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August 2007

Sunday, August 26, 2007

もう一つの九州新幹線

これはあくまでも未確認情報でして、裏を取ったわけではありませんので、そのつもりでお読みください。DJ誌の最新号でも整備の進捗が取り上げられている九州新幹線ですが、ここに至るまでに紆余曲折があったのは、ご存じの方も多いと思います。

そもそも総延長260kmほどの新線建設を、起点側でなく終点側の新八代~西鹿児島(→鹿児島中央)から着手したことに、ある種の政治的意図があったのだと思います。諸説ありますが、需要のある博多~熊本間を先行させると、採算性に劣る以遠の区間の整備が着手されない可能性があるということがまことしやかに言われたりもしますが、真偽のほどは不明です。また整備新幹線建設スキームに"スーパー特急方式"が取り上げられたことも、当該区間の建設を念頭に置かれたものという見方もあります。ま、いずれにしても整備新幹線自体が、国鉄分割民営化で計画の中断を恐れた複数の政治家の押し込みによるものであることは既に指摘したとおりです。

本来は根拠となっている全国新幹線整備促進法で想定されていなかった事態ですので、計画そのものをゼロベースで見直すべきだったのですが、そのような議論は為されませんでした。「新幹線は票になる」というだけの理由で、苦し紛れの整備促進に向かったのです。それ故に、気がつけば次々と新規着工が進み、スーパー特急やミニ新幹線で計画された区間も、いつのまにかフル規格に化けるということを繰り返し、JR東海を激怒させた既存新幹線買い取り代金への上乗せで無理矢理捻出した鉄道整備基金も2007年で枯渇することとなり、財源の当てもなく漂流する整備新幹線問題は、実にさまざまな問題を抱えながら進められることとなります。

そんな中で、九州新幹線鹿児島ルートに関しては、未確認ながら興味深い情報があります。スーパー特急方式で終点側から整備が始まったことで、西日本鉄道が、整備新幹線事業への参入をほのめかしたことがあるようです。詳細は不明ですが、考えられるところとしては、第二期の船小屋温泉~新八代間の計画を一部変更して大牟田で西鉄大牟田線(→現天神大牟田線)につなげて、鹿児島までの都市間輸送に参入することは考えられます。鹿児島中央までの建設キロは200km程度で、仮に最高速度160km/h、表定速度130km/h程度とすれば、大牟田~鹿児島中央間1時間半程度ですので、福岡(天神)~鹿児島中央間2時間半ということで、十分競争力を発揮できます。となればJR九州にとっては手強いライバルとなるわけで、このことでJR九州は整備新幹線事業に前のめりにならざるを得ない状況になったのではないかと考えられます。ある意味スーパー特急方式の裏をかいた話ではあります。

ま、この辺は無理して延命させた整備計画の隙を突く行動ということになりますが、元々整備新幹線の事業主体となるはずだった国鉄は解体されたわけですから、整備新幹線の事業主体に関しては、元々あいまいなところがあったわけです。一応並行在来線の切り離しを条件づける形で、在来線を管轄する事業者が事業主体となることが想定されていたんでしょうけど、無理して延命させた計画だけに、あいまいさが残ったわけですね。思えば北陸新幹線長野~上越間の着工時に、当時のJR東日本松田社長が、金沢までの一括着工に言及して物議を醸しましたが、その結果北陸新幹線の整備に消極的だったJR西日本の背中を押す形になったことと似ています。

今となっては真相は藪の中、あるいは九州選出の政治家が西鉄に騙らせただけなのかもしれませんが、実は真相はどうあれ、JR九州の立地条件のよさを感じます。西鉄という手強いライバルがいることが、JR九州にとっては重要なんです。元々九州は、北九州と福岡という2つの政令指定都市を抱え、かつ50万クラスの熊本、鹿児島から大中小さまざまな規模の都市が適度の分散していて、鉄道事業にとっては好立地ではあります。その点では札幌一極集中で、必然的に末端の過疎化が進行する北海道や、そもそも大都市が存在しない四国と比べれな、遥かに恵まれた立地ではあります。

