高千穂鉄道が問いかけるもの
ウォームビズといえば、クールビズの冬版として環境省が提唱した省エネ運動で、室温20℃以下で厚着をすることで省エネを図ろうということでしたが、実は落とし穴があります。六本木ヒルズなどの高層オフィスビルでは、元々蓄熱性の高いコンクリート躯体の体積が大きく、また省エネ設計ということで断熱性能も高いのですが、その結果、IT機器の発熱で躯体が暖められ、冬季夜間の暖房オフ時間の室温が27℃という現実がありまして、ウォームビズのために冬でも冷房をしなければならないという本末転倒な現実があります。土地の高度利用、効率的利用のためには高層化が欠かせないと考えがちですが、実はかように資源浪費的で、果たして経済効率を高められるのかどうかは微妙です。
それでも都市の集積度が高い大都市圏の中心部の局地的なオフィス需要を満たしつつ、周辺の開発を抑制して公園その他の公共空間を作り出す手法としての高層ビル建設自体は意味のあることでしょうし、六本木ヒルズの例で言えば、麻布十番あたりのマンションや商業地としての発展に寄与したという意味での評価は可能です。むしろ問題はどこもかしこも高層ビルを建ててしまうことで、資源浪費を助長することにあると考えます。
しかしここ数年、不動産の証券化による流動性向上や、空中権など条件つきながら容積率緩和などで、高層ビルが次々と建ちあがり、再開発ブームの様相を呈しておりますが、既に高度集積となっている首都圏地域の再開発の結果、集積度をさらに高めても、国全体として見れば首都圏地域の人の移動や物流を非効率なものにする結果、国全体としての経済的パフォーマンスは低下することになります。
こういった観点から高千穂鉄道問題を見ると、首都圏と対極に位置する農山村の現実が浮き彫りになります。大都市部で資源浪費の結果、C02排出量が増えて温暖化が進み、結果的に台風で被害を受けるのは、高千穂鉄道沿線のような末端部となるということです。首都圏地域の再開発による利益はもっぱら首都圏のビジネスパーソンが享受し、開発の結果生じたコストは遠く離れた農山村地域が負うという、ある種自然の搾取と呼ぶべき現実があるわけです。
高千穂鉄道の被害総額は26億円といわれておりますが、これはあくまでも原状回復を前提とする数字でして、同等の水害を想定した高規格化を行う場合は40億円といわれます。首都圏の再開発による開発利益からすれば、けっして大きな数字ではないんですが、それ以前に開業以来赤字基調で推移し、利子収入を期待して積んだ経営安定基金も、長期に亘る低金利で赤字補填を果たせずに取り崩し、被災直前には車両の更新時期を迎えながら財源が得られないということで存廃の議論が始まったいただけに、県による復旧断念は、残念ですが現実的に避けられなかったといえます。そもそも低金利は銀行の不良債権問題があったから長期化したもので、結果的に融資を受けてきた大手企業が救済され、銀行自身もなりふり構わず不良債権の償却を進めて危機を脱した反対側に、高千穂鉄道のようなローカル鉄道の経営難へとしわ寄せされたということがいえます。
格差社会がいわれる昨今、なかには怪しげな議論も多数あるんですが、少なくとも地域間格差の拡大は、間違いなくここ数年拡大しております。格差拡大は市場経済に原理的にビルドインされた仕組みの帰結でもあり、格差を是正する仕組みが機能しなければ、格差拡大は避けられないところです。結果的に農業漁業林業などの第一次産業が疲弊し、補助金漬けで存続させているのですから、格差拡大のコストはむしろ高くなるのですが、三位一体改革でその補助金すらカットしようというのですから、地方の疲弊は留まるはずもありません。少なくともこの部分に関しては、小泉改革の負の側面と断定して差し支えないでしょう。
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Comments
フロンティア神代という会社は山口県の柳井といういわゆる過疎地で創業ですし、ジャストシステムは阿波が本社ですね。
IT関係は渋谷に集まるよりも地方にあつまることだって「県の考え次第」ではできると思いますが、やらないのは「県の怠慢」でしょう。
