大手私鉄、それぞれの春
小田急と東京メトロのロマンスカー直通運転の話題で盛り上がっておりますが、大手私鉄各社の置かれている状況の違いが、さまざまな形で出てきています。今のところ小田急と東京メトロでごく簡単なリリース文が発表されただけの段階で、具体的な詰めはこれからの話ですが、簡単にいえば現状で既に毎日満席状態の夕刻下りのロマンスカーの増発を意図したものといえます。小田急は結構本気で増収に励むつもりですね。
春は各社の設備投資計画が発表される時期でもあります。個々に立ち入っての論評は別の機会に譲りますが、小田急の意欲的な取り組みの背景には、バブルの清算を終えた財務状況が、攻めに転じることを可能たらしめているといえます。同時に難産の線増工事がやっと完成を見通せる段階にきたものの、気がつけば少子化で利用客の自然減によりピークの混雑率が下がるという想定外の事態に直面し、大規模投資の元を取る必要に迫られていることも見逃せません。もちろん東急田園都市線、京王相模原線や湘南新宿ラインなどへの乗客の流出もあるでしょう。
財務の健全性でいえば、現在大手私鉄では京王電鉄が抜きん出た存在といえます。大手私鉄では最も高い格付けを獲得し、鉄道事業者全体で見てもJR東日本に次ぐ2番目に位置するのですが、京王新線や相模原線の建設費負担の重さから、資金的に余裕のない状況がバブルに踊る機会を奪った幸運はあります。結果的に地価下落による減損処理の負担が他社に比べて低かったとはいえますが、それでも業界で他社に先駆けて減損処理を行ったことが、現在の地位を築いたといえます。
同社の掲げる連結ROA(Return Of Asset=総資産利益率)7%という目標は、本業の鉄道事業は装置産業的な性格からせいぜいROA2%程度が関の山なんですが、元々関連事業が小粒で鉄道事業の売上構成比が高い同社にとってはかなり高いハードルといえます。そのために例えば系列の京王百貨店を、運転ができないゆえに郊外型ショッピングモールへ流れない高齢者に照準を合わせたことで、電鉄系百貨店の中で抜きん出た業績を実現しました。2003年にタイガースショップをテナントに入れたらリーグ優勝^_^;という幸運はありましたが。つまり鉄道事業を軸としてシナジー効果を最大限発揮できる付加価値創造形事業に特化した関連事業に絞り込んだグループ連結経営によって実現しようとしてますが、財務の健全性の裏付けがなければ難しい話です。京浜急行などもこの路線を追随しています。
東急はバブル期に肥大化したグループ企業が軒並み業績を悪化させましたが、逆に本体の電鉄自体は健全経営を続けていたのが幸いし、電鉄主導でグループ企業のリストラを行い、500社あった関連企業を300社まで絞り込んで損切りに目処をつけましたが、その間に田園都市線沿線の未利用地などの潤沢な資産含み益を吐き出してしまい、財務の弱体化は否めないところです。本業好調とはいえ渋谷駅再開発などの大規模プロジェクトを控えて正念場となります。
逆に本業には課題が多いながら、都区内のプリンスホテルなどの優良物件の家主という保有資産価値の高さから外資に注目される西武は将に好対照といえます。オーナー経営から正常な企業ガバナンスへの移行は波高しですが、本業の潜在価値は高いといえます。東急が辿ったように本業の儲けを本業へ投資する循環を作れるかどうかが問われます。
在京私鉄各社の中では、東武鉄道が冴えないですが、名鉄や近鉄も同様ながら、路線長の長い私鉄では各線の業績のばらつきの大きさが仇となっているようです。いずれも沿線に観光地を控えながら、国内観光の不振が全体の足を引っ張っているようです。あとどうしてもローカル区間を中心に広い沿線域でモータリゼーションの影響を受けやすいということもあるでしょう。しかしそれ以上に事業規模の大きさが組織の硬直化を生んでいる可能性もあります。事業規模で上回るJR各社と比較しても労働生産性で後れをとっている現実は重いと言えます。
あと在京以外の各社は、覚醒したJRの汽車ダイヤから都市型ダイヤへの移行で乗客を奪われた面も強く、油断がなかったかは問われます。
その中で阪急と阪神は、明らかにグループ連結経営を目指しているようですが、阪急は自社沿線の需要掘り起こしを主体にして特急の停車駅を増やしたり、神戸高速鉄道を介した山陽電気鉄道との直通運転の見直しをしたり、JRの駅勢圏外の桂(洛西ニュータウン最寄り)の利便性を重視した京都線10分ヘッドダイヤとか、乗車時間を利用した審査で本業とシナジーを狙う消費者金融事業とか、神戸市営地下鉄との直通運転構想を発表したりと、主に他社との差別化に舵を切っているのに対し、山陽電気鉄道との直通運転の強化と共に、タイガースと阪神百貨店を関連事業の柱に位置づけ、電鉄企業らしさの強い阪神と対照的な行き方が面白いところです。
大手私鉄15社に東京メトロを加えて16社ですが、各社各様の道を歩む2005年の春といえましょう。
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