デフレに翻弄されるつくばエクスプレスの正念場
開業景気が一段落して、早速空気輸送となりつつあるようですが^_^;、つくばエクスプレスに関しては、まだまだ語り尽くせていないことが多くあります。しかし輸送の実数を見るには半年なり1年なりの期間を見る必要があり、まだ話題にするには早いと思いますので、周辺の話題を取り上げます。
人口の都心回帰による地価下落を払拭して、地価下げ止まりから開発促進へと期待を膨らませる茨城県と関連自治体ですが、東京延長を主張する守谷市とまずは沿線開発とするつくば市という具合に、早速意見が分かれているようです。ま、当ブログで再三指摘してきた自治体主導三セクのイニシアチブ不在が顕在化したようです。
その前にデフレに関して世間に流布する俗説を修正しておきます。失われた90年代に進行した物価の連続的な下落ですが、主に以下の3つの力が働いて起きたものといえます。
1.バブル崩壊に伴う地価や株価などの資本ストックの価格調整
2.国際競争の激化と日本の構造調整の進捗による内外価格差の解消
3.IT関連を中心とした技術革新による生産性向上がもたらした相対価格の変更これらがほぼ同時進行で同じベクトルで重なり合った結果、世上デフレといわれる現象が起きたわけですが、いずれも相対価格の変動であって、経済的には普通の現象であり、貨幣的現象ではありませんので、いくら日銀が貨幣供給量を増やしても、防ぐことはできません。
元々バブル期に常磐新線として計画され整備に着手されたつくばエクスプレスは、この流れに翻弄されることになります。東急田園都市線をモデルとして事業主体の首都圏新都市鉄道(株)によって鉄道用地と再開発用地の先買いが大幅に認められたわけですが、結果的にこのことがバブルの余韻が残るうちは用地取得を遅らせることとなり、97年の事業見直しで開業年度を2000年度から2005年度へと変更を余儀なくされました。
ただしこれは結果的に地価の下落で事業費の圧縮に寄与することとなり、工事の遅れが事業費を拡大させる従来の鉄道建設工事との違いが際立ちます。と同時に沿線開発を遅らせることとなり、開業後の乗客見込みを38万人→27万人へ下方修正されることとなり、単年度黒字まで10-20年、累積赤字解消に40年という厳しい見通しとせざるを得ず、事業の行く末を不透明なものにしています。
一方でトンネルのシールドマシンが従来1.2mごとに内壁を構築していたのを1.5mごとに見直したり、マクラギの形状変更で寸法を詰めたりなど、技術革新によって建設費も圧縮されました。結果的に97年当時で1兆500億円といわれた総事業費は、開業前の段階で9,400億円、更に最終的には8,300億円まで圧縮される見通しとなり、元々資本金1,850億円と潤沢な上に、国や自治体の無利子融資で有利子負債がほとんどない財務体質の良さもあって、経営上の重荷は少ないスタートではあります。
ただしこのことが上記の東京延伸へ余剰資金を投入すべしという一部の自治体の声となっているわけですが、呉越同舟の経営で足並みは揃わず、沿線開発の遅れを問題視する声の他にも、資金調達に協力した自治体へ返還すべきとの声もあり、結局何も決められないようです。当然有利子負債の一括返済でとりあえず利子負担をなくすという選択肢もあり得ます。
今後ですが、原油価格の高騰でデフレ終息期待が一部であるようですが、おそらくは石油製品の値上がりが消費の冷え込みとなって、一般物価の上昇は一部に留まると考えられます。またつくばエクスプレスで地価下げ止まり?でも指摘しました通り、下げ止まりは一部地域の一時的現象であって、また周辺地域の空洞化、地価下落を伴うものであることを申し上げておきます。
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Comments
TXと何か似ている路線はないだろうかと考えましたが、長野新幹線というのはどうでしょう。あちらは上田ー長野という末端利用が期待できますが、TXは難しそうです。
秋葉原(北千住)-つくばという利用はこれからもあると思いますし、今後伸びる可能性は大です。しかし守谷ーつくばがダメダメで、また南流山ー守谷も相当頑張らないと損益分岐点には乗ってこない気がします。自治体からすれば住民が来ることを願いたいのですが、発想を変えて工場誘致や物流センター誘致をしてTXで都心から通ってもらうというのはどうでしょうか。キツネとタヌキがいる地域に住むのは勘弁だけど、通うなら・・ 都心に住んで郊外に通うってある種セレブな生き方ですよね。
