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Sunday, May 14, 2006

神話高千穂トロッコ鉄道へ県が支援?

復旧が模索されている高千穂鉄道ですが、こんなニュースが入ってきました。

高千穂鉄道の新社への財政支援、宮崎県知事も「助成検討」
記事によれば、高千穂鉄道の鉄道資産を譲り受けて運行を予定する神話高千穂トロッコ鉄道(以下神話トロッコ鉄道と記す)への資産無償譲渡の可能性について言及したということです。意味するところは、支援ではなく助成というところがポイントです。

つまり直接的な財政支援を必ずしも意味しないと読むべきなんでしょう。県の立場として、運休中の高千穂鉄道の出資者の一員として、神話トロッコ鉄道から高千穂鉄道へ要請されている問題について、鉄道事業法で求められている事業の基本計画書などが判断材料となるわけで、特段目新しい内容でもないんですが、事業の継続性など、将来の全線復旧を含めた事業の見通しを示すというハードルを明らかにしたとおいうことです。というわけで、復旧への一里塚ではありますが、状況が好転したと考えるのは早計です。

神話トロッコ鉄道による復旧の取り組みの困難さは宮崎日日新聞の特集にまとめられておりますが、たとえばJR北海道が開発中のデュアルモードビークル(DMV)に期待するなど、実現性に疑問を持たざるを得ない部分もあります。

DMVに関してですが、道路走行を前提とした車両にとって本来不要な鉄道走行装置を搭載する結果、道路運送法に定められた重量制限をクリアする必要と、鉄道車両としての安全性の両立という難しい課題があり、簡単に実用化とはいかないでしょう。DMVがマイクロバスサイズとなった理由は重量問題からですし、背中合わせの2連となったのは、輸送力を持たせる意味と片側にしか客用扉のないバスボディの流用を前提とした苦肉の策でもあります。そもそもヤナセやコマツが鉄道会社に納入した保線用軌陸車の車検証記載重量の偽装問題で明らかになったように、業務用で低速運転前提の保線用軌陸車でさえ重量問題のクリアに苦慮している現実を見ると、旅客を乗せて安全に運ぶ営業用DMVの開発のハードルはきわめて高いといえます。

現実的なシナリオを考える必要があります。このときにネックとなるのは、鉄道資産の公的所有についての明確な定義がないことです。一応三陸鉄道で鉄道資産のインフラ部、具体的には線路、駅、信号装置などの建造物を取り除いた路盤、橋梁、高架橋などの部分について、公的保有とすることで、固定資産税負担を逃れていて、整備新幹線並行在来線の受け皿となった青い森鉄道でも踏襲されたいわゆる“公設民営”方式が実施されてますが、これは現行法の範囲内での負担軽減策として考えられたものの、元々鉄道資産の固定資産税は“公共性”を理由とし、また生産設備を構成するもので事業が継続する限り転売の可能性がないという理由で評価額を1/3に減免されているのですから、その中の素地部分についてだけ固定資産税負担をなくしたところで、負担減の程度は微々たるものといえます。

宮崎日日の特集にもありますが、とりあえずの復旧区間(槇峰-高千穂間)の無償譲渡を受けたとしても、被災区間である延岡-槇峰間を当面誰が管理するのかという問題は残るわけでして、仮に高千穂鉄道を清算するとなれば、何らかの処分をしなければならないわけで、たとえば道路用地として無償供出されるとしても、その時点で延岡側の復旧の可能性を閉ざしてしまうことになります。保留地として継続的に公的保有されることが望ましいのですが、現行法では難しいところです。本来は鉄道事業法などで公設民営の保有経営形態を定義できればすkっきりしますが。

公的助成といっても、場合によっては財政支出を必ずしも必要としないケースはありうるわけでして、制度を見直すだけで道が拓ける場合があるということを申し上げておきます。少なくとも高千穂鉄道の保有する鉄道用地は、転売できるような資産価値があるとは思えませんが、生きた鉄道として活かされる場合だけ、地域経済の下支え効果によって価値を生む性格のものといえます。地域の自立を制度面で支援することこそ、地方分権であり改革の名に値するものといえるのではないでしょうか。

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Comments

自治体の取り組みから見ても廃線はまぬがれなく、特段の大きな記事も出ないところから見ても地元とは折り合ったかもしれません。
観光路線とするならば営業距離は短いほどやりやすいので未決定の区間はやはり廃止して退路を断ったほうが良いと思います。
頚城鉄道の部分廃止でなぜか新黒井という国鉄接続部分を廃止したのがわからなかったのですが、過日読んだネコパブの「頚城鉄道」によれば代替道路があったことが廃止の理由で、全線廃止をもくろんだものの、残存区間は平行道路がないので止む無く部分廃止にしたということです。
観光路線になった段階でもはやインフラから遊戯施設に形を変えたと理解するのが妥当だと思います。