が、このことは同時にライバルの存在が不可避であるということでもあります。条件の悪い北海道や四国でJRに挑戦する者が現れる可能性は低いですが、九州では昔から輸送市場が競争的でして、西鉄の前身の九州電気軌道(→北九州線)からして、阪神に倣ってインターアーバン(都市間電車)を目指し、1日数本の汽車ダイヤに、頻繁運転の電車で挑み乗客を奪い繁栄した会社です。また九軌系列の九州鉄道(2代目→天神大牟田線)も、同様に複線電化の高速鉄道に電車を頻発運転し、久留米までの乗客を奪い取った歴史があります。

そういった競争的DNAを持つ西鉄ですが、高速バス事業でも攻勢をかけ、福北ラインの3系統合計10分ヘッドをはじめ、とにかく運行頻度の高さが西鉄流で、スピードで勝る鉄道から客を奪っている状況があります。それゆえにJR九州は競争市場で経営に緊張感を持たざるを得ないわけです。

逆に福岡都市圏輸送では、筑豊本線と篠栗線の電化で福北ゆたか線と称して輸送改善したり、天神大牟田線との並行区間に新駅を作って西鉄の営業基盤を切り崩すような動きもあります。両者切磋琢磨して輸送の質を高めることが、結果的に乗客の利便性を高めているとも言えるわけです。そういう意味では、台湾鉄道当局が関与しなかったためにライバル関係となった台湾高速鉄道の事例に似ています。ま、台湾では高速バスも航空も全てライバルですから、コンペティター(競争者)が増えたところで大勢に影響ないのかもしれませんが。

鉄道事業は地域独占であるといわれますが、現実にはマイカーの普及で完全独占は不可能な状況です。それでも市場占有率が一定以上あれば、独占性が発揮できるんです。一般論では市場占有率40%を超えると独占事業といえるようです。その意味で例えば新幹線の開業と引き換えに航空が撤退するような区間では、本来新幹線の必要性自体に疑問があります。新幹線の対航空の優位性は1にも2にもその卓越した輸送力にあって、航空では代替不能なんですが、逆に航空のような需要に応じた柔軟な輸送サービスは苦手であるわけで、元々需要が旺盛な東名阪を結ぶルートで鉄道と航空が並存しているのは、その結果として乗客のトータルな利便性は高まるんです。そのことを忘れて航空を市場から締め出すためにリニアを建設すべしというのはスジが違うわけです。多様性こそ市場経済の特徴であり尊重されるべき視点です。

とはいえJR九州の経営はけっして楽ではない状況で、立地のよさと3島会社に渡された経営安定基金の存在を根拠に、九州新幹線全通のあかつきには、株式上場を果たして本州会社を凌ぐ優良銘柄になると期待する向きもあるようですが、既に3島会社の株式上場は財務省サイドで諦めているようです。整備新幹線では事業者であるJRの受益のほとんどは、線路使用料として鉄道建設・運輸施設整備支援機構に徴収されてしまうので、新幹線単体での利益貢献の度合いは低いということを押さえておく必要はあります。

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Sunday, August 19, 2007

敗け続けるニッポン

世界同時株安が進行しております。米サブプライムローンの焦げ付きが原因だそうですが、メディア報道は相変わらずトンチンカンで意味不明です。当ブログで以前バーゲンエコノミーという記事で指摘したように、そもそも日本株は異常な円安によって支えられた水準にあると述べましたが、実際ここ数日の円高進行と株安がリンクしており、外国人投資家からみたドル建てユーロ建ての相場水準で見る限り、ほとんど変化していない状況です。ですから以後の株価は基本的に円相場と逆相関と見て良いでしょう。円高の進行そのものは、従来の行き過ぎた円安の調整ですので、止める手立てはないと考えてよいでしょう。

ただし円建てで投資している国内投資家にとっては、かなり痛い出来事には違いありませんが、基本的には投資は自己責任、個人であれ企業・団体であれ、自らのリスク許容度に応じた投資を心がけるべきです。ですからメディアも基本的には誰が損しようが得しようが、冷静な客観報道を心がけるべきです。

