな中でアメリカでステープルコイン法が下院で成立しました*6。余談ですがトランプのファミリービジネスで仮想通貨に深くコミットしており、利益相反の可能性はあります*7。「ドル基軸の維持」も空々しい。

発行事業者には預金または短期国債の裏付け資産の保有を義務付ける内容で、財政ひっ迫で長期債発行が難しくなる中で、短期債シフトを睨んだものと言えます。従来主に銀行が担っていた役割を拡大する狙いですが、当然ながら銀行と競合する事業ですから、銀行預金がステープルコインにシフトして銀行の信用創造システムを棄損する可能性があります。そうすると主に民間融資に回っていた資金が国債買い支えに回り、AI投資として自前のデータセンター投資にまい進するテック大手の投資を抑制することになります。しかし低金利通貨としての日本円が維持されるならばキャリートレードの種銭になりますからドルの信認を安い円が支える構図が固定化される可能性があり、そうなると日本のインフレは民間投資資金の海外移転で供給力拡大が進まず止まらなくなります。

てことでやっと鉄道ネタですが、JR各社のローカル線廃止議論と無縁のJR東海がリニア工事の遅れで資金とかしまくっているにも拘らず、財務は盤石の謎です。大井川の水問題は鈴木新知事に変わってから協議が進み和解が成立しましたが、残る生態系への影響や作業ヤードと取付道路の着工、重金属を含む要管理残土の処理問題など静岡工区だけでも未解決問題はありますし、加えて人件費や資材費の高騰や人手不足で着工83工区中31工区で2027年の開業に間に合わない状況ですし、同様の問題は静岡工区以外でも抱えています。故に更に遅れる可能性もありますが、JR東海はあまり困っておらず、財務的にも盤石です。

理由は東海道新幹線の好調で大量のキャッシュフローを生み出しており、そのまま利益計上すれば株主還元や法人税課税で削られるところですが、工事の遅れを口実にリニアで溶かすことで免れます。遅れる工区は逆に敢えて遅れを容認し、その間に地域との対話を進めて工事の障害を減らしたり、問題の解決策を探る時間を得ることが可能ということで、寧ろ前向きに捉えられています。住民対話が進むことは悪くはありませんが、最初からやれよ。但し名古屋開業がいつになるかわからない状況は続く訳です*8。故にJR旅客各社が抱える赤字ローカル線問題も災害復旧問題も無縁で、在来線も含めた車両更新が進みJR化初期車両も淘汰されています。

但し名古屋開業が見通せない限り大阪延伸は具体化しませんから実現可能性は遠のきます。財投融資3兆円は無駄になりそうです。リニアで溶かした資金がJR旅客各社のの赤字ローカル線延命や災害復旧に回ることは当然ない訳で、ただただ国民生活と無縁の資金循環でしかありません。国民を助ける国内投資が不振な中で国民を豊かにすることもなく、先が見通せないという意味では米テック大手のAI投資と双璧です。

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Sunday, August 31, 2025

インド太平洋大炎上

安倍d政権時代のインド太平洋戦略でクワッドが始まり、インフラ輸出案件としてインドのムンバイ―アーメダバード間の高速鉄道でJR東日本が受注し、開業に向けてインド人乗務員の訓練をJR東日本が請け負ったことが大炎上してますが、ホント10年程度の過去の話も忘れちゃうネトウヨって相当頭悪いし悪質な差別主義者でもあります。モディ首相訪日にホスト役の石破首相が気に入らないんでしょうけど*1。

インドを巡る国際情勢は複雑になってきていて、日本がインド太平洋を提唱したときには対中国包囲網の思惑があったものの、ウクライナ戦争の経済制裁にインドは参加せずロシア産原油を安値調達してアメリカを苛立たせましたが、トランプ政権で対ロ制裁としてロシア産原油・ガス輸入国への高関税を課すことで、インドに50%関税で対立が深まったことと、カシミール地方の国境紛争でアメリカがパキスタンに接近したことで決定的にアメリカへの怒りが強まり、クワッドの枠組みも機能しなくなる恐れがあります、実際トランプ大統領はクワッド会合の欠席を表明しています。インド独立の経緯とカシミール地方の国境画定が曖昧なままで、言ってみればアメリカはインドの虎の尾を踏んだ形になります。そしてインドはライバルの中国に接近してもいます。アメリカの外交戦略は台無しです。

しかしそうしたこととは関係なく、人口大国で平均年齢が若くIT先進地のインドとの関係を築くことは日本にとっては重要な外交戦略になります。関税で他国を脅し約束も守らないアメリカとの関係は無くせないまでもウェートを下げて成長が見込める新興国との関係を構築することは重要です。ITに強いインドですが、未だに農業人口が多く労働集約的な製造業が手薄な状況で、日本の高度経済成長期の経験は参考になりますし、また半導体の製造参加に意欲を見せているように、同じく国産化にまい進する中国に対抗する意味からも重要なパートナーとなります。

特に先端品ではない汎用品の製造拠点としては、国内需要の大きさもあって安定供給先になる可能性を秘めていて、コロナ禍で汎用半導体のサプライチェーンが止まって自動車メーカーが生産停止を迫られるといったことも防げる可能性が高まります。同時にインドの人口爆発は工業化による雇用創出がなければ社会不安の原因にもなりますし、日印双方のwin-winの関係になる訳です。また中国の国内景気の低迷で、製造能力を持て余した中国が輸出攻勢に出ることも間違いありませんから、インドに製造拠点を構えることでリスクヘッジが可能です。

そして暑いインドでの半導体生産は、別のメリットも考えられます。折れたつばさ*2のE8系トラブルが補助電源装置の熱暴走トラブルだったこと*3も明らかになりました。はらぶさ/こまち分離事故も複数回起きて*4接点御金属クズが原因と言われましたが、E5系単独運転でもトラブルが起きました*5。総胸中の分離事故と違って単独運行のE5系で、連結開放スイッチが単独から連結に切り替わり、異常 な誤作動を検知して非常ブレーキがかかったということで、辛うじてフェイルセーフが働いたと言えます。それに対してより深刻なのが東海道新幹線で主回路インバーターの故障と遮断機の故障が重なる火災事故が起きました*6。こちらは主回路インバーターの故障と回路を遮断するブレーカーの故障が重なったということで、大電流で発煙してしまったし、気付かなければ大惨事になりかねないトラブルです。何れも原因は不明ですが、高温による熱暴走の可能性は否定できません。暑いインドで生産される半導体は熱暴走の不具合を発見しやすいかも。

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Sunday, August 24, 2025

AIが壊す社畜エスカレーター

民営化ドミノ*1の続きです。予想通りではあるんですが、ガソリン税減税の与野党協議会が足踏みしています*2。1兆円程度の財源を示せない野党の本気度が疑われます。特に立憲民主党の「税収上振れと税外収入」は論外です。インフレで前週の上振れは当然ありますが、同時に国債金利も上昇しており、使ってしまえば次年度以降の国債利払い費の膨張で財政を痛め、インフレを助長することになる無責任な議論です。決算剰余金として繰り越して次年度国債発行額を圧縮するのがインフレ時の正しい財政の在り方です。

野党各党でも国民民主党は論外として、維新の法人税租特法減税の見直しとか、共産はそれに加えて金融課税強化を打ち出しています。本気で政権取りにいくならせめてこれぐらいのことは言うべきですし、暫定税率の原点がオイルショックによる道路特財源の税収減を補う2年間の時限立法だった訳ですから、民営化エントリーで示した潤沢故に無駄が多い道路予算の削減を何故言えないのか?高速道路無料化を打ち出した民主党の後継政党らしからぬところです。そしてこれは腹括った少数与党の石破政権を利するものでもあります。立憲執行部にはどうせ少数与党だから向こうから頭下げてくるだろうという甘い考えがあるんじゃないか?だとすればとんでもないことです。

