JR北海道MAHV開発の狙いは?
久々の更新は鉄ネタでいきます。タイトルのとおりですが、JR北海道のプレス発表をご参照ください。メカの話に入る前に、試作車がキハ160-1の改造車であることに注目いたします。
キハ160は、いわゆる新潟鉄工製軽気動車(NDC)で、1997年に、日高本線で運用されていたやはりNDCのキハ130の事故廃車の代替車として1両投入されたのですが、キハ130の残りの車両は、12年の減価償却期間を終えたところで、国鉄型のキハ40に置き換えられたために、1形式1両となってしまいました。NDC自体は、南阿蘇鉄道を皮切りに全国の第三セクターローカル鉄道に導入され、ライバルの富士重工LEカー/-DCとともに、国鉄末期に始まった特定地方交通線転換鉄道各社に導入が進み、JRでも西日本のキハ120と北海道のキハ130で採用されましたが、キハ130は短命に終わりました。
元々NDCはバスや建機の汎用部品を多用して、従来の国鉄型よりも軽量高性能でローコストといいことづくめという触れ込みでしたが、鉄道車両としては耐久性に課題があったようです。特に初期車の老朽化は、経営が苦しい三セクローカル鉄道でも、車両更新が課題となっているようです。キハ160については、初期車の実績に基づいて仕様変更されているようですが、キハ130の代替車として本採用されなかったところをみると、やはり北海道で使うには問題があったのでしょう。そういうわけでキハ160-1は取り残されてしまったわけですね。
ここで少し視点を変えますが、鉄道の動力駆動システムは、交流電化、直流電化、ディーゼルの3方式が棲み分けている状況です。電化路線に対して非電化路線ではほぼ世界的にディーゼルが主流ですが、動力の駆動は発電機で電気に変換してモータを回す電気式が主流です。日本とドイツだけがトルクコンバータを用いた液体式駆動が使われていたのですが、ほぼローカル線向けレールバスが中心のドイツに対し、幹線用大型機関車にまで液体式を用いる日本のあり方は、世界的にはかなり突出した存在でした。それでも日本国鉄で用いていたディーゼルエンジンが、船舶用を出自とする低回転ローパワー型だったことで、変速機の直結段を1段で済ませるなど、簡素なシステム構成が可能だったということはいえます。
それが国鉄時代でも新系列といわれるDML30系列の高出力機関が開発されると、直結2段の変速機が開発され、それなりに使われてはおりましたが、やはりメンテナンス面から特定区所への投入に留まり、それに留まらずリミッターで出力を制限したり(キハ66系)、シリンダーを半減したり(キハ40系)していたのが、いわゆる国鉄型の歴史過程です。これには後日談もありまして、JR東日本で機関換装してカミンズなどの高出力機関を採用したものの、変速機の能力を勘案してリミッターで出力制限をかけておりました。
それに対して富士重や新潟鉄工の軽気動車は、汎用品の活用でハイパワーエンジンと複数段変則機の採用で、国鉄型を上回るパワーウエイトレシオを実現し、その意味では大きな技術革新を実現したのではありますが、同時期の電気車の技術革新は凄まじく、三相交流誘導モータとVVVF制御によって、軽量、高出力、高粘着をローコストで実現でき、電気接点を持たないので機器もコンパクトになりメンテナンスフリーを実現し、かつ電力回生ブレーキの活用で省エネまで実現してしまうという優れもので、実績として電力費半減まで実現してしまったのですから、燃費半分とはならないディーゼル車との技術革新の不均衡は明らかです。かつターボ、インタークーラー、コモンレールなどの新技術はメンテナンスはむしろ難しくなりますし、動力駆動装置としての変速機の負担も高くなります。
このことの意味するところは、電化と非電化を分ける境界線が電化側へシフトしたことを意味しますが、一方で電化のためには地上側に多額の設備投資を要求されることに変わりはないわけで、車両レベルでのローコスト化が即電化進捗とはならないわけで、逆に現時点で非電化の鉄道は、存続がますます難しくなるということになるわけです。となれば、車両レベルで凄まじい発展を遂げている電気車の技術を移植し活用しようとするのは自然です。鉄道車両の場合、電気駆動そのものは、手馴れた技術ではあるわけですし。
もう一つの文脈として、電気車両の方の問題もあります。特に直流電気車の回生失効問題です。商用周波数交流をコンバータで直流変換してインバータで三相交流を生成する2段階の電力変換を行う交流電気車の場合、現時点では停止用回生ブレーキはほぼ完成したシステムといえる段階にありますが、架線電圧に制約される直流電気車では、実は回生失効問題は無視できない問題なのです。高速域では高圧電流が自車の機器を損傷するおそれがあるので、保護リレーが働いて回生が失効するし、一定以下の低速域では主回路電圧が架線電圧を下回ってやはり回生失効となるわけです。ですから電力回生ブレーキで省エネとはいっても、元々大電流の制御で苦労している大都市通勤線のピーク電力抑制には役立つにしても、温暖化防止への貢献度は言われるほどは高くない可能性があります。その意味でやはり蓄電という発想が出てくること自体は自然なことです。
というわけで、やっとハイブリッドの話となりますが、JR東日本のキハE200が電車ベースのハイブリッドシステムという特徴があるのに対し、JR北海道のMAハイブリッドシステムでは、変速機に誘導モータを組み込んでトルコンと摩擦クラッチを代替するという、ディーゼル車ベースのシステム構成となっているのが面白いところです。極寒地の北海道では、地上の電路設備のメンテナンスも困難が伴う上に、札幌一極集中で人口密度が低く鉄道に不向きな条件があるわけですから、今後も電化区間が延びる可能性は低く、むしろ車両に熱源があるディーゼル車の走破性の高さは評価されるべきです。その意味でJR東日本とは全く異なるハイブリッドシステムの開発と相成るわけです。
当然着地点も異なり、JR東日本がおそらく将来の燃料電池駆動を視野に入れ、地上側の電化非電化の別に拘束されない車両の出現が示唆されますが、JR北海道のシステムは、あくまでもディーゼル車の範疇での電気車両のいいとこ取りという感じで、ハイブリッドの本来の意味である混血、雑種、合いの子というニュアンスに近い感じです。蓄電への注目という意味では、鉄道総研が提案するバッテリートラムというのも同じ文脈で捉えると明らかですが、動力源として全面的にバッテリーに依存できるとは思えませんが、たとえば郊外の専用軌道区間で集電しながら蓄電し、市街地のトランジットモールでは架線レスでバッテリー走行とか、たとえば現状では技術的必然性の乏しいガイドウエーバスに応用して、ガイドウエー区間では集電しながら蓄電し、道路走行時にはバッテリー駆動とするなどが考えられ、技術的可能性が広がります。いずれにしても現状では電池性能が大きなボトルネックであり、実車レベルではバッテリー交換で省エネ効果もメンテナンスフリー効果も相殺されてしまう状況ですが、電池技術を進化させるには実車走行を行う以外に方法がないわけで、まだまだテスト段階ということです。
その意味でJR北海道がもてあましているキハ160-1を改造して試作車としたことは、懐事情もさることながら^_^;、まだまだ超えるべきハードルを認識しているということでもあります。また電気車とディーゼル車の技術革新の不均衡が生んだあだ花の軽気動車が任用されたという意味でも意味深な出来事ですね。
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