サブプライムローンの構図ですが、低所得の個人向けの高金利住宅ローンであり、高金利がブレーキになるはずなのに、米長期金利が長期間低利で推移した結果、貸出残高を積み増していったわけで、基本的に日本の不動産バブルと同じ構図です。ただし経済規模に対する比率は低いので、破綻しても影響は軽微と見られていたわけです。それがこのようなことになった過程を追うと風桶噺になってしまいますので^_^;、詳細は割愛いたします。ザックリいって、ローン債権は小口証券化されて転売され、欧米銀やヘッジファンドが保有することとなりました。このうちヘッジファンド分は私募ファンドで非公開ですので、影響は計りようがないですが、報道はこちらに集中し、情報公開が不十分だから不安が広がった、規制が必要というミスリードがされてます。

一方で銀行へ転売された分については、ほとんど報道では振れられておりませんが、国際決済銀行(BIS)の新規制によるリスク格付けルールが影響したようです。これは銀行の保有金融資産について、民間の格付け機関の格付けに基づいて、0%,20%,50%,100%,150%の5段階に格付けして、それぞれ必要な引当金の積み立てを義務付けたものですが、個人ベースの住宅ローンの破綻は影響がジワジワ来るので、5段階という粗い評価ではある日突然リスク格付けが50%から100%に動き、ローン債権を抱える銀行の資金繰りを直撃します。その結果銀行間の現金調達市場の金利が上昇し、ECBなど金融当局の政策誘導目標を上回る事態となって当局が市場へ資金供与に動いたという流れです。放置すれば日本の金融危機時に見られた貸し渋りや貸しはがしなど信用不安になる恐れありということで迅速に動いたということです。しかし危機回避のために迅速に動いたことが憶測を呼んだようで、結果的に米、日へ飛び火したわけです。

そもそもBISのこの新規制自体、邦銀の意を受けた日本代表が押し込んだルールだそうで、バブル崩壊で羹に懲り、金融危機でリスク対応力のなさを露呈した邦銀が、こぞって国債の大量保有に走った結果、リスク格付け0%となる国債保有を有利にする規制だったわけです。一方の欧米銀は、日本と比べて調達金利が高い分、ハイリスクハイリターンを狙ってサブプライムローン債権のような投資をせざるを得ない状況にあったといえます。経済規模の大きな日本の主張は、往々にして国際機関の意思決定を歪めてしまうものです。

この点で日本には前科がありまして、かつて企業との株式持合いが進んで株式を大量保有していた当時の邦銀が、BIS規制に株式含み益の資本勘定への算入を認めさせたということがありまして、それがバブル崩壊で逆に株式に含み損が発生することとなり、銀行が貸出資産を縮小させたのが、いわゆる90年代の金融危機でして、邦銀はいわば自分で自分の首を絞めた格好です^_^;。時価主義が徹底していた欧米銀では、そもそも含み益含み損といった概念自体がなかったのです。

ま、今回邦銀自身は傷つかなかったのですが、銀行の顧客であるはずの国内投資家に結果的にリスクを負わせて傷つけてしまったんですからひどい話です。そもそも円安自体が昨今の銀行や郵便局での投信窓販解禁の影響で、銀行と郵便局で販売実績を重ねたもので、国内の低金利とペイオフ実施で行き場を模索していた日本の個人マネーを大量に海外へ送り出していたわけですね。グローバルソブリンオープンのような毎月分配型で元本保証のない投信が個人の資産運用商品としては問題があるのは、以前から専門家が指摘しておりました。日本ではプロの金融マンがリスクテイクせずに、個人にリスクを転化するようなことが割合平然と行われておりますが、今回そのまんまですね。個人資産の流出規模は40~50兆円といわれますので、円安によっても個人資産が大きく傷ついたといえます。なぜこんなことになるのでしょうか。

そもそも90年代のバブル崩壊とその後の金融危機でも、政策をミスリードした人たちは誰一人罰せられなかったのですが、このことが影響していると考えられます。90年代の出来事は第2の敗戦とも呼ぶべきことなんですが、よく考えて見れば8月15日は終戦記念日であって敗戦記念日ではないのですが、戦争も終わって見れば自分たちの大きな犠牲には思いを致すけれど、そもそもなぜこうなったかがきちんと総括されていないから、同じ失敗を繰り返すのだと思います。

