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Wednesday, July 25, 2007

急がばまわれ、サプライチェーンを止めた自動車メーカー

新潟中越沖地震で、地震災害の恐ろしさを痛感しますが、地震自体は避けようがないですが、事後の危機管理という意味で、注目される動きがありました。まずは報道チェックです。

(7/18)トヨタなど生産休止・中越沖地震で部品調達難しく
(7/21)自動車部品メーカー連鎖休業、影響は全国に拡大
(7/21)トヨタ、23日も操業停止・中越沖地震で部品供給なお低水準
(7/23)リケン、出荷を再開・中越沖地震から1週間、復旧へ
(7/23)自動車生産、本格再開へ・中越沖地震、減産11万台に
(7/25)トヨタなど自動車全社が生産再開・リケン、通常稼働に戻る
リケンというメーカーは、エンジンのピストンリングのトップメーカーで、自動車メーカー全12社へ供給していて、シェア50%ということですから、自動車メーカーへの影響は甚大であったわけです。

天然災害の場合、工場の被災による直接的な影響のほか、社員の被災や運搬手段の断裂など、影響が多岐にわたるだけに、完全復旧には時間を要する事態だったわけです。こういう場合、通常であれば同業他社の増産によってカバーするところでしょうけど、シェアの大きいリケンの生産休止ですから、他社のよるカバーも自ずと限界があります。またピストンリングという部品は、車種によって微妙に異なるということで、汎用部品のように簡単に他社で代替できないものでもあります。そういった中で、自動車各社が下した判断は、サプライチェーンの休止でした。

いわゆるトヨタのカンバン方式に代表されるサプライチェーンでは、多数の部品が必要な時に必要なだけ供給されるジャストインタイムで全体が動いていて、工程の各段階の部品の在庫も最小限しかありません。ですからサプライチェーンの一部の毀損は、即全体の休止にならざるを得ないのですが、これを弱点と見るかどうかというのが、今回のテーマです。

結論から申し上げますと、見事な危機管理であったと評価できます。確かに当面の減産は痛手ですが、多数の部品を集成する自動車のような組立工業の場合、仮に在庫の範囲で生産を継続したとしても、元々少ない部品在庫の範囲では、需要に応えることは困難です。加えて今回のケースではピストンリングやカムシャフトなど、リケンの部品の供給が途絶えても、その他の部品の供給が続けば、結局組立に直ちに使えない部品の在庫が積みあがり、財務上の負担となる上に工場のスペースを食い潰す無駄も発生します。それでも1日や2日で復旧するなら良いですが、復旧に時間がかかる状況であったわけです。

更に他社からの代替調達を行う場合、車種横断的に使える汎用部品ならいざ知らず、供給に先立って綿密な打ち合わせが必要ですし、実際にラインを稼動させるには少なからぬ投資も必要でしょう。それでいてリケンが生産再開するまでの時限的な対応であれば、協力してくれる部品メーカーは現れない可能性もあるわけです。それやこれやで、頑張って体制を整えるのに2ヶ月や3カ月はあっという間でしょうから、それならばリケンの完全復旧を急ぐ方が賢明です。かくして自動車メーカーから復興応援の要員を派遣してまで、生産再開を急ぐこととなりました。結果的に1週間程度の休止で生産再開できたわけですから、この減産分は当面の休日出勤で対応可能なレベルにまで圧縮できたと見ることができます。

というわけで、これが何かに似てるなぁと感じたわけです。そう、とかく事故や悪天候その他の輸送障害で運転に抑止のかかる首都圏の鉄道ですが、機能として生きている部分だけでも復旧させても良さそうなところを、障害が除去されるまでとりあえず全線で止めるという状況に結構遭遇します。例えば先日のさいたま市で起きたJR東北線の架線断裂事故による運転抑止などですが、例えば大宮以北で運転を行えば、大宮駅の着発線競合で列車本数を少なくしか設定できませんから、途中駅で積み残しを出したり、大宮駅で足止めされる大量の乗客の滞留などで混乱が予想されますので、全て止めて混乱を回避し、復旧を急ぐ方が良いということになります。

まだ柏崎地区で鉄道が寸断されている状況は続いており、柏崎地区では地盤の液状化現象が見られるということですから、路盤そのものが動いてしまっており、復旧には相当な時間を要します。この点について、災害時の代替迂回路が確保されていないという指摘がなされますが、柏崎のような軟弱地盤は全国に多数ありますし、今回のような活断層型地震が、実は太平洋側で多いプレート型地震と関連があることなど、地震の知見も増えております。新潟から神戸あたりにかけては、ユーラシアプレートのひずみが集中しやすい活断層の多いエリアだそうで、つまりは太平洋側も日本海側も、地震リスクに基本的に差はないと考えた方がよいようです。

つまりは中央リニアの建設の必要性を説明するときに用いられる「東海地震のときの代替輸送路確保」とか、「いや、東海地震の被災予想エリアを外れた北陸新幹線こそ必要」とかいうロジックはいずれも成り立たないことになります。むしろ避けられない地震災害ならば、いかに被害を少なくするか、復旧を迅速に行うかこそが、危機管理上は有効ではないかと思います。

更に言えば、東名阪の三大都市圏の集積度が高まることで、これらの地域の地震災害のリスクは増大しているわけで、むしろ代替可能な都市機能を全国に分散させることこそが、災害リスクへの備えとしては重要ということになります。つまりリニアはそれと真反対の作用を及ぼすという点も指摘できます。ネットワークに喩えれば、サーバーの能力がボトルネックになっているときに、高速大容量の光回線を整備しても、ボトルネックはさらにきつくなる道理です。

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