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Sunday, August 26, 2007

もう一つの九州新幹線

これはあくまでも未確認情報でして、裏を取ったわけではありませんので、そのつもりでお読みください。DJ誌の最新号でも整備の進捗が取り上げられている九州新幹線ですが、ここに至るまでに紆余曲折があったのは、ご存じの方も多いと思います。

そもそも総延長260kmほどの新線建設を、起点側でなく終点側の新八代~西鹿児島(→鹿児島中央)から着手したことに、ある種の政治的意図があったのだと思います。諸説ありますが、需要のある博多~熊本間を先行させると、採算性に劣る以遠の区間の整備が着手されない可能性があるということがまことしやかに言われたりもしますが、真偽のほどは不明です。また整備新幹線建設スキームに"スーパー特急方式"が取り上げられたことも、当該区間の建設を念頭に置かれたものという見方もあります。ま、いずれにしても整備新幹線自体が、国鉄分割民営化で計画の中断を恐れた複数の政治家の押し込みによるものであることは既に指摘したとおりです。

本来は根拠となっている全国新幹線整備促進法で想定されていなかった事態ですので、計画そのものをゼロベースで見直すべきだったのですが、そのような議論は為されませんでした。「新幹線は票になる」というだけの理由で、苦し紛れの整備促進に向かったのです。それ故に、気がつけば次々と新規着工が進み、スーパー特急やミニ新幹線で計画された区間も、いつのまにかフル規格に化けるということを繰り返し、JR東海を激怒させた既存新幹線買い取り代金への上乗せで無理矢理捻出した鉄道整備基金も2007年で枯渇することとなり、財源の当てもなく漂流する整備新幹線問題は、実にさまざまな問題を抱えながら進められることとなります。

そんな中で、九州新幹線鹿児島ルートに関しては、未確認ながら興味深い情報があります。スーパー特急方式で終点側から整備が始まったことで、西日本鉄道が、整備新幹線事業への参入をほのめかしたことがあるようです。詳細は不明ですが、考えられるところとしては、第二期の船小屋温泉~新八代間の計画を一部変更して大牟田で西鉄大牟田線(→現天神大牟田線)につなげて、鹿児島までの都市間輸送に参入することは考えられます。鹿児島中央までの建設キロは200km程度で、仮に最高速度160km/h、表定速度130km/h程度とすれば、大牟田~鹿児島中央間1時間半程度ですので、福岡(天神)~鹿児島中央間2時間半ということで、十分競争力を発揮できます。となればJR九州にとっては手強いライバルとなるわけで、このことでJR九州は整備新幹線事業に前のめりにならざるを得ない状況になったのではないかと考えられます。ある意味スーパー特急方式の裏をかいた話ではあります。

ま、この辺は無理して延命させた整備計画の隙を突く行動ということになりますが、元々整備新幹線の事業主体となるはずだった国鉄は解体されたわけですから、整備新幹線の事業主体に関しては、元々あいまいなところがあったわけです。一応並行在来線の切り離しを条件づける形で、在来線を管轄する事業者が事業主体となることが想定されていたんでしょうけど、無理して延命させた計画だけに、あいまいさが残ったわけですね。思えば北陸新幹線長野~上越間の着工時に、当時のJR東日本松田社長が、金沢までの一括着工に言及して物議を醸しましたが、その結果北陸新幹線の整備に消極的だったJR西日本の背中を押す形になったことと似ています。

今となっては真相は藪の中、あるいは九州選出の政治家が西鉄に騙らせただけなのかもしれませんが、実は真相はどうあれ、JR九州の立地条件のよさを感じます。西鉄という手強いライバルがいることが、JR九州にとっては重要なんです。元々九州は、北九州と福岡という2つの政令指定都市を抱え、かつ50万クラスの熊本、鹿児島から大中小さまざまな規模の都市が適度の分散していて、鉄道事業にとっては好立地ではあります。その点では札幌一極集中で、必然的に末端の過疎化が進行する北海道や、そもそも大都市が存在しない四国と比べれな、遥かに恵まれた立地ではあります。

が、このことは同時にライバルの存在が不可避であるということでもあります。条件の悪い北海道や四国でJRに挑戦する者が現れる可能性は低いですが、九州では昔から輸送市場が競争的でして、西鉄の前身の九州電気軌道(→北九州線)からして、阪神に倣ってインターアーバン(都市間電車)を目指し、1日数本の汽車ダイヤに、頻繁運転の電車で挑み乗客を奪い繁栄した会社です。また九軌系列の九州鉄道(2代目→天神大牟田線)も、同様に複線電化の高速鉄道に電車を頻発運転し、久留米までの乗客を奪い取った歴史があります。

