城下町考、岐阜の場合
3月限りで廃止が決まった岐阜地区の名鉄600v区間ですが、結局代替交通機関も決まらぬまま、最後の日へ向けてのカウントダウンが続きます。
細かい内容はよそ者の私には知る由もありませんが、地元住民も自治体も「名鉄だから大丈夫」という油断があったような印象はあります。これは岐阜地区だけの問題ではないんですが、いわゆるフリーライダー問題なんですが、公共交通の廃止のときに、必ず言われる「公共性」について、なぜか私企業である交通事業者(今回は名鉄)に対して求められてしまうんですが、変な話です。
公共交通機関といっても、国鉄解体後の日本では、私有私営が一応の原則ですから、公共交通インフラの維持は、利用者の支払う運賃によってなされるわけで、運賃で維持費がまかなえないならば、それは社会的に存在が否定されたものとみなせるという考え方が基本なわけで、「公共性」も採算割れによって否定されるはずです。
しかしそれでは実際に維持可能な公共交通インフラは激減するわけです。実際名鉄岐阜地区についても、赤字基調は今に始まった話ではなく、他線の黒字で赤字を穴埋めするいわゆる内部補助によって存続していたのが実態です。つまり単体としては既に存続不可能だったものを、名鉄の収益路線である犬山線・常滑線・津島線などの乗客の運賃収入で支えていたわけで、本来支えるべき岐阜の市民や岐阜市などの関連自治体は、負担を免れて「ただ乗り」していたというのがフリーライダー論の論旨です。
ただ実際は当事者にそのような意識は乏しく、議論は迷走を余儀なくされるわけです。存続するにせよ廃止するにせよ、今まで自分たちの懐を痛めずに供給されていた交通サービスをどうするかを、いきなりつきつけられて混乱したわけですね。まぁそれでも利用者ならば存続のための多少の負担増は受け入れる余地はあるでしょうけど、市街地の商店主たちにとっては、大駐車場を備えた郊外店に客を取られて電車のせいとばかりに八つ当たりの対象でしょうから、廃止は当然、負担なんかとんでもない話なんでしょう。
岐阜市は過去に地方博の観客輸送のシャトルバス運行に支障するという理由で市内本線の徹明町~長良北町間を廃止に追い込んだ前科があります。しかしその結果柳ヶ瀬あたりににぎわいが戻ったという話は聞きません。自治体の判断に商店主側に与するバイアスの存在が推定されます。
そもそも城下町である岐阜の市街地をモータリゼーションに適合させ、マイカーを誘致しようとすれば、現在の町並みを全て更地にして作り直す必要がありますが、そんなことすれば当の商店主たちが真っ先に反対に回るでしょう。
城下町の集積は近世の武家政治の結果で、徒歩交通を前提とした狭い街路、軍事上の要請による枡形と呼ばれるクランク状の道路つけ、密集した低層家屋など、およそ自動車交通を寄せ付けない条件てんこ盛りです。基本的には非生産部門である武士による統治の場所ということで、政治的に生成された集積で、いわゆる法人税など商工業者への税負担は存在しませんでしたから、皮肉ですが近代以上に商業資本主義が発展した時代にできた集積で、だからこそ地域の中核都市として明治以降の近代化の時代に、地域をリードできたわけですし、中央政府にとっても、城下町を押さえれば地域を掌握できるわけで、猥雑で不便な現状の街並みこそ、歴史的に生成された遺産なんですね。そこで商売するのに郊外店と力の勝負を試みてもうまくいくはずがありません。
そういう意味でこの歴史的集積を前提としたまちづくりに知恵を出すのが重要なんです。歴史的街並みの中の個性的な商店にお客さんに電車で来店してもらうという発想がなぜ出てこないのか不思議です。
といいつつ私の地元の鎌倉市でも、正月三が日の初詣客対応のための市内交通規制で、鎌倉駅周辺からマイカーを閉め出してますが、おかげでバスが時間通り走ってくれるので、1年中正月だとありがたい^_^;などとばちあたりなこと考えちゃいます。でも商工会は交通規制の時期の拡大に頑迷に反対を続けております。マイカーを規制すると売上が下がるんだそうな。しかしほとんどの商店は正月三が日に年間最大売上を記録するんで、何か矛盾してますが^_^;。
それでも鎌倉は都市規模が小さく、いざとなれば徒歩で十分観光できますし、長谷大仏も江ノ電とバスでカバーできますから、むしろマイカーを規制したほうがうまく行くと思うんですが。
