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Tuesday, September 05, 2006

新幹線500系の功績

報道によれば、新幹線N700系の投入を期に、来夏にもJR西日本500系が東海道区間から引退するということですが、メディアの報道姿勢には疑問があります。

世界最速は居住性不評、500系「東海道」から引退へ
円形に近い断面形状に5列シートでシートピッチも狭いなど、一部の乗客に忌避されていたのは確かですが、別にそれが引退の理由ではないんですけどね。500系引退後もチープ&ノイジーな^_^;300系は継続使用されるわけですし、むしろ3両ユニットで短編成化が難しく、山陽区間へ転用できない300系を使い続けるからこそ、500系を自社線専用とする選択をしたというのが実際のところでしょう。

500系は設計段階からJR東海にクレームをつけられ、特に居住性に関わる5列シートやシートピッチ縮小は、300系の定員に合わせるための苦肉の策だったことは指摘しておきましょう。さらにオール電動車でハイパワーを頼みとした設計だったことから、オーバースペックを指摘され、実際に高価だったので増備も進まず、9編成の少数派に留まりました。また変電所要量を盾に東海道区間ではスペックダウンを余儀なくされていたのですが、その後、コストパフォーマンスを重視した700系、さらにデジタルATC対応と車体傾斜システムによる曲線の速度制限解消を狙ったN700系と共同開発へ進んだことを考えると、むしろJR西日本にとっては名誉ある撤退と言って差し支えないでしょう。

換言すればJR西日本は500系開発でリスクテイクすることで、それ以上の見返りを得たわけですから、経営判断としては正しかったわけです。特にN700系ではパワーアップされたことが意味深です。新幹線は車両と線路の全体をシステムとして捉えているので、このあたりは従来のJR東海の主張と矛盾するのですが、長距離をノンストップで走る新幹線車両では、特に高速域での力行性能が重要な意味を持ちます。平たく言えば、より早く最高速に達することで、全体の力行時間を短くできるわけですから、より経済的な運転が可能になるわけです。結果的にJR西日本の主張をJR東海に認めさせたことになります。

そうでもしなければ、JR東海は未だに300系を造り続けていた可能性もあるだけに(笑)、JR西日本のぎりぎりの選択は成功したといえるかと思います。付け加えてここ数年の対航空の輸送シェアで見ると、ひかりレールスターの投入などで乗客を取り返しているJR西日本に対し、神戸空港開港や羽田発着枠拡大の影響でシェアを落としたJR東海という構図となっております。ただ輸送の絶対量が多いがために、JR東海に危機感が希薄なのが気になりますね。

あと、500系のアクティブサスペンションとN700系の車体傾斜システムではハード的には近いもので、微細なレールの凹凸を打ち消す制御をするか、カーブで遠心力を打ち消す制御をするかの違いといった程度のものです。その気になれば500系でも車体傾斜システムの後付けは不可能ではないんで、やはり引退の決定的な理由というわけではなさそうです。

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Comments

おはようございます。
いつも大変お世話になります。
東海はいじめっ子。
西日本は暴走族。
そう思うのはとまとだけでしょうか。
これから秋の大雨が控えているようなので、
危機管理を大切にしてください。
では、失礼いたします。

Posted by: とまと | Wednesday, September 06, 2006 09:57 AM

補足を…

500系は本来320km/hでの運行を目指したのですが、結局地上設備の問題が酷くて、断念せざる得ない結果になりました。
全電動車という問題も、渦電流ブレーキ車よりも電動車が軽いという現状や回生ブレーキによる省エネ、インバーターなのでソフトの設定だけで出力制限が出来るなどを考えると、全電動車だから不利とは言えないでしょう。(JR西日本管内に入ると、加速度を落とす設定にしています)

700系は500系の結果をJR西から海へ渡す形で開発が進められました。500系のデーターが無ければ、あれだけ完成度が高い車両に短期間で仕上がることはなかったでしょう。
あの当時の300系は270km/hで運行するには技術が未熟だったと言えます。300系はパンタの変更やら台車のバネ構造の変更やら大規模な改修を受けるハメになりました。

500系はアルミハニカム構造で鉄道車両としては他に例が無く(WIN350でも試作していない)、編成ごとに仕様を変えていることからも、試作車が営業運転を行っていると考えています。
尖ったものでも簡単に穴が開く車体構造であり、耐久面を考えると、そろそろ潮時ではないのかと思います。
グランドひかりも結局かなり早い時期に撤退するハメになっています。

