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Monday, July 11, 2005

“超優良企業”つくばエクスプレスの謎

JR常磐線のダイヤ改正の話題でネット上も賑わっておりますが、今改正の誘因といわれるつくばエクスプレスの開業を来月に控えて競争もヒートアップという論調が多い中で、当ブログでは少し視点を変えて掘り下げてみたいと思います。
 そもそもは国鉄時代の通勤新幹線構想に端を発する計画として構想されました。東京の旺盛な通勤需要の増加に対して、通勤五方面作戦と称する輸送力増強計画が実施中でしたが、中央線の高架複々線工事で都市景観の悪化、日照障害、騒音振動被害などが影響して反対に遭い、土地の収容を巡って反対に遭いと遅々として進まず、また折角線増で輸送力を増強しても、沿線開発を誘発して混雑したりという具合で、大規模投資に見合う効果はなかなか得られませんでした。
 一方1964年に開業した東海道新幹線が、そのスピードと輸送力で在来線との比較で劇的に生産性を高め、高収益路線となったことで、新幹線なら何とかなるという認識が国鉄内部に芽生えます。その高生産性を首都圏の通勤輸送に利用できれば、通勤輸送の劇的な改善が可能ではないかということで、主に東京から100km圏の拠点都市を東京と直結することで、大規模な開発用地を創り出せれば、旺盛な需要の先回りが可能ではないかと考えたとしても不思議ではありません。また開業当初、東海道新幹線で1駅間利用が多かったことも、このプロジェクトに自信を与えるものと考えられておりました。
 そこで全国新幹線網とは別個に、東京から小田原、甲府、高崎、宇都宮、水戸への通勤新幹線計画を立ち上げることとなりました。最高速160km/hで表定速度120km/h程度を想定し、新幹線より規格を下げて地価の高い地域での用地買収をやりやすくし、最大乗車時間が1時間を切ることから立席を容認した詰め込み設計で運賃を安くするなど、実現を視野に入れた構想が練られていて、結構本気だったようです。
 しかし実際に日の目を見ることはありませんでした。当時の国鉄が政治の干渉を受けやすい組織だったことから、票につながらない通勤輸送の改善は優先順位を下げられることとなり、また開業時多かった新幹線の1駅間乗車も、東名高速道路の開通とマイカーの普及で減少し、東海道、東北、上越と新幹線が開業してみれば、朝の上りは列車のない空白の時間帯となり、下りの始発駅への送り込み回送を兼ねた通勤列車の設定が可能なことがわかると、わざわざ通勤目的の新幹線を作る意味も見出せず、ということでいつしか立ち消えとなったわけです。
 時は移りバブル真っ盛りの頃、地価上昇を背景に東京の通勤圏で土地の仕入れ値から開発可能地が限定される中、また五方面作戦で都心アクセスを地下鉄千代田線に依存したためにサービスが硬直化し、柿岡の地磁気観測所の影響で取手以北が交流電化となって、高価な交直両用車を必要とするなど、特殊事情が災いして輸送改善が進まない常磐線の混雑緩和を兼ねて、東急田園都市線をモデルとした鉄道新線を中心に沿線開発と関連事業で自立採算を目指す事業として、鉄道のない研究学園都市つくばと東京を直結し、沿線開発のために中間駅を設置した仮称常磐新線として事業化が計画されました。通勤新幹線構想はここへ来てコンセプトの変更がなされたわけです。
 とはいえ60km弱の高規格新線の建設と沿線の広大な開発用地の取得、同時に区画整理事業による鉄道用地捻出を兼ねた土地の先買いなどで、かなりの資本規模を必要とする事業であり、国鉄末期の財政事情や労使関係のもとでは実現は難しく、また分割民営化が実行段階に至ってなかなか事業化の機会を得られずに推移します。事業の概要は茨城県の公式ページに要領よくまとめられておりますので、ご参照ください。
 何事も行間が重要でして(笑)、いくつかのポイントがあるんですが、89年の「大都市地域における宅地開発及び鉄道整備の一体的推進に関する特別措置法」という長ったらしい名称の法律が成立し、事業主体となる第三セクターに開発用地と線路用地を兼ねた土地の先買いを認め、民間地権者を巻き込んだ区間整理事業を推進することができるようになりました。また都市鉄道整備に関する無利子融資の受け皿となることも盛り込まれるなど、法令によって事業推進の権限を得ることとなり、91年に事業主体となる第三セクター「首都圏新都市鉄道株式会社」を設立し、翌92年に第一種鉄道事業免許を取得し、動き出すこととなります。