Posted by: SATO | Sunday, September 18, 2005 08:05 PM
コメントありがとうございます。
TXって、路線の立地がちょっと変わっていて、結構面白い存在だと思うんですが、沿線自治体の寄り合い所帯ゆえに、その強みが生かし切れない歯がゆさがありますね。
ふと思いついたのは、京浜急行のYRP野比駅を最寄りとする横須賀リサーチパークなんですが、先端企業の研究開発施設向けに京浜急行が開発した企業団地で、やはり先端技術のイメージが強いつくばと相通じるものはありますが、自治体と民間の差と言いますか、単に企業を誘致するに留まらず、駅構内無線LANなどでコラボレーションの幅を広げる姿勢は民間ならではですね。
東京延長などは構想に留めておいて、地に足のついた沿線開発に知恵を絞って欲しいですね。
Posted by: 走ルンです | Sunday, September 18, 2005 10:42 PM
TXの記事、いつも興味深く拝読しています。実家がTXの沿線ですが、武蔵野線の不満を吸収しているようで、定期外での利用は案外好調と聞いております。ただ、TXの東京延伸となると、やはり疑問があります。首都圏の電車利用で釈然としないのは、乗り継ぎによる初乗り運賃の負担感ではないでしょうか。
JRか東京メトロの沿線に在住していれば初乗料金りは1回なのに、たまたま民鉄の沿線在住であれば、負担感が大きいのです。これは、利用する民鉄のターミナルが弱い路線では特に顕著に感じます。乗り換え時間については、(武蔵野線利用者の不満である常磐線や埼京線に乗り継ぐのと違い)都心に出てからならば、高頻度に運転されているためにあまり負担を感じません。特に、近年開業の乗換駅は距離があるというものの、バリアフリー対応を最初から行っているために広く、快適でさえあります。
東京延伸のお金のごく一部で、メトロかJRの初乗り運賃を負担してくれるほうが、よほど使い勝手が良いと感じます。直接お金を出さなくても、JRとメトロの入札などで共同きっぷの値下げを促したり、定期通勤者(沿線自治体の最大の納税者でもあります)の初乗り運賃を自治体で負担するなど、第3セクターだからこそできる施策もありそうです。
また、都心で強いJRへの対抗策の例として小田急とメトロの共同のきっぷなどは非常に良い例だと思います。
東京は地方都市と違って非常に広いため、例えTXが東京延伸したとしても、最終目的地までにまた乗り換える必要がある利用者も多いはずです。
東京都心の世界最強の鉄道網を生かして、TXが健全に発展することを願ってやみません。
Posted by: ぴよれ | Thursday, September 22, 2005 01:49 AM
びよれさん、コメントありがとうございます。
乗り継ぎによる運賃打ち切り合算の矛盾は、さまざまなところで見られますね。JR各社間では運賃通算ができているんですから、制度の工夫で対応は可能だろうと思いますが、鉄道会社としては減収を恐れてなかなか踏み込めないのでしょう。だからといってJRの完全並行路線を新たに整備することでコスト負担を強いられることも考えるべきですね。
それでも東京都と乗り入れ各社との共同企画キップや、小田急とメトロなど、強すぎるJRへの対抗措置として企画キップは登場しておりますが、おそらくこの流れは人口減少で今後も期待できるとは思います。新御徒町で大江戸線と接続する東京都との共同企画などは、都が出資者でもありますから、直ぐにでも実施して欲しいですね。
常磐線に関しては、北千住の混雑が半蔵門線の押上延伸と東武直通及びTXの開業によって緩和されれば、現状のように千代田線-常磐緩行線で綾瀬始発を設定しなければならない事情は軽減されますので、今後の改善に期待したいですね。
沿線開発では、流山市が新市街地開発での緑地確保を民間主体に積極的に担わせる目的で「グリーンマーク」と称する認証制度を2006年春からの導入を発表するなど、自治体によっては独自の開発姿勢も見られます。このあたりの取り組みの差は、結構早い段階で結果が出ると思います。今後も注目したいと思います。
Posted by: 走ルンです | Friday, September 23, 2005 12:48 AM