磁気券IC券二重価格in新横浜
同じような話題を以前も取り上げましたが、他社線を介した通過連絡運輸特例に関するものでした。SuicaとPASMOの共通化で複雑になった運賃判定モジュールでは対応できないというのが、一応の理由ということですが、やはり磁気券とIC券で運賃が異なるという点には違和感があります。
今回取り上げるのは、3/15にTOICA、ICOCAとの共通化に関連するものですが、不可思議なのは3/14以前は同じだった運賃が、3/15を境に違ってしまったという点です。対象は、新横浜、菊名と小田原以西各駅(Suicaエリア)間です。概要は1枚の駅貼りチラシによる告知だけです。それも篠原口では目立つよう位置が工夫されてますが、駅ビル内のメイン改札口では、ちょっと目に付きにくい位置に掲示されていて、JR同士でスタンスの違いが示唆されます。
新幹線をめぐる運賃計算は、新幹線駅を並行する在来線駅と見なして、在来線の営業キロで計算するルールですが、例外として新幹線駅が在来線駅と離れている場合で、その駅発着または乗継の乗車券については、新幹線と在来線を別の線として乗車経路どおりの営業キロで計算することになっております。つまり小田原から新横浜までは、新幹線経由と在来線経由とで運賃が異なるわけです。ここまでは本則による部分です。
問題は小田原~新横浜間の新幹線経由の乗車券が東神奈川経由の乗車券より安くなるのですが、新幹線は東京近郊区間に含まれませんから、本則どおりであれば新幹線経由の乗車券で在来線を経路選択するとこはできません。しかし便宜的措置として新幹線経由の乗車券で在来線の経路選択が認められております。多分国鉄時代から乗客とのトラブルが多発し、グレーゾーンでもあるので、乗客の利益を優先した取扱いが慣例化したものと思われます。そして民営化後もこの取扱いは引き継がれます。ただし同じ新横浜発着でも、品川方面間では、このような取扱いはなく、本則どおりです。
そして2001年のSuica導入時点でも、IC券と磁気券を差別することは行われず、Suica利用でも新幹線経由の運賃が引き落とされていたのです。今年の3/14までは。3/15のTOICAとの共通化を機に見直されたわけですが、不思議なのは、磁気券では従来どおり新幹線経由運賃が適用されるのに、IC券では経路どおりの運賃引き落としとなり、結果的にIC券利用の場合のみ運賃が高くなる二重価格状態となったわけです。元々慣例的な便宜的措置だったんですから、IC券に合わせて磁気券も経路どおりとすれば、規則上すっきりしますし、とりあえず乗車経路で運賃計算されるわけですから、乗客に特段の不利益があるわけではないのですから、あとは的確な説明がなされれば良いだけです。しかい実際は磁気券と取扱いが分かれてしまい、ICカード所持者は券売機で磁気券に交換することで、割安な運賃で利用できるのですが、乗客に無意味な手間を求め、結果的に二重価格状態としてしまったわけです。意地悪な見方をすれば、IC券利用者からこっそりふんだくることができてしまうという意味で問題があります。
しかしなんでこんなけったいなことが起こるんだろうかと思っておりましたら、最近TVCMでやたら流れるEX-ICがどうも原因のようです。つまりSuicaなどのIC乗車券とのダブルタッチで利用できる東海道新幹線限定のチケットレスサービスの導入で、新幹線で実際にIC乗車券が利用できるようになり、その際に会社間の取り決めで妥協の産物としてこうなったということなんでしょう。EX-ICでは事前予約をwebで受け付け、新幹線改札にカードをかざす時に利用券を受け取るという形でチケットレスを実現するのですが、ベースとなるエクスプレス予約のスタイルを踏襲し、特定市区エリア発着特例をなくして値引きされており、その分経路特定を厳格化したものと思われます。ただしこれだけではJR東海の収入に直接食い込むわけではないJR東日本の在来線での新幹線経由の割安運賃を放置しても問題ないはずです。
ところが別のところにヒントがありました。在来線の熱海~函南間がTOICAエリアから外されている問題です。そう、IC券だけで在来線ルートで静岡エリアへ行けないんです。新幹線経由でEX-ICを用いる場合だけ、IC券で継続利用できるんですね。つまりかなりセコい新幹線誘導策ということができそうです。こだましか停車しない三島や掛川で新幹線連絡の名目で在来線列車を長時間停車させてるぐらいですから、あり得る話です。
Suica生みの親の椎橋JR東日本IT-Suica事業本部副本部長の著書に明記されてますが、Suicaの最大の功績は、ライトユーザーを囲い込めたことです。従来鉄道をあまり利用しなかった人たちにとって、着駅までの運賃を調べて券売機に小銭を投入し、乗車券を買い求めること自体が負担と感じられていたのが、チャージさえしていればカードを改札でかざすだけで済むことで、鉄道利用の掘り起こしができたということですね。今後高齢化で運転免許を返上する人も増えるでしょうが、そういった人たちの中には、そもそもキップの買い方がわからないという人がいたりします。人口減少が始まって、右肩上がりの将来を展望できない中で、このことの意味は重要です。
例えばスルッとKANSAI各社が導入したPITAPAが、ポストペイ方式を採用し、利用ごとにポイントを付与することで、同一区間の反復利用の場合の引き落とし上限を定期運賃相当とすることで、定期券や回数券を廃止するという画期的な方法を試みておりますが、発行はクレジットカード同様に煩雑なこともあり、普及度合いはSuicaなどのプリペイド陣営ほどではないようです。PITAPAはヘビーユーザー向けサービスと考えた方が良さそうです。それに対して無記名式ならカード販売機で買えるし、定期券タイプも専用発行機が用意されているSuicaの方が、利用者の広がりは大きいといえます。このことはPASMO品切れでも図らずも明らかになりました。
JR東海のEX-ICは、その意味では新幹線利用客の囲い込みという意味で、ヘビーユーザー向けのサービスといえますが、反面ライトユーザー軽視とも取れるだけに、いささか問題のある対応かと思います。意地悪な言い方をすれば、バレなきゃ高く引き落として構わないということですから、JRを信頼して利用する人が知ったら失望するんじゃないでしょうか。
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Comments
論旨がもう一歩見えませんが、EX-ICは
おっしゃるように「新幹線専用」で在来線は
利用不可です。ですので短区間軽視というより
新幹線専用ICカードと呼ぶべきものではない
でしょうか?