というわけで、選挙に負けたリーダーを辞めさせることすらできない美しい(と姿見の前でポーズを取るナルシストの)国として、今後も敗け続けるしかないんだろうなぁ。やれやれQ-o-。

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Tuesday, August 14, 2007

鉄道書評、線路にバスを走らせろ

夏休みシーズンで、鉄道関連ブログにも訪問記や旅行記が多数アップされている中で、当ブログ管理人はPC熱と闘いながら(笑)、書斎派鉄の道をまい進しております(苦笑)。

線路にバスを走らせろ 「北の車両屋」奮闘記(朝日新書 56) (朝日新書 56)
国鉄末期からの地方交通線転換によって、多くの営業路線を失い、事業規模を縮小した北海道の鉄道ですが、それでも残った路線の状況は厳しく、営業キロ2,500km中6割はローカル線という状況です。当然存廃が問われる路線も多く、JR北海道発足後にも、池北線の三セク転換と深名線のバス転換が実施されました。赤字路線の分離は、それ自身は経営面で必要なことには違いないのですが、同時に事業規模の縮小を余儀なくされるわけですから、JR北海道にとっては痛し痒しの部分です。

また90年代の金融危機のときに、北海道拓殖銀行が突然の経営破たんに見舞われたように、北海道では地場産業の衰退に直面している実情もあり、鉄道事業の撤退は、地域の衰退に拍車をかけることにもなります。また元々鉄道と共に開拓が進んだ北海道では、鉄道事業そのものもが産業集積として地域雇用を支えていた現実もあります。先日20年越しで和解、決着した旧国鉄職員のJR各社への採用を巡る労使対立も、元をただせば北海道の鉄道事業縮小に伴なう余剰人員の北海道以外の各社への受け入れを巡って、人選に所属労組による差別があったかどうかが争われたものです。

それやこれやで問題を抱えるJR北海道ですが、同時にリゾート列車や高速振り子列車などなど、実に多くの技術開発を行って、鉄道の活性化に取り組んでいるのは、あとがない崖っぷちゆえでしょうけど、ある意味地域分割のプラス面とも評価できます。最果ての大地で鉄路を維持することの意義を考えさせます。

以前、北海道旅行で、日高から襟裳岬を通って十勝へ抜けるルートを取ったときに、札幌からの鉄路乗継は飽きそうだから(笑)、道南バスの直通高速バスで浦河へ向かったのですが、浦河ターミナルで降りて最寄の東町駅へ行って驚いたのは、列車の少なさでした。襟裳岬方面へはどのみち様似でバスに乗り継ぐわけですが、並行する国道のJRバスのバス停を見ると、ほぼ1時間に1本のバスが走っているのですが、「学休日運休」の注意書きがあります。つまりは事実上の通学バスと化しているのですが、そうすると列車は何のために走っているのだろうかと疑問が出てきました。そう、線路がある以上、列車を走らせるしかないのです。

一応襟裳岬へ向かう観光周遊ルートには組み込まれており、様似から襟裳岬方面へのバスは。列車に接続をとっているわけですから、両者が棲み分けているわけです。しかし同じJR北海道同士で、両者の連携がないのは、ただでさえ少ない旅客を分けあう分、収支面では不利になります。北海道には鉄路と並行する整備された道路という似たロケーションのところは多数あります。DMVはそんな北海道では割と自然な発想の産物なのかもしれません。

そういった背景で、DMV開発に着手したわけですが、歴史を紐解けば、同様の発想で何度もトライされ、死屍累々の失敗を積み重ねてきたキワモノでもあるわけです。それを幼稚園の送迎用園児バスを見て「そのまま線路に乗せられそうだ」と発想するところが見事です。しかも軽量で線路を傷めないし、GPSなどの位置情報システムを利用すれば軌道回路を用いた閉そく信号も省略できるとか、行き違いも片方が線路を外れればよいとか、必要に応じて線路から外れた集落などへ運行できるとか、万が一の災害のときにも、線路と道路の復旧している部分を自在に行き来して運行を確保できるなどなど、発想が広がります。そう、DMVは最果てのLRTと考えれば理解が深まりますね。

