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Monday, July 04, 2005

M250系ブルーリボン賞受賞の意外

既にネット上で話題になっておりますが、当ブログで取り上げる以上、ナナメ読みになりますことを先にお断り申し上げておきましょう(笑)。
 鉄道友の会という趣味団体の会員の投票で決まるブルーリボン賞に、乗車できない上に夜間運行でまず目撃も叶わぬ貨物電車“スーパーレールカーゴ”ことJR貨物M250系が受賞したことを、意外感をもって見られておりますが、京都議定書の発効を控えてCO2削減が話題になる昨今を考えると、鉄道ファンの社会性はそれなりに健全なのかなと思う反面、貨物輸送のトラックから鉄道や海運への転換を目指すいわゆるモーダルシフトの意義といったところについて、どれだけ正しい理解があるのかは、正直なところ疑問なしとは言えません。それでも地味なJR貨物がこういう形で脚光を浴びることは喜ばしいところです。
 国鉄改革のときに、国鉄時代から赤字体質だった貨物輸送をどうするかについては、ぎりぎりまで決まりませんでした。結果的に地域分割された旅客6社の線路を借りて、全国規模の輸送ネットワークを維持する形で決着しましたが、当初から収支が危ぶまれる存在でした。そのために車両や車両基地や乗務員区などの固有の資産も可能な限り圧縮され、旧国鉄長期債務の返済義務も免除された存在としてスタートしましたが、それだけでは足りず、旅客会社に支払う線路使用料についても、特段の優遇措置がとられることになりました。
 原則はアボイダブルコスト方式といいまして、貨物列車運行によって発生する機会費用(運行しなければ発生しない費用)の負担という考え方で、需要に応じて列車を運行した分だけ費用が発生するわけですから、繁忙期向けに不定期列車を多数設定しておいて、閑散期には少数の定期列車に集約することで費用を圧縮することにより、線路使用料の負担を運賃収入にリンクした変動費とすることができる仕組みとしました。
 一応の基準としては、列車運行に関わる機会費用として動力費、線路保守費、電路保守費、運行管理費などの実費分に1%のインセンティブを上乗せした額となっておりますが、個別具体的な線区毎の線路使用料については、旅客会社との個別交渉で決めるものとされ、さらにJR発足当初の経過措置として、基準に対してさらに値引きした水準でスタートすることとなり、産経新聞の報道などで明らかとなった列車牽引の機関車の両数で決まる方式が、実務上の便法として用いられたらしいのですが、このことがスーパーレールカーゴのスタートを躓かせることになります。
 それ以前にJR貨物発足後に東海道線の貨物列車の牽引トン数として1,300tが最大だったものを1,600tに強化する目的で製造されたEF200という機関車がありましたが、JR東海から「消費電力が大きくて変電所容量が不足する」というクレームがつき、また実際1,600t列車に対応する停車場有効長が不足する駅が多いこともあって、実際の運用に就くにあたってリミッターが装着されてEF66並に性能を下げて使用された経緯がありました。そしてEF65などの老朽機関車の置き換え用にスペックを下げたEF210が登場することになります。
 国鉄形の老朽機関車は多数ありまして、東海道山陽線のような平坦線ではEF210で当面良いとして、非電化の北海道向けのDF200や勾配区間用で重連総括制御可能なEF64を単機で置き換える目的のEH200や青函トンネル区間を含む本州対北海道間輸送用のEH500などが登場するわけですが、置き換え対象線区の内、JR東海所属線区である中央西線へのEH200入線を機関車の両数で決めた線路使用料の不合理を訴えて拒否するなど、JR東海とJR貨物のトラブルは絶えません。
 JR貨物の対トラック輸送のコスト競争力ですが、基本的に700km超で価格優位となると言われます。加えて絶対的に価格優位な対海運でも速度優位となり、海運でカバーできない内陸部には自然優位が働きます。その観点からいえば、最も物流需要の大きい東京~大阪間では十分なシェアを持てないでいるわけで、ここで競争力を高めることは、JR貨物にとって重要な経営課題であるわけです。
 そしてスーパーレールカーゴですが、JR貨物では90年代半ばから、物流市場として規模が大きい東京と大阪を結ぶ動力分散方式の高速貨物電車でトラック輸送に挑戦することが検討され、特に夜間の高速道路を多数運行する宅配便の拠点間輸送トラックのオンレール化に的を絞って開発を進めました。その結果4M12Tの16連で、大型トラックの荷台相当の31ftコンテナを28個搭載可能なM250系を3編成制作し、当面は東京貨物ターミナル~安治川口間に夜間上下各1本の運行を始めることを計画しましたが、お約束のように^_^;JR東海が待ったをかけました。
 JR貨物の言い分としては、従来の高速貨物列車が1,000t牽引で最高速110km/hに対し、編成重量500tで最高速130km/hですから通過トン数と速度の積に比例するといわれる線路破壊量は従来の貨物列車を下回ることを根拠に従来の貨物列車と同じ線路使用料を主張し、JR東日本と西日本は快諾したのに対し、JR東海は500tの重量列車を130km/hで走らせたときの線路破壊の実態は不明であり、十分な検証を経てからしか入線を認めないということで、走り込みのノルマを課しました。
 その結果東京貨物ターミナルと西湘貨物駅の間を何往復も走り込む姿が約1年間も続くことになり、ブルーリボン賞の投票の大票田である首都圏で昼間多くのファンに目撃されたわけです。つまるところM250系のブルーリボン賞受賞の最大の功労者はJR東海ということになりましょうか(笑)。
 JR貨物の今日までの道のりは平坦ではありませんでした。発足当初こそバブル経済の真っ直中で、輸送量を伸ばしましたが、バブル崩壊後の90年代は逆に需要の減少で苦境に陥り、毎年欠損を重ねる状況が続きました。それが大型トラックの重大事故の影響で、大型トラックへのリミッターの装備と荷主企業も含めての取締強化の影響で少し貨物が戻り、さらに最近ではキヤノンや松下やトヨタなど、荷主企業のCO2排出削減の動きに助けられて輸送量を伸ばしつつあり、当ブログでも話題を取り上げております。それでも十分なコスト負担をして線路を借りている旅客会社へ配分するには至らずというのが現状です。JR東海がそれに不満を持つこと自体は、理由があるわけです。
 しからば東日本や西日本はなぜにそのようなスタンスをとらないか、あるいはもっと経営的に苦しい三島会社もそうですが、今後人口減少でドライバーの確保が難しくなるトラック輸送の受け皿として、CO2削減のような環境要因のみならず経済要因でモーダルシフトが進むという読みがあるものと思われます。JR貨物が十分な競争力を獲得したあかつきには、苦しい時期を支えてくれた旅客会社に線路使用料の増額を通じて利益を配分することが期待されるわけですし、人口減少で将来の旅客需要が必ずしも当てにできない中で鉄道路線網を維持する梃子になりうるわけで、その意味でJR貨物への支援は将来へ向けた先行投資であり、旅客輸送が減少へ転じる事態に対する保険の意味があると考えられます。見方を変えれば安全投資を抑制して当面の利益確保に向かったJR西日本が重大事故を起こしたように、JR東海のスタンスが何か決定的なトラブルを引き起こす可能性は否定できないといえます。
 あとありがちな勘違いですが、M250系はVVVF制御ながら、回生制動や遅れ込め制御などの省エネメカが省略されてますが、加減速の頻繁な都市鉄道と違って、長い距離を無停車で走るスーパーレールカーゴのような列車の場合、つまるとこと速度制限を抜けたあとの再力行性能が重要で、つまるところパワーを頼んで力行時間が短時間であるほど電力消費量を抑制できる上にスピードアップにも寄与するものです。東京の渋滞路では高燃費のプリウスがアウトバーンではガス食いなように、使い方を誤れば省エネ技術も無意味です。加えてトラックからレールに切り替わった分だけ確実にCO2削減効果が出るわけで、そちらの効果の方がはるかに大きいということも指摘しておきます。
 最後に最近の貨物輸送に関する話題から、しなの鉄道小諸駅のコンテナターミナル設置による貨物輸送の拡大については、上記のように海運と競合しない内陸県の長野県だけに、荷主の確保ができれば面白いところです。ただし中期経営計画でJR貨物の線路使用料のフルコスト化をうたってますが、このあたりの兼ね合いの難しさは自覚しておいた方が良いでしょう。ま、港湾整備と同等で寄港する船会社に補助するという考え方は成り立ちますが。
 そして本日日経の記事で明らかになりましたが、自動車部品輸送を狙った名古屋~鳥栖間の速達貨物列車の運行が伝えられております。付加価値の高い自動車部品輸送で競争優位を実現できれば、収益力を高める意味からも重要です。
 というわけで、JR貨物は今でこそ苦しい経営を強いられてますが、ある意味鉄道の将来を拓くフロンティアであるということで、惜しみなくエールを贈りたいと思います。