知恵熱の夏*3で示したように自民公明の与党の敗北は必然だったのですが、立憲民主党の伸び悩みも必然と言えるという厳しい総括ができていないってことです。そんな中で立憲・国民両党で組織内候補を擁立した連合から参院選の総括案が発表されました*4。連合自身の組織の弱体化を示す集票力の低下を認めつつ、それでも地方区で立憲と国民が選挙協力したところでは当選していることを指摘し、両党の協力を示唆するとともに、国民民主党の政策が財政支出を増やして寧ろインフレを助長し労働者を苦しめると言及しています。元を質せばアベノミクスの異次元金融緩和と財政出動の結果の円安インフレなんで、何故正面からアベノミクス批判ができなかったのか。結局自公の少数与党を助ける結果になっている訳です。

その石破政権もツッコミどころ満載で、例えばコメ増産を打ち出し、大規模化やスマート農業でやる気のある農家の支援や企業参入の解禁を打ち出してます。これ政権交代前の民主党も似たようなことを言っていたんですが、政権交代後には減反を前提とした10アール当たりの補助金交付に後退しました。但し国内出荷しない輸出米や加工品や飼料用など減反の枠外で自前で販路を見出す限り自由に作付けできる形とし、減反廃止の激変緩和を図ったことと、コメの先物市場を開設して市場価格を見ながら作付けの参考にする体制を整えました。但し農協の反対で先物市場は機能せず、また第二次安倍政権では逆に食用米の補助金を無くして加工米、資料米、輸出米に補助金を出して事実上の減反を継続させました。令和のコメ騒動でそれが裏目に出て逆にコメ先物市場には注目が集まるようになりました。

で、石破政権の大規模化とスマート農業が何故ダメかというと、戦後の農地改革で水田の圃場が細分化されていて。特に三大都市圏を擁する平野部では相続その他の事情で離農者が農地を手放し、小規模開発の宅地になったりしていますから、物理的に圃場の大規模化が困難になっており、また離農者が増えて一部の専業農家に生産委託されるケースは増えてますが、離れ離れの小規模な圃場で耕作を続けるしかない現状があります。

スマート農業で特に注目されている乾田直播農法ですが、種籾の前処理や播種後の雑草取りの手間が大変で、田植えが省略できるメリットを相殺してしまいます。雑草取りの手間を減らすには除草剤散布が欠かせず、近くに宅地があったりすると使えないし、そんな農薬まみれのコメが高値で売れるか?とか、水田耕法の利点の連作障害がない点もやってみなければわからないし、また水田耕法を前提とした農機類も使えず現時点では監視カメラやドローンなどの価格も高く、参入障壁が存在します。まして人口減少に苦しむ地方の中山間地では尚更で地方創生にも逆行します。一点突破的なイノベーションは無理があります。

食料米、輸出米、加工米、資料米の壁を取っ払って耕地面積で補助金を付けた上、先物市場の市況を参考に作付け量を決めることと、収穫後も市場価格を参照して出荷するといった形にして、離れた圃場の作付けなど農業者の工夫を引き出すことで儲かる農業を実現しつつ適正価格でコメが買えるようにして消費者にもメリットがあるといった形にすることは可能です。

やっと本題ですが、技術革新が必ずしも問題解決に繋がらないのはありふれた問題でもあります。そんな中でChatGPT5が「冷たくなった」というユーザーからの抗議が起こりました*5。前バージョンの4oと比べてフレンドリーさが失われたということですが、そもそも人間ではないAIに共感を求めること自体が間違いで、元々ハルシネーションと呼ばれるいい加減な回答を返すことは指摘されてきましたから、ユーザーが検証しないと使えないのですが、フレンドリーな受け答えに癒されて下手すると宗教とアヘン*6のような依存症にもなりかねませんし、それを誘導に使われる罠にはまる可能性もあります。基本的には個人のスキルアップのツールとして壁打ちの相手に使うのは有効でしょう。逆に言えばそれ以上でも以下でもないツールです。

但し生身の人間ではありませんから当然制約はあります。特に熟練を要する高スキルの獲得は、結局若いうちにそうした人と接する中で試行錯誤するしかない訳で、それはまた高スキルの人の補助的な立場で学ぶということでもありますが、高スキルの人がAIとの壁打ちで多くの問題を解決できてしまうと煩わしい若手の弟子を取りたがらないということも起こり得ます。そうするとその人の高スキルは次世代に継承されず引退して失われることになります。つまりAI依存で若手の育成が滞ることを意味します。典型的なのはプログラマーですが、業務フローを見ながらソースコードを書いてはテストの試行錯誤を経てスキルを上げていく部分をAIが肩代わりしてしまうと若手が育たないというジレンマに陥ります。既に米テック大手では業績好調でも大量解雇に動いており、AIに代替されるのは高給取りの技術職という予想が当たった訳です*7。

日本の場合は雇用慣行の違いから異なった展開が予想されますが、所謂新卒市場に異変が起きる可能性は指摘しておきます。労働力人口減少の結果、新卒市場は売り手市場となり初任給が高くなってますが、どこかの時点でこれが反転する可能性があるということです。事務職と技術職が該当することになりますが、新人が下働きで覚える業務フローをAIが代替してしまえば若手を大量採用する必要が無くなる訳です。しかも即戦力として迎えられるから、付いていけずに離職する可能性も高まります。つまり有名大学を出て大企業に勤めて一生安泰というキャリアプランが成り立たなくなるということです。

これ企業側から見ると新卒市場の取り合いから好待遇を訴求しなければ人が集まらないという事態が解消されますから、即戦力にならない新人の初任給を下げられることを意味します。そしてゼロ年代以来の賃金抑制の結果勤続年数による定期昇給率が下がって賃金カーブがフラットになってますから、勤め続けても賃金はあまり上がらないということで、これが手取りが増えない原因なんですが、結局副業で補填するしかないということになります。ますますスキルは身につかず稼ぐには長時間労働しかなくなるということで、正社員でも実態は非正規と変わらないということになりかねません。てことで第二氷河期に向かうということですね。

元々日本的雇用慣行のメンバーシップ型雇用がバブル崩壊後に崩れて団塊世代の退職者補充を非正規で済ませたことが氷河期世代を生んだ元凶ですが、彼らはスキルアップに努めて正社員を勝ち取っても勤続年数の壁で定期昇給の恩恵も不十分で新卒プロパーと待遇差がありますし、賃金カーブのフラット化で若手より先に昇給が止まり賃金格差が固定化するし、役職者になれるチャンスも少なく、なれても役職定年で平に降格したりと散々な目に遭ってきた訳ですが、その二の舞がこれから就職する若手にのしかかる訳です。インフレを受けて賃上げが進んでいるとはいえ定期昇給込みですから、実質賃金に影響するベースアップ分は3%程度でインフレ率に追いつかない状況です。

そんな中で気になる動きがJR東日本で起きています。最大労組のJR東労組をぶっ潰して、代わりに社員親睦組織兼労使協議帯として経営陣と現場を繋ぐ社友会を組織して協議機会を1ヵ月から3か月に減らしたりした結果トラブルが増えています*8。その一方で会社に賃上げ要求をしたりして労組のような7動きを見せていますが、労組ならざる社友会のこの動きに社員から違和感の声が上がっているということです。会社のカバン持ちが賃上げポーズで社員に阿る姿勢の中で、経営サイドからの合理化要求が加速しているというものです。

例えば南武線の遅延問題*9ですが、ワンマン化実施後に朝夕を中心に遅延が日常化しているということで、ドア開までの時間短縮などを打ち出してますが、元々沿線に工場が多く、最近はマンションも林立し、他線との乗換駅が多く乗降が頻繁という路線特性から経営陣が現場をどの程度把握できていたかが問われます。何だか京葉線の快速廃止の混乱*10を思い出させます。いずれも恐らく経営からのトップダウンで実施した結果の不具合という点で共通しています。京葉線は乗客や自治体のクレームを受けて千葉支社長が見直しに動きましたが、南武線ではメカ的な解決策しか示していません。段々JR東日本が嫌いになりつつある昨今です。社員の人も違和感があるならナショナルセンターの連合に相談して労組再結成しても良いと思います。今なら世論も理解するでしょうし、弱体化したナショナルセンターの連合も組織立て直しに繋がります。

