カラータイマー地価地価
TACOパラダイムの楽観が変わりそうです。TATA(Trump Is Always Trics Again=トランプはいつも再びやってみる)へシフトしたと一部で謂われております。トランプ大統領が「1つの大きく美しい法案(OBBB)」*1と呼ぶ減税法案が下院で可決して成立しました。元々1期目の減税の期限が今年中に切れることから恒久化するための法案ですが、伝統的に小さな政府を志向する共和党内にも反対論がある中で強引に成立にこぎ着けました。しかし元々の減税措置の恒久化ですから、これ自体に財政による景気浮揚効果はなく、バイデン時代にインフラ投資法やインフレ対策法で決まった支出を削り、更に社会保障を減額して尚財源が足りず、結局関税収入を当てにせざるを得ない状況です。故に9日期限の相互関税の上乗せ免除も各国への書簡で上乗せされ8/1から適用ということで3週間ほどの交渉期間はあるものの、関税交渉そのものが意味を失いつつあります。それに伴う影響は多岐に亘りますが、日本もそろそろ覚悟決めて現実を受け入れるしかなさそうです*2。それで米インフレが進んでTACOが復活する可能性もあります。
はっきり言えるのは関税の影響見極めの必要から米FRBの利下げが難しくなった一方、日銀の利上げも難しくなりますが、日米共にインフレが進んで金利よりもインフレ率の差が為替を動かす局面になります。それによる内外価格差の変動が色々なところに現れることになります。今のところ方向感はわかりませんが、おそらく米インフレ率の上昇で為替はやや円高に振れるものの、ユーロ他の通貨に対しては弱含みで、特に原油価格の上昇緩和効果は限定的でインフレは続くと見ています。
そうすると不都合な真実が浮かび上がりますが、1つは株価です。かつて株式持ち合いと言われた政策保有株を市場に出さずに金庫株として保有し、また内部留保の積み上げでアクティビストに狙われ自社株買いで株主還元した結果、金庫株は増える一方で実体としての流動株は減っています。つまり現在の日本株の相場は当てになりません。しかも株価はインフレをヘッジする性格がありますから、インフレ状況での株価足踏みは投資家が満足する稼ぐ力を強化する投資ができていないことの反映です*3。資産価格は流動性が高いほど、つまり欲しい人が多いから値上がりする訳で、流動性を制限している日本株にあまり期待しない方が良さそうです。
一方で地価は爆上がりしていますが、既にバブルの水準と疑われている一方、二極化も進んでおります。路線価が東京独り勝ち状態です*4。標準宅地で東京都が8.1%上昇で全国平均2.7%の3倍の上昇率です。地価の話題では熊本県筑陽町や北海道千歳市が半導体関連で話題になることが多いですが、東京一極集中が鮮明です。公示地価の分析でも同様の結果が出ています*5。それに留まらず駅近の優良物件と駅から離れた所謂負動産の二極化もあり、超富裕層向け物件と条件の悪い安値物件は多数あるのに中間層向けの値ごろ物件は品薄です。狭いエリアでの取り合い故に地価を押し上げていることも鮮明です*6。その結果都区内では地価上昇で担保価値が上がるから大規模開発の誘因になる一方、資材価格上昇と人手不足で建設コストも上昇するため、再開発も年々困難になります。例えば中野サンプラザの再開発断念です*7。
そして不動産の投資財化が更に矛盾をもたらします*8。株のところでも触れましたが、資産価格は流動性が高いほど値上がりする性格があります。それでも不動産の流動性は株に比べればかなり低い訳ですが、特定目的会社(SPC)と呼ばれるペーパーカンパニーで小口証券化して投資家に販売した資金で物件を取得し、テナント料の税引き後利益のほとんどを配当として証券保有者に支払う形の不動産流動化事業、所謂不動産投資信託(REIT)で、多くは上場投資信託(J-REIT)として公開市場で売買されますし、大口機関投資家同士の相対取引となる私募REITも通常の不動産よりも流動性は高い訳で、この流動性の高さが価格を押し上げている側面があります。投資商品で円安もあり租税の穴*9も手伝って海外マネーが入りやすくなってますからますます大都市の地価を押し上げます。加えて海外富裕層によるマンション投資(転売及び賃貸)というルートの値上がりもあります。逆に過疎地の未利用地などはそもそも取引が低調で何年も取引がないケースも多数あり、市場からクラウディングアウトされていることも指摘できます。昨今外国人の山林の土地取得が話題になり安全保障上の脅威とする議論もありますが、あくまでもレアケースですし、寧ろ昔からある山林詐欺商法に引っかかったと見る方が実態に近いと考えられます。
気になるのがJR東日本が今月発表した長期グループビジョンですが、その中で不動産事業の強化が謳われています*10。高輪ゲートウェイシティが街開きをしてデベロッパーデビューした訳ですが、上記のように駅近物件という意味で優位にある鉄道事業者としてデベロッパー事業は私鉄でも実績がありますが、後発参入故に厳しい状況を覚悟する必要があります。事業のスタイルは西武鉄道のプリンスホテル等の不動産流動化、つまりREITによる投資ファンド転売とリースバックで開発後の資金回収と運営事業の収益化が狙いで、東急不動産との提携で体制を整えおり、特に渋谷の再開発が進んでいますが、一方で京王電鉄との共同事業の新宿駅西南口エリアの再開発は施工業者が決まらず難航しています*11。
不動産デベロッパーとしてのJR東日本は順風満帆とはいかないようです。
| Permalink | 0
| Comments (0)
Recent Comments