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Comments

JR貨物の実態については、鉄道雑誌でもふれられることが少なく、うかつにも、本稿を拝見するまで問題意識がありませんでした。

自動車王国のアメリカでさえ、鉄道貨物輸送は大きな役割を果たしていることを考えると、我が国においても、活用の余地は大いにあるのではないでしょうか。

苦しい経営環境の元、これまでにない、貨物電車というコンセプトに挑戦したJR貨物のスタンスにはエールを送りたいと思います。

Primera

Posted by: Primera | Tuesday, July 05, 2005 at 08:03 AM

コメントありがとうございます。
 JR貨物に関しては、本当に情報がないんですよね。それでも漸くそよ風程度でもフォローの風が吹くようにはなってきてます。
 そういった意味ではM250系のブルーリボン賞受賞はタイムリーな出来事だったといえます。

Posted by: 走ルンです | Tuesday, July 05, 2005 at 05:54 PM

超遅レスですが、

JR貨物は国鉄長期債務を免除されておりません。
四国、北海道、九州の三社のみが免除となっております。

Posted by: さるぼぼ | Tuesday, February 16, 2010 at 11:19 PM

ご指摘ありがとうございます。仰るとおり旧国鉄債務のJR負担分14兆円にJR貨物負担分があります。

尤もJR貨物の収益力では返済不可能ですから、遠からず国が肩代わりせざるを得なくなるでしょうね。

Posted by: 走ルンです | Thursday, February 18, 2010 at 05:58 PM

貨物負担分ですが毎年決算上は予定通り返済を行っていますので返済不可能とは言えないような気がします。仰せの通り苦しい台所事情ですので、帳簿の上ではという但し書き付きかもしれませんね。

Posted by: さるぼぼ | Sunday, March 07, 2010 at 02:02 PM

トラックやフェリーとの競争にさらされ、運賃(商品価格)を自己決定できない事業環境は致命的です。加えて高速道路無料化の逆風もあります。

とはいえ温暖化ガス25%削減のためには運輸部門での削減は避けられず、国として何らかの後押しは考えられます。それに期待しましょう。

Posted by: 走ルンです | Sunday, March 07, 2010 at 10:29 PM

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