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Saturday, August 16, 2025

民営化ドミノの現在地

通常国会期末に衆議院を通過して参議院で否決されたガソリン税の暫定税率廃止法案ですが、参院選の与党敗北を受けて与野党協議で年内実施の方針が打ち出されました。衆参双方で少数与党となった石破政権としては対応せざるを得ないのですが、議論を野党に投げて、財源その他の課題の解決策を出させようということですね。謂わばクリンチ作戦です。

大きな課題は「財源」「ディーゼル」「買い控え・反動増」*1と3つあって、ややこしいのはガソリン税は国税でディーゼルの軽油引取税は地方税で前者は消費税課税対象となる一方後者はかからないし、地方税収減を地方交付税で穴埋めするとすれば、その財源を手当てする必要があり、制度設計が複雑になることから、今回はガソリン税限定となりそうです。その場合の財源は1兆円程度で、予算の議論に絡めて実現可能性を探ることになります。但しそうするとガソリンと軽油の価格が逆転することになり、特にインフレ対策なら物流費等で波及効果の大きい軽油の暫定税率をそのままでは趣旨に反します。この辺の着地点をどうするか、実は野党の方が試されるものになります。

そもそもは道路特定財源とされたガソリン税と軽油引取税がオイルショックによる経済失速で財源難となったことから、2年の期限付きでガソリン25.1円、軽油17.1円の暫定税率を定め、道路財源を確保する目的でしたが、その後紆余曲折はあったものの延長が繰り返され半世紀を超えて存続して現在に至ります。2008年には与野党ねじれ国会で参院で一旦失効した後、衆院の再可決で復活し、2009年には道路特定財源の一般財源化で一般財源となり、使途の制限はなくなりましたが、逆に社会保障費や地方交付税にも回されるようになって寧ろ暫定税率廃止が難しくなり現在に至ります。とはいえ一般財源化されても予算のシーリングで道路予算の比重は高いままなので、一般財源化は寧ろ財政を窮屈にしてしまったうらみはあります。その一端を示す新聞連載記事を紹介します。

道路延びても7割で交通量減少 ずさんな費用対効果試算 - 日本経済新聞
高速道路、利用半減でも4車線化 「整備ありき」遠のく無料化 - 日本経済新聞
ガラガラの自治体有料道、補塡2124億円 予測甘く負担増 - 日本経済新聞
人口減少を無視した甘いB/C比評価。民主党政権下で試行された高速道路無料化が終わって通行量激減しても対面通行解消の4車線化が進み、料金償還は遠のくばかりの高速道路利権。甘い事業見通しで作られた地方有料道路が償還を諦めて無料化される矛盾。過大な予算を所与とする道路の既得権は強固です。但しバスタ新宿*2や肥薩線復旧予算や宇都宮ライトレール*3のように道路予算の使い方は柔軟化してはいますが。尚、肥薩線の復旧が進まないのはJR九州が自己負担分の支出を渋っている結果です。

という具合に現状を過去からの文脈で見ないと見えない問題というものはあります。例えば富山地鉄の一部路線廃止問題です*4。過疎化による末端区間の利用が減っているのに93.2㎞という大手私鉄並みの路線長で保守負担が大きく、実際脱線事故なども起きていて、自治体の支援がなければ一部区間の廃止はやむを得ない状況です。しかし同時に特に本線に関しては並行する北陸本線が北陸新幹線開業で三セク鉄道あいの風とやま鉄道に移管され、車両も新しくなり本数も増えて利便性を増したことで地鉄の利用客を奪ったことも影響していると考えられます。つまり整備新幹線ドミノです。とすれば沿線自治体にとっては複雑な意思決定を迫られることになります。

実は似たような話は、例えば国鉄末期から民営化後にかけて鹿児島本線の列車増発で利便性を増した結果、西鉄北九州線が廃止に追い込まれたり、JR西日本のアーバンネットワークの輸送改善で並行私鉄から乗客を奪ったり、JR東海の攻勢で名鉄が劣勢に立たされたりといったことが起きています。つまり民営化ドミノと見ることもできます。元々国鉄は都市間や地域間を結ぶ幹線輸送、私鉄は地域内完結の輸送というザックリとした役割分担が、地域分割を前提に私鉄の事業領域に国鉄/JRが進出した結果とも言えます。そして整備新幹線は国鉄から引き継いだ幹線輸送を新幹線に譲り、並行在来線切り離しで貨物輸送の負担も無くせる訳で、民営化後の整備新幹線スキームの負の側面が出てきたとも言えます。

整備新幹線の根拠法は全国新幹線鉄道整備法(全幹法)で国鉄時代は建設主体は国鉄と鉄道建設公団で営業主体は国鉄と法定されていて、運輸大臣の指示で東北、上越新幹線が建設され開業しました。それが国鉄改革で分割民営化されれば事業主体を失ってしまう訳ですが、既に整備新幹線として東北新幹線(盛岡市―青森市)、北海道新幹線(青森市―札幌市)、北陸新幹線東京都―大阪市)、九州新幹線(福岡市―鹿児島市)、西九州新幹線(福岡市―長崎市)の5路線が基本計画線から整備計画線に指定されていて、その扱いが問題になり、全幹法も鉄道建設・運輸施設整備促進機構(鉄道・運輸機構)が建設主体で営業主体は分割後の旅客6社が自社エリアを引き受ける一方、分割会社への負担にならない仕組みとして並行在来線の切り離しと受益分を除く事業費を国と地方が負担することとなりました。

但しこの時点では財源が決まっておらず、与党議員からは公共事業費として予算確保が求められましたが果たせず、結果的には1992年のJR東日本の株式上場時にJR3社が国に要望した新幹線の買い取り代金に上乗せされた鉄道整備基金からの出資と運輸省分の一般財源で財源確保し、開業後の線路使用料でJRが返済するという形で事業スキームが決まり、また限られた予算ということでフル規格の他に在来線改軌によるミニ新幹線とフル規格の路盤に当面狭軌で開業するスーパー特急方式が提案され、B/C比に基づく優先配分で当面長野五輪対応の北陸新幹線高崎~長野間が着手されました*5。

その後のあれこれはありますが、このB/C比が曲者で、例えば九州新幹線は当初八代~西鹿児島間をスーパー特急方式で開業し在来線直通特急で新幹線区間で狭軌200km/h営業運転という技術的に未知の領域を前提としてB/C比を高く見せて優先度を上げたりしてましたが、結局B/Cを問えば最高速260㎞/hのフル規格が良い数字を出しますし、北陸新幹線も当初軽井沢~長野間ミニ新幹線だったものがフル規格に変わり、また低金利故に開業後のリース債権を担保に借入れで資金調達するなどしてフル規格に化けていきました。しかし軌間可変車前提の西九州新幹線は開発中止で佐賀県区間の見通しが立たなくなりましたし*5、やはり軌間可変車活用を考えて敦賀までフル規格で開業した北陸新幹線の敦賀の乗換地獄や大阪延伸を巡る小浜京都ルートと米原ルートの争いなど分割民営化の悪い面が出ていて、新幹線が迷惑施設化して佐賀と滋賀で「詐欺だ!」*6ってことになります。

国土軸形成の骨に当たる新幹線に佐賀と滋賀のミッシングリンクを作ってしまったのは国鉄分割民営化への対応が中途半端だったためにJR旅客会社に振り回された国の失敗ですし、更に地方の有力交通事業者を追い込んでいるという構図ですが、もう1つ懸念があります。それは並行在来線を含めて三セク鉄道の職員も国鉄/JRのOBの再就職で賄われてきましたが、JRも自身の合理化で職員数が減っている上、高齢化で退職した後の若手の補充が人口減少で困難になりつつあるのが現実です*7。富山地鉄への支援をケチってあいの風とやま鉄道も人手不足で減便となるような未来はすでに現実化しています*7。地域開発に資する筈の新幹線が地域を衰退させるという寒い話です。

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Sunday, August 10, 2025

外国人問題は社畜の怨念?

