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September 2008

Tuesday, September 30, 2008

小さな政治

米国発同時株安が続きます。きっかけは米金融安定化法案を下院が否決したことです。

金融安定化法案の修正案、週内策定めざす 米政権
選挙前ということもありますが、不人気な政策が議会を通りにくいのはいずこも同じのようです。この結果NYダウ777ドル安と大幅に下げたのを皮切りに、欧州、アジアと軒並み下げて東京市場でも、日経平均が年初来安値です。
日経平均大幅続落、終値483円安の1万1259円 金融危機で全面安
市場の混乱は丁度世界を一巡りしたわけです。

しかし総額75兆円の金融安定化策ですが、金融機関の不良資産買取りで事態が沈静化するかといえば答は否です。不良資産の元となる住宅価格の下落が続いている状況では、今は健全でも時間の経過と共に不良資産化するものが次々と出てきますから、問題解決にはなりません。それでも政府がコミットする姿勢を示すことで、変化をマイルドにするぐらいの効果はあるかもしれません。

今回の金融危機ですが、メディアは相変わらず意味も分からず騒いでおりますが、1930年代の金融恐慌の再来のように危機感を煽る姿勢は疑問です。金融恐慌は集団心理による現象であり、現在のように情報が大量にかつ迅速に流通する状況ではありえません。当時と比べてあれもこれもこんなに似ているというのは、あまりにも近視眼的な見方です。今回はそんな話です。

貨幣の物理的特性は非線形的です。少額のコインと紙幣は非連続ですし、紙幣でも額面による発行コストの違いは大きくありませんから、高額紙幣ほど通貨発行益(シニョレッジと言います)は大きくなります。そして100枚単位の帯封留の紙幣は見る機会があるかもしれませんが、その量的ボリュームから億単位の紙幣でも、手提トランクに納まる程度であり、銀行支店やATMへの補充などは現金輸送車で間に合うわけです。

それが兆円単位になれば、それでは間に合わなくなり、コンテナに収めて輸送する必要があります。当然セキュリティも含めてコストがかかりすぎて、実際に動かすことは困難です。こうなると現物貨幣は不便な代物なんですが、例えば小切手ならば書き込む数字の桁数でいくらでも大きな金額を指定できます。もちろん決済に使う当座預金口座に残高がなければ不渡りになりますが、現金輸送車やコンテナを使わなくても運搬できる使い勝手の良さはあるわけです。

さらに進むと、銀行口座同士で残高の数字をやり取りすればもっと容易に高額のお金を動かせるわけですが、それもかつては元帳からカーボンコピーされた伝票でやり取りしていたものが、口座自体がデジタルデータとなり、さらに銀行間オンライン通信が可能になり、通信速度も処理速度もどんどん速くなり、流通速度が増すわけです。

しかしこのことは、同時に貨幣以外の財貨の流通速度との相対的な速度差を増すことを意味します。兆円単位の決済でもクリックだけで一瞬のうちに可能な一方、例えば小麦を同額分運搬するとなれば、大型船舶が何隻も必要となりますし、発地と着地の距離のよっては1月以上の時間も必要です。また国境を越えるときは、通関や検疫で足止めされます。

人に関しても、国家間で移動が制限されているのが普通ですし、特に労働力としてはなおさらです。さらに技術となれば、複数年の研修期間を経て習得されるわけですから、ますます流通速度が下がります。また社会的文化的制約から受け入れが滞る種類の技術もありますので、場合によっては世代交代を伴なう形でしか流通しないものもあります。

このことは、貨幣を媒介として自由に財の交換ができる資本主義社会においては、流通速度の異なる財の交換は必然的に生じる時間差に裁定機会が存在することを意味します。つまり将来高い確率でこうなるという事がらに対して資金を提供してリターンを得ることが可能になります。その意味でとかく批判の対象とされているサブプライムローンやデリバティブや証券化商品などは、グローバル化とIT化の必然的な帰結として登場したものといえます。これらの新しい金融手法を悪者にする議論は馬鹿げてます。