基本的に引き算による技術革新ということです。鉄道は「金を失う道」といわれるように、線路を設置し維持するのに多額の費用がかかるわけで、需要が見込めないところで成立させるのは難しいわけですが、容赦のない過疎化の進行で乗客が減り続ける最果ての鉄路を残すには、現状に何かを付け足すのではなく、要らないものを削ぎ落として本体を維持するという発想なんですね。JR西日本の富山港線が富山ライトレールとして再生されたのに似ています。整備新幹線事業の着手に関連した富山市の都市計画で富山駅周辺の高架化事業が行われるときに、ローカル線である富山港線を新しい高架駅へ乗り入れさせるには多額に費用が発生するわけですが、アプローチ部分を都市計画道路上の併用軌道とすることで、ローカル線を都市交通に取り込んだわけです。足し算ではなく引き算で成功した事例ですね。そう、ヘビーレールから余分なものを割り引いてライトレールにするのであって、例えば元々低規格で放置されていた東急世田谷線が、軌道回路を用いた閉そく信号機と、連動する旧国鉄ATS-B相当の車内警報装置や列車無線を装備し、冷房付の新車に置き換え、ホーム嵩上げでバリアフリー化するなど、多額の費用をかけて列車定員を減少させ駅での客扱い時間を伸ばしスピードダウンした現実を見ると、技術革新の方向性が誤っていると言わざるを得ません。

大量輸送こそ鉄道の使命ですが、一方で過疎化の進捗で公共交通の維持が難しい地域も多数あり、居住放棄につながる限界集落が増えていると言われます。このままでは国土が荒れ果て、経済的パフォーマンスを低下させる要因にもなりかねない中で、公共交通を維持するソリューションの必要性は高いといいえます。その意味で身の丈にあったイノベーションとして、DMVの行く末を見ていきたいと思います。

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Wednesday, August 08, 2007

鉄道書評、民営化で誰が得をするのか

今年は国鉄民営化20年の節目の年ということで、国鉄民営化の総括のようなことをずっと考えていたのですが、テーマが大きすぎてなかなか書けずにいたところ、この本に出会いました。

民営化で誰が得をするのか―国際比較で考える (平凡社新書 384)
鉄道書というわけではないんですが、いわゆる「民営化」の国際比較という視点は、なかなかユニークです。タイトルでわかりますが、筆者はやや民営化に懐疑的な立場ですが、英国のサッチャー改革の意義などの理解はありますので、そのそもサッチャー改革と小泉改革の違いすら理解できない日本の多くの論客よりはましです。

ただし新書版のボリュームでは、十分に語り尽くせないせいか、やや誤解を招くような表現が見られるのは要注意です。例えば英国の国鉄改革については、比較的あっさりとしか触れてませんが、線路保有会社と多数の列車運行会社間のコミュニケーション不足といった表現に留まっております。以前サイドバーでご紹介した鉄道改革の国際比較に、詳しい経緯が書かれておりますので、そちらもご参照ください。英国の鉄道改革は、ひとことでいえばサッチャー改革の正当な後継者をアピールしたい当時のメージャー首相によって推進されたのですが、実際は運輸相に丸投げしていて、運輸相は運輸相で原理主義的に制度をいじくり回し、列車運行の入札に応札が殺到するなど、混乱の極致でことが進み、当の運輸相がスキャンダルを暴かれて辞任するに至り、当面国営で残す筈だった線路保有会社のレールトラック社をいきなり民間に払い下げて、しかも初年度から黒字化を意識づけて改革成功をアピールしようと功を焦った結果、必要な保守作業が手抜きされたものでした。結果的に選挙で大敗を喫するんですが、この辺、小泉改革の正当な後継者をアピールしながら、閣僚のスキャンダルと年金問題で墓穴を掘った安倍政権に似てますね^_^;。