地方が国からの補助金での「お小遣い運営」を望んでいるうちは無理だと思いますが。
小泉首相は「もう小遣いないからバイトでも何でもすれば」とタブー視されていた地方の考えをぶっ壊したと思いますが。
そもそも「官官接待」を止めろといったのは我々国民。官官接待を止めるには国の関与を少なくすることこそやるべき道だと思いますが。そんなに国が悪者なんでしょうか。
Posted by: SATO | Thursday, May 04, 2006 02:30 PM
もとより地方の補助金頼みは問題なんですが、本文中で指摘しました"自然の搾取"を放置することが持続可能ではないこともまた確かなことといえます。
問題はそれを是正する社会的な仕組みがないことでして、国が悪者というよりも、こういった問題を放置することは、すなわち国の存在意義そのものが問われるということになります。
もちろん国が無策ならば地方は一念発起で自立を目指すべきなんですが、その足場そのものが崩れている中で、自己責任だけが問われるのでは、問題の解決にはなりません。
Posted by: 走ルンです | Thursday, May 04, 2006 04:09 PM
>こういった観点から高千穂鉄道問題を見ると、首都圏と対極に位置する農山村の現実が浮き彫りになります。大都市部で資源浪費の結果、C02排出量が増えて温暖化が進み、結果的に台風で被害を受けるのは、高千穂鉄道沿線のような末端部となるということです。首都圏地域の再開発による利益はもっぱら首都圏のビジネスパーソンが享受し、開発の結果生じたコストは遠く離れた農山村地域が負うという、ある種自然の搾取と呼ぶべき現実があるわけです。
このパラグラフのことでしょうか。CO2消費における温暖化はわかりますがそれと台風被害を直結させるのは「国際化だから外国人犯罪が増えた」というようなちょっと無理ある展開だと思います。セメントの使用量が増えても樽見は廃線とか言われていますよね。都市再開発でセメント需要が増えても廃線が避けられないのはこのパラグラフからは読み取れません。大井川鉄道は台風被害を乗り切っています。
国の存在意義というなら「セメントは貨物鉄道で運べ」と政令でも出せば良いのでしょうか。それに対してのコストは消費者もしくは税金という形で誰かが担えば良いのでしょうか。
価格アップなら消費者は避けます。グリーン購入などで助成金を出すという手もありますが、これとて財源不足。資本主義の自然な流れなら、低コストに流れていくのは仕方ないでしょう。それを国を挙げての洗脳ならば形を変えた「国粋主義」で怖いです。
Posted by: SATO | Friday, May 05, 2006 11:49 AM
あ、何か噛み合ってませんけど^_^;。温暖化と台風被害の関係は確かにストレートにつながるわけではありませんが、資源浪費の結果としての温暖化の利便性を受ける者とコストを負担する者の非対称という論点を申し上げているのでして、温暖化問題に限らず、都市と農村の関係というのは、ザックリこのように一般化して間違いではないのです。
当たり前の商品流通、当たり前の貨幣交換による契約的な関係の中で、片方が豊かになり片方が失っていくという関係そのものは、否定のしようがないんです。だからこそどこの国も農業部門を補助金で救済することでバランスを取っているわけで、現在の人類の知見では、残念ながらこれに勝るソリューションは見つかっていないのです。
ただしバランスを失した補助の行き過ぎは、逆に都市生活者の意欲を減退させるわけでして、日本に限っては、例えば国際価格の6倍という法外なコメ価格などに端的に現れているように、この側面の方が強かったといえます。生産財であるセメントの価格が下がれば雇用を直撃しますが、消費財であり生存的消費である食品の価格低下は、消費者の可処分所得を押し上げて、減税のような有効需要創出効果があるわけで、国民生活を豊かにするということならば、なすべきことは自ずと決まってくるものです。
Posted by: 走ルンです | Friday, May 05, 2006 07:10 PM