阪急HDも投資ファンドが株保有、日本の私鉄の資産活用が問われる
村上ファンドによる株式取得が話題になったのは、昨秋のことでしたが、今度は阪急が狙い撃ちです。
投資会社プリヴェ、阪急HDの筆頭株主に早速阪急HD幹部からはこんな話が出てきました。
阪急HD「中長期的に企業価値向上」・プリヴェが株取得まぁ相手の真意が分からない段階でのコメントはこんなもんでしょう。
日本の大手私鉄は、阪急の前身の箕面有馬電気軌道による沿線開発による開発利益還元というビジネスモデルが功を奏して、高度な沿線開発が行われ、駅前を中心に資産価値の高い不動産を多数保有しているのが特長ですが、それが投資家には十分に活用されていないと映るようです。資産価値に見合った高収益をあげて株主配当を増やせというのが彼らの言い分なんでしょう。そしてだからこそ私鉄各社は鉄道事業に付帯する関連事業に力を入れているわけで、収益に占める鉄道事業の比率は50%程度というのが相場です。
しかし鉄道事業が免許事業であって、新線建設などの情報は公示され、他のディベロッパーに開発地を先買いされ地価上昇の影響を受けるわけで、高額投資となる鉄道建設の事業リスクに見合った開発利益を得ることが難しいばかりか、場合によっては鉄道事業用地の取得費用が非現実的なレベルまで高騰して、事実上事業が困難になることもあって、国の低運賃政策とも相まって投資不足状態から抜け出せない中で、地価の上昇トレンドでキャピタルゲインを狙った無謀な開発用地取得に巻き込まれて、多くの私鉄企業でバランスシートを傷つけたバブル崩壊に直面します。
その中で阪神がバブルに踊らなかった関西私鉄ではほぼ唯一の勝ち組なのに対し、バブル期の開発用地高値買いでバランスシートを痛めた阪急は、さまざまな斬新な再建策を打ち出してはいるものの、未だ再建途上というのが実態です。果たして投資ファンドにとってもうま味があるのかどうかは何ともいえないところです。日本の大手私鉄のような企業の存在は、欧米では見られないですから、外資の企業再生ファンドといっても未体験分野なはずです。果たして勝算があるのかかえって心配になります。REIT(不動産投資信託)による一部地域の地価の高騰で間違ったサインを受け取っている可能性はありそうです。
村上ファンドの阪神買収では、タイガース球団の株式上場が提案されており、村上世彰氏自身虎ファンだそうですが、宝塚歌劇団の株式上場を提案するプリヴェのトップはひょっとしてヅカファン?^_^;
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Comments
いつも楽しみに拝見させていただいております。
民鉄の営業というと、世間の感覚は「儲けてるのは周辺事業で、鉄道は儲からない」と思われているようです。特に、鉄道ファンはその傾向が強いようですね。
しかし私が以前、関東の大手私鉄で働いていた実感としては全く逆でした。沿線開発による需要増を取り込んで流通事業や不動産で儲けるというロジックは30年前のものです。今や鉄道業で儲けて、構造不況の流通などへ補填する状況が常態化しており、鉄道事業は高生産で日銭を稼ぎ、見込み旅客数に対して数%のブレしか発生しないという安定性抜群の大黒柱です。(不動産開発はマンション販売の売りがたった期に瞬間的な儲けが出て終わり、流通は競合が厳しい上、見込みに対するブレが非常に大きく不安定)
ところが、民鉄が通常の事業と違うのは、儲かるところ(鉄道)にますます投資しても駄目というところで、新線開発が現実的ではない上、既存の設備に対する投資(線増や高速化)では、増加分のお客さんなど知れています。で、結局沿線価値の向上を目指して、流通や不動産開発も儲からないけど続けてる、というのが関東大手私鉄(ことに東京から神奈川方面への私鉄)の実体と感じています。
関西では若干事情が異なるかと思います。輸送需要が関東に比較すれば小さい、鉄道業自体の競合も厳しい、民鉄の地位が高く、流通事業も戦後の新興事業とは言い切れず、(阪急は百貨店自身も一流ブランドのようですね)周辺事業の重要性がまだまだ高いのかもしれません。しかし、それでも本業以外の部分の、生産性の低さに着目した投資というのは、どうもピントが合っていないように感じてしまうのです。
今回のファンドの見方は、「鉄道が主体で周辺事業を支えている」状況に立脚しているのか、それとも当の阪急が開発した30年前のロジックをもう一度、ということなのか、興味深い限りです。前者の立場なら、駅前の一等地にある店舗など、生産性が低いなら売却ということになるわけですが、結果的に鉄道旅客にとって不便な駅前となれば、旅客の減少という結果もありうるかと思います。一方後者であれば、外部の発想で秘策登場となると、他社への影響も含めて面白いですね。
Posted by: piyore | Wednesday, January 11, 2006 03:13 AM
コメントありがとうございます。確かに鉄道は儲からないという認識は蔓延してますが、かつての低運賃政策(それ自身日銀の窓口規制を通じた財界寄りのインフレ政策を誤魔化す意味があったのですが)の許では、常に運賃改定が諸物価の上昇を後追いする形でしたので、儲からなかったのかもしれませんが、日銀法の改正で事情が変わります。
現在ではむしろ日銭の入るキャッシュフルな企業であり、新規投資さえしなければ、経常的に無借金で回せる信用度の高い事業となっています。免許制度で事実上の参入規制がされている点も有利です。逆に資産拡大を目指して減価償却ベースを越える設備投資を行うと、むしろ保有資産価格が上昇して輸送原価に跳ね返るは資産収益率は下がるはでいいことなしですから、将来を見据えた設備投資を抑制する逆インセンティブが働いてしまう悩みがあります。
最近はむしろ付帯事業や関連事業で行っている宅地開発や流通、レジャー部門などの方が競合が激しく儲からなくなってますから、様変わりしたものです。加えて2000年3月期からの連結決算重視の会計規則変更で、赤字の関連事業を抱え込む余裕がなくなったのですから、電鉄中心のグループ経営は変化せざるを得ません。
元々箕面有馬電気軌道の沿線開発も、鉄道利用客を増やして鉄道自体の資産価値を高める目的だったはずですが、いつしか安定しているけど発展性の乏しい本業よりも利益拡大の可能性がある関連事業にウエートがかかってしまったわけですね。その意味で阪急の標榜する“バリュー経営”というのは、むしろ先祖帰りといえるかもしれません。
しかしお説のように昨今の投資ブームで電鉄の意図と違った形での沿線不動産価格の上昇が起きて、結果的に資産収益率を悪化させ投資ファンドに狙われるというのは大変な時代になったものです。形は違いますが手元の余剰資金狙いでコンサルに填められ京王プレッソインで高い授業料を払わされた京王電鉄の問題とも通底しますね。
Posted by: 走ルンです | Wednesday, January 11, 2006 06:39 PM