JR名松線ディーゼル車無人走行の深層
うーん、何ともお粗末な事故が起きたものです。超辛口で参ります-_-;。
無人車両、8・5キロ“暴走”名松線といえばJR東海で唯一の特定地方交通線引き受け路線で、国鉄末期の台風被害で廃止が検討されたものの、並行道路が未整備という理由で復旧し生き残った路線です。そんな路線ですから、線区別収支はJR東海路線中最悪であることは言を待ちません。
津のJR名松線
ただ、東海道新幹線を擁し、在来線もおおむね収支均衡ラインに近い優良路線の多いJR東海にあって、40km余のローカル線が垂れ流す赤字はものの数には入らないようで、JR発足後19年間、存廃が話題になることはありませんでした。むしろ冷房付の新車に置き換えられるなど、輸送実態からすれば破格のサービスがされていると言ってよい状況です。路線はほぼ雲出川沿いを走り、松阪から伊勢川口までは近鉄山田線-大阪線とほぼ並行していて、一志と近鉄線川合高岡は乗換駅として認知されております。そういう路線ですから、主な利用客は私鉄より割引率の高い通学定期利用者が主体となるわけで、収支が悪いのも無理もないところです。
この辺は国鉄から切り離された多くの三セク鉄道が存廃の危機に直面している現状からすると、何とも不公平感を禁じえないところです。台風で被災した高千穂鉄道が、原状回復で26億円、災害対策込みのハイグレード化で40億円の負担ができなくて復旧のめどが立たないのと比べると、何とも恵まれた話ではあります。ま、それはそれで良いんですが。
問題は乗務員のモチベーションが維持できるのかどうかです。記事によれば、主に紀勢線、名松線に乗務する運転暦2年4ヶ月の乗務員ということで、JR東海の中ではローカルな区間を担当していたのですが、JR東海では他社が採用している鉄道部や鉄道事業部といった特定線区の独立組織形態にはなっていないようです。JR各社でも最も株価の高い優良企業ですが、JRのような大組織では、現場のモチベーションを高める工夫は重要です。
JR東日本では現場への権限委譲が進んでいて、自律分散的な組織形態へ移行しており、例えば尼崎事故で表面化した悪名高き日勤教育でも、JR東日本では、規定変更や装備変更その他に伴う運転取り扱いの周知徹底のためにベテランの指導乗務員が代表で参加するなど、安全意識の共有に重点が置かれているのに対し、JR西日本ではイジメに近い精神注入が行われていたわけですね。JR東海も西日本と似たり寄ったりらしいんで、心配なところです。
該当する乗務員に気の緩みがあった可能性は高く、そのことは責めを負うべきことではありますが、それ以前に現場の雰囲気がどうだったのかが気になります。ワンマン列車の客扱いは結構大変な作業です。特に混雑列車ではかなりのストレスとなりますし、実際に客扱い時間も長くなってダイヤ維持に苦労する場面もあるわけで、この辺は実態を見ないとわかりませんが、運行経費を切り詰めるために編成減車や減便をわりとドライにやるJR東海だけに、一抹の不安を禁じえないんですね。
この辺は以前の記事でも指摘しましたが、企業経営上は正義であっても、サービスの切り下げや現場の過重負担で採算性を確保しようとすれば、次第にパフォーマンスが落ちて長期低落傾向に陥る心配があります。発表された10月改正で、ようやく名古屋地区の快速6連化その他の輸送改善が実現するようですが、在籍車両減車の中で名古屋地区へ車両が重点配分されるとすれば、中央西線中津川以北や飯田線辰野口などのローカル区間での減便は避けられないところで、結果として利便性が低下して乗客が逸走し、減便が繰り返される縮小均衡に陥る可能性大といえます。人口減少下で過疎化が限界的に進捗する状況下では、サービスの切り下げには慎重であるべきです。
あと最後に苦言ですが、このような事故を引き起こしながら、オフィシャルサイトで謝罪文ひとつ掲出しないというのはいかがなものでしょう。首都圏で乗客に低姿勢なJR東日本社員を目の当たりにしていると、こういった感性の鈍さが信じられないんですがね。
| Permalink | 0
「ニュース」カテゴリの記事
- 年収の壁のウソ(2024.11.02)
- もう一つの高齢化問題(2024.10.27)
- Suica甘いか消費税のインプレゾンビ(2024.10.19)
- 三つ子の赤字(2024.10.12)
- 地方は創生できない(2024.10.05)
「鉄道」カテゴリの記事
- 年収の壁のウソ(2024.11.02)
- もう一つの高齢化問題(2024.10.27)
- Suica甘いか消費税のインプレゾンビ(2024.10.19)
- 三つ子の赤字(2024.10.12)
- 地方は創生できない(2024.10.05)
「JR」カテゴリの記事
- 年収の壁のウソ(2024.11.02)
- もう一つの高齢化問題(2024.10.27)
- Suica甘いか消費税のインプレゾンビ(2024.10.19)
- 三つ子の赤字(2024.10.12)
- 地方は創生できない(2024.10.05)
「ローカル線」カテゴリの記事
- もう一つの高齢化問題(2024.10.27)
- 赤字3Kの掟?(2024.09.21)
- これからも失われ続ける日本(2024.06.15)
- インフレ定着が意味するところ(2024.04.28)
- インボイス始めました(2024.03.23)
「民営化」カテゴリの記事
- 年収の壁のウソ(2024.11.02)