 とまぁここまでで既に通常の第三セクター鉄道と際立った違いがありますが、株主構成も特異でして、沿線4都県と12市区町村と、金融機関や沿線企業を合わせた207社の民間株主という構成で、民間に特に有力な大株主が見あたらず、自治体主導型第三セクターといえるんですが、驚くべきはその資本金で、1,850億円という資金を集めております。この金額はJR東日本の2,000億円には及ばないもののJR東海の1,200億円をはるかに上回る日本の鉄道事業者としては2番目の規模となります。当然その分借入金の比率は低く、無利子融資も受けられることから総事業費9,400億円中6%相当の有利子負債しか保有しないという大手私鉄も真っ青な健全すぎる財務体質です^_^;。当然開業後の利子負担も軽いわけで、高速バスより安い認可普通運賃を裏付けております。
 首都圏の複数自治体が結集して余剰金を持ち寄れば、これぐらいの資金が集まるというのは驚きですが、もちろん近隣自治体とのお付き合いで地方債を発行して得た資金で出資している自治体も中にはあるでしょう。この場合事業者である第三セクターに代わって金利を負担することになりますが、開発利益が還元されればそれで良しという割り切りも可能です。また当初予定されていたJR東日本が出資を見送り、穴埋めに広く企業の出資を募った裏にも自治体の苦労があったと思われますが、注目すべきは、事業主体となる第三セクターを軸に各自治体の行政権限が鉄道整備と沿線の一体開発というベクトルで束ねられ、事業推進のイニシアチブを生み出している点です。上記のホニャララ一体的推進法^_^;が効いているものと思われます。制度が資金を集め制度が事業推進のイニシアチブを生み出すというのは、これまでの地域開発には見られない希有な出来事ではないでしょうか。
 もちろんこのことが事業の採算性まで保証するものではなく、営業成績は蓋を開けてみなければわからないのですが、潤沢な資金を背景に真っ直ぐな高架橋にスラブ軌道という新幹線を彷彿とさせる高規格な線路にATC,ATO装備にホーム柵完備のワンマン運転仕様という贅沢なハードで、速度も編成質量も新幹線の半分ですから、1列車あたりの軌道破壊量は1/4かつ新幹線ほどの保守精度は必要ありませんから、極限的な省力化体制で営業できる点は、利子負担の少なさと共に有利ではあります。それでもJR東日本が降りた理由でもある地価下落による居住人口の都心回帰という現実の前で、目論見通りの沿線開発が可能かどうかは未知数ではあります。
 つくばエクスプレスが事業として成功するかどうかはともかく、地域の公共交通整備に大きなヒントを与えてはくれます。ホニャララ一体的推進法^_^;の地方版のような例えば(仮)まちづくり推進法のような法律を制定し、沿線の一体的開発に加えてパークアンドライドやロードプライシングまで制度として定義すれば、地方都市でLRTを整備したりローカル鉄道を存続させたりする可能性がひらけると思うんですが。岐阜市や常陸太田市が為す術なく鉄軌道の廃止を受け入れ、地域交通を衰弱させた不幸を繰り返さないで済み、あるいは神岡鉄道の不幸に際して指摘した高規格なハードでメンテナンスフリーを狙う意味でのテストケースでもあり、また新たな公共交通整備が可能となるならば、バブルの落とし子みたいなつくばエクスプレスですが、地域交通の整備に新たな可能性をひらくものとなりうるのではないでしょうか。
 その意味で開業が待たれますが、昨今の首都圏の新線開業の傾向から、初乗りラッシュは避けられず、ホームドアが仇になってダイヤ乱れっぱなしのスタートが予想されます。ほとぼりが冷めてから普段着の姿を見たいところです。

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Comments

なるほど、新会社の財務体質がそんな状態だとは知りませんでした。運賃設定は、微妙なところをついているといわれますね。

実際にどの程度、130キロを出せるのか、興味があります。

Primera

Posted by: Primera | Tuesday, July 12, 2005 at 11:47 PM

私も最近TXの財務状況を知ったんですが、都市近郊三セクというと北総の苦難を連想してしまいますが^_^;、とりあえずネガティブイメージはクリアしといた方がよさそうです。

Posted by: 走ルンです | Wednesday, July 13, 2005 at 05:40 PM

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