またsuica、toicaの区間を分けるための
デットセクションとでも呼びましょうか、
熱海、函南のtoica使用不可はむしろ混乱防止
のための措置として受け取るのはいかがでしょうか
よほどの物好きでもない限り下で沼津まで行く人は
いないでしょうし、もしそうだとすればきっぷを
買えば良いことで、少数派ユーザーのために莫大な
開発費を投じるよりも使用不可で乗り切ったほうが
結果安いと思います。
EX-ICを私も持っていますが使いません。なぜなら
もっと安い「早割」があるからです。出張のような
ほぼ毎日的使用でもないかぎりこのカードは元が
取れないというか無料配布ですよこれ。(EXカード
に入る必要はありますが)
東がえきねっとで300円程度しか負けないというより
東海のEXカードの方がお得率は高いです。
Posted by: SATO | Tuesday, July 08, 2008 11:58 PM
記事、いつも楽しく拝見しております。
ICカードの広域利用(Suica/ICOCA/TOICA直通)の
障壁になっているのは東日本などで初期に導入した
機材の容量・処理能力不足とお聞きしています。
あるいはトラブルが予期できる広域利用を
まずは避けたのかもしれません。
この問題とEXカードは分けて考えた方が良いのでは?と思います。
それより石頭東海が、VIEWモバイルSuicaの
利用をスタートしたのが何よりも驚きでした。
Posted by: ポポロ | Wednesday, July 09, 2008 09:56 AM
ポポロさん ありがとうございます。
機器の処理能力不足とは・・でも
確かにそうですね。
またきっぷが原則「発券駅」の収入であるのに
対してカード類は「本社の収入」(オートチャージ
ならなおさら)になるので精算が面倒に
なるのではと感じました。
でもsuicaなどはまだ便利ですよ。pasmoは
大阪で全く使えませんから。そのあたり
どこまで利便性を見るかですね。高額デポジット
は紛失時のリスクが高く、掛売り(後日精算)の
ビューなどは貸し倒れが怖い。そのあたりの
商慣習もあっての措置と思います。
Posted by: SATO | Wednesday, July 09, 2008 11:52 AM
コメントありがとうございます。
問題を切り分けた方が良さそうですが、大元の話題は新横浜関連の磁気券とIC券の二重価格問題なんですが、不思議なのは元々効力が同じだったものが、3/15を境に扱いが変わったという事実があるんです。国鉄時代からの例外的な特例措置がSuica導入後も生き続けていたわけで、実際の値引きはJR東日本が行っていたわけですから、3/15で変更される理由が見当たらないのです。
唯一考えられるのが、EX-ICとの関連ですが、詳細は公表されておりませんので不明です。ともかく利用者にとってのネガティブ情報ですから、もう少し丁寧な説明が欲しいところです。
ポポロさんご指摘のように、熱海~函南間の緩衝地帯設置は、ハードの制約の方が理由でしょうし、東でも常磐線いわき~原ノ町間で首都圏エリアと仙台エリアの緩衝地帯を置いてます。東京からの通し利用は少数かもしれませんが、神奈川西部と静岡東部で見れば、少数と切り捨てるには問題のあるボリュームの利用があります。
あと例外だらけの国鉄時代からの営業規則をいつまで引っ張るのかというのも論点です。せっかく新システムを導入するんですから、システムから逆算してシンプルでわかりやすい営業規則に変更することが、事業者にも乗客にも利益になるはずです。実際Bグリーン料金の簡素化などは行われたわけですし。
というわけで、とりあえずは事実の指摘を以て問題提起としたいと考えたわけです。
Posted by: 走ルンです | Wednesday, July 09, 2008 07:26 PM