そしてこの流れをリードしたのがアメリカだったのですが、その結果世界の投資資金がアメリカへ集まる事態となったのです。元々基軸通貨国で他国より優位にあるアメリカで、ベルリンの壁崩壊による平和の配当が後押ししてIT革命が起き、さらに新自由主義的な金融自由化と相まって、貨幣の流通速度が増して他国より多くの投資機会を生み出したわけです。その結果が双子の赤字の拡大による消費ブームだったのです。経常赤字で海外へ流出したドル貨幣は、黒字をため込む貿易相手国の国内投資では消化できず、アメリカへ還流する流れとなり、いくら借金しても次々と資金がファイナンスされる状況が続いたわけです。その結果としての住宅バブルであったわけですが、このアメリカにとって都合の良いシステムは当然ながら持続不可能であり、いつか破綻するしかなかったのです。

逆に言えば破綻の解消のためには住宅価格が底値をつけるだけでは足りず、アメリカの巨大な経常赤字が解消されて初めて、歪みが取れて正常化するものでもあります。それは必然的に円ドルレートを円高へ向かわせるものとなります。つまり外需依存の強い今の日本では、当面の経済停滞は避けられないということです。しかも米経常赤字の解消には時間を要しますので、1.8兆円程度の財政出動で下支えできる程度の停滞ではないと断言できます。つまり政府が打ち出している総合経済対策は全く無意味です。

既に世界の中央銀行は、流動性の供給に奔走しておりまして、特に通貨スワップ協定によって日銀など世界の10の中銀でドル供給を開始しました。

日銀、2兆円の即日供給オペを通知――10日連続の即日供給
欧米金融機関のドル調達が滞る中、円で調達して外為市場でドルに換える動きが日本円の流動性にも影響していることからの協調行動ですが、政治的に為替の円高介入や円高誘導を意図した利上げがやりにくい状況の中、円で調達した資金でドルを買う動きが外為市場のノイズとなってドル相場を押し上げる動きを封じる意味もあります。中長期的にはドルの減価を進めるしか手立てがないわけです。日米共に小さな政府を志向して小さな政治に成り下がってしまったようですね。

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Saturday, September 20, 2008

米米蔵負

タイトルは"こめこめくらぶ"と読んでください^_^;。もちろん事故米問題です。当ブログの過去記事でこの問題を取り上げております。要旨は消費されないミニマムアクセス米が腿蔵されていて、税金の無駄遣いになっており、処分法として援助米に回っているというものです。この観点からすれば、現在の事故米問題は北朝鮮向け経済制裁が長引いたからか(苦笑)。

冗談はさておきまして、そもそも食用として消費されないコメをなぜに輸入しなければならないか、それも税金でという謎があるわけです。そもそもの始まりは1993年、冷夏と風水害でコメの作況が悪化し、店頭からコメが減り、外食などでもコメの確保が困難になったことから、緊急輸入の措置がとられたことに始まります。

時あたかもGATTウルグアイラウンドの交渉中で、特に各国で保護対象としている農産物の自由化のステップとして、非関税障壁の関税化による貿易促進が提案されておりました。これに各国が反発していたんですが、欧米では農業分野の補助金を廃止して関税化することへの抵抗であったのに対し、日本をはじめとするアジア諸国の多くではそもそも農産物を自由貿易の枠組みから外すことを主張し、議論は全く噛み合っていなかったのです。

そんな中での日本のコメの緊急輸入ですから、当然日本の立場は微妙でした。それまでは「コメは1粒たりとも入れない」と息巻いていたんですから、他国からのツッコミはおそらく過酷なものだったと推察されます。結局工業製品を中心に自由貿易の恩恵を享受している日本は押し込まれ、関税化と最低輸入義務、いわゆるミニマムアクセスを受け入れることとなります。

ですから関税化は輸入義務とワンセットで、かつ時間をかけた関税の引き下げと輸入拡大の義務も含意されていたのですが、その部分は頑なに無視し、むしろ関税化に抗って農業補助金を廃止しない欧米へのけん制はちゃっかり行うというスタンスを取り続けました。その矛盾がミニマムアクセス米の腿蔵となって現れているわけです。腿蔵されれば当然水没したりカビが生えたりして食用にならないものも出ますし、さらに当初行っていなかった残留農薬検査を在庫分も含めて実施して、メタミドホス汚染米が発見されたわけです。食用にするつもりなら最初からやっとけっての。

