飛んで飛んでまわってまわって国有化でおJAL
当ブログのリニア論争のコメントの応酬で少し触れましたが、日本航空(JAL)の前途が不透明です。
日航、資本支援を要請・主力行に2000億-4000億円JALでは一応否定しているようですが、日本政策投資銀行とメガバンク3行(三菱UFJ,みずほコーポ,三井住友)へ資本支援を要請しているもようです。いわゆるデッドエクイティスワップ(DES)と呼ばれる手法で、JALが議決権のない優先株を発行し銀行が引き受け、それを当該銀行の債務返済に充てるもので、債務の株式化とも言われる手法です。
正直なところ、JALがここまで追い詰められていたのが驚きですが、更にDESによる資本支援の規模が2,000億~4,000億円という金額も驚きです。特に政府系金融機関である日本政策投資銀行の債務残高が3,000億円で、第2位のみずほコーポレート銀行が400億円ぐらいですから、何のことはありません、郵貯、簡保、年金などのいわゆる財投資金が大量に投入されていたのですね。
政策投資銀の資金自体は、JR各社や私鉄、地下鉄の新線工事などにも投入されていますし、政府系金融機関改革で、民営化方針も出されているわけではありますが、やはり債務残高が突出している点で異様です。実際に民間銀行ではJALから資金を引揚げる動きも見られ、中央三井信託銀行は60億円程度あった債務を投資ファンドへ売却したようですし、りそな銀行や地銀各行も追随しそうです。元々民間銀行の多くは、政策投資銀の融資につきあっていたふしがありますが、JALの経営改善がさっぱり進まず、金融庁の銀行への検査で、JAL向け債権の格付けを破綻懸念先へ変更するよう指導されたことで、追加融資が事実上不可能になったと考えてよいでしょう。加えて政策投資銀も民営化に先行して金融庁の検査を受けることになっていますので、事実上銀行融資なしに資金繰りをしなければならない状況ということになります。そこで事実上DESしか選択肢がない状況となったわけですね。
一応民営化予定とはいえ、政策投資銀がDESに応じて債務を株式化した場合、議決権こそありませんが、事実上の半国有化ということになるわけで、87年の完全民営化から20年の節目の急旋回は皮肉です。もっとも政策投資銀を仲介して財投資金が注入されていたと見れば、民営化自体が虚妄だったという見方もまた可能ではあります。JALは難局を乗り切るには、リストラを強化して銀行の資本支援に向けてのアピールが必要となり、かくして関連事業の整理に向かうことになったようです。
日航、JALカード株売却へ・追加リストラ着手記事にもありますが、JALカードは非上場ながら時価総額1,000億円規模と見られ、特に会員に富裕層が多いということで、早速カード各社の争奪戦が始まっているようです。JALカードはSuica提携カードも発行しており、JR東日本も動くかもしれませんね。
元々政府出資の特殊会社だったJALの民営化20年は、ある意味JRの先行事例という意味合いもあったわけで、旅客6社貨物1社の特殊会社でスタートし、10年をめどに株式上場、政府保有株放出で完全民営化のシナリオを、JALは先取りしていたわけです。
ただし航空事業を取り巻く状況は様変わりでして、JALの不振も変化に対応できなかったということができます。87年当時は、いわゆる航空憲法による3社体制が健在で、JALが国際線と国内幹線、全日空(ANA)が国内幹線と国内ローカル線、東亜国内航空(TDA,後の日本エアシステム(JAS))が国内ローカル線で、幹線以外ではダブルトラックもなく、ほぼ完全に棲み分けがされておりました。
JALは国内線ではANAと競合してはいたものの、85年のプラザ合意以来の円高にも拘らず、国内販売の航空券はそれ以前の250円/ドル程度の固定相場で発行され、内外価格差による為替差益を得ておりましたので、国内線は赤字でも構わなかったのです。そういう意味で完全民営化とはいえ、民間企業としての自覚がどの程度あったかは疑問が残ります。
加えて航空事業は安全保障と直結するということで、国際線に関しては、二国間の政府間交渉で運行する航空会社まで決めるという国際ルールがあり、運賃も方面別の協定運賃ですから、国際線は完全な独占市場だったわけです。
このことは同時に政治の干渉を受けやすい企業体質でもあったわけで、国内線初のジェット機のコンベア880以来、歴代の機種選定にも政治の影が付きまといますし、就航予定のない機材を買わされてテキサスの砂漠の中の格納庫に放置したりもしてます。
あとHSSTの開発もJALが突然始めたのですが、成田や千歳などの都心から遠い空港の機能向上を謳い文句としながら、なぜJALが手がけるのかは明らかではありません。結局50億円以上の開発費を投入し、その一部は独シーメンスのトランスラピートのライセンス使用料としてかなり高額の支払がされていたりで、この辺は国会でも問題視されたことがありますが、あげくに中部エイチエスエスティ開発に1.5億円で叩き売ったんですからあきれます。そして技術はリニモに結実し、飛んでまわって空気を運ぶ-_-;。JR東海にとってはリニアのライバルに塩を送ったわけで、ただでさえ航空を目の敵の同社は何を思うでしょうか^_^;。
この辺の政治力のなさを裏付ける最近のニュースにこんなのがあります。
日本航空、松本―札幌線を存続記事中にもあるように、リストラの一環として不採算路線10路線の休止を決めたのですが、疑惑の復活と相成りました。ホントJALはいいようにむしり取られ続けたわけです。20年前と違って格安航空会社がアジア太平洋地域でも興隆している現在、国際線の方が競争激化しており、今はむしろ国内線の方が独占領域となっている中で、不採算路線からの撤退でANAに後れをとる余裕はないはずです。一般の事業会社ならば外資ファンドの餌食になるところでしょうけど、航空業法で議決権30%を上限とする外資規制がむしろ邪魔をして、再建の道すじは全く五里霧中です。
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