雨で凌ぎやすくはなりましたが、お熱うございます。社畜の帰省シーズン*1ですが、コロナ禍での帰らざる社畜2*の変化で様変わりしました。バーチャルなご先祖様はは変わらず帰って来るけれど、居なくなるアニオタはコミケの復活で元に戻り、寧ろ推し活や聖地巡礼で活性化されており鉄ちゃん顔負けです。一方鉄ちゃんは青春18きっぷアップデート*3で様子が変わり、売上3割減だそうで、使い勝手の良かった旧青春18きっぷユーザーは一部離れたようです。

とはいえJR東日本の来春の値上げ*4に見るようにコロナ禍の減収がリモートワーク普及で戻らない一方、インフレによる調達価格上昇もあり、これまで維持してきた国鉄末期の運賃体系で発生していた超過利潤が減少し、割引の原資が細った結果、割引きっぷの見直しも避けられないところですし、上記エントリーで指摘したように青春18きっぱーの増加で現場の負担が増えたこと、地方の過疎化でそもそも通学列車も減っていて企画きっぷ発売の趣旨も薄れてきてますし、また旅客6社の売上配分が利用者アンケートの結果に基づく推計値による案分というアナログな方法でこれも負担になっていたと考えられますから、自動改札の入出場記録に基づく実数値で配分できる分バックオフィスの負担も減ります。

てことですっかり様変わりしたお盆の風景ですが、もう1つ変わったのが円安を背景としたインバウンドの外国人観光客の増加です。特に社畜の帰省とは需要がバッティングします。加えてインバウンド客の大きな荷物が座席や通路を塞いでトラブルが頻発しており、観光地のオーバーツーリズムと相まって課題が明らかになってきてます。それなのにJR東海は定員減を嫌って荷物スペースを増やすといった対応を取っていませんし、予約荷物スペースが予約外の荷物で埋まったりしています。外国人観光客が荷物スペースの予約ができることをJR東海がどれだけ告知しているかが問われるところですが、一見さんの観光客にとって使いにくいシステムになっていないかといったところも問われます。

これJR東日本のえきねっとや指定席券売機の使いにくいユーザーインターフェース(くそUU)の問題*5とか、JR東海のスマートEXと別建てだったり、折角全国で使えるようにしたIC乗車券も敢えて仕様を変えて共通仕様から離脱したり*6、合理化でみどりの窓口縮小したら行列ができたり*7、クレジットカードのタッチ決済やQRコード決済の取り組みもバラバラ*8。先に検討していたJR東日本を出し抜いた格好です。混雑を前提に動作の確実性を求められる首都圏に対して、IC乗車券でも先行するSuica/PASMO陣営に対して仲間を増やす横展開で優位にあるICOCA*9と似た構図です。Suica経済圏危うし。JR東日本はみどりの窓口改革としてAI導入を打ち大sていますが*10、AIはあくまで道具で使い方次第です*11。

要注意なのはAIの電力消費の大きさで、単純に社畜の代替を目指すと人口減少下の高エネルギー消費で知恵熱地獄*12になるし、ろくなことになりません。あとマクドナルドのハッピーセット問題*13ですが、ちいかわでも起きたことの反省や対策も無しにポケモンカードのようなプレミアム性のあるキャラクターグッズを景品として配布して客を吊る企業姿勢にこそ問題があり、外国人のみならず日本人もいると思われる転売ヤーのせいにするというのはいただけません。「悪いのは外国人」というのは間違っています。

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Sunday, August 03, 2025

温暖化の加速

辞めない石破首相の続投の理由の一つが南海トラフ地震などの天然災害の発生の可能誌で政治空白を作るべきでないと。そしたらカムチャツカ半島東岸の海溝型地震と広範囲の津波警報/注意報が起きました*1。石破さん、あんた預言者かい?旧約聖書のノアの箱舟やモーゼの出エジプト記など天然災害のメタファーと見られる記述があり、神の試練と預言者の救済という共通したモチーフがあります。

新約聖書の福音書でマタイ伝だったと思いますが、ゴルゴタの丘に連行されたイエス・キリストと同時に処刑される筈の大盗賊の2人の内1人を赦免するとしたらどちらか?とローマ市民に対して役人が問い、市民は盗賊の罷免を求めました。何人も殺した物獲りの盗賊の所業は市民の日常感覚を拡張して理解可能なのに対して、訳の分からん戯言を述べる預言者は理解不能だったということです。裏金議員の方が理解しやすいのか?そんな盗賊の視点でキリストの復活劇を描いたのがスウェーデンのノーベル賞作家ラーゲルクビストの小説「バラバ」で岩波書店から邦訳が出ていましたが、今手に入るかどうかはわかりません。刑を逃れたものの何か空疎な感覚に支配された主人公の心象風景が描かれています。

それはさておき津波警報で東海道線など鉄道やバスの運休や海水浴場の閉鎖などで行き場を失った人が多数出て、鎌倉市では市役所や市会議場を避難者に開放するなどの対応を取りました*2。鎌倉市では市役所の深沢地区(旧国鉄大船工場跡地)への移転計画が市議会の反対でとん挫しましたが、移転して解体し再開発工事してたら対応できなかった訳で、多くの人を助けました。

警報発出時に外出していましたが、一山越えた安全な場所にいたこともあり、スーパーで買い物して自宅へ戻ろうとしたら待てど暮らせどバスは来ない。そのうちバス停に人が集まり収集がつかない中で、ウェブのバスナビで確認したら東海道線以南の路線は全面運休ということで、仕方なく炎天下徒歩で帰宅しましたが、途中のバス停でバスを待つ人がいたのでバスが動いていないことを話し、また鎌倉駅方面は現状がわからないから急いで戻らない方が良いといった話をしながら、暑さを凌ぐ木陰を辿りながら歩きました。緑の多い自宅周辺の環境に助けられました。警報が出ていてもパニックにならなかったのは東日本大震災などの経験が活きたとも言えます。逆に忘れた頃の天災は恐ろしいという裏腹な関係は意識すべきです。

炎天下の避難で熱中症で倒れた人も出ていて、避難の難しさも同時に意識せざるを得ないなど課題もあります。そして今年の夏の暑さは異常というレベルでもあります。体温を越えた気温と共に、特に日本近海の海水温の上昇で湿度が高い状況が続いています*3。つまり大気中の水蒸気量が増えている訳ですが、水蒸気はCO2以上の温室効果ガスです。但し上昇気流に乗って断熱膨張で放射冷却すれば結露して雲になり太陽の輻射熱を遮りますし、雨になれば地面も冷やすから通常ならば温室効果は限定的ですが、太平洋高気圧とチベット高気圧の2つの高気圧の影響で上昇気流は起きにくく、ただ暑く湿った状態が維持される訳です。そして湿度が高いと発汗による体温調整も働きにくくなりますから、原発や半導体やバッテリーと同様*4人間の能力も低下します。つまり生産性が低下する訳です。社会人も夏休みが必要ですね。暑さは農業などにもマイナスです*5。

そしてもう一つ不都合なのは、脱炭素の切り札とされる水素発電やFCVは水蒸気を発生させますから、湿度を高めて温室効果を助長します。グリーン水素の調達コストも高く、水素社会は当てにしない方が良いでしょう。同様につなぎとしてのアンモニア発電もコスト面で壁にぶち当たってますし、炭素固定(CCS)というやはりコストに課題のある技術とセットで推進されてます。当面はコストのこなれてきた太陽光を中心に再エネ活用を探る方が良さそうです。霞が関の官僚たちも考え改めてほしいですが、地下鉄霞ヶ関駅がサウナ状態という悲報です*6。日本の未来は絶望か?