Posted by: SATO | Sunday, May 14, 2006 07:26 PM

こんにちは。いつも興味深く読ませていただいてます。

さて、軌陸車の重量問題について少々気になったのでコメントさせていただきます。
あの問題は確か、普通免許で運転できるようにGVWを8t以内にすべく偽装した、といった内容だったと思います。
ですから重量超過していても、大判ナンバー取得すればそれで済む話で、DMVの重量問題とは趣を異にする問題です。

細かい指摘、失礼いたしました。

Posted by: al | Sunday, May 14, 2006 09:10 PM

コメントありがとうございます。
>SATOさん
現実の問題として難しいのは、神話トロッコ鉄道の関係者も百も承知かと思いますが、頚城鉄道の場合と違って、路線長も長く、広域的には整備された国道が並行するものの、集落を結ぶ生活道路は大型車の進入が難しく、それがまた復旧を困難にしているなど、路線のロケーションはかなり異なります。延岡-高千穂間で50kmというのは、東海道線で東京から藤沢近くまで達する距離であり、槇峰まででも横浜あたりの距離感となります。集落に沿った代替バスの運行では足が遅くて交通機関として役に立ちません。

だからこそ当面はトロッコ列車で観光輸送を目論むものの、その先に全線復旧の目標を置いているわけです。可能性は限りなく低いものの、地域として自立しようという気概は立派です。

>alさん
ご指摘ありがとうございます。もう少し補足しますと、軌陸車にしろDMVにしろ、金に糸目をつけずに一点ものの特注品を作ることができるのならば、最適設計の可能性はあるんでしょうけど、コスト面から市販の量産車をベースにせざるを得ないために、重量問題から逃れられないわけで、実際経済合理性を考えれば定員の多い大型バスベースの方がペイラインをクリアしやすいはずですが、現実的にマイクロバスベースにせざるを得なかったのです。特に営業用を想定するDMVの開発のハードルは高いといえるかと思います。

Posted by: 走ルンです | Sunday, May 14, 2006 11:37 PM

DMVがマイクロバスになったのはレール幅とタイヤ幅が一致する車両がこれしかなかった故の選択だったはずです。
DMVの本来目的が限りない車両価格の低減なので、この方向性は間違えていないと思います。国内の気動車価格はメーカーの統合により、1両1億円を超えてしまいました。バスとしては高価な1両2千万円という価格も、気動車として考えれば、もの凄く安いのです。

現時点では背面連結は効率が悪いことがようやく分かったみたいで、カルガモ方式への変更が打ち出されています。かなりの重量軽減が出来るそうです。また、輸送力も3両以上の連結が出来るそうです。
しかし、積雪による脱線事故が起きてから、赤信号に限りなく近くなっています。踏切上のわずか10cmの積雪で脱線というどうしようもない現実がDMVの実用化を非常に難しくさせています。除雪方法の変更による解決を狙っていますが、DMVが目標とするコスト低減策とは相反します。私個人の意見としては、小径の鉄車輪を使用する限り、解決は相当難しいでしょう。

ただ、DMV技術そのものは、レール積載時間の大幅短縮による保守車両の使いやすさ向上やGPSを使った1m単位の高精度と地上装置の簡略化による低コストを両立させた地方線区向け鉄道信号システムなど、利用価値は高いものと考えています。

個人的にはどうしても政治面で鉄道を残さないと難しい中国山地のローカル線に対して導入するのが一番良いと思っています。

Posted by: あんぱん | Thursday, May 18, 2006 10:49 PM

コメントありがとうございます。

レール幅とタイヤ幅の一致ですか。そこまでしてコストダウンしなければならない事情にJR北海道の置かれた現状の厳しさを感じます。なにしろ新潟鉄工製レールバスを12年で廃車して国鉄型のキハ40で置き換えたぐらいですから、結果的に高い買い物をしてしまいました。

確かに開発の方向性の正しさはおっしゃるとおりなんですが、気になるのは、鉄道の存続が難しいほどの密集度の低い地域の場合、道路を整備してバス化するのも、有力な選択肢ではあるんですね。特に大平原に真っ直ぐな道路が続く北海道の場合ですと、そこそこの距離でもバスが鉄道並みの速度で走れたりするわけですから、DMVのようなギミックを必要とするためには、道路整備とバス輸送では達成できないレベルの輸送サービスが可能かどうかというのは、大事なところだと思うんです。

仮に地元自治体の財政支援を仰ぐ場合でも、経済合理性が説明できなければ議会筋で否決される可能性もあるわけで、その辺で開発可能性を厳しく評価しておいた方が良いと思います。

おっしゃるようにむしろ中国地方など山間部のローカル線向けのソリューションに技術的空白がある状況ですから、そこへ特化したものとしてDMVを考えるのは面白いと思います。問題は開発費をだれが負担するかですが、JR西日本に期待するのは現実的に難しいでしょうね。困ったもんです。

Posted by: 走ルンです | Friday, May 19, 2006 12:26 AM

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