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Thursday, July 12, 2007

年金が決める国の形

今回は鉄ネタ抜きです。年金問題はこちらの記事でも取り上げましたが、選挙戦のに突入して、そこら中で年金問題が連呼される状況です。まぁ呆れるのが、新聞・テレビ共に、問題の本質を見事に外していて、空騒ぎに終わりそうな悪寒が走ります。

年金でありがちな誤解として「少子高齢化で年金制度の維持が困難」というのがありますが、これが大嘘であることは、今までもたびたび指摘してまいりました。そもそも政府が言うように、年金保険制度であるならば、給付は積立金の範囲で行われるのですが、これは民間の生命保険と基本的には同じで、保険加入者が過去に積み立てた保険料の積立金から支払われるわけで、積み立てと給付の間の時間差を利用して、積立金を投資にまわし、運用することで、少ない掛け金でより多くの将来保証を得るという原理なわけです。

これがそのとおりならば、中途解約で解約返戻金が戻って来るはずなんですが、実際の積立金は、当初想定の割引率(将来受け取る保険給付の割引現在価値を算出するのに用いる率、言い換えると積立金運用時の投資利回り)が高く設定されていたことによるものです。結果的に少ない掛け金で多額の保証が得られるように説明されていたのですが、実際の運用実績は惨憺たるもので、年金積立金資産の劣化が進んだわけです。まずこの点を押さえておきましょう。

さらに、年金制度の立ち上げ時には、当初の20年間は保険料の積み立てのみが積みあがり、実際に給付が行われることがないわけですから、この点を利用して1942年、戦火の拡大に対応した国家総動員体制の一貫として制度をスタートさせ、実際に積立金は戦費に流用されました。おそらく勝利のあかつきには、多額の戦争賠償金をふんだくって戻せばよいという取らぬ狸の皮算用が働いたのかもしれません。当然敗戦で積立金は空っぽになりました。

それでも大量の戦死者が出たために、給付に窮することなく、何食わぬ顔で制度を存続させたのが、今日の厚生年金保険制度となっているわけです。実際1960年代から始まった給付開始時は、圧倒的に現役世代が多く、かなり大盤振る舞いの給付をしても、年金会計が揺らぐことはありませんでしたし、むしろ政治的には無関心になりがちな現役世代からの所得移転で高齢者を手なずけることで、政権の安定を確保することなどが行われたのです。ですから、1955年から始まった公務員を対象とする共済年金が、同じく国を保険者としながら別立てとなったのは、少なくとも厚生官僚は厚生年金保険の制度上の瑕疵を認識していた可能性が高いわけです。

あと、元々が国家総動員体制の落とし児で、戦費調達とともに、とかく高待遇を求めて転職を繰り返していた当時の労働者を企業に縛り付けて、企業の負担を軽減する意図もありましたので、そもそも転職は考慮されておらず、当然のことながら名寄せを行うことなどは想定外だったわけです。その結果加入記録が3億人分にも膨れ上がってしまい、社会保険庁の管理能力を超える事態にいたり、初めて名寄せに舵を切ったのです。あくまでも供給側の都合だったわけです。ま、加入者の理論上の上限値の3倍もの加入記録があれば、管理しきれないもの無理はないですが。

それでいて本人からの申請を待つ姿勢を取り続けた結果、加入記録の突合せで不明分が1億5千万件減って、残った5千万件が今回明るみに出たわけです。それも野党議員の情報開示請求に散々ゼロ回答を繰り返した果てに、逃げ切れず渋々出してきたものです。加入者1億人に対しての5千万件ですから、重複はあるものの、加入者2人に1件という高率の不明分が存在するわけですね。

というわけで、今回の件は、年金制度の根幹に係わる問題でして、それゆえに、過去の加入者に対しては、仕方なく逆ザヤになっても給付を続けつつ、後の加入者ほど年金保険料を高くして、給付は少なくするという改悪を続けざるを得なかったのです。その流れを作ったのが、1985年の中曽根政権時代の年金改悪でしてして、以後5年ごとに保険料と給付額を見直す流れができたわけです。

ま、しかしこの時点では国民の関心は低く、さほど問題視されなかったのですが、逆に5年毎に年金問題が政治課題となる流れとなり、それが時に政権を揺さぶるようになり、かくして2004年、小泉政権下での年金改革へとつながります。いわゆるマクロ経済スライドという仕組みが組み込まれたのがこのときで、平たく言えば、将来のインフレに対して、従来は物価スライドで給付額をアップしていたのを、物価上昇率より低いスライド幅とすることで、徐々に実質的な給付制限を行う制度となったわけです。これによって5年毎の保険料と給付の見直しが必要なくなり、(政権にとって)百年安心の年金システムが完成したわけです-_-;。これに自ら係わった安倍首相が、この制度を自画自賛してるんですから呆れます。年金問題は安倍政権にとっての硫黄島になりそうです。ココロは墓穴を掘っている^_^;。なるほど日銀に金利上昇をけん制するのも、インフレ期待からか。

あと盛んに社会保険庁の解体に言及し、それに反対する野党を抵抗勢力に見せる戦略を取っているようですが、これは旧くは中曽根政権で行われた国鉄改革で、当時手強い野党だった社会党を追い落とす目的で、支持母体の総評の有力メンバーだった国労潰しの意図があったことをテレビカメラの前で暴露してますが、それに倣ったのでしょう。若い首相が老人の妄言に乗っかるのもどうかと思いますが。

しかも基礎年金制度によって、厚生年金や共済年金などの被用者年金の基礎年金部分と国民年金とが共通化されておりますが、これも元々自営業者の引退を想定せずにスタートさせた国民年金制度で、給付が始まるタイミングに合わせたように行われた法改正です。未加入が多い国民年金の給付の原資を確保するために、取りっぱぐれのない被用者年金に負担を片寄せする目的が隠されている点も指摘できます。日本が世界に誇る国民皆年金のカラクリです。

というわけで、ことここに至れば、制度の手直しは避けて通れないところですが、とりあえず完全賦課方式への移行と現行の積立金は当面の高齢化対応での逆ザヤ解消目的だけに絞って取り崩し、資産の保全と流動性リスク(必要なときに換金できないリスク)回避の目的で投資対象を国債保有に制限するなどの対策が早急に取られる必要があります。これはまた政府債務としての国債の管理上も望ましいことで、2011年のプライマリーバランス黒字化よりも実は重要です。既に既発債の償還財源に新発債を充てる状況では、プライマリーバランスが均衡しても利払いは増えるわけですから、市場で決まる国債の金利を安定させることの方が、実は緊急度の高い問題なんですけどね。

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Comments

こんばんは。
いつもありがとうございます。
国債管理の問題でこわいのは危機が表面化されないで
ある日突然破局に向かうことかもしれないですね。
物事の本質を知ろうとしない
あるいは正当な権利行使をしない国民が多すぎて
一方でスキャンダルに陽動されてしまう
あるいは権利を濫用する国民が多すぎて
少しずつでも先生から学んだことを
ひとりでも多くのひとに伝えていきたいです。
ありがとうございました。
そして、これからもよろしくお願いします。

とまと

Posted by: とまと | Sunday, July 15, 2007 at 11:31 PM

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