その一方で神宮外苑その他の再開発で樹木の伐採が進んでいて*7、涼をとれる木陰が減っています。加えて東京都は路面温度を下げる遮熱舗装事業を行ってますが、これが逆に照り返しで気温を上げていることが報告されてます*8。翌年にズレた2020東京五輪の暑さ対策でマラソン協議を札幌で開催することになったものの、サッポロも猛暑の予報があり、マラソンコースを遮熱舗装したのですが、その時のデータを解析したら、確かに路面温度は下がったものの、照り返しによる気温の上昇が認められ、熱中症対策としてはむしろ逆効果というエビデンスです。当然子供やペットの犬への影響は大きいし、最近男性も使う日傘も無意味というものなんですが、何故か東京都は遮熱舗装を推進しています。本当は都市緑地や街路樹の整備による木陰の創出こそが求められるのですが、都民を殺しにかかってる?

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Sunday, July 27, 2025

知恵熱の夏

いしばしをたたいてわたる*1ころから、いつかは起こると予想された石破おろしですが、頭悪りーと思うのは、総裁変えて臨む首班指名選挙で勝てるのかってことです。あるいは衆院解散含みなのかもしれませんが、解散総選挙で多数派に返り咲けると考えているとすれば有権者を舐めているとしか思えません。案の定石破さん辞めるなデモが起きていしばしをたたいてわたれ*2の流れが顕在化します。国民の方が一枚上。いしばしをたたいてわらう*3のはやはり国民。いしばしをたたいておわる自民党^_^;。

日米関税交渉でとりあえずアメリカの理不尽な要求を押し戻したし、共同文書がない口約束とか、5500億ドル(80兆円)の対米融資枠設定などでとんでもない約束をしたとか言われてますが、これ政府系金融による融資枠の設定で、リニアの3億円財投などの例外はありますが、基本的に民間銀行との協調融資となりますから、融資枠に民間資金が含まれるかどうかなど敢えて曖昧にしている部分もあり、日米双方で国内向けに都合の良い発表ができる建付けで、特にアメリカ側の方が焦っていたと言われます。どうもエブスタイン事件スキャンダル*4が影響しているらしい。

元々今回の参院選で自公の与党が敗けることは予想の範囲でした。自民党も公明党も支える自民党員と創価学会員の高齢化の一方、子の世代は継承せず、人数が減っていたという状況があります。議員には二世が多いのに支持者に二世は少なく、そのため自民党議員の公認要件となる党員獲得のために金ばら撒くしか能がないのが二世議員や安倍チルドレンで裏金に走り、それが暴かれて有権者の離反を招いた訳ですし、当然マンパワーで左右される組織力も低下して旧統一教会や日本会議のような宗教組織の動員力に頼る壺議員が増えるし。公明党も創価学会員が高齢化し二世信者は減るしで組織力が低下しています。実は野党でも共産党がやはり専従者や支持者の高齢化と二世の離反が起きており、特に専従者の解雇を巡る内紛もあって支持者の離反を招いております。敗けに不思議な敗けなしです。

つまり組織選挙の敗北ですが、立憲と国民に分かれる連合系候補者も苦戦しております。組織票がものを言う日本の選挙が変わってきて無党派層の存在感がが増しているということです。故にTIXY選挙*5で反応しやすい状況で、国民民主や参政党の躍進になりました。但しだからといってSNSの作戦ミスと矮小化できないのは、SNS選挙の走りと言えるれいわやN党の敗北、石丸新党の鳴かず飛ばずなどに見られるように、支持者が飽きて離反するし、SNSではないけれど関西メディアで人気を得た維新のように、メディア露出を演出するだけでは長続きしないってことです。

一方で有権者は意外と政策を見ていたという分析があります*6。投票先未定層は政策を見て決めているのですが、減税ドミノ*7に対抗して給付金支給を打ち出したり日本人ファーストに対抗して外国人規制強化を打ち出したりしたことが、寧ろ与党にマイナスに働いたことが見て取れます。同時に減税ドミノに乗っちゃった立憲民主党の横ばいも説明がつきます。まともな有権者を与党から引き剥がすことができなかった訳で、政権交代のマイルストーンとしての参院選の作戦ミスは明らかです。減税ドミノに乗らずに給付付き税額控除の有用性を訴求していれば、低所得層支援、子育て支援、制度設計次第では社会保険料負担を含む年収の壁問題の解決といった成果が期待できますし、カナダや欧州など複数国で導入されている点も訴求できた筈です。

もっと言えばそもそも有権者はインフレに不満を持っている訳で、その原因を作ったのは10年続いたアベノミクスの副作用でインフレが制御不能になっている点で、これ与党は取り上げにくい論点です。同様に岸田政権で打ち出した防衛費増額や原発活用、更に世界的な課題の気候変動対策としての脱炭素政策など、選挙で訴えるべき問題は多数あった訳で、有権者もそれを期待していた筈ですが、減税か給付金かといった形で論点が矮小化されてしまった訳です。選挙戦を通じた議論の深掘りはできませんでした。

脱炭素と原発活用はそもそも両立しません。関西電力が美浜の敷地内に新設を発表しました*8。データセンター増加による電力需要増を見越して安定電源の必要性からの判断ということですが、データセンターが増えているのはAIブームによる部分が大きく、そのAIの特性を理解してるのか?大雑把にまとめると、AIは大量のデータから有用性がある可能性のある組み合わせを見つけるために仮説推論の試行錯誤をサーバーにやらせる訳で、それ故に電力変動が大きく、安定電源である原発とは相性が悪いんだけど内緒です^_^;。現に関西以上にデータセンター需要が上振れしている東電*9では原発なしで省電力要請もせずに対応しています。どうも空梅雨で日照時間の長い6月の晴れの天気で太陽光発電が助けているようです*10。気候変動による亜熱帯化と東電管内の製造業撤退の結果です。そういえば日産も追浜工場閉鎖しますし。つまり出力が不安定と言われる太陽光発電が実際には基幹電力としての存在感を高めているようです。ならば最低20年かかる原発新設よりも需給調整のための系統電力用バッテリーに投資した方が早くて安上がりです。

気候変動の影響はそれに留まらず、頼みの原発も影響を受けます*11。欧州の熱波による水温上昇でフランスでは原発の冷却水不足から原発の出力調整や停止が相次いでいて、実は気候変動に弱い電源ということが明らかになっております。気候変動が進んだ20年後の新設の美浜原発がスペック通りの出力ができるのかはわかりません。経済が停滞する日本に必要な投資なのかは疑問です。加えて言えばAI向けデータセンターの電力消費はその全量が回路抵抗による抵抗熱に変換されますから、かなり大きな熱源です。加えてサイリスタ日照り*12に見られるように半導体は熱に弱い。故に自らの消費電力で出た抵抗熱を屋外に放出する強力な空調機が必要になり、そちらでも電力を消費しますから、かなりエグい熱源でもあります。つまりAIだデータセンターだ原発だという先の未来は灼熱地獄ってことです。人口減少下の日本で機械仕掛けの知恵熱を引き受けるのは愚策です。

そして折れたつばさ*13のE8系のトラブルの原因が明らかになりました*14。補助電源装置のパワー半導体制御基板の不具合で所定より高い電圧がかかり、抵抗熱で半導体が融解し、動力モーター冷却が止まって主回路が遮断されたという流れで、特に先月17日には5編成がほぼ同時に異なる場所で停止ということが起きました。おそらく気温の高さも影響していた結果、半導体溶融が起きやすい状況だったと考えられます。逆に言えば気温の高さが思わぬバグを顕在化させたと見ることもできます。スマホ家電自動車から工場の機械類まで、半導体はそこらじゅうで使われています。加えてリチウムイオン電池の熱の弱さも言われており、今月20日の山手線の乗客の鞄の中のモバイルバッテリーの発火事件で長時間運転抑止されました*15。思えばスマホ、ハンディファン、ゲーム機その他携帯する電子デバイスは多数あり、ハンディファンの発火事件も起きています。結構危ない日常の悪寒。