岐阜の場合、より都市規模は大きくなりますが、中心市街地へのアクセスとして電車を活用できれば、魅力のあるまちづくりが可能だと思います。忠節や日野橋あたりに駐車場を確保して電車に乗り換えてもらう、いわゆるパークアンドライドなどで、とかく画一的になりがちな郊外店に個性で対抗できる目が出てきます。だからこそ仏コネックス社が引き受けたいと名乗りを上げる場面も出たわけです。でも結局空振りでした。
思うにコネックス社が「市内電車と市内バスの独占営業権」を要求したあたり、欧州との制度の違いを痛感させられます。彼の地では公共交通サービスは電気・ガス・水道と同等の公益サービスであって、自然独占となる業種なので、事業者への事業免許は、同時に独占の容認を意味するということです。独占事業であるから、公共部門の監督干渉が肯定され、公共部門は事業の公益性に鑑みて補助金など必要な支援を行う一方、適切な合理化努力がなされているか監査していくという形で、自治体と事業者が契約して事業を行うという形になるんでしょう。国鉄改革の忘れ物みたいない日本の免許制度とはかなり異なった考え方です。
で、結局日本側ではコネックス社の申し出を「名鉄にこそその権利がある」などと的外れな対応でつぶしてしまったわけです。だからといって廃止後の受け皿となる第三セクターの設立などの具体策は一切なしで、結局時間切れと相成るわけですが、世界標準となりつつあるLRTを外資の専業会社にやらせてみて、制度上の不備も含めて問題点を洗い出すチャンスを逸してしまったわけです。
歴史に裏付けられた街並みは大事にしないし世界標準にも背を向けて、この国はいったい何をめざすんでしょうか。
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Comments
こんばんは。先日、名鉄のインターネット通販で岐阜600V線区廃止の記念乗車券等を購入し、昨日届きました。私自身、廃止前に岐阜を訪れようと思っています。
さて、今回の岐阜市内線他名鉄岐阜600V線区廃止は、これら線区の末端区間の谷汲線などが廃止となってからわずか3年半で600V線区全区間に廃止が及んでしまったとは、いかにこの線区の利用が減ったことを物語っていますが、しかし単純に利用客が減ったとは思えない点、特に名鉄が平成になり、2000年にも低床型の新型車を導入していることから、名鉄としての企業としての投資は行っていたかと思うのですが、やはり岐阜市といった行政がこれになんら支援を行わなかった、というのが今回の廃止の最大の要因であると思います。
安全島のない電停・軌道敷内に車の通行が恒常化していたなど本来「気軽な市民の足」であった路面電車が非常に使いにくいものになっていた、というのが真実なのではないかと思います。
また、行政も路面電車の存廃以前に、岐阜の街をどのようにするのかと言う視点もおっしゃるとおりでなかったと思います。とある記事では、岐阜の中心部はすでに空洞化が進み、周辺のロードサイトの大型店が繁盛しているという状況で、岐阜の街自体が名古屋の衛星都市化しているという指摘もありました。
今回の廃止は、そういう意味で残念というほかないと思っています。
さて、岐阜の路面電車に対する論議について、私のブログよりリンクしておりますSimplexさんのブログ「Simplex's Memo」に平成11年頃からの議会の議論などを通して考察している記事があります。現在6回に分けてアップされていて、これからも執筆していくと思われます。
「Simplex's Memo」2004年10月19日付け記事
「岐阜市は「路面電車」をどう議論してきたか?(その1)」について、こちらにリンクを貼ります。
http://blog.goo.ne.jp/sti_6217/e/9fa491d65720b594ed8c845f80bbdb00
このブログは、岐阜の路面電車の今日に至る経緯について数回にわたって言及していますので、ご一読をお勧めいたします。
Posted by: Kaz-T | Sunday, February 13, 2005 09:58 PM
コメントありがとうございます。Simplexさんのブログも拝見しておりますが、あえて引いた視線で記事にまとめてみました。って、Kaz-Tさんのブログをポータル代わりに使っちゃってますが、鉄道関連のリンクが豊富なんで助かります^_^;。
岐阜の問題の根深さはひとことで語るほど浅くないと思いますので、いろいろな視点からの考察が、岐阜の問題を他山の石として活かす道ではないかと愚考いたします。
Posted by: 走ルンです | Sunday, February 13, 2005 11:12 PM