ひとことで民営化といっても、目的や手法はさまざまで、上場による政府保有株式の放出にしても、公募して抽選とした日本のJR,JT,NTTのケースと、一部従業員に有利な条件で売却したサッチャー政権下での国有企業民営化のケースとでは、かなり趣きを異にします。これはひとつには労組の反対に対する切り崩しという側面もありますが、いわゆる大衆資本主義という観点から、株式が一部富裕層が集中保有して富を独占することへの国民感情の配慮と、個人株主を増やして国内株式市場の厚みを増すという目的もあったようです。この辺は新規上場時に公募価格を吊り上げて、結果的に1年以内に値崩れして国民を損させたNTTの場合と彼我の差は大きいですね。

それと最近日本でも多く見られるようになったPFI(Private Finance Initiative)やPPP(Pubric Private Partnership)なども、民営化の文脈で整理されており、最近では英国をはじめむしろこちらの方が主流となりつつあるようですが、日本でPFIといえば、中部国際空港のようなインフラ整備に偏っている印象があります。本来は整備に留まらず、期限を切って運営も民間に委託し、整備費用を償還後国へ返還するなど、ソフト面を重視した仕組みです。PPPに関しても、行政とNPOの共同事業という形態をとるケースが多いのですが、日本では行政側がNPOを安い下請け程度にしか認識していないケースが多く、問題をはらんでいます。例えばこんなニュースがあります。

湊鉄道線存続へ住民出資の「第4セクター化」検討
現地の詳しい事情はわかりませんが、第四セクターなどという造語までして、要するに自治体が受け皿三セクへの出資を渋っているので、代わりに市民から寄付を募ろうということです。心配なのは、地縁的NPOが往々にして寄付金強要機関となる可能性があることでして、NPOの運営がどれぐらい透明に行われるのかが問われます。これなどいわゆるPPPに分類される事例ということになるでしょうけど、自治体が増税して得た資金を出資するという方が、地方議会の監視が効くという意味で、本来は望ましい形です。NPOでなければならない理由は問われます。

あと日本の三公社をはじめ、日本航空や電源開発など、政府出資の特別会社の株式放出で政府が得た売却代金の行方なんですが、本来は赤字国債の償還に使われるはずですが、今のところ公式発表はなく、日本経済新聞に'05.9.3付でおそらく独自取材の結果と思われる図表を掲載しているに留まります。しかも国債償還の推定値は31.3兆円ということで、国債発行残高からすれば微々たる数字です。そういえば大阪のJR東西線(建設線名片福連絡線)の整備主体となる三セク大阪高速鉄道の政府出資分を「NTT株売却益活用事業」とうたっていたことが思い出されますが、全部ではないまでも、一部官僚のタンス預金になっている疑惑はあります。これを餌に利権政治屋を手なづけているとすれば、本来財政再建が目的だった筈の民営化が食い物にされたということにもなります。このあたりは参院で与野党逆転となったのですから、国政調査権を活用して切り込んでほしいところです。

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Sunday, August 05, 2007

路線価上昇、地域間格差は拡大

8/1毎年恒例の路線価が発表されました

路線価平均8.6%上昇、07年分2年連続・地価回復広がる
全国平均8.6%の上昇という数字の大きさに驚かされますが、元々路線価は、商業地と住宅地の道路を基準にした値付けですから、市街地限定の調査という側面がありますので、調査地点に地価上昇地点を多く含んでいるということです。また3大都市圏を中心に再開発ブームが続いている状況で、将来の値上がり期待が大きいという側面もあります。地価は株価とともに、将来を織り込んだ価格形成をするものです。

そういった意味で、現在の価格水準を見る限り、バブルの再来という要素はあまりないのですが、やや期待先行という側面はあります。当然行き過ぎの可能性はありますので、時期が来れば調整局面もあり得るということは押さえておきましょう。日本の地価神話というのは、要するに高度経済成長時代に、5%程度のインフレ含みで経済成長してきた時代の話ですから、調整局面は地価上昇が緩やかになって、その間に物価上昇が追いつくことで調整されていたという側面があっただけの話です。当然現在の地価上昇の調整局面では、値下がりもあり得ることを意識する必要があります。