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Sunday, July 20, 2025

折れたつばさ

参院選投票日当日ですが、ひどいTIXY選挙*1でした。政策よりも目先のアテンションで有権者アピールしてまともな政策論争もないまま過ぎました。それでも選挙報道姿勢を問われたオールドメディアは不十分ながらファクトチェックで姿勢を変えております。従来選挙運動を隠れ蓑に酷いヘイト発言し放題だったことに比べればマシにはなってますが、ヘイト発言に喝采する有権者はそもそもオールドメディアはウソだらけと信じ込んでますから響かない。故に従来投票したことがないような無関心層を動員して議席を得れば解散のない参院で6年の任期を得て少数与党に恩を売りながらうまい汁吸うことができちゃう訳です。

とはいえ政権選択選挙ではない参院選後には原則首班指名選挙は行われませんから、仮に与党が参院で少数転落しても、石破氏が自ら辞めない限り政局にはならないです。そして日米関税交渉の膠着が、アメリカ政府から見れば協議を重ねてきた石破政権が交代すると一からやり直しになるから、選挙が終わるまでは石破政権にマイナスにならないよう配慮してます。そして選挙後の赤沢経財相の8度目の訪米がアナウンスされています*2。つまり石破さん辞める気さらさらなしです。関税協議が政権延命の鍵という倒錯^_^;。とはいえ既に連邦歳入で法人税に次ぐ規模となった関税で税収が調達されている状況*3では交渉の余地は殆どありません。

それに背中を押されたのか日産が追浜、湘南の2工場の閉鎖を決めました*4。ブランド力の弱い日産としては関税の価格転嫁もままならず*5米国内工場を温存して他社製品の受託生産で量を確保する一方、国内工場は縮小せざるを得ない状況に追い込まれた訳です。財務状況が悪い日産としては関税分の値引きの原資がもたない訳です。立地から高く売れる可能性のある工場の閉鎖はそれだけ追い込まれているということです。そしておそらく高く売りたいから、工場ごと居ぬきで買える相手となると鴻海が有力候補になりそうです*6。鴻海はEV事業への本格参入を狙っており、乗用車に留まらずEVバスへの参入もアナウンスしております。国産EVバスはいすゞエルガEVのみで、BYDやヒュンデなど中国や韓国の輸入車頼み故に勝算ありと見たのでしょう。

そして前エントリー*7でも指摘しましたが、通貨当局が動けない中で日米両国のインフレ率の差が為替を動かすことを指摘しました。その結果為替はこう動きました*8。与野党のバラマキ合戦の影響もありますが、自動車を始め関税分を価格転嫁できていないことがアメリカのインフレ率を抑えている可能性も指摘できます。いずれ関税分の価格転嫁が進んで日米のインフレ率が逆転する可能性もあります。実際日本のインフレ率はコメの備蓄米放出やガソリン補助金で抑えられておりますが、それでも日本のインフレ率が高い結果です。今後も微妙な展開が予想されますが、政策的な価格抑制は財政の拡大で結局インフレを呼び込みます。この点はアメリカも似たり寄ったりなので、予想を難しくしています。まあ製造業での経済成長の可能性は日米共に殆どありませんが。

そんな折れたつばさを共有する両国ですが、それでも金融とITで稼げるアメリカに対して、自動車も袋小路でどうするということで半導体に注目が集まりますが、TSMC熊本工場で生産された半導体は殆どエヌビディアやアップルが買い手という現実が影を落とします。2ナノの試作品製造に成功した北海道千歳市のラピダスも同様の問題を抱えており、仮に先端品の営業出荷が可能になっても国内に買い手がいないという現実が待ち受けます*9。SuicaなどのIC乗車券や電子マネーに欠かせないFelicaシステムも今やソニーも見捨てたレガシー技術というぐらいイノベーションの周期が早い半導体のエコシステム構築は技術を磨くだけでは果たせず、寧ろアメリカのバイデン政権のスモールヤードハイフェンス政策で先端半導体が手に入らない現実を受け入れてレガシー技術を磨いて先端品と同等の性能を実現した中国の手堅さが、国内需要に押された結果という点は示唆に富みます。歩留まりが悪く採算が難しい先端品に拘る日本の在り方は、結局熊本の渋滞激化や豊肥本線混雑率ワースト*10という負のインパクトを地域にもたらしています。

そして半導体関連で山形新幹線つばさE8系のトラブルは原因究明が進まず、東京直通を止めて福島乗換で対応が続きます*11。報道では補助ん電源装置の半導体の不具合ということですが、思い出されるのが国鉄時代の中央快速線201系のサイリスタ日照り*12です。おさらいすると国鉄が中央快速線向けに開発した201系が、走行中に度々主回路がブラックアウトするトラブルに見舞われ、原因はサイリスタ素子の過熱と突き止められました。地下鉄では制御器の抵抗熱対策でサイリスタチョッパ制御が導入された一方、回生ブレーキ対策が必要な地上の鉄道では導入が進まない中で、国鉄一の高密度輸送輸送線区の中央快速線で回生電力の有効利用と量産効果によるサイリスタ素子の価格低減を狙ったものの、制御器は海側という抵抗制御時代の慣例で配置を決めた結果、東西に延びる中央線では日中直射日光を浴びて輻射熱の影響でサイリスタ素子が機能を失うことと、中野以西のベタ停車で加減速が頻繁で走行風による冷却効果も限られた結果でした。対策として制御器箱を白く塗って輻射熱を反射させるなどして安定させたものの、他線区への導入のブレーキになりました。例外は京阪神緩行線で駅間が長く高速走行で冷却効果があって同様のトラブルはありませんでした。

それでも国鉄がユーザーとしてメーカーを育てようとした結果の失敗ですから、その後のパワーエレクトロニクスの成長には貢献できたとは言えます。同様に常磐緩行線の207系900番台*13のセコい失敗もありますが^_^;、最強ユーザーとしての国鉄の存在感は大きなものでした。民営化後のJR各社は半導体も汎用品でコストダウンに励む方向へシフトしてメーカーとの結びつきが弱まったきらいがあります。例えば209系のVVVF制御器がトラブル続きで継続使用を断念して「寿命半分」が実現してしまうといったことですが、その流れでE8系のトラブルを見ると、トラブル発生日の気温が高かったことから、半導体が熱にやられた可能性はあると思います。厄介なのはかつてのパワー半導体と比べても回路構成が複雑化しており、チップ上に電流安定のためのセラミックコンデンサが組み込まれたりしていて、どこに不具合があるかが見えにくくなっていることはあります。また半導体製造のサプライチェーンは長く、その各段階に不具合が混入する機会は増えているということもあります。巨大化した米IT大手のようにサプライチェーンへの影響力を行使する力は弱まっていると考えられます。てことで原因究明は困難を極め、折れたつばさは当分続くと覚悟する必要があります。

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Sunday, July 13, 2025

カラータイマー地価地価

TACOパラダイムの楽観が変わりそうです。TATA(Trump Is Always Trics Again=トランプはいつも再びやってみる)へシフトしたと一部で謂われております。トランプ大統領が「1つの大きく美しい法案(OBBB)」*1と呼ぶ減税法案が下院で可決して成立しました。元々1期目の減税の期限が今年中に切れることから恒久化するための法案ですが、伝統的に小さな政府を志向する共和党内にも反対論がある中で強引に成立にこぎ着けました。しかし元々の減税措置の恒久化ですから、これ自体に財政による景気浮揚効果はなく、バイデン時代にインフラ投資法やインフレ対策法で決まった支出を削り、更に社会保障を減額して尚財源が足りず、結局関税収入を当てにせざるを得ない状況です。故に9日期限の相互関税の上乗せ免除も各国への書簡で上乗せされ8/1から適用ということで3週間ほどの交渉期間はあるものの、関税交渉そのものが意味を失いつつあります。それに伴う影響は多岐に亘りますが、日本もそろそろ覚悟決めて現実を受け入れるしかなさそうです*2。それで米インフレが進んでTACOが復活する可能性もあります。