当初から転用を考えて短編成が組める構造にしていますし、その為の走行試験(8両+8両)も登場時にやっております。
JR西日本が朝夕の速達レールスターの設定をこの前のダイヤ改正から試験的に始めていますので、このスジに投入されると思います。
 さらに300km/h越えを目指している九州新幹線直通用新車両の試験車としての活躍も期待出来るでしょう。

Posted by: あんぱん | Sunday, September 10, 2006 02:54 PM

こんばんは。

管理人様以外のコメントにたいして、コメントする失礼をご容赦ください。

あんぱん様。
はじめまして。
東海道山陽新幹線についてですが、
地上設備の限界とのこと。
こうなると日本のマグレブを入れるより
先にドイツのマグレブを新設し日本のマグレブは研究継続にしたほうが
公共の利益にかなうのかもしれないと思いますがいかがでしょうか。
では、失礼いたします。

Posted by: とまと | Sunday, September 10, 2006 09:28 PM

東海道新幹線と山陽新幹線の地上設備は規格が異なりますので、別物として考えなければなりません。

山陽新幹線はコンクリート材質の問題があり、高架橋やトンネルの補修工事を莫大な費用をつぎ込んで行う必要があります。
東海道新幹線も経年変化や規格の低さによる大規模補修が必要なのですが、税負担の軽減措置を受けて資金の積み立てを行って国鉄債務処理に一定のめどがつく10年後ぐらいに開始される予定です。一方で山陽新幹線の場合はこの措置を受けておらず、さらに現状でも可及的速やかに根本的な補修作業が必要なのですが、マスコミが騒がない程度の表面的な補修で等閑にされています。

JR東日本が360km/h営業運転を目指していますが、架線や防音壁など地上設備も含めたグレードアップを行う予定です。(ネコミミ新幹線が速度走行している区間は設備改良が終わった区間です)
300km/h以上に引き上げるためには、地上設備の大改良が避けられません。JR西日本には資金的余裕がない上に、大幅な需要拡大が見込めない以上、500系が320km/h走行が実現出来なかったのです。

N700ではデジタルATCを使った車体傾斜を行い曲線区間の速度向上を行いますが、当面は従来式のATCを使う山陽新幹線では使用出来ません。

新幹線の速度向上には縦曲線という建設当初に設計を行わないと、後から改良が非常に難しい厄介な問題があります。車体傾斜を行っただけでは最高速度の向上は出来ません。

東北新幹線や山陽新幹線では規格上は360km/h走行が出来るでしょう。北海道新幹線は400km/hも可能かもしれません。一方、需要と建設費からみれば、リニアが投入できるのは東海道ぐらいでしょう。しかし、リニアでも東京~大阪1時間運転は難しいことによる所要時間の差やターミナルがそのまま使えることなどによる建設費の軽減を考えると、東海道新幹線を大幅にグレードアップ(第二東海道新幹線)することも、考えの一つでしょう。

Posted by: あんぱん | Monday, September 11, 2006 10:27 AM

管理人様。
こんばんは。
度重なる無礼をご容赦ください。

あんぱん様。
ご教示頂き心から感謝申し上げます。
ここで大風呂敷を一つ。
東京から韓国ソウルまでマグレブをと思いますがいかがでしょうか。
これからもよろしくお願いします。
最後に、おからだを大切にしてください。
では、失礼いたします。

Posted by: とまと | Wednesday, September 13, 2006 06:33 PM

あんましヤボなこと言いたかないんですが、文脈を無視した突然の大風呂敷話は、丁寧な解説を下さったあんぱんさんに対しても失礼ではないかと思いますが。

マグレブの話がしたいならば、リンクを貼っていただいてかまいませんから、ご自身のサイトへ勧誘されたほうがよろしいのではないかと思います。

Posted by: 走ルンです | Thursday, September 14, 2006 06:50 PM

こんばんは。

管理人様。
あんぱん様。

このたびは、大変失礼しました。
取り急ぎお詫びします。

Posted by: とまと | Thursday, September 14, 2006 08:48 PM

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Tracked on Saturday, September 16, 2006 12:16 AM

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