速報! JR福知山線事故調最終報告
というわけで、JR福知山線尼崎事故の事故調最終報告が出され、国交大臣へ提出されました。ただし国交省のwebページではまだ公表さえれておらず、一般公開は少し後になるのでしょう。
(6/28)JR福知山線脱線事故、事故調が最終報告事故原因は速度超過による転覆脱線事故ということで、運転士のブレーキ遅れというシンプルなものなのですが、JR西日本のいわゆる日勤教育に見られる懲罰的な体質を批判するなど、基本的なところは押さえられているようです。ただし事故の再発防止については、株主総会の顛末などから判断して、少なくとも経営陣には声が届いていないように感じます。
そもそも120km/hから70km/hへの減速というのは、運転士にはかなり緊張を強いられるものかと思いますが、高見運転士は自らの伊丹駅のオーバーランを報告する車掌と指令の無線交信を傍受していたなど、やや緊張感に欠けるところが疑問です。その結果のブレーキ遅れということで、高見運転士の異常行動は別に異常心理によるものではないわけで、それがわかったことで、実は深刻な問題なんですね。
というのも、事故直後にJR西日本はR300mの転覆限界の速度を133km/hと発表し、事故列車の速度では転覆しないと言っていたわけです。これは当時事故直後に鉄道総研に問い合わせて弾き出した数字で、無風、乗客0、横振動0という仮定の計算値だったことが後でばれてしまいます。実はこの点が示唆に富むのですが、経営トップのこのぬるい認識が、現場社員にも共有されていたとすると、高見運転士の緊張感のない運転態度の説明がついてしまうという点で恐ろしいのです。つまりは事故原因はブレーキ操作の遅れではなく、伊丹駅のオーバーランによる遅れを取り返そうとする心理が働いた可能性があるということですね。だとすればJR西日本という会社は、かくも安全に関する認識が甘かったのかと愕然とします。
事故車両の207系についても、事故後、重心高やボルスタレス台車の安全性についての指摘などもありましたが、多分限界性能で見ればボルスタレス台車はボルスタ付台車よりも転覆しやすいのかもしれませんが、そもそも日常の営業運転で曲線部で速度超過を試すようなことをすることが異常なんで、これらの議論は事故原因とは直接結びつきませんでした。
ま、確かにボルスタ付台車の方が、ボルスタ(揺れ枕)と台車枠を枕ばねで支えてボルスタアンカー(揺れ枕吊り)で吊る構造なので、このボルスタアンカーの吊り構造が曲線部で遠心力を打ち消す働きをしますが、ボルスタレス台車では遠心力による枕ばねの偏倚で遠心力を増長しますし、そもそもボルスタの有無で台車質量が異なりますから、転覆に対する限界性能は前者が高いはずです。だからといって乗客を乗せた営業運転で、限界を試すなどは論外です。実際の制限速度は乗り心地を阻害しない横方向の重力加速度の限界値(0.08Gといわれます)で決まりますので、ボルスタレス台車犯人説は当初から胡散臭いものだったといえます。で、この辺は鉄道関係者にとっては常識に属する話だと思うんですが、その意味で事故直後にJR西日本の転覆限界133km/hの発表があったときに、大いに違和感を感じたわけです。営業運転で限界を試すのかい(怒)。
というわけで、やはり再発防止のためには経営トップの刑事訴追は避けて通れないところかと思います。
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Comments
実はWednesday, April 25, 2007のブログに書こうか、と思っていたことです。経営トップの刑事訴追についてですが、正論だと思います。
当方も法律の素人ですから勝手なことは言えませんが、今は知的財産関係の仕事に就いているから「特許法」に親しんでおりそこからのアナロジーで考えてみました。
特許法の第11章の罰則規定には最近、両罰規定が取り入れられました。201条。両罰規定とは規定の違反行為をおこなった従業者の法人も罰金刑を科せられる規定です。但し、それは対象は法人であって、経営トップの刑事訴追ではないので、チョット?大いに?違う。
http://d.hatena.ne.jp/goalhunter/20070701
Posted by: 吉井俊夫 | Sunday, July 01, 2007 11:31 PM
コメントありがとうございます。事故調の最終報告が出たところで、一応はひと区切りですが、実際はこれからの方が大変ですよね。
特許法については詳しくないんですが、特許侵害を行為者本人のみならず、所属企業も罰することで、いわゆるトカゲの尻尾切りを防ぐ規定だと思うんですが、特許関係は違反行為の罰金もさることながら、特許侵害を不法行為とする損害賠償請求がありますので、この部分で負担力のある法人への処罰の役割は一定限度期待できる気がします。
法人企業の有限責任原則を隠れ蓑にした脱法行為や反社会的行為に関する処罰は、もう少し一般化した議論として考えたいところです。
Posted by: 走ルンです | Monday, July 02, 2007 08:49 PM