自己紹介文
TTY時代のフォーラムに馴染んでおりましたが、さすがにブロードバンド時代になり、いつまでも「DOSが恋しい」とばかり言っていられませんので、遅ればせながらのブログデビューを果たすことにいたしました。
不慣れなため、ボチボチの慣らし運転モードで参ります。よろしくお願いいたします。
興味のあること
鉄道,バス,ドライブ
石川 幹子: 緑地と文化──社会的共通資本としての杜 (岩波新書 新赤版 2060)
2002年の都市再生特別措置法を根拠に、通常ならば審議会に諮って住民に縦覧するという都市計画の手順を踏むことなく決定された神宮外苑 の再開発事業の問題点を、社会的居鬱資本としての緑地という観点から切り出します。神宮内外苑の緑地の歴史過程を紐解き、内外の公園緑地との比較を交えて立体的に論じます。市民に開かれた公園が企業の営利活動の地に変換されることの問題点は、神宮外苑に留まらず、日比谷公園や築地市場跡地の再開発ともリンクし留まることを知りません。この流れを止めるには市民の関与による行政の転換が必要です。
(★★★★★)
西成 活裕: 渋滞学 (新潮選書)
今さらですが、渋滞学を興した西成活裕教授の名著です。原因御よくわからない自然渋滞が発生するメカニズムを解明して回避策として車間距離を取ることでバッファとすることを提唱しています。加えて応用範囲が広く、ビジネスへの応用も進んでいます。他にも著書多数ですが、これは最低読むべきでしょう。
(★★★★★)
春名 幹男: 世界を変えたスパイたち ソ連崩壊とプーチン報復の真相 (朝日新書)
まるでスパイ小説を読んだような読後感ですが、国際ジャーナリストによる公開情報と裏付け取材をまとめたノンフィクション。米レーガン政権の裏工作によるソビエト崩壊を起点に様々なニュースの点が線に繋がる驚きです。プーチンによるソビエト崩壊の報復が周到に進められ、2014年のクリミア侵攻、ロシアの選挙介入による2016年の米大統領選のトランプ勝利、2020年のバイデン勝利がロシアをウクライナ侵攻に向かわせ、更に2024年のトランプ再選も関わります。恐ろしい今の時代を浮き彫りにします。
(★★★★★)
野口 悠紀雄: 終末格差 健康寿命と資産運用の残酷な事実 (角川新書)
終末格差が広がっています。老後資金問題で炎上したことがありますが、正確な情報に基づかない議論が横行しています。制度が複雑なのは社会保障関連にありがちですが共通理解がなければ議論も深まりません。そうした意味から手軽に読める親書でまとめられており、真の課題は何なのかがわかります。加えて医療技術とデジタル技術の進化で人生100年時代がリアルに出現している中で、世代間対立ではない解決策の模索は欠かせません。とはいえNISAに代表される投資が解決策とは言えず、寧ろ大家族から核家族への変化に対応して金融所得課税を強化すべきとした点は目から鱗です。
(★★★★★)
侍留 啓介: 働かないおじさんは資本主義を生き延びる術(すべ)を知っている (光文社新書)
「働かないおじさん」にポジティブな評価をする稀有な著書。しかも著者は三菱商事、マッキンゼーから始まってシカゴ大経営大学院MBAほかの学位を取得するというピカピカの経歴ですが、だからなのか資本主義のエグイ現実を知っていて様々な矛盾に晒されていることを指摘します。しかしポスト資本主義のネクストソサエティは未だその萌芽すら見えない中で、限られた個人の人生を幸せに生きる術を示します。その究極が大企業にしがみつく「働かないおじさん」という面白い展開です。詳しくは読んで感じてください。
(★★★★★)
河野龍太郎: 日本経済の死角 ――収奪的システムを解き明かす (ちくま新書)
2024年ノーベル経済学賞受賞のダロン・アセモグル、ジェームズ・A・ロビンソン、サイモン・ジョンソンの研究をヒントに、民間エコノミストの著者が、日本の長期停滞を説明できると、新書で一般向けに著したもの。日本の賃金が上がらないのは生産性が低いから問い説明されることが多いですが、実は日本の生産性は伸びているのに賃金が上がらない現実たあります。欧米にも似た傾向はありますが、日本は顕著です。故にDXで生産性を上げろという助言がされますが、実はDXによる生産性向上はさほどではなく、実際欧米でも経済成長率は新興国に劣後しています。その僅かな成長の果実もフリードマン以来の新自由主義で株主に還元され、労働分配率は低下しています。イノベーションが労働の代替に留まる収奪的なものではダークサイドに落ちて労働分配率を下げてしまうのが原因で、寸自由主義で社会の包摂性が低下したことによるということです。つまり単純にDX進めれば豊かになれる訳ではなく、社会の在り方から変えないと事態は変わりません。本書は日本を対象としてますが、この視点から米トランプ政権の収奪的政策が米国民を不幸にする構図も見えます。
