人口減少時代の公共交通
最近、少子化が盛んに言われ、出生率の低下が大問題とする論調がメディアをにぎわせていますが、当ブログでは関空二期工事関連で人口減少問題を取り上げて人口減少社会と公共事業、人口減少社会と公共事業その2、関西3空港の命運、人口減少社会と公共事業その3、それでも豊かな明るい未来で問題点を指摘しております。
特に申し上げたいのは、既に高齢化が進捗し、2007年から始まる団塊世代の大量リタイアで労働人口が減少へ向かう現実に直面して、新生児が実際に労働力となるのは約20年後であることを忘れて、出生率を高めなければならないと言うのは、何の解決にもならないどころか教育費負担の分だけ経済を収縮させる悪手だということです。人口減少、労働力減少の現実を受け入れて、国全体として労働生産性を高めていくことこそが重要ということは申し上げておきます。
大まかなイメージとしては、生産に携わらない高齢者をいかにうまく支え、それによって高齢者に偏っている貯蓄を若年世代へスムーズに移転させるかが問題となります。細かな論点に立ち入ると煩雑になりますので、交通の観点に絞りますと、高齢者はいつまでもマイカーで移動できるわけではないので、マイカー利用を前提とした道路整備やインフラ整備はいずれ行き詰まることとなります。
高齢者が増えれば介護サービスの需要が増えますが、介護サービス関連の事業者にとっては、在宅介護であっても施設入所であっても、サービスを受ける高齢者が適度な密度で分布していることが、低料金で高品質なサービスを提供できる前提となります。その意味で人口密度の低い過疎地ほどサービス単価が高くなる傾向は否定できないわけです。つまりは高齢化社会こそスケールメリットが生きる都市の集積の便益が大きい社会といえます。
しかし現実的には過疎に悩む地方ほど高齢化が進んでいて、必要な介護サービスを受けることが難しいわけですが、三宅島の火山噴火や中越地震での旧山古志村の孤立など、自然災害時のことまで睨むと、かなり背筋の寒い現実があるわけです。こういった地域に住む高齢者は、先祖伝来の土地を離れられない事情に縛られているわけですが、農地であれば転用や転売に農業委員会の承認を要する現在の農地政策の犠牲者と見ることもできます。農業分野への株式会社参入が広く認められるならば、保有する農地を現物出資して株主として配当を得るという形で土地資源を有効利用できて、大型農業機械の導入などで劇的に生産性を高めて、ものによっては輸出すら可能なほど競争力を高められるはずです。若者は地方に、高齢者こそ都会にという形こそが望ましいわけです。
ただし、これは東名阪の三大都市圏への人口集中を必ずしも意味しません。むしろ三大都市圏は大型船舶の接岸が可能な水深の深い港湾が比較優位の条件となって発展してきたもので、人口減少下で内需中心の経済を想定する場合、暮らしやすい都市のサイズについての尺度は変化すると考えられます。特に高齢者にとっては、介護サービスの供給がスムーズに行えるという条件からいえば、道路渋滞を避けられない大都市よりも、中小都市に優位性があるということになります。きちんとした裏付けを取ったわけではありませんが、経験的に人口10万~30万人程度の都市が望ましいサイズということになりそうです。
しかしこのサイズの都市というのは、実はモータリゼーションの影響を強く受けている都市でもあります。中心市街地の空洞化に歯止めがかからず、都市機能を低下させている都市が多いという現実があります。そういった中で、この4月に関東の日立電鉄が廃止され、代替バスに置き換えられて、なおかつ乗客が7割減というショッキングなニュースが流れました。曲がりなりにも首都圏の外縁部に位置する企業城下町で、産業集積も申し分ないところで、過疎地とはいえない場所だけにショックです。
高齢化を前提に考えると、無人駅であっても安全なプラットホームで電車を待つのと、道路脇のバス停ポールで排ガスと粉じんを浴びながらバスを待つのとでは、ユーザーインターフェースに大きな開きがありますし、公共の道路を走るバスは、マイカーの増加による道路渋滞の影響を受けやすく、安心感に開きがあります。わかっていたことかもしれませんが、こうなるとバスで代替可能な輸送需要しかないからバス化することの正しさが問われます。あとテクニカルな問題ではありますが、鉄道とバスでは、準拠法規の違いから、同一事業者であっても別の認可運賃となる点も、代替バスへのスムーズな移行を阻害する要因といえます。
ただし日立電鉄のように単行運転でワンマン化された路線では、実質的な労働生産性にバスとの有意差がなく、事業者サイドから見ればバス化による資産圧縮のインセンティブが働いてしまうという問題もあって、結局ローカル鉄道のバス化が避けられない流れとなっている現実もあります。最近は地方運輸局の判断で2連程度までワンマン運転を認めるケースもありますが、パッセンジャーフローを前提に乗務員による運賃収受を行うことでワンマン化による生産性向上をスポイルしてしまうという問題も避けられません。欧米標準のセルフ方式への移行がなければ、結局バス並の生産性に甘んじるローカル鉄道に明日はないことになります。欧米標準のLRTが日本で実現しない理由はかなりはっきりしていますし、この点をクリアしてこそ、省力化産業としてのLRTでありローカル鉄道という形で明日を拓くことが可能になると考えます。また高齢化、人口減少の中での交通政策という意味で、経済の外部性を発揮できるわけで、こうして適度な集積の中で高齢者介護サービスを最適化することが、社会保障負担の増大を防ぐ意味でも重要と考えます。
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