鎌倉総合車両センター(旧大船工場)最後の公開
前の記事で速報しましたJR東日本鎌倉総合車両センター深沢事業所(旧大船工場)の公開へ出かけました。印象的だったのは1941年の工場開設以来の歴史を写真を中心に展示していた点で、来年3月で閉鎖が決まっているだけに、最後の工場一般公開という点を思い知らされます。
大きな方向性としては、大井工場に新系列専用の検修庫ができたときからの既定路線ということなんですが、首都圏の車両工場の統廃合がいよいよ本格化するわけで、万世橋の交通博物館の大宮移転を含めて、新体制への移行がカウントダウン状態になってきたわけです。JR東日本が901系プロジェクトからスタートさせた改革が、実を結ぶ段階に来たという意味で、感慨深いものがあります。おそらく大井工場の公開の時に発表された209系500番台の京浜東北線への転出で試作3編成もお役ごめんとなるのではないかと考えられます。
既に当ブログでは過去にも言及しておりますが、JR東日本の新系列車を軸とする一連の投資行動は、労働力人口の減少を睨んだ省力化投資であったわけで、実際昨今の雇用情勢の変化、特に若年層の雇用活発化を見るまでもなく、予想された事態への対応として、JR東日本は他社をリードしたわけです。
基本的にはオーダーメイドに近かった鉄道車両を量産化によって劇的にコストダウンをはかると共に、集中投入によって運転や保守面でも標準化がはかられ、一方で技術革新のスピードが高まるなかで車両の社会的寿命が短くなる傾向を逆手に取って、プロの熟練で使いこなす道具から、ヒューマンファクターに頼らない最適システムへのシフトという点で、あえて車両寿命を短く設定した逆転の発想も見事です。
結果的に事故でわかった現場の混乱を抱えるJR西日本との比較でより鮮明となりますが、輸送システム全体としての最適化に成功を収めつつあるという評価が可能かと思います。これだけ技術革新が激しいと、車両発注のたびに繰り返されるメーカー提案の中から、いいとこ取りのつまみ食いをすれば、ハイスペックでローコストな車両の調達は可能かもしれませんが、結果的に乗務員の操作系や車両保守の現場で作業の標準化を阻むとすれば、むしろ高くつくことを知るべきでしょう。労働力人口の減少というのは、つきつめればそういうことになるわけです。
大井の新系列専用検修庫は見事なまでに各種作業が自動化されておりまして、特にジャッキアップせずに台車を抜き取り、また履かせるシステムは見事です。台車自体は横のストックヤードで別行程で検修され保管されますから、入庫編成は予備台車に履き替えて流れ作業で出場するわけで、検査入場も短期間で済み、結果的に工場の稼働率が高まり、首都圏の直流電車の検査入場を大井に集約することが可能になるわけです。当然地価の高い大宮や鎌倉の土地は別の用途に転用し、さらに会社全体として生産性向上に寄与するわけですから、JR東日本の大方針は正しかったわけです。これこそ全体のパイが拡大しない人口減少時代の企業価値向上のモデルケースといえましょう。
株価ではJR東日本を上回るJR東海ですが、東海道新幹線の高生産性への依存度が高い点が逆にリスク要因になっていると考えられます。走らせれば乗って貰える市場環境の中で、輸送サービスが硬直化している点が気がかりです。しかも生命線といえる東海道新幹線への追加投資が、品川駅開業ぐらいでは心許ないです。逆に品川駅ができたぐらいで増収となるということは、いかに取りこぼしているかを知るべきです。
JR東海の本音は中央リニアができるまでのつなぎ以外に東海道新幹線への追加投資は控えたいということなんでしょう。その結果がN700系の登場なんですが、JR東日本のFASTECH360との志の差を生んでいます。今ある強みを強化しないで、明日があると考えるノー天気ぶり、整備計画すら策定されていない基本計画路線にすぎない中央新幹線に国費の補助が得られると信じて疑わない姿勢は、企業経営の観点からは大いに疑問です。
かくしてJR東日本の独り勝ちの感が強いですが、私鉄も含めて他社の奮起を期待したいところです。
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Comments
まさにおっしゃるとおりだと思います!!
