当ブログらしい地味な話題です。
ボウリング事件などでJR西日本パッシングが続きますが、それ自身はJR西日本の企業体質の問題点をあぶり出してはいますが、事故報道としては枝葉末節の事象がトップニュースになるなど、相変わらずメディアの事故報道は問題だらけです。重要なのは事故を繰り返さないことなんで、その視点からの問題点の掘り下げが重要です。
福知山線の運転再開ではATS-P設置が条件づけられたわけで、危険を放置した責任は、一義的にはJR西日本にあることは確かですが、その危険な運行ダイヤを是認して改善を指導しなかった国の責任をどう見るかというのは、重要な視点です。少なくとも制度面に事故を誘発する要素が隠れているならば、そこを直さないと事故が繰り返される危険性は去らないことになります。
運行ダイヤの届出その他の法律手続きですが、現在の制度は
運転速度及度数
の部分は認可制で、具体的な発着時刻などは事前届出とするもので、
・最高許容速度(線路構造、車両性能、曲線、こう配などの違うごとに届出)
・定期列車の発着時刻
・最高許容運行回数
の3点が事前届出の中身となります。今回の福知山線の2003年のダイヤ改正で中山寺駅への快速停車で1分程度の遅れの常態化が指摘されてますが、制度上は余裕時分を削っての停車駅増加対応そのものは法令違反ではないことになります。もちろん事前届出させる理由は、届出先の地方運輸局などによる事前チェックと改善指導が含意されていると見るべきでしょう。
ま、実際は国の官僚にそんなチェック機能があるわけがないのは、例えば三菱自動車のリコール隠し事件でも明らかなんで、実態としては事業者の自主性に委ねられているわけです。
自動列車停止装置(ATS)については
列車の運行状況及び線区の状況により列車の運転の安全に支障を及ぼすおそれのない場合
以外は必ず設けることになっておりますが、
方式に関する規定はなく、大手私鉄では設置時点で速度照査機能を持たせることが指導されたものの、JRに関しては国の事業であった旧国鉄時代に自主判断されていた流れできてますから旧式ATSしか設置されていなかったこと自体は、やはり法令違反ではないことになります。
この辺の評価は難しいところなんですが、確かに軽微なダイヤ修正程度で認可手続きが必要だとすると、事業者はきわめて煩雑な認可事務に忙殺されるわけで、行政事務の簡素化の流れから事前届出制へ移行したこと自体は、理に適ってはいるんです。で、法治国家である以上、
法令に抵触しない限りは原則自由でもあるわけで、この面から見れば、JR西日本だけが悪者にされるいわれはないとはいえます。
しかし鉄道事業は独占事業であるがゆえに、事業者の自主性に任せれば、利益最大化の原則に従って安全投資など直接収益を生まない投資を抑制して利益を得る誘因が働くことになり、重大事故などの社会的損失を被るおそれがあるために、当局による規制が正当化されるわけです。しかしその規制自体が不完全で抜け穴がある状況で、一方では規制緩和による競争促進政策が推進されているわけですから、制度上のあやうさは指摘しておく必要はあります。自由競争というのは、つまるところ
落ちこぼれをつくることになりますので、何らかのセーフティネットを用意しなければ現実的にはうまく機能しないわけです。
誤解のないように申し上げておきますが、JR西日本の問題というのは、優れて個別具体的な問題でして、経営の苦しさなどは三島会社や貨物会社の方が深刻なんですが、本州会社として他2社とほぼ同時期に株式上場や政府保有株放出による完全民営化を求められたことで、他2社との比較がなされるわけですから、経営基盤が弱く、実際株価水準で他社の5~7割の水準でしかないJR西日本にとっては、劣勢の挽回は宿命づけられていたわけで、ある意味制度のスキマにはまったともいえます。
この辺は国鉄改革のやり残し部分ととらえることが可能です。元々明治期の国有化原則のもとで自身の事業を自身の判断で実行できる事業体だった国鉄が、JRへ移行するときに民間並に免許制度の下で民間の鉄道会社と同列の存在となったものの、国有化原則そのものは制度的に明確に否定されたわけではなく、その残滓が例えば国鉄の事業を継承したJR各社や国に準ずると認定された地方公営交通に対する規制の緩さなどで部分的に残っているわけです。
そういう意味で参考になるのが3月に起きた土佐くろしお鉄道宿毛駅の事故で、事故の原因は運転士の突然の心神喪失状態により終端駅の車止めに激突した事故だったんですが、保安装置は270m手前のATS-SS(JR四国仕様の旧式ATS)地上子が設置されていて、作動はしたけど
非常制動がかかる5秒後までに百数十mの空走をすれば間に合うはずもないですし、EB装置(運転士が1分以上運転操作しなければ警報を鳴らし、5秒以内に対応しなければ非常ブレーキがかかる装置)も
運転士が心神喪失して65秒以上は空走するわけですから、役に立たなかったんですが、旧国鉄>地方公営交通に続く公的序列の第三セクター鉄道だった土佐くろしお鉄道ゆえに、規制の穴があった可能性を指摘しておきます。
ついでにいえばこの列車に乗務していた土佐くろしお鉄道の女性車掌は、終端駅に高速で接近する事態を漫然と見送り、車内電話での運転士への呼びかけや非常ブレーキをかけるなどの対応を取らなかったことが問題視されてますが、尼崎事故でも事故列車の車掌が防護無線の発報を行わなかったなどの点と何と似ていることかと思います。宿毛の事故は尼崎の前兆だったかもしれません。
信楽高原鐵道事故では裁判開始時点で証拠不十分につき不起訴となったJR西日本ですが、今度ばかりは刑事訴追も免れません。そうなると少なくとも現経営陣も刑事責任を問われるでしょうから、鉄道事業法の定めにより
1年以上の懲役又は禁固の刑に処せられた者という欠格事由により、ほとんどの役員は退任せざるを得なくなる事態も考えられますので、一時的に国家管理となる可能性も視野に入れておく必要があります。できればその間に、国鉄改革の抜け穴を塞ぐ法整備が望まれます。
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