その結果、腿蔵されたコメの処分に困るようになってきたんです。とにかく輸入は毎年のことですから、それに見合うだけ消費されないと倉庫が無限に必要になるわけですから、農水省は焦っていたわけです。まともに流通させようとすれば、保護しているはずの農業関係者から裏切り者呼ばわりされてしまうわけですから、できるだけ目立たないようにこっそり処理する必要があったわけです。また廃棄すれば輸入ワクから外される恐れがあるので、食べられなくても棄てることもできなかったわけです。

本来はミニマムアクセスを受け入れた以上、それを消費市場へ届ける流通の整備は欠かせないはずですが、この部分ではむしろ規制緩和の流れに乗ってコメ卸売業への参入を届出制にすることとしたんですが、その結果新規参入が増えて、部分的には競争強化でコメ価格が下がるなどはしたものの、輸入米には高関税がかけられた状態での競争ですkら、国産信仰の強い日本の消費者に輸入米を直接売ることは叶わず、価格差がなければ国産米が売れるのは道理です。かくしてコメ農家は所得を減らし、流通の規制緩和で少しだけ安くはなったものの、関税に守られて国際価格より高いコメを消費者は買わされ、あまつさえ流通業者の増加で市場規律も緩みがちで、以前から食用米への加工用くず米の混入は指摘されてました。スーパーなどでバーゲンで売られる安いコメには、粒が小さかったり割れていたりするものが見られました。多数の業者でやり取りする間に混ぜてしまえばわからないわけで、流通業者に偽装のインセンティブを与えたわけです。

というわけで、大臣や事務次官が辞めたぐらいで幕引きできる問題ではなくなりました。結局農業者、消費者、流通業者全てを不幸にする三方丸損状態となるわけです。というわけで、日本が受け入れた関税化ですが、当事国が関税引き下げや輸入拡大に努力しないのであればうまくいくわけがないんで、欧米式の農業補助金の方が良かったのではないでしょうか。この際問題になるのは、補助金を得て安値となった農産物が輸出されて途上国の農業を直撃することですが、これは基本的に事後的な援助と農業技術移転の促進などで対応するようルール化されることが望ましいと考えます。援助であれ何であれ、保存が利かない農産物を適切に消費することは重要で、農業補助金を交付する場合、貧困国への援助も織り込んだ対応とすることは、結局農業を助けます。

あとこのように農業で食えない状況を放置すると、農業の継承が難しくなる点も問題です。実際日本の農業はボロボロです。その結果農地の地価は収量を反映して安値となりますから、農地保有者には常に農地の転用の期待を抱かせることになります。そして相続などで実際に財産権を盾に転用され、平地で市場アクセスの良好な北関東などの農地でさえ、虫食い状に開発されて農地の生産性を下げています。本来は農地の転用は原則禁止とすべきです。農地であれば相続税は猶予されますが、独立して都市に住まう2代目に営農の意思がなければ農地として安値で売るよりも、相続税を払っても高値で売れる転用は魅力的です。加えて公共事業であれ民間事業であれ、開発行為によって営農が継続しがたい状況になれば、合法的に農地の転用が可能になるわけですから、地方の公共事業のおねだりは、土建屋を潤すに留まらず、地権者である農業者への掴み金となることも指摘できます。ゆえに公共事業をおらが村に運ぶ政治家先生が尊ばれるわけですし、公共民間を問わず開発行為で多額の用地買収費を要するから事業は進まないで非効率になりますし、土地が化ける可能性が土地の流動性を極端に下げているわけです。日本の地価が高い理由です。

というわけで基準地価が発表されました。

基準地価の下落率拡大 全国平均、08年1.2% 3大都市圏は伸び鈍化
昨年と比べて下落傾向が強まっているわけですが、それをサブプライムショックによる外資の撤退に求めるとすれば木を見て森を見ずです。むしろ実態は国内外を問わず地価の上昇は限られた地域の限られた土地だけで、いずれもバブルといえるものだったわけです。それとの対比で日本の大都市圏の中心地は割安と見られていただけの話で、バブルが弾けてみればそうでもなかったし、むしろ昨年段階で上がりすぎていたと見るべきでしょう。