はっきり言えるのは関税の影響見極めの必要から米FRBの利下げが難しくなった一方、日銀の利上げも難しくなりますが、日米共にインフレが進んで金利よりもインフレ率の差が為替を動かす局面になります。それによる内外価格差の変動が色々なところに現れることになります。今のところ方向感はわかりませんが、おそらく米インフレ率の上昇で為替はやや円高に振れるものの、ユーロ他の通貨に対しては弱含みで、特に原油価格の上昇緩和効果は限定的でインフレは続くと見ています。

そうすると不都合な真実が浮かび上がりますが、1つは株価です。かつて株式持ち合いと言われた政策保有株を市場に出さずに金庫株として保有し、また内部留保の積み上げでアクティビストに狙われ自社株買いで株主還元した結果、金庫株は増える一方で実体としての流動株は減っています。つまり現在の日本株の相場は当てになりません。しかも株価はインフレをヘッジする性格がありますから、インフレ状況での株価足踏みは投資家が満足する稼ぐ力を強化する投資ができていないことの反映です*3。資産価格は流動性が高いほど、つまり欲しい人が多いから値上がりする訳で、流動性を制限している日本株にあまり期待しない方が良さそうです。

一方で地価は爆上がりしていますが、既にバブルの水準と疑われている一方、二極化も進んでおります。路線価が東京独り勝ち状態です*4。標準宅地で東京都が8.1%上昇で全国平均2.7%の3倍の上昇率です。地価の話題では熊本県筑陽町や北海道千歳市が半導体関連で話題になることが多いですが、東京一極集中が鮮明です。公示地価の分析でも同様の結果が出ています*5。それに留まらず駅近の優良物件と駅から離れた所謂負動産の二極化もあり、超富裕層向け物件と条件の悪い安値物件は多数あるのに中間層向けの値ごろ物件は品薄です。狭いエリアでの取り合い故に地価を押し上げていることも鮮明です*6。その結果都区内では地価上昇で担保価値が上がるから大規模開発の誘因になる一方、資材価格上昇と人手不足で建設コストも上昇するため、再開発も年々困難になります。例えば中野サンプラザの再開発断念です*7。

そして不動産の投資財化が更に矛盾をもたらします*8。株のところでも触れましたが、資産価格は流動性が高いほど値上がりする性格があります。それでも不動産の流動性は株に比べればかなり低い訳ですが、特定目的会社(SPC)と呼ばれるペーパーカンパニーで小口証券化して投資家に販売した資金で物件を取得し、テナント料の税引き後利益のほとんどを配当として証券保有者に支払う形の不動産流動化事業、所謂不動産投資信託(REIT)で、多くは上場投資信託(J-REIT)として公開市場で売買されますし、大口機関投資家同士の相対取引となる私募REITも通常の不動産よりも流動性は高い訳で、この流動性の高さが価格を押し上げている側面があります。投資商品で円安もあり租税の穴*9も手伝って海外マネーが入りやすくなってますからますます大都市の地価を押し上げます。加えて海外富裕層によるマンション投資(転売及び賃貸)というルートの値上がりもあります。逆に過疎地の未利用地などはそもそも取引が低調で何年も取引がないケースも多数あり、市場からクラウディングアウトされていることも指摘できます。昨今外国人の山林の土地取得が話題になり安全保障上の脅威とする議論もありますが、あくまでもレアケースですし、寧ろ昔からある山林詐欺商法に引っかかったと見る方が実態に近いと考えられます。

気になるのがJR東日本が今月発表した長期グループビジョンですが、その中で不動産事業の強化が謳われています*10。高輪ゲートウェイシティが街開きをしてデベロッパーデビューした訳ですが、上記のように駅近物件という意味で優位にある鉄道事業者としてデベロッパー事業は私鉄でも実績がありますが、後発参入故に厳しい状況を覚悟する必要があります。事業のスタイルは西武鉄道のプリンスホテル等の不動産流動化、つまりREITによる投資ファンド転売とリースバックで開発後の資金回収と運営事業の収益化が狙いで、東急不動産との提携で体制を整えおり、特に渋谷の再開発が進んでいますが、一方で京王電鉄との共同事業の新宿駅西南口エリアの再開発は施工業者が決まらず難航しています*11。
不動産デベロッパーとしてのJR東日本は順風満帆とはいかないようです。

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Saturday, July 05, 2025

TIXY選挙の後始末

ティックトック、インスタグラム、エックス、ユーチューブを略してTIXYと呼ぶそうですが、SNSのショートムービー拡散機能を選挙活動に利用して、一方的な断定調の主張を有権者に届けるTIXY選挙が物議を醸しているのは都知事選の石丸現象*1や兵庫県の斎藤知事再選*2に留まらず、高齢者バッシング*3や年収の壁問題*4や氷河期世代煽ったり*5外国人の社会保険タダ乗りのフェイク*6などで支持を伸ばす国民民主党*7の躍進はSNSの拡散力によるものです。AIで見た目を整えることも容易になり、N党、れいわ、参政党などもSNS拡散を取り入れており、街頭演説中心の既存政党と異なった選挙戦術で自らを目立たせようとしてます。

その結果見た目のウケ狙いが目立つようになり、例えば野党各党が揃って消費税減税に言及し、与党の自公も給付金で対抗するという*8眩暈のする状況です。いずれもインフレ対策として打ち出してますが、総需要を賄える供給力が衰えた中での財政出動はインフレ要因になるだけで無意味です*9。税収の上振れが喧伝されますが、インフレの影響である以上、時差を伴って国債金利の上昇による国債の利払い費増が迫る中で、上振れ分は国庫に戻して国債発行の圧縮に使うべきものです。特に長期債の金利上昇は顕著で*10、低金利時代に増えた長期債をこれ以上増やせず、短期債で凌ぐしかない状況です。その結果国債に借換えが増えて借換え時の入札で決まる金利の上昇の影響を長期間受けることになります。つまり現役世代や将来世代へのツケ回しが膨張することになります。こうした財政の仕組みを知れば高齢者バッシングは無意味だし消費税減税や給付金も問題だと理解できるでしょう。

TIXY選挙で報道姿勢が批判された所謂オールドメディアがインフレ対策を「最大の争点」と報じるのですが、経済学上の常識としてインフレはマクロ経済現象であり、対策は日銀の利上げと財政出動の縮小による総需要抑制策しかないことぐらいきちんと指摘して欲しいです。逆にこの点を曖昧にしたままの選挙戦ではまともな結果が出るとも思えません。実際都議選では自民公明の議席は減ったものの都民ファーストが伸びて小池知事与党は盤石という結果になりました。自民党は都連の裏金問題で票を減らした模様ですが、都ファに票が流れたんじゃ意味がないです。寧ろ都の開発行政の不透明さは温存されて地価は上がる一方で家賃も上昇してもはや地方の若者を受け入れる余地は減ってます。

週刊東洋経済2025年6/21号の第二特集で東京の湾岸副都心を取り上げております*12。既に公募も取りやめ東京ドーム4個分の都有地が宙に浮いています。臨海副都心の開発は主に三菱地所が手掛けてきたのですが、1996年予定の都市博の中止*13で狂いが生じたものです。ご存じ青島幸雄氏が都市博中止を掲げて都知事選に立候補して当選し、逡巡はあったようですが民意を尊重して都市博中止を実行しました。規模としては開催中の大阪関西万博を上回る大規模博覧会を起爆剤に開発に弾みをつけようとしたようです。これ古くは1940年の幻の東京五輪と東京万博を想定して晴海展示場が整備されたものの戦争で中止した流れと同じですが、どのみちバブル崩壊で博覧会どころじゃなかったでしょう。とはいえ都有地の造成費用は支払われている訳で、税金で負担されていることは指摘しておきます。

