わたらせ渓谷鐵道年間パスに見る地方私鉄の生き残り戦略
前の記事で速報しましたわてつの年間パス発行検討の話題ですが、地方私鉄の生き残り策として見るべきものがありますので、もう少し論評したいと思います。
テクニカルな問題なんですが、国土交通省に報告される輸送実績の公式統計で、定期券は名義人が指定区間を平休日に関わらす毎日1往復するものとして処理されます。いわゆる輸送密度などの統計指標の基となる数値ですが、定期券部分は実数ではなくみなしで処理されるわけです。その結果定期券比率の高い路線は、実数以上に利用されているような数値の出現の仕方になるわけです。
国鉄の地方交通線切り離しのときもそうでしたが、通学定期券利用者が多い線区で「最混雑時片道1,000人/時以上の利用がある」などの理由で除外されたりしてますので、割引が多くて儲からない定期客が、実は“公共性”を主張する根拠として機能するということです。仮に存続のために公的助成が必要として、それを主張しやすくすることはできるわけです。
果たしてわてつのケースでこういった考え方をしたのかどうかは定かではありませんが、少なくともルール上そのように扱われるのであれば、裏技的ではありますが使わない手はありません。ただし現実は厳しく、既に度重なる運賃値上げと定期券割引率の引き上げの結果、定期券自体が手軽に買える値段ではなくなってしまった現実が横たわります。その結果マイカーが使える通勤利用者の一層の離反を招き、車の運転ができない高校生以下の通学利用者も少子化の影響で年々減少していくことによって、輸送実績の数値は年を追って悪化に歯止めがかからないことになってしまったわけです。こうなると公的助成を求めることも難しくなってしまいます。
となると、後に残された手段は、いかなる手を使ってでもとにかく乗ってもらうことしかないわけで、定期運賃が高くて手が出ないならば、「おつきあい」で買える水準までディスカウントしてでも、乗ってもらうための動機付けとすることに活路を見出そうとするのも頷けます。さらにこの値段ならば沿線外のサポーター向けに売ることも可能でしょう。ネックはJR東日本のホリデーパスの域外なんでアクセスの出費がつらいですが^_^;。いずれJR東や東武鉄道とのタイアップも考えてほしいところです^_^;。
かつて大井川鉄道の社長を務められた白井明氏が「うち(大井川鉄道)には1億2千万人の富裕なカスタマーがいます」と発言されたことがありますが、名言です。ふらっと訪れて出札窓口で入場券を求める鉄ちゃんに対して珍しいキップを熱心にセールスする窓口氏という光景をよく見かけます。未使用キップもみなしで輸送実績に加算されることを知った上での対応でしょう。またトラストトレインの受け皿を引き受けているのも、トラストトレインを支えるボランティアが繰り返し訪ねてくれることを見込んでのことといえます。大井川鉄道ではSL復活運転をはじめ70年代から取り組んでいた営業政策ですが、三セクローカル私鉄でもやっと意識が追いついてきたというべきでしょうか。
ローカル私鉄の生き残り策としては、沿線住民の利用を促すことも大事ですし沿線外からの訪問者も大事です。わてつの場合、日本の産業公害の原点ともいえる足尾を沿線に抱えており、山林の復活のための地道なボランティア活動が行われ、徐々にではありますが成果が出始めているところでもあります。この辺とリンクしてわてつを売り込むのも悪くありません。環境問題の生きた教材として愛・地球博よりもずっと意義深いものがあります。この辺を踏まえて地域興しとして考えてみても面白いと思います。健闘を祈ります。
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