といいますのは、例えばマンションですが、2006年下半期から新築マンションが値上げされ、それと期を一にしてマンションの販売にブレーキがかかりました。また再開発ラッシュが続いた去年までは、再開発による古いビルの取り壊しのために仮オフィス需要が強かったことが、オフィス賃料の上昇トレンドとなっていただけで、一巡すれば仮需要は剥げ落ち、空室率が高まってきたわけです。

元々人口減少が始まった日本において、住宅需要が将来高まることはありませんし、現在世帯総数の2割増の住宅ストックが既に存在している状況で、いつまでも新築マンションが売れること自体あり得ない話です。これからは住み替え促進などで世代間で住宅ストックを再配分することで、大量の建築廃材を生み出す建て替えをなくすことが望ましいわけで、その意味で京王電鉄の取組みは注目されます。

またグローバル化の中で新興国が台頭する中、工業分野は省力化と規模の経済による集約化が進みますから、この面でも土地の需要は減ります。などなど、日本の地価の今回の下落傾向は、バブル崩壊により長期トレンドが顕在化したものと見ることができます。つまりサブプライムショック以来のアメリカの経済混乱が収まるまで景気は回復しないなんて言っていたら、アメリカといっしょに沈みかねません。

80年代後半のバブル崩壊は、アメリカの貯蓄投資組合(S&L)の破綻にしろ、日本や北欧諸国にしろ、国内問題だったわけですが、その後急速にグローバル化が進み、バブルの後始末を3年ほどで終えた米や北欧がその後の世界経済のけん引役となった一方、処理に手間取って15年もの時を失った日本は、外需依存とりわけアメリカ依存を強めた結果、今回のようにアメリカがこけたらどうしようもなくなるわけです。世界中に大量にばら撒かれたドルの信認に瑕がついたわけですから、事態はドルショックとオイルショックとバブル崩壊が同時に起こったようなもので、外需頼みでは浮上できません。

というわけで「コメとアメリカ、2つの米で道を誤った日本」がタイトルのココロなのだ^_^;。

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Monday, September 15, 2008

ロス列車事故は対岸の火事?

えーと、どうにも悲惨な事故ですが、情報が錯綜しております。

通勤列車側が信号見落とし 米衝突事故、死者25人に
信号無視原因か ロス列車衝突
米列車衝突、原因は通勤列車の信号見落とし…死者25人に
運転士、信号見落としか=事故1分前にメール送信-米加州
おそらくニュースソースは海外通信社の配信記事で同じなんでしょうけど、メディアごとに取り上げ方が微妙に違います。現場はU字カーブで見通し悪く、手前に行違い信号場があったそうで、鉄道を知っていれば、これだけで通勤列車側が何らかの理由で停止信号を冒進して貨物列車と正面衝突した事故とわかります。現場の見通しの悪さは直接的には事故には関係しません。

また事故1分前に携帯メールを送っていたことが証言されてますが、このことと信号見落としの関連性については、現時点では断定は避けるべきでしょう。それよりもATSが未設置だったことで、安全対策の不備が疑われます。またそこには同じ線路を複数の事業者が共同使用する米国の鉄道事情もあります。加えて日本の鉄道事業法では、設置基準こそ尼崎事故以後ですが、ATS設置が義務付けられておりましたから、鉄道事業に対する政府の関与の度合いに違いがあります。当局は30年前から設置を推奨しながら、コスト負担を嫌った事業者の不作為で放置されていたわけです。

日本でも先日JR西日本山崎社長をはじめとする関係者10人が兵庫県警から書類送検され、検察が起訴するかどうかが注目されてますが、米国での事故の責任の取り方には興味があります。

JR西社長ら書類送検 尼崎脱線事故、業過致死傷容疑で10人
と同時に、この事故を契機にATS設置基準が定められ、私鉄各社は速度照査機能を持たせた保安装置の更新計画を発表し準備にかかっておりますし、従来予防安全重視の立場から、軽視されがちだった衝突安全についても、JR東日本E233系のクラッシャブルゾーン設定やJR西日本の223系でも今年7月落成分から車体強度向上仕様となるなどの変化が出ておりますが、他社への波及はこれからでしょうか。ただし元々衝突安全を重視していたアメリカの構造規則で作られたメトロリンクの客車が、外観は維持しながら機関車が食い込んで中身がグチャグチャになったように、車体強度強化の効果は過大評価できないこともまた抑えておくべきでしょう。

