政治に翻弄された英国鉄道改革
3/18ダイヤ改正で華々しくスタートしたJR東日本と東武鉄道の相互直通による新宿-日光・鬼怒川間の特急が走り始め、オールドファンから国鉄時代には考えられないの声も聞かれますが、巷では旧国鉄型ブームだそうで、東海道線東京口からの113系引退は、全国紙での記事にされるようなニュースになりましたが、それだけ1987年の国鉄分割民営化が遠くなったわけで、昨今はリアルタイムな国鉄時代を知らない若いファンもふえております。
日本の国鉄改革は、間違いなく世界の鉄道改革を先導した改革であったと思いますが、その意義に関しては、あまり十分な検証がなされているとは言い難いところです。そもそも同じ“国鉄”を名乗ってはいても、各国で事情は異なり、改革すべきゴールも違うわけですが、そういったことはたいてい無視されて、結果だけが安直に比較され、例えば「上下分離は英国で大混乱を招き、事故を多発させている」などの言説がしたり顔で語られたり、ドイツのICEの事故が「民営化のせい」にされたりといった間違いが多数流布しております。
この手の問題を国際比較という視点で捉える問題意識自体が希薄ですが、欧州を中心に、かなり意欲的な改革が取り組まれ、それなりに失敗していること自体は、チャレンジ精神とポジティブに評価することも可能ですし、第一、他人の失敗を学んでこそ、自らも成長できるのであって、その意味では欧州の鉄道改革は、参考になる話テンコ盛りでして、知らないと損をすると断言しておきます。
そういった意味では1999年刊とやや中身が古くなっているのかもしれませんが、サイドバーで取り上げた鉄道改革の国際比較は、類書がないという意味で貴重ですし、EUの鉄道政策の各国での具現化過程をリアルタイムでレポートされているという点でも、また日本の国鉄改革から12年というタイミングでの刊行も、歴史をふり返る意味でも有意義であるということができます。
特に日本ではほとんどまとまった報告がされていない英国の鉄道改革に関して、臨場感あふれるレポートは秀逸です。特にいかに当時の政治状況に翻弄され、改革を推進していた現役運輸相が汚職事件で地位を失うなど、スキャンダルまみれで、何か東洋のどこかの国を連想させてくれます^_^;。下院優位の英国の政治制度は、ある意味日本とそっくりでして、国民的には不人気だった鉄道改革の否定に期待がかかった上院であっさり通ってしまったあたり、常に参議院の存在意義が議論される日本とよく似ています。
詳細をここでお伝えするには多すぎるボリュームですが、ざっくりいえば、鉄の女サッチャー元首相でさえも手を出せなかった難物の鉄道改革を推進したのは、サッチャーの後継者として政権の座に就いたメージャー前首相でした。しかもとかくサッチャーと比較され、国民的には不人気なリーダーだったメージャーが、起死回生に利用しようとしたのが、英国の鉄道改革だったといえば、何かしらきな臭い雰囲気を醸しますね^_^;。
功を焦った若きリーダーは、十分な確証を持たないまま、熱心な推進派を運輸相に任命し、いわゆる“丸投げ”をするわけですが、改革作業半ばでスキャンダルで失脚してしまいます。また日本の鉄道が私的所有によって改革が達成されたという間違ったプロパガンダまで行われたあたりは、日本人から見ると違和感が漂います。でも、今、日本で展開されている“改革”議論の多くが、外国の事例を無批判に引き合いに出しているあたりを見ると、どっこいどっこいってとこでしょうか。
ま、結果として当初民営化を見合わせるはずの線路保有機関のレールトラック社をいきなり民営化し、さらに政府補助金をカットするなどで改革の成果を大きく見せようとした結果必要な線路保守が行き届かず、高速化などの前向きな投資も先送りされ、事故その他さまざまなトラブルの種となりました。この辺はJR西日本のことを思い起こさせます。
また成果の極大化はリーダーの焦りの結果と見れば、贋メール問題で揺れる日本の民主党を彷彿させます。ま、同時に1億円小切手で訴追されない自民党と贋メールでガタガタになる民主党の違いは政権党かどうかであって、インチキな改革でも英保守党が政権の座にあったからこそ、曲がりなりにも実現できたという点も見逃せません。政権を取ったもん勝ちだからこそ、政治家は政権へ意欲を持つのであって、小泉政権下で切り崩されはしたもののの、長老が居座る自民党からは、小選挙区では政界へ出るルートを事実上閉ざされていた永田議員のような若手キャリア官僚の受け皿として党勢を拡大してきた民主党にとっては、試練ですが、万年野党政党から脱却するチャンスと前向きに捉えておきましょう。
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