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Sunday, August 19, 2007

敗け続けるニッポン

世界同時株安が進行しております。米サブプライムローンの焦げ付きが原因だそうですが、メディア報道は相変わらずトンチンカンで意味不明です。当ブログで以前バーゲンエコノミーという記事で指摘したように、そもそも日本株は異常な円安によって支えられた水準にあると述べましたが、実際ここ数日の円高進行と株安がリンクしており、外国人投資家からみたドル建てユーロ建ての相場水準で見る限り、ほとんど変化していない状況です。ですから以後の株価は基本的に円相場と逆相関と見て良いでしょう。円高の進行そのものは、従来の行き過ぎた円安の調整ですので、止める手立てはないと考えてよいでしょう。

ただし円建てで投資している国内投資家にとっては、かなり痛い出来事には違いありませんが、基本的には投資は自己責任、個人であれ企業・団体であれ、自らのリスク許容度に応じた投資を心がけるべきです。ですからメディアも基本的には誰が損しようが得しようが、冷静な客観報道を心がけるべきです。

サブプライムローンの構図ですが、低所得の個人向けの高金利住宅ローンであり、高金利がブレーキになるはずなのに、米長期金利が長期間低利で推移した結果、貸出残高を積み増していったわけで、基本的に日本の不動産バブルと同じ構図です。ただし経済規模に対する比率は低いので、破綻しても影響は軽微と見られていたわけです。それがこのようなことになった過程を追うと風桶噺になってしまいますので^_^;、詳細は割愛いたします。ザックリいって、ローン債権は小口証券化されて転売され、欧米銀やヘッジファンドが保有することとなりました。このうちヘッジファンド分は私募ファンドで非公開ですので、影響は計りようがないですが、報道はこちらに集中し、情報公開が不十分だから不安が広がった、規制が必要というミスリードがされてます。

一方で銀行へ転売された分については、ほとんど報道では振れられておりませんが、国際決済銀行(BIS)の新規制によるリスク格付けルールが影響したようです。これは銀行の保有金融資産について、民間の格付け機関の格付けに基づいて、0%,20%,50%,100%,150%の5段階に格付けして、それぞれ必要な引当金の積み立てを義務付けたものですが、個人ベースの住宅ローンの破綻は影響がジワジワ来るので、5段階という粗い評価ではある日突然リスク格付けが50%から100%に動き、ローン債権を抱える銀行の資金繰りを直撃します。その結果銀行間の現金調達市場の金利が上昇し、ECBなど金融当局の政策誘導目標を上回る事態となって当局が市場へ資金供与に動いたという流れです。放置すれば日本の金融危機時に見られた貸し渋りや貸しはがしなど信用不安になる恐れありということで迅速に動いたということです。しかし危機回避のために迅速に動いたことが憶測を呼んだようで、結果的に米、日へ飛び火したわけです。

そもそもBISのこの新規制自体、邦銀の意を受けた日本代表が押し込んだルールだそうで、バブル崩壊で羹に懲り、金融危機でリスク対応力のなさを露呈した邦銀が、こぞって国債の大量保有に走った結果、リスク格付け0%となる国債保有を有利にする規制だったわけです。一方の欧米銀は、日本と比べて調達金利が高い分、ハイリスクハイリターンを狙ってサブプライムローン債権のような投資をせざるを得ない状況にあったといえます。経済規模の大きな日本の主張は、往々にして国際機関の意思決定を歪めてしまうものです。

この点で日本には前科がありまして、かつて企業との株式持合いが進んで株式を大量保有していた当時の邦銀が、BIS規制に株式含み益の資本勘定への算入を認めさせたということがありまして、それがバブル崩壊で逆に株式に含み損が発生することとなり、銀行が貸出資産を縮小させたのが、いわゆる90年代の金融危機でして、邦銀はいわば自分で自分の首を絞めた格好です^_^;。時価主義が徹底していた欧米銀では、そもそも含み益含み損といった概念自体がなかったのです。

ま、今回邦銀自身は傷つかなかったのですが、銀行の顧客であるはずの国内投資家に結果的にリスクを負わせて傷つけてしまったんですからひどい話です。そもそも円安自体が昨今の銀行や郵便局での投信窓販解禁の影響で、銀行と郵便局で販売実績を重ねたもので、国内の低金利とペイオフ実施で行き場を模索していた日本の個人マネーを大量に海外へ送り出していたわけですね。グローバルソブリンオープンのような毎月分配型で元本保証のない投信が個人の資産運用商品としては問題があるのは、以前から専門家が指摘しておりました。日本ではプロの金融マンがリスクテイクせずに、個人にリスクを転化するようなことが割合平然と行われておりますが、今回そのまんまですね。個人資産の流出規模は40~50兆円といわれますので、円安によっても個人資産が大きく傷ついたといえます。なぜこんなことになるのでしょうか。

そもそも90年代のバブル崩壊とその後の金融危機でも、政策をミスリードした人たちは誰一人罰せられなかったのですが、このことが影響していると考えられます。90年代の出来事は第2の敗戦とも呼ぶべきことなんですが、よく考えて見れば8月15日は終戦記念日であって敗戦記念日ではないのですが、戦争も終わって見れば自分たちの大きな犠牲には思いを致すけれど、そもそもなぜこうなったかがきちんと総括されていないから、同じ失敗を繰り返すのだと思います。

というわけで、選挙に負けたリーダーを辞めさせることすらできない美しい(と姿見の前でポーズを取るナルシストの)国として、今後も敗け続けるしかないんだろうなぁ。やれやれQ-o-。

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