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Thursday, June 07, 2007

年金と国鉄の意外な関係

巷では、年金記録漏れ問題で揺れております。その一方で政府は明らかな論点はずしに奔走しておりまして、新たに1,430万件の入力漏れが発覚するなど、泥沼の様相となっております。

一方でメディアはまた本質を理解しないままの的外れな報道が散見され、JR尼崎事故や耐震強度偽装事件のような空騒ぎに終わりそうな気配が見えるのが気がかりです。特に「年金返せ」という論調が一部メディアに見られるのですが、制度を理解していないとしか思えません。

当ブログでは、社会保険庁の年金保険料免除の偽装に関連してこんな記事をアップしてますが、そこで日本の公的年金制度は、積み立て方式というよりは賦課方式に近いことを指摘すると共に、当面の高齢化の進捗による給付の増大に積立金を計画的に取り崩すことで対応し、完全賦課方式に移行することがベターという論を展開いたしました。

そう、そもそも公的年金で積立金は不要なんです。個人のライフサイクルでみて、現役時代に保険料を納付して、リタイア後に年金として受け取るのに、時間差を利用した政府の信用創造で機能は果たせるわけです。それを現役時代に積み立てた保険料を年金の形で取り崩す制度とすれば、確かに少子化など人口変動の影響を受けることはなくなりますが、それはつまるところ政府による強制貯蓄ということになるわけで、果たして公的年金として意味があるのかという点が指摘できます。別に預けるのは民間金融機関でかまわないはずです。それをあえて国に預けて積み立てることの意味が問われます。

実は厚生年金に関しましては、これこそが制度発足の最大の理由だったのです。戦火拡大する1942年、戦費調達目的で、公務員の恩給制度に似せてつくられたのが、厚生年金なんですね。これは同時に、とかく高収入を求めて会社を渡り歩く当時のサラリーマンに転職が不利に働く制度として、給与上昇圧力を抑制する目的もありました。そう、信じられない話ですが、戦前のサラリーマンというのは、一種事務の専門家、民間テクノクラートという性格が強く、コピーのない時代に謄本作成には原本の下にカーボン紙と白紙を敷いて文鎮で固定し、鉄筆でカリカリやっていた時代ですから、事務職の能力如何が会社の事業推進能力を決定するものだっただけに、高給取りだったのですが、戦時の国家総動員体制で1つの会社への忠誠を求められることになったのです。終身雇用制はこの時代から始まったと見られます。

というわけで、こんなニュースも意外性はないんですね。

(6/6)年金記録、最大1430万件の「未統合」・新たに発覚
当時の政府にとっては、戦費調達とサラリーマンの社畜化が同時にできる一石二鳥の妙案だったわけです。だから脱退して5年以上の年金記録は無視して当然という感覚はあったのでしょう。

ですから年金積立金の流用に関しても、元々戦費調達目的だったわけですから、罪悪感なしにできたでしょうし、実際年度を重ねて積立金が積み上がってくると、政府予算と違って裁量的に投資ができる資金として流用され、一部は旧大蔵省資金運用部資金すなわち財政投融資資金として、旧国鉄ほか多数の特殊法人に注入され、相当部分が焦げ付いたものと思われますが、JRに引き継がれなかった旧国鉄累積債務など一部を除き実態は不明です。

加えて年金保険料の算出に使われる割引率(将来給付に必要な積立金を金利で割り引いて現在価値に直すので、収める保険料は想定される給付額より少なくなるが、そのときに用いる割引金利のこと)を4%程度で固定しているのですが、長期にわたる低金利時代にも見直しはされませんでしたから、運用実績が4%に達していた可能性はかなり低いといえます。というわけで、年金を積み立て方式とするならば、現時点で明らかに多額の積み立て不足が生じているわけで、ある試算では800兆円にものぼると見られており、不足分の追加拠出は非現実的です。ということは、現時点で年金会計を清算して加入者に一時金として返済するとすれば、加入者たる国民は相当な損失を確定させることになります。というわけで「金返せ」は解決策たり得ません。

ちなみに公務員の恩給制度は、戦後共済年金として民間向けの厚生年金と外形的な整合性が取られたわけですが、同じく政府が保険者として管掌する被用者年金である厚生年金とは別立ての制度となりました。その結果年金積立金の運用も別立てで、特に国家公務員共済に関しては、法令で定員が定められており、株式などのリスク資産への投資もないこともあって、積立金は痛んでいないと言われております。つまりは腹立たしいことに公務員の勝ち逃げになるだけなんですね。

で、国鉄なんですが、戦後国の機関から公共企業体へと改組され公社となったときに、国家公務員共済から外れて国鉄共済となったのですが、これにもからくりがありまして、戦後大陸からの引揚者の雇用対策として国鉄が国策に乗って大量採用したのですが、その結果年齢構成のいびつな組織となったわけですから、将来の年金給付が膨らむのは目に見えていたので切り離したという穿った見方が可能です。そして実際、戦後大量採用世代の退職期にあたる80年代後半に急速に国鉄の経営が悪化し、国鉄分割民営化へと進むこととなります。

もちろん国鉄改革の理由はそれだけではありませんが、巷間いわれる赤字ローカル線問題というのは、それほど大きな要素ではなかったことは断言できます。そして郵貯、簡保、年金を財源とする財投資金が大量に注入された国鉄は解体され、債務の一部はJRへ資産売却代金の形で移転され、残りのほとんどは国鉄清算事業団によって一元管理されたものの、バブル崩壊で遊休不動産の再開発が滞ったこともあって償還が進まず、むしろバブル期の高金利の長期借り入れだったためにむしろ債務総額を拡大する失態となります。これが90年代中盤に旧国鉄債務問題として政治問題化し、業績好調なJRへの追加負担の議論にすり替えられたのは、記憶に新しいところです。

ここで政府は奇策を弄しまして、JR本州会社在勤の旧国鉄職員の共済年金から厚生年金への移行に伴なって発生する債務の負担を打ち出したんですね。当初発足する新会社の負担を軽減して早く収支改善をはかるのが妥当と判断されたのですが、予想以上に好調な本州会社の収支をみて、現役社員の年金という反対しにくい部分を狙い撃ちしたもので、かなり狡猾なやり方です。しかし当然JR各社から反発を受け、労使協調の反対運動が展開される事態となりました。それを見かねて収拾に動いたのが、社民党の土井党首で、政府とJR労組をとりなして半額負担でまとめ上げたのですが、正直いって足して2で割るグレーな解決といわざるを得ません。これ以来私は社民党嫌いになりました(笑)。

ま、てなことがありまして、実は郵政民営化でも年金問題は結構大きなハードルですし、いわゆる公務員法改正問題で天下り防止策がいわれますが、優遇された公務員年金の現実を見るにつけ、官僚の抵抗が大きい分野ですが、現行制度で進む限り、さまざまなトラブルはまだまだ続きそうです。百年安心なんて言ったの誰でしたっけ?

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