国鉄の車両使用体系を根本から見直して、必要なら車両新製にも金をかけてでも効率的なシステムを再構築する、といういままでの鉄道業界では殆ど見られない画期的な事業といえるのではないでしょうか。
利用者としても、新しい車両に快適に乗れる機会が増え、しかも旧国鉄型車両に比べ格段に省エネならいうことないと思います。
Primera
Posted by: Primera | Sunday, September 11, 2005 11:49 AM
JREとJRCの比較は路線長、沿線市場などを考えると前提が異なりすぎともすれば我田引水の評価となりましょう。
新幹線にしても建設年度が古く、路線そばに住宅が点在する東海道と路線では最高に近いかたちで設計された東北では比較するのがどだい無理で山陽(JRW)での最高速を期待してJRCが責めの車両を作るとは思えません。よって路線のカーブの多さを最大限フォローする700Nが出たものと思います。
新駅にしても東海からすれば「信号所」でよければ明日にでも実施すると思います。しかしながら駅開発となると費用もかさむし設置も地元との交渉と言う面倒な作業が入ると二の足を踏むのは理解できます。事実、栗東新駅は建設費で何か足止めがあったと聞いたことがありますが。
在来線は確かにおっしゃることはそうなんですが、JRCの柔軟な編成というのは東にない特徴です。東海道横須賀の車両共通化で遊休車両のコストダウンをするとか、701を原則単車とし必要に応じて2~5と組み合わせるといった工夫をすることや、そもそも電車であることさえも不思議です。架線下DCでも十分ではなかったのかと東は基本的に本社の意向が地域に波及して「どこでも東京」的判断に思えます。
Posted by: SATO | Sunday, September 11, 2005 12:03 PM
コメントありがとうございます。
>Primeraさん
省エネ、省力化などの社会的要請の変化を先読みして新車に置き換えていくことで、結果的にコストダウンをはかる考え方は、現在までのところ成功と評価できますね。東海道線の新車置き換えが始まってみれば、やはり新車に乗れるのがうれしいというのか利用者の本音で寸。
>SATOさん
ご意見ありがとうございます。ご指摘のように物事にはさまざまな評価軸があるわけで、一面的な評価ではないかとのお叱りはごもっともです^_^;。
ただ、新幹線に関しては、東北新幹線も騒音対策で大宮以南の110km/h制限がかかっていたり、盛岡以北の整備新幹線区間では、事業費圧縮の要請から規格外のカーブや勾配が容認されるなど、必ずしも理想的な路線環境と断言はできません。
それと東海道新幹線の収益性から考えて、素直にもっと投資できるのではないかということであって、中央リニアの夢に拘泥して必要な投資まで先送りされている印象は拭えません。
あとJR東も新潟支社の羽越線新津~新発田間のローカル旅客列車は架線下DCオンリーで、適材適所の原則は貫かれていると評価できるのではないでしょうか。
Posted by: 走ルンです | Sunday, September 11, 2005 05:33 PM
走ルンですさん、こんばんは。
地域の新聞にこんな記事がありました。
「6/17、甲府でリニアのシンポジウム」
http://www.minamishinshu.co.jp/news2006/6/17n1.htm
「中央リニア」ってホントに必要なんでしょうか?
それにどう考えても、僕が住む地域に停車させることによる「価値」の創出なんて得られないような気もするし、通過されるだけなら作って欲しくないような気もするし…実際のとこ、どうなんでしょ?
Posted by: SAC | Sunday, June 18, 2006 09:14 PM
コメントありがとうございます。何度かトライしてますが、コメントがうまくアップできません。中央リニアについてですが、神戸、関空二期、羽田再拡張で航空の需要弾力性が高まりつつある状況で、必要性はかなり低くなったと考えざるを得ないですね。技術的にも難問山積ですし。
Posted by: 走ルンです | Tuesday, June 20, 2006 12:47 AM
こんにちは
僕のBlogにコメントを?ですか?
わかりずらいですよね。申し訳ありません。
各投稿の下にある「0 comments」をクリックして頂くと、「コメントの投稿」ページに移動し、コメントを書いて頂いたあと、「個人情報を選択 」で「その他」を選択頂くと「名前・ウェブページ」を入力する欄に変わりますので、「コメントを公開」ボタンをクリック頂ければアップして頂けると思うのですが…Bloggerって使い勝手が悪く、評判良くないです(>_<)
そもそも、リニア方式がめちゃくちゃメリットあり過ぎて困っちゃう…くらいなら着工しても仕方ないと思えるかもしれませんが、電気使用量とかはどんなもんなのしょうか?それに「常温超伝導」な素材って開発される可能性はあるのでしょうか?
国策としてやるのであれば、政府もちゃんと「国民の利益(メリット)になる証拠」を提示して欲しいですよね。(僕も勉強不足なので偉そうには言えませんが)
Posted by: SAC | Tuesday, June 20, 2006 03:39 PM
いえいえ、niftyの方の仕様変更?でしょうか。近頃いろいろ変なんです。
で、中央リニアですが、列車走行時に発生する強力な磁界が、主に外部環境へ及ぼす長期の影響が未知数です。とりあえず乗客や乗員への影響は許容範囲内と言われておりますが。
これは実験というわけにも参りませんので、事後的に観測と不具合への対応を取る体制を組むしかないんですが、当然コスト面も不透明ですから、たとえて言えば原子力発電所の放射性廃棄物の処理費用問題に通じる不確定要素ということができます。あえて仮定に仮定を重ねて見積もりをしても、当たるも八卦になってしまいます^_^;。
電力消費に関しては、諸説あって確かなことは言えませんが、ざっくり言って現行新幹線のほぼ2倍見当といった見方がされています。おそらく沿線地域の電力事情にとってはかなり過大な負荷となるのではないかと思います。
ま、それでもやるべき理由があるならば、私もそれを知りたいところです。
Posted by: 走ルンです | Tuesday, June 20, 2006 05:47 PM