(★★★★★)
齊藤勝久: 占領期日本 三つの闇 検閲・公職追放・疑獄 (幻冬舎新書)
占領期日本の三つの闇としての検閲・公職追放・疑獄に焦点を当てた調査報道の書。検閲というと現代ロシアや中国の専売特許のように思われますが、自由の国アメリカの占領下の日本の話。分割統治のドイツと異なりアメリカ1国の占領政策として、情報収集を目的としながら、反撃を恐れアメリカに好意的な世論を形成するための検閲です。故に書籍や新聞などの印刷物に留まらず、ラジオ報道のニュース現行まで事前チェックして了解を得た上で放送されるという異常さですが、1949年10月31日に突然終わります。検閲が国際的に批判を浴びたことで米本国の方針が変わった結果ですが、同時に検閲で集めた資料は全て持ち去られ、国内に痕跡を残さなかったので一般には知られていません。公職追放は多数の政治家や官僚が対象になりましたが、リベラル派の石橋湛山のようにGHQにも物言う態度で引っかかった例もあります。それが冷戦で日本を反響の拠点にすべくアメリカ本国の方針変更でA級戦犯を含む公職復帰と再軍備という逆コースを辿ります。疑獄はやや趣を異にしますが、戦後史に欠かせないピースですし、占領期のGHQも絡んでいたようです。トランプ政権のやりたい放題を見るにつけ、寧ろアメリカが本音を隠さなくなったとも言えます。日本は果たして無理難題をかわせるでしょうか?
(★★★★★)
ダロン・アセモグル、ジェイムズ・A・ロビンソン: 国家はなぜ衰退するのか 上下2冊 ハヤカワ
古代ローマの興亡から現代に至るまで、成長する国と衰退する国があるが、それを制度の違いから説明する著作。とはいえ歴史書ではなく数理経済学的な裏付けから説明されます。西欧の旧植民地の独立後の成長の不均衡に着目し、それをもたらした制度の違いを指摘します。制度が包括的(inclusive)か収奪的かの違いで、長い年月での変化がもたらしたもの。民主対独裁、自由対権威といった価値観の違いによる二項対立ではなくもっと普遍的な問題として切りだしています。著者たちの研究テーマは格差と貧困の原因を探るもので、経済の観点からの研究ということで今年のノーベル経済学賞を受賞しています。本書には書かれていませんが、30年以上の経済停滞が続く日本はちょっとヤバい。 (★★★★★)
宇都宮 浄人, 柴山 多佳児: 持続可能な交通まちづくり ――欧州の実践に学ぶ (ちくま新書 1824)
EUでは政策としてSUMPという交通政策が策定され、持続可能な都市交通政策として推進されてます。鉄道の混雑緩和や道路の渋滞緩和といった需要対策ではなく、ヴィジョンに基づいた最終目標を目指すバックキャスティング・アプローチというコンセプトで進められます。本書ではオーストリア・フォアアールベルク州の事例を取り上げて説明されてますが、最終目標から逆算して事業を計画し進めるという意味で、民間事業者主体の日本の交通政策とは全く異なります。日本では事業者の黒字赤字ばかり注目され、また公共事業として取り組む場合も費用便益分析でB/C比が注目されたりしてますが、地域の未来をどうつくるかという視点は乏しく、持続可能性も今ある公共交通をどう維持するかという議論に終始しがちです。そういう問題ではないということがわかります。
(★★★★★)
枝久保 達也: JR東日本 脱・鉄道の成長戦略 (KAWADE夢新書 S 454)
鉄道ジャーナリストの著者初のビジネス書。JR東日本の成長戦略を解説しています。とはいえ巨大企業故に全てを新書1冊では語りつくすのは無理ですが、東京メトロ広報出身故に企業広報から多くの情報を引き出して問題点や課題にも触れています。また鉄道史研究家として著作を重ねたこともあり、分割民営化後からの流れを追っており、著者ならではの視点が生きています。 (★★★★★)