阪急、阪神経営統合で当事者の思惑は?
阪急、阪神経営統合に関する続報です。
阪急HD、阪神株TOB方針確認・取締役会既定方針どおり淡々とスケジュールをこなした感がありますが、まだまだどう転ぶかわからない状況に変わりはありません。
阪神株の46%を保有する村上ファンドからの株式買取りをTOB(株式公開買い付け)で行うということですが、さまざまな憶測で、TOB価格は800円台ということで、阪神j株に失望売りが広がって値を下げたようですが、それでも900円台ですからTOB価格が市場価格を下回るという状況です。これは大量保有する村上ファンドからの買い取りをピンポイントで実施しようということです。大量保有する村上ファンドとしては、現状では市場に売りに出せば値崩れを起こして利益確定が難しくなるわけですから、市場価格を下回っても、十分な利益確定が可能な水準の価格であれば、応じる可能性はあります。ただし可能性は低いと思いますが。
一方で阪神の保有資産評価から見た株価水準は700円程度と言われており、TOB価格はそれを上回るわけですが、その差額は阪神のブランド価値であり、統合のシナジー効果を織り込んだときの適正水準という説明が阪急HD株主に対してなされるものと思われますが、それを実現するためには、少なからず阪神の事業のリストラを強いられることになると思われますので、今度は阪神労組筋の同意を得にくくなるなど、なかなか難しい微妙さがあります。
というわけで、まだまだ視界不良が続く経営統合ですが、そもそも村上ファンドにとっても、この展開は予想外だったのではないかと思われます。46%もの株式取得に至ったのは、早い段階で兆候を認識しながら、有効な対策を講じることができなかった阪神首脳陣の無策によるものである可能性があります。
村上ファンドによる阪神株取得は、梅田西地区の保有不動産が狙いではないかと言われました。実際梅田から福島にかけての地区で大規模な再開発が行われており、それを狙って阪神株を取得したのではないかと言われました。阪神の経営権を取得する意思があるならば、可能性はありますが、当初より純投資として経営参加の意思なしとしてきた村上ファンドにとっては、不動産投資は利益確定までの間に長い時間を要する非効率なもののはずです。もっと短期間に阪神の株式価値を高めることを考えていたのではないかと思います。ま、この辺は憶測の域を出ない話ではありますが。
元々阪神という会社は、創業以来チャレンジャーであったはずなんですが、戦後60年にわたって大手5社体制で安定していた関西私鉄界で、すっかりおとなしい虎になってしまったようです。そもそも阪神は汽車ダイヤで乗客の利便性など無きに等しかった官鉄線の平行路線として計画され、まだ鉄道網の整備途上で平行路線など論外で、少なくとも私設鉄道としては不可能だった路線を、都市内の路上交通の一部として府県知事特許で事業が可能な軌道法準拠で事業を立ち上げ、おそらく強烈なロビー活動の末に、路線の一部が道路にかかっていればよいという当局の見解を引き出したものです。その結果日本初のインターアーバン(都市間電車)として事業をスタートさせたばかりでなく、これを前例として後の京阪、阪急、近鉄、山陽など各社の事業に道をひらいたベンチャー企業だったわけです。同時期に開業した関東の京浜も、当初は大師電気鉄道の商号で官鉄川崎駅と川崎大師を結ぶ小規模な事業者に過ぎませんでした。
阪急との関係ですが、元々阪鶴鉄道の買収で現金を得た阪鶴の株主の資金を吸収し、配当を続けるという後ろ向きな事業としてスタートした箕面有馬電気軌道(以下箕有と記す)とは事業エリアも異なっていたのですが、箕有中興の祖小林一三による沿線開発が軌道に乗り、事業エリアを拡大してきたことで接点ができるのですが、当初は友好的なものだったようです。争いの始まりは六甲山の観光開発に関連するようで、ひょんなことから未成線の灘循環電気鉄道の経営権を箕有が取得したことで、箕有による阪神間の都市間輸送参入が実現し、よく知られたライバル物語となるのですが、どちらかといえば挑戦的だったのは阪神のほうで、神戸側のターミナル立地でも常に優位性を維持しようとしましたし、競争は阪神間に留まらず、系列の尼宝バスによる宝塚進出で阪急の肝を冷やしたりという具合です。戦時統合を逃れて独立を維持したあたりも、ある種の政治力を発揮したのかもしれません。逆に和歌山合同電気の買収や阪和電鉄への出資で失敗し、阪急に併合され、自ら建設した新京阪線を阪急に取られてしまった京阪とは真に対照的です。
灘高出身の村上氏が、この辺の事情をどれぐらいご存じかは定かではありませんが、ある種阪神経営陣への買いかぶりがあったとすれば、46%もの株式取得という、どう考えても短期に利益確定するには難しい局面を呼び込んでしまったことの説明がつくような気がします。戦後60年の安定が、阪神の起業家マインドを錆びつかせるには十分だったということではないでしょうか。村上ファンドの動きを早くに察知しながら、株価向上につながる対策を講じるでもなく、買い進むにまかせてしまい、結果的にライバルの阪急HDによる救済を歓迎するに至るというのは、何ともみっともない話です。しかも救済者は有利子負債9,400億円と、規模を除けばどう見ても現在の阪神よりも格下の相手です。
というわけで、まだまだ予断を許さない状況は続くと考えるべきでしょう。
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