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Monday, April 18, 2005

郵政民営化の陰の悪だくみ、北海道新幹線着工

郵政民営化を巡る動きがヤマを迎えようとしておりますが、その陰で頭の痛いニュースです。
 Simplex's Memoさんの記事によりますと、5/21着工の線で話が進んでいるという日本経済新聞の地方版の記事をリンクでたどることができます。
 なぜ頭の痛いニュースかと申しますと、整備新幹線新規着工、三位一体も何のその新幹線新宿へ?という記事の中で触れた根元受益の問題があるからです。ざっと申し上げますと、整備新幹線建設財源としてJRによる既存新幹線買い取り費用に上乗せされた約2兆円の鉄道整備基金の枯渇によって、財源不足から着工は難しいとされていた今回の新規着工区間について、一部とはいえ着工が認められたということは、今回の着工区間の根元側を保有するJR東日本の受益分徴収が決まったということにほかならないからです。これで日本も自由主義とオサラバ、統制経済まっしぐらというわけですね。昔からだというツッコミはあり得ますが^_^;。
 元々整備新幹線問題というのは、イコール財源問題だったわけですが、運輸省予備費だけでは足りず、JR本州3社による新幹線買い取り代金に約2兆円の上乗せをして鉄道整備基金とし、そこからの出資と運輸省予備費の支出合計を国の負担分と見なし、同額を地方に負担させた上で、不足分を開業後JRが受ける受益分の8割相当の貸付料で償還していくというものだったわけですが、この仕組み自体に誤魔化しがありまして、JRは新幹線建設に同意する条件として並行在来線のJRからの経営の切り離しを行うこととし、それによって発生する受益も開業後受益の一部と見なすことになっています。これはJRから見れば在来線の特急列車など都市間輸送の部分の機能を公費を利用して劇的に強化する一方で、儲からないローカル輸送からの合法的な撤退を意味します。その結果横軽間のように廃止に追い込まれたり、しなの鉄道のように旅客の減少に歯止めがかからず経営難になったりということになるわけです。新幹線建設で高負担を強いられる地方にとっては、在来線維持という新たな負担の始まりでもあるわけです。
 この辺の矛盾が吹き出したのが、東北新幹線延伸部分における並行在来線貨物問題でして、しなの鉄道の場合よりも明らかに沿線人口の希薄な地域で、ローカル輸送だけならば複線電化の幹線規格の線路は必要ないんですが、対北海道の鉄道貨物幹線という性格があるために、現行の高規格の線路を残す必用があるわけですが、そうすると今度はJR貨物が線路保有会社であるJR旅客会社に支払っていた割安な線路使用料が問題となります。旅客会社の線路容量の余剰分だからこそ割安で借りられたものが、専ら貨物のために高規格な線路を必用とするならば、その線路を維持する費用を在来線引き受けの第三セクターが請求するのは当然のこととなります。かくして地元とJR貨物の並行在来線を巡る対立は平行線を辿ることとなります。
 結局はその差額をJR東日本が負担する新幹線貸付料に上乗せして、それを原資としてJR貨物へ差額補償することで決着しましたが、今後北陸や北海道で同じ問題がより深刻な形で出現することを考えますと、いささかどろなわな感は拭えません。
 さて、ここまでは整備新幹線問題の復習だったわけですが、今回の新規着工区間については、大きな問題があります。国の負担分のほとんどを占める鉄道整備基金の枯渇問題です。それで不足分を埋めるべく「根元受益」なる珍妙なことばが出てきて、新規着工区間に直接関与しないJR東日本に負担させる議論になったわけです。
 北海道新幹線では並行在来線問題も東北新幹線延伸部分以上に複雑で、本州側の津軽線はJR東日本の所属線区ですから、経営を切り離しても事業者であるJR北海道に受益が発生しないため、建設費の償還に回せません。
 しからば北海道側は? といえば、江差線はJR北海道としては経営切り離しをしたいでしょうけど、江差線を含む津軽海峡線が本州対北海道という貨物輸送の有望幹線であり、通過旅客数を通過貨物トン数の数字が上回って久しい現実があり、切るに切れない現実があります。仮に東北新幹線延伸部と同様にJR北海道の新幹線貸付料に上乗せしてJR貨物に補償して、第三セクターを受け皿にして維持するにしても、今度は木古内以西の区間の扱いが厄介になります。この区間は元々廃止された松前線より輸送密度が低いにもかかわらず、松前線の合流する木古内以東の輸送密度に救われた経緯がありますが、JRから切り離されれば、経営上の重荷となって切り捨てられる可能性が高いわけです。正しく「新幹線はできたけど」の嘆き節となりそうです。
 来月着工とまで具体化した以上、この辺の問題はクリアになっているはずですが、お得意の「先送り」の可能性も否定できません。なにしろ小泉官邸の意向として、実を捨ててでも「郵政民営化」の名を取りたいようですから、見返りとして「何でもあり」になりつつあります。「改革の本丸」のはずの郵政民営化すら、反対派の取り込みのために骨抜きになりつつありますが、どうも小泉首相は「歴史に名を残す」ことしか頭にないようです。
 元々「小泉改革とは、郵貯を民営化して銀行を国有化すること」という小咄が囁かれておりましたが^_^;、ここまで来ると悪い冗談では済まされない愚劣な話になります。

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Comments

初めまして。
当方の記事へのトラックバック、ありがとうございました。
また、記事を大変興味深く拝見させていただきました。
国会が郵政民営化一色の中、そのドサクサまぎれに今回の話が動いていたとは思いもよりませんでした。
新幹線開業に伴い経営分離される在来線の経営問題ですが、この辺りは先送りにして取り敢えず着工して既成事実を作っておく、というように思えてならないのですが・・・。

今後もよろしくお願いします。

Posted by: Simplex | Monday, April 18, 2005 10:47 PM

コメント及びトラックバック感謝です。いささか反応が遅いとお叱りを受けるところかもしれませんが、ナナメ読みで見過ごしておりました^_^;。ま、日経でも地方版記事として全国配信しなかったように、決定的にメディアへの露出度が低いのは困ったもんです。
 今後ともよろしくお願いいたします。

Posted by: 走ルンです | Tuesday, April 19, 2005 12:07 AM

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国会が郵政民営化でアレコレ動いている内に、整備新幹線の話も水面下で動いていた。 新青森〜函館間を結ぶ北海道新幹線を5月21日に着工するという。 正直、北海道新幹線と接続する東北新幹線八戸・新青森間すら開業していない内にそんな話をされても・・・と思う。 「北海道新幹線、5月21日着工へ・自民党の小里氏が表明」 記事によると、北海道新幹線の開業予定時期を当初予定されていた2015年度から2年�... [Read More]

Tracked on Monday, April 18, 2005 10:31 PM

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