しかし東京都は諦めず石原知事時代の東京五輪招致で競技施設を湾岸に集め、1964年の国立競技場その他の既存施設と連携したコンパクト五輪を構想するも選に漏れ、その後紆余曲折の果てに2020年東京五輪として招致されたものの、再利用される筈の国立競技場が建て替えられ*14、震災復興もそっちのけで容積率変更の既成事実づくりで強行され*15、コロナ禍で無観客になったり、事後的に五輪を巡る不正が明らかになったりしながら、新国立競技場を露払いにして神宮外苑の再開発が進んでいるのは周知のとおりです*16。つまり未利用の都有地を放置して風致地区指定の民有地の再開発を進める都の異常な開発行政です。そして神宮外苑の地権者には三井不動産や神社本庁が名を連ね、隣接地の伊藤忠本社ビル建て替えに伴う空中権売買まで行われております。都が造成費用を負担した臨海副都心は放置され、民間の大口地権者の利益誘導を図った訳です。しかも神宮外苑は都心の貴重な森で、都市部のヒートアイランド現象による気温上昇を抑える役割もあるのにお構いなし。熱中症で倒れる人が増えても知らん顔ってことです*17。こうした開発行政に信任を与えたことになる訳で、森喜朗元総理と萩生田光一議員が差配したことも明らかですが*18、元々流動人口が多く選挙への関心が低い東京都議選ではこうなってしまう訳です。ある意味TIXY選挙がやり易いと言えますが、参院選ではどうなるでしょうか。

それでも流石に臨海副都心の都有地は何とかしたいから8号北上線(豊住線)*19や臨海地下鉄*20でアクセスに弱点のある臨海副都心のアクセス改善を狙っているんでしょうけど、神宮外苑に留まらずそこここで再開発ガシガシ進めている中で意味あんのかってのが正直なところです。加えて再開発を阻むもろもろの要素も顕在化しております。この点は別項にて取り上げたいと思います。

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Sunday, June 29, 2025

宗教とアヘン

前エントリー*1のイラン・イスラエル紛争はアメリカのバンカーバスター攻撃後に停戦し、両当事国がともに勝利宣言し、トランプ大統領は戦争止めたぜとドヤ顔という謎展開です。19世紀の思想家カールマルクスの「ヘーゲル曰く「歴史は繰り返す」は正しいが「一度目は悲劇として、二度目は喜劇として」とつけ加えることを忘れた」という名言通り、笑っちゃう展開です。勿論命のやり取りとなる戦争を喜劇と評するのは何ですが、TACO*2で成果を示せない中での有権者アピールという承認欲求MAXぶりはらしいと言えばらしい。

マルクスはまた「宗教は大衆のアヘンだ」という名言も残しています。イギリスがインド産のアヘンを清朝時代の中国に持ち込んで茶葉や絹織物その他での輸入超過を是正しようとして以下略でアヘン戦争が起きてという一連から、香港が割譲され欧州列強の進出で租界だらけの事実上の植民地化を余儀なくされた中、広東省の客家出身の洪秀全を天王とする太平天国の乱*3が起きて内乱となりました。清朝は満族による征服王朝ながら科挙制度で確立した官僚制の支えがあり、洪秀全は漢族ながら科挙試験に挑戦するも合格を果たせない中で漢語訳の聖書に接して自らをキリストになぞらえて、太平天国という謀反集団を作り清朝と対峙して最終的には制圧されました。

宋代で確立したとされる科挙制度が、モンゴル人の征服王朝の元を経て漢族王朝の明から満族王朝の清へと継承された中で、科挙の官僚制度は漢族によって維持されたものです。しかし人口の多い漢族でも科挙試験を経て官僚になれるのは少数で、洪秀全も含めて満族支配を支える漢族エリートになり損なった落ちこぼれが多数存在していて、社会の中にストレスがたまる状況がありました。それ故にイギリスが持ち込んだアヘンがバカ売れして中毒者が社会不安を起こすに至り戦争になった訳で、アヘン戦争と太平天国の乱は同根と見做せますから「宗教は大衆のアヘンだ」というのは本質を突いた言葉と言えます。

そんな中で21世紀のアヘン戦争と言えるオピオイド系合成麻薬フェンタニルを巡る米中の摩擦がまさかの日本へ飛び火しました*4。名古屋の華僑組織を隠れ蓑に中国から名古屋経由でメキシコからアメリカへという密輸ルートが形成されていました*5。驚きの展開ですが、アメリカで問題視されているフェンタニルの乱用は、確かに中毒死が多数出て社会問題化してますが、日本で流通している気配はありません。リスクを取ってコストをかけて密輸しても末端価格が高いアメリカだからペイするってことですね。そしてSNSで拡散されるフェンタニル中毒者は見た範囲では白人ばかりで有色人種は見当たらないのはお察しです。パワーエリートになれない白人の有色人種に対する心理的優越性に関わらず、大学もIT企業経営陣もアジア系が存在感を増す中で、閉そく感が違法ドラッグの需要を創り出しているという清朝時代の漢族と酷似した状況を見ることができます。加えてキリスト教福音派の支持を受けるトランプ大統領というところにも太平天国との相似相が見えます。やはり歴史は繰り返すし二度目は喜劇だわ。

やや脱線しますが、凡そ1,000年続いた科挙制度は辛亥革命で終わりますが、その結果軍閥割拠で内政が混乱した中華民国が毛沢東の共産軍に敗れて中華人民共和国が成立し、国家運営は共産党の指導の下でと憲法に明記される状況は、共産党がレーニン主義の中央計画経済と科挙制度が折衷した存在と見れば、ソビエト崩壊後も存続し改革開放で西側諸国と共存できていることに不思議はないことになります。中国史のタイムスケールだと共産党は1,000年続くのか?

ただこの傾向はBrexitや欧州の移民排斥でも見られますし、日本でもアジア系外国人に対する嫌悪感情として顕在化しており、例えば都議選で3議席を得た参政党の日本ファーストなど気になる動きです。火照るカリフォルニアの迷宮*6に日本も入りかけているかも。博士課程学生の支援制度を日本人限定にするという文部科学省*7ですが、そもそも日本人だけじゃ人数が集まらないから留学生が穴埋めしている状況で、国籍要件で生活費支給を制限すれば留学生が来なくなるだけで、研究現場の人手不足を助長するだけです。ただでさえ大学に支給する科研費を削り、国公立大の独立行政法人化で自分で稼げと突き放し、大学の授業料は上がる一方なのに院に進んで研究職を目指すと就職に不利になるという状況で日本の研究開発力は衰退しています。

例えばJR東日本つばさ用E8系のトラブル*8ですが、報道では該当の半導体が汎用品か専用品かわかりませんが、技術革新の早い半導体は結果的に多品種少量生産になりやすく、また先端品ほど歩留まりが悪く採算が取りにくい一方、汎用品は価格競争で高く売れないということもあって、コロナ禍のサプライチェーン攪乱で半導体の調達がネックで工場が止まる事態が起きたように、現代の工業製品のチョークポイントでもあります。そして半導体はサプライチェーンが川上から川下まで長く、どこで不具合が出たかを特定するのも難しいのですが、その長いサプライチェーンが国内で閉じていないことがまた原因究明を困難にします。そうなったのは日本の半導体メーカーの戦略的投資の失敗からきているのですが、大学の研究環境の劣化が更に問題を複雑にします。こんなことじゃ日本舐められるぞ!

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«TACOでも烏ー賊の軟体ポチ