福知山線、ATS-P設置前に復活運転すべき理由
この論点はきちっと書いておいた方が良いと考えました。その前に哲学的前フリを。
今回の事故の痛ましさはいうまでもないことですし、大変心が痛みます。.GWだってのに心から楽しめない、そんな悶々とした日々を送っているのは誰しも同じでしょう。ただでさえ人の死は悲しいことですし、107名の尊い命が奪われたのですから、もやもやした気分が抜けないし、かといって事故がなかったフリをしても空しいだけです。
人の死は受け入れがたいけれど、生きていく以上、受けとめて前へ進むしかありません。人の死を受けとめたくなかったら、人が死ぬ前に自分が死ぬしかありません。ネット某巨大掲示板風に表現すれば逝ってよしって話です。生きていくことのつらさの多くは、人の死に立ち会うことといえます。
そもそもATS-Pとは何ものか、あまりにも無理解がはびこってますし、鉄ちゃんでさえ正確に理解している人が少ないことに驚きました。もちろん文系人間の私が技術的解説なんかできるなんておこがましい考えは持っておりませんが、それでも列車を安全に止める魔法の杖でないことはわかります。
ATS-PのPはプログラムの略で、さまざまなATSの中でもプログラムタイプと呼ばれるものです。さくっといえば先行列車の位置と自列車の速度から、安全な停止点を割り出し、そこまでに安全に停止できる停止パターンを生成してその範囲内を越えて列車が進もうとしたときに、自動的にブレーキをかけて速度を落とすという機能を持ちます。いわゆるパターン速照機能と呼ばれるものです。
元々国鉄形ATSには速度照査機能がなく、運転士に警報を出す機能とそれを無視したときに非常停止させて赤信号の冒進を防ぐ機能のみだったので、警報後確認ボタンを押してからの運転操作ミスには対応せず、事故が繰り返されてしまいました。それゆえ国鉄の後を追ってATS設置を求められた大手私鉄に対しては、速度照査機能付きのATS設置が指導され、各社各様の方法で行われたわけですが、結果的にATS設置で先行した国鉄は取り残されてしまったわけで、旧国鉄内部で速度照査機能付きATSの開発研究は続けられておりました。非常に高機能であり、かつ停止点へ向かってブレーキの込めと弛めを繰り返すのではなく込め一発で停止させる一段減速が可能なので、高密度運転向きのシステムではあります。
このように多機能ではあるんですが、それ故に高速走行中に地上子と車上子の間で大量の情報を確実にインタラクティブに伝送する必要があるわけで、設置にあたっては現場に合わせた高度なカスタマイズが必要になりますし、想定されるヒューマンエラーに対して意図したように作動するかどうかについての入念なテストを繰り返す必要があります。それ故に設置費用が高くつくし、カスタマイズやテストの作業量も膨大ですから、使えるようになるまでに時間がかかるわけです。それ故財政難の国鉄末期には、新線として開業した京葉線で導入されるにとどまり、他線への波及はJR移行後となります。ATS-Pは設置に時間も費用もかかるわけです。
だから福知山線の運転再開でATS-Pの設置を条件づけると、早くても6月末の復旧ということになるわけで、休みが明ければ学校や会社へ行かなきゃならない少なからぬ沿線住民の負担を長期化することになります。阪急宝塚線が並行してはおりますが、乗り換えのロスや利用が集中することによる駅や車内の混雑で体力も精神も消耗し、早起きを強いられる状況を、果たして亡くなった皆さんの御霊は喜ぶでしょうか? 仮にも大都市の通勤線区の話です。長期運休の地域経済への影響も深刻です。バスで代替可能な地方ローカル線とはわけがちがいます。安全面が心配ならば、当面普通のみの運転で仮復旧させる選択肢もあります。塚口を出発してフル加速しても、70km/hには達しませんから。
本当は国民のこの手の不安があっても、冷静な判断が求められるリーダーたる者が付和雷同するようでは資格なしと言わざるを得ません。力なきリーダーはただただ迷惑な存在と申し上げておきます。
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Comments
はじめまして。宝塚に住むものです。
私の言いたいこととほぼ同意見です。現場検証が終わった今、本当に運転再開を急ぐべきです。宝塚駅周辺はこのままではホームからの転落事故や、跨線橋上での将棋倒しなどがおきてもおかしくない状態です。幸い係員や警察官が交通整理をしていますので、何とか混乱は最小限ですが。池田や豊中の人は満員で電車に乗れないともききます。あの偉そうな国土交通大臣は通勤電車なんか乗ったことないんでしょう。みんな、惨事に遠慮して不便や不満を我慢していますが、このままではいつか爆発するでしょう。
Posted by: ときかな | Tuesday, May 10, 2005 10:05 PM
現地の方からの貴重なご意見ありがとうございます。
ネットの中では早い復旧を望む声が結構見られますが、マスメディアには登場しません。
確かに当事者は声を上げにくいでしょうから、こういうときこそメディアの報道の中で事実関係を広く伝えることの意味があるんで、それこそが「公共性」だと思うんですが、JR西日本たたきに明け暮れるばかりです。
Posted by: 走ルンです | Wednesday, May 11, 2005 09:17 AM