そういった競争的DNAを持つ西鉄ですが、高速バス事業でも攻勢をかけ、福北ラインの3系統合計10分ヘッドをはじめ、とにかく運行頻度の高さが西鉄流で、スピードで勝る鉄道から客を奪っている状況があります。それゆえにJR九州は競争市場で経営に緊張感を持たざるを得ないわけです。

逆に福岡都市圏輸送では、筑豊本線と篠栗線の電化で福北ゆたか線と称して輸送改善したり、天神大牟田線との並行区間に新駅を作って西鉄の営業基盤を切り崩すような動きもあります。両者切磋琢磨して輸送の質を高めることが、結果的に乗客の利便性を高めているとも言えるわけです。そういう意味では、台湾鉄道当局が関与しなかったためにライバル関係となった台湾高速鉄道の事例に似ています。ま、台湾では高速バスも航空も全てライバルですから、コンペティター(競争者)が増えたところで大勢に影響ないのかもしれませんが。

鉄道事業は地域独占であるといわれますが、現実にはマイカーの普及で完全独占は不可能な状況です。それでも市場占有率が一定以上あれば、独占性が発揮できるんです。一般論では市場占有率40%を超えると独占事業といえるようです。その意味で例えば新幹線の開業と引き換えに航空が撤退するような区間では、本来新幹線の必要性自体に疑問があります。新幹線の対航空の優位性は1にも2にもその卓越した輸送力にあって、航空では代替不能なんですが、逆に航空のような需要に応じた柔軟な輸送サービスは苦手であるわけで、元々需要が旺盛な東名阪を結ぶルートで鉄道と航空が並存しているのは、その結果として乗客のトータルな利便性は高まるんです。そのことを忘れて航空を市場から締め出すためにリニアを建設すべしというのはスジが違うわけです。多様性こそ市場経済の特徴であり尊重されるべき視点です。

とはいえJR九州の経営はけっして楽ではない状況で、立地のよさと3島会社に渡された経営安定基金の存在を根拠に、九州新幹線全通のあかつきには、株式上場を果たして本州会社を凌ぐ優良銘柄になると期待する向きもあるようですが、既に3島会社の株式上場は財務省サイドで諦めているようです。整備新幹線では事業者であるJRの受益のほとんどは、線路使用料として鉄道建設・運輸施設整備支援機構に徴収されてしまうので、新幹線単体での利益貢献の度合いは低いということを押さえておく必要はあります。

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Comments

 スーパー特急やミニ新幹線は、新幹線を作りたい(当時の)運輸省の役人が、誤算があった後に、将来的にも手戻りが少なくて、かつ安くすることで当時の社会的コンセンサスを変えさせるために考え出したものですよ。

 それと、現在の資金計画は、東北新幹線と北陸新幹線で始まった使用料の支払いと、地元自治体や経営引受先の使用料をあてこんだ借金です。ですから、本州三社が、新幹線設備を買い取った時に余分に払ったお金の二回転目ってところでしょうか。

Posted by: とをりすがり | Tuesday, August 28, 2007 07:12 AM

えーと、運輸省の役人が、何の政治的圧力も感じることなく、整備新幹線の建設スキームをまとめたとお考えでしたら、あまりにナイーブな見方ではないでしょうか。

あと新幹線使用料収入で埋め戻すというのはそのとおりなんですが、実際は新規着工が相次いで毎年度の拠出額に使用料収入が追いついておりません。その結果基金の元本が枯渇する事態になっているのであって、安定した財源と言うには程遠いという事実もあります。今後開業する区間も、基本的に収益性は徐々に低下していきますから、基金を取り戻すには至らないのは自明です。こんな頭の悪い仕組みを考えたのは、意に染まないやっつけ仕事だったからと見る方が自然だと思いますが。

Posted by: 走ルンです | Tuesday, August 28, 2007 06:48 PM

【リンク報告】
 こんにちは。私はカミタク
http://homepage2.nifty.com/kamitaku/
と申します。

 私が運営しております、鹿児島県内外の観光スポットと温泉を紹介するホームページ「温泉天国・鹿児島温泉紹介!」
http://homepage2.nifty.com/kamitaku/kagoonin.htm
内のサブ・コンテンツ「九州新幹線乗車記」
http://homepage2.nifty.com/kamitaku/KAGKANB4.HTM
から貴ブログ記事にリンクを張りましたので、その旨、報告申し上げます。

 今後とも、よろしくお願い申し上げます。

Posted by: カミタク(リンク先は「九州新幹線乗車記」) | Monday, March 07, 2011 08:44 PM

はい、いらっしゃいませ。

リンクフリーを標榜しておりますので、明らかなスパムでない限りは歓迎いたします。

とはいかなりスタンスが違う気がしますが、かまいませんか。当サイトは整備新幹線に関して概して否定的なスタンスですが。

ま、堅苦しいこと抜きに、こちらこそよろしくお願いいたします。

Posted by: 走ルンです | Monday, March 07, 2011 09:39 PM

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