京王の躓き阪神の迷走
京王と阪神は、結構類似点が多いのですが、どちらもバブルに踊らなかった点で、財務の健全性が言われます。厳密に申し上げれば、保有不動産の価格下落対策として、2002年3月期までの時限措置として、不動産損益通算の特例というのがありまして、関東では東武鉄道のみが適用を受けましたが、関西の5社はすべて適用されてますので、阪神の健全性はあくまでも関西の5社中で、という但し書きが付きますが、それでも含み益を吐き出してなお9,000億円以上の有利子負債が残る阪急HDに対し、再開発で地価が下げ止まった西梅田地区に不動産を保有する阪神には余裕があります。
両社ともに軌道法準拠で開業したインターアーバンを出自としますが、官鉄の汽車ダイヤに挑んだ阪神に対し、荷馬車や駕籠がライバルだった田舎電車の京王と、実態はかなり違いました。しかしインフラの脆弱さから戦後まで小型車が長編成で疾走する独特の風情から、不断の改良工事を経て大型車へと切り替えた歴史過程の類似性や、両端ターミナル駅が地下駅だったり、ホームへ向かう構内通路に地下道が多く跨線橋が少ないため、駅のたたずまいなども似ています。
そして片や耐震偽装事件で、他方は村上ファンドの標的として、ニュースな会社となりました。両社には思わぬ接点があります。まずは京王ですが、
耐震強度偽造事件で注目の京王プレッソイン
耐震強度偽装でホテルコンサル登場この記事の中で、京王電鉄が純投資として宿泊特化型ホテル事業への進出を決め、そのときに総研のコンサルを受けたことを指摘いたしました。京王にとっては痛い授業料ですが、リスクをとって手元資金の有効活用を目指したそのスタンスは、結果は失敗だったとはいえ、経営面からは褒められるべきことといえます。
対する阪神ですが、保有不動産が下げ止まって上昇に転じたこと自体は、再開発の結果として地道な努力の成果ではあるのですが、それによって生じた含み益を活かす経営に思いを致さなかった結果、村上ファンドの標的とされたのですから、経営姿勢のぬるさを指摘されても反論できますまい。まして昨年9月時点で村上ファンドの大量保有が発覚してから、これといった株主価値向上策を打ち出すでもなく、ホワイトナイト探しに終始した半年だったといえます。
最初に助けを求めたのは、どうやら京阪だったようです。しかし京阪単独で村上ファンドの保有する阪神株を全て引き受けることなどできるはずもなく、京阪が呼びかけて在阪私鉄4社(京阪、阪急、近鉄、南海)を中心に関西財界の出資も仰いで、野村プリンシパル証券を監事とする受け皿ファンドを形成し、村上ファンドとの交渉を考えていたようです。阪急との経営統合は、これとは別に阪急単独で阪神株買い取りを検討していたものが、新聞報道でスッパ抜かれて表面化し、その結果阪急の意向で在阪4社の検討はストップしたようです。このあたりはさまざまな憶測が流れ、ネット上でもあれこれ詮索されたようですが、結論からいえば、1年前に比べて倍の水儒に値上がりした阪神株の時価が交渉のネックとなり、阪急HDと村上ファンドの交渉も不調が続いているというのが現状ということとなります。ま、村上ファンドの保有株式数が約2億株ですから、10円で総額20億円ずれるというスケールの話なんで、簡単にまとまるわけないんです。
現時点ではまだ不透明な部分はありますが、株主総会前に村上ファンド保有の阪神株は阪急HDが買い取ることで決着すると考えるのが妥当な雲行きです。理由はいくつかありますが、強気一辺倒に見える村上ファンド側の方が、実は追い込まれていると考えられます。理由はいたって単純でして、株主提案のように取締役を選任して経営に参画すると、大量保有する阪神株の売却はインサイダー規制の対象となるということです。取締役選任後は、実は村上ファンドの動きに自由度がなくなるという点で、本気で経営権を取りにきているわけではないと考えられます。加えて鉄道経営のプロをスカウトする気なら可能だったはずなのにそうしなかったことも、経営権取得の意思がないことを示す狙いがあると考えられます。第一経営というのは、村上ファンド以外の54%の株主の利益のために汗をかくということですから、何とも似合いません^_^;。
というわけで、メディア報道を含めて正しく把握されているとは言いがたいんですが、村上ファンドの現在の交渉相手は阪急HDであって、玉井取締役の件など、どう考えても過剰反応でしかないんですが、阪神経営陣がいろいろコメントを発しても、既に当事者能力を欠いているわけで、ありていにいえば負け犬の遠吠えなんですね。また阪急が買い取るにしても、今度は阪神の保有不動産の含み益が阪急HDの有利子負債の償還に使われる可能性もあるわけで、阪神にとってはけっして万々歳とはいかないんですが、そこまでは考えてないでしょうね。ホントしょーもなー。
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