とはいえ3大都市圏の集積度が高まっている現状では、当面の上昇傾向そのものは変わらないと思います。特にREITなどの不動産投資信託によって、土地が金融商品の性格を帯びる現状ですから、例えば東京の地価は、ロンドンやニューヨークとの比較で割安感があるという見方をされるわけです。その結果外資が流入し、地価を押し上げている傾向はあります。ただしそれもぼちぼち地価が高値圏に達したというのとで、今度は含み益のある土地を保有する企業の株式が狙われます。スティールパートナーズによるブルドックソースへのTOBなどが典型的ですが、企業側も買収防衛策に走る前に、含み益のある土地の有効活用を考えるべきでしょう。

あと現在の値上がり傾向には、もう一つ供給にタイト感が出てきたということもあります。首都圏でいえば、六本木の防衛庁跡地の東京ミッドタウンが完成したことで、現在進行中の開発案件が相対的に小粒になってきていることが影響し、オフィス需要は相変わらず旺盛な中で、東京から郊外の業務地へ、名阪札福などの地方の大都市へと需要が浸み出して波及し、一部県庁所在地などの中規模都市へも波及しているというのが現状です。首都圏でいえば、港区のJR操車場跡地が最後の案件と言われておりますが、ご存じのとおり、東北縦貫線(東京~上野間列車線)の開通による車両基地の尾久への集約が大前提となりますので、環境アセスメント手続の遅れにより事業着手が遅れる見通しですので、今回の地価上昇局面を冷ますタイミングが遅れそうです。タイミングが悪いと調整局面での供給増ということもあり得るので、ブチバブル崩壊の可能性は無きにしも非ずです。

ま、それ以前に東京が外資を惹きつけ続けられる魅力ある都市であり続けられるかどうかの方が重要で、それはむしろ市場経済を支える制度インフラに依存する問題です。投資家に信認される分厚い金融市場が形成されれば、サッチャー時代にはシャッター通りと化していたロンドンのシティが活況を呈しているようになる可能性はあります。そのためにはウインブルドン現象と呼ばれる外国人プレイヤーに門戸を開くことが重要なんですが、日本企業の多くがスティールに睨まれたブルドック^_^;のごとき買収防衛策に奔走する現状では難しいかもしれません。

また東北縦貫線のような、都市機能を高める投資は良いのですが、十分に社会資本が集積する東京では、既にコストパフォーマンスに優れた投資案件は減少しているという点も指摘できます。どこぞの都知事が言うように、世界で戦うために、東京に公共投資を積み上げようというのは、アナクロニズム以外の何物でもありません。かといって機能分散のために新幹線やリニアを作れというのも違いますね。ストロー効果で東京の集積度が高まるだけです。現在必要なのは、東京以外の地域が、自律的にグローバル化へ向かうことです。

その意味で、東京以外の地方都市圏の交通インフラの弱さが気になります。例えば今は元気がいい名古屋都市圏ですが、特にJR東海が都市圏輸送への投資に後ろ向きなのが気になります。313系大増備で名古屋都市圏の快速網を整備したのは良いのですが、その結果ラッシュ輸送にタイト感が出てきて、朝ダイヤで豊橋方から名古屋へ向かう特別快速を大府通過として、武豊線からの直通区間快速で大府と共和をカバーするという苦肉の策を取っておりますが、それでも南方貨物線を整備しようと考えないですし、万博輸送でせっかく愛知環状鉄道との直通運転が始まったのに、万博終了とともに本数が激減となっております。元々建設線名が瀬戸線と同じ東海交通事業城北線を整備して広域ネットワークを強化するという発想があっても良さそうですが、JR東海は後ろ向きですね。経営の苦しい3島会社であっても、JR九州による筑豊本線、篠栗線電化による福北ゆたか線整備のように、都市圏輸送の重要性は認識されております。JR東海でも、名岐間17分の快速のおかげで岐阜がベッドタウンになったというのは認識しているはずです。ま、というわけで、名古屋の躍進はうたかたの夢に終わるでしょう。

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