- JRの掟?(2024.09.15)
- イノベーションを阻むもの(2024.06.22)
- いちご白書をもう一度(2024.05.11)
- 国家は憲法でできている(2024.05.03)
Comments
報道によると転動防止措置をし忘れた、とありますが、手歯ドメのことでしょうか、それとも車輪止めでしょうか。
それにしてもこれだけの無人走行は記憶にありませんね。想像するだに恐ろしい光景です。
最近は、JR西日本の新幹線運転手睡眠時無呼吸症候群による完全ATCブレーキ作動による停止など、今まで考えられなかったような事故が相次いでいますね。
Primera
Posted by: Primera | Tuesday, August 22, 2006 10:08 PM
走ルンですさん、こんばんは。
>飯田線辰野口などのローカル区間での減便は避けられない
やっぱり(-_\)
JR各社だけに限らず、鉄道各社は「採算性」で事業展開するしかないですよね。
「将来性」なんて言葉は疲弊し切りそうな地方都市に関しては、ありえないし…。
今日付の地域の新聞に出ていた「中央リニアを飯田駅に!」という記事も寂しさ一杯です。
Posted by: SAC | Tuesday, August 22, 2006 11:54 PM
こんばんは。
いつも大変お世話になります。
名松線のお話。
呆れてものがいえないです。
鉄道の難しいところで、輸送密度が低いとどうにもならないということは、
あると思います。
結局つくばエキスプレスのように
鉄道と都市計画を一緒にやるしかないと思います。
このように声をあげることから、製造中止になりかけた麻酔薬が製造継続に
なったようにしていくことが大切になると思います。
これからもおからだを大切にしてください。
そしてますますのご活躍を期待しています。
では、失礼いたします。
Posted by: とまと | Wednesday, August 23, 2006 12:43 AM
コメントありがとうございます。
Primeraさん>車輪止めを忘れたようです。しかし長時間となる夜間留置での転動防止措置は基本中の基本のはずです。忘れるほど疲れていたか気が緩んでいたか、終業点呼でチェックできなかったのかなど、いずれにせよ当事者の処罰で幕引きすれば事足りるとは思えませんね。
新幹線のATC絡みでは、デジタルATCのプログラムミスによる速度超過の方が深刻な問題ですが、これもJR東海でした。乗務員の突然の心神喪失でもとりあえず停止できたJR西日本のケースはむしろ安全性の再確認になったといえます。
SACさん>発表では定かではありませんが、車両需給上ローカル区間の減便は避けられないものと思われます。車両は新型できれいになっても、乗車機会が少なくなれば、その方がサービス上は問題ですね。
つまるところコスト削減を技術革新で実現するか減量化や労務管理で実現するかで大違いということになります。
とまとさん>ローカル線の問題は地域独特の問題が隠れていて、なかなか実態は把握しづらいのですが、努力次第で好転の余地があるとか、地域にとって欠かせない輸送サービスが実現しているとか、何か存在意義みたいなものが明確であれば、このような事故は起こらないような気がします。おざなりに存続した赤字ローカル線ゆえの問題ではないかということです。とすれば根が深い問題といわざるを得ません。
Posted by: 走ルンです | Wednesday, August 23, 2006 05:54 PM
西がああいうわけわからん労務管理になったのは、組合間対立が酷いからなのですが…国鉄改革の最重要な目的だった労務管理の正常化で複数組合にさせない労務対応に失敗したのが、致命傷でしょう。
その上、世代構成の壮絶な歪さもあります。JRの中で最も労務管理が歪だったのが西日本ですから人災を起こすのも当然であります。運転士に保線や車両整備を日常業務としてさせていますからね。<だから一斉運休が必要になります
この夜間留置車両の逸走は、岡山県内だけでも2件あります。(一件は赤穂線、もう一件は姫新線)
東の場合は、バネ仕掛けの駐車ブレーキ装置を搭載することで発生を防いでいます。手歯止めが確実なのですが、外すのを忘れると逆に事故となります。
Posted by: あんぱん | Sunday, August 27, 2006 11:27 PM
コメントありがとうございます。
労組の対立は各社抱えているわけですが、東でも中核系の千葉動労の問題はあるし、北海道の国労系組合員の余剰人員受け入れ問題では、選別を行った国鉄清算事業団に問題があったにも拘らず不当労働行為の汚名まで着せられました。それでも一方的に押さえつけて表面的な労使協調を演出しなかったことが、かえって労使間の良い意味での緊張感を醸成しているかもしれません。
>この夜間留置車両の逸走は、岡山県内だけでも2件あります。(一件は赤穂線、もう一件は姫新線)
うーむ、何か末期症状の悪寒-_-;。運転士に過重労働を押し付けているとすれば安全上問題ですね。同時にそうでもしないと維持できないほどJR西にとってのローカル線問題は重荷との見方も可能です。小浜線電化のように改善投資は地元自治体次第となると、いよいよ安全をお金で買う時代ということでしょうか。ヤレヤレQ-o-。
Posted by: 走ルンです | Monday, August 28, 2006 12:17 AM