あとロス通勤列車の運転士が下請会社社員だった件ですが、いかにもアメリカらしい労働市場の流動性の産物と見ることも可能ですが、むしろ斜陽産業だった鉄道事業ゆえの問題とも見れます。鉄道事業従事者とりわけ運転要員については、専門性が高く育成に長い時間と費用がかかる点はどこの国でも同じです。年功序列が崩壊したと言われる昨今の日本でも、こと鉄道に関しては徒弟制度が健在です。新入社員は現場に配属されると、その現場のベテラン社員を師匠としてみっちり基礎を仕込まれた上で、本人の希望と能力に応じて、地上職から列車乗務職へ、車掌から運転士へとキャリアアップする仕組みで、その中で必要なスキルを身につけるわけです。

この仕組みは、若い社員にコストをかけて育成するわけですから、鉄道事業者の負担は重いわけですから、人口増で右肩上がりの需要増を見込めるうちは良いとして、需要増を見込めない成熟段階になると、即戦力の中途社員や定年後の嘱託社員を多用することで、当面の負担の軽減に走りたくなるわけです。実際国鉄改革の前後で新規採用が手控えられたJR各社では、30代40代の中堅社員が手薄で、定年間近の高齢社員と経験不足の若手社員で技術継承に齟齬を来す状況が見られました。思い出して欲しいんですが、JR尼崎事故の高見運転士の若さが事故を引き起こす要因の一つであったことです。

あとあまり知られておりませんが、2005年春に阪急電鉄などから運転士などの労働者派遣法の規制緩和要求が出されていたんですが、尼崎事故後に国土交通省が門前払いをしたことで沙汰止みになりました。もし認めらていれば、日本でも派遣運転士が登場したかもしれないですが、認めるべきではありません。人材育成は企業の責任です。鉄道事業のような公共性の高い事業の場合、人材育成は事業継続のための投資でもあるわけで、これを外部に依存すれば、むしろ事業の継続性を阻害します。会計規則上従業員の技能などはバランスシートに反映されないのですが、事業は人の格言は、1分前メール送信でわかるモチベーションの低さから、ロス列車事故でも明らかでしょう。

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Saturday, September 13, 2008

川崎重工イーエフセット開発、日車とは違います

結構ビッグニュースです。

時速350キロの高速鉄道車両、川崎重工が開発着手
世界市場向け350km/h新型高速鉄道車両「efSET」の自社開発について
川崎重工は鉄道車両メーカーとしては珍しく、自らリスクを取って市場開拓を行う姿勢が強いですが、ついに高速車両まで自社開発することとなりました。商社の助けを借りながらの海外展開も熱心で、ニューヨーク市地下鉄の車両更新をほぼ独占受注するなどの実績を重ねておりますが、それだけに海外市場の難しさを知りつつ、国内では為し得ない高収益も可能というのをわかっているのでしょう。

海外向け高速鉄道車両では、日立の英国向けClass395電車が既に納入され、2009年12月予定の高速新線CTRLで営業開始予定です。日立のそれはAtrain技術を応用した廉価版で、IC225の置換え用という位置づけですが、efSETは350km/hという世界最高峰の高速運転を前提としたものということで、基本設計を2010年3月までに終え、設計検証も行うということですから、多分試験車両が作られるものと思います。さて試運転はどこでやるんでしょうか。

世界的に鉄道の復権は進んでおりますが、ひとり日本だけがその波に乗り遅れていた感があります。それが川崎重工のチャレンジで変わるかどうか、楽しみです。世界に目を向ければ、仏アルストムのAGVや独シーメンスのICE3などに留まらず、スペインもAVE350と称するタルゴトレインの改良型を独の協力を得て実現してますし、伊フィアットのペンドリーノやETR500、スウエーデンABBのX2000など百花繚乱です。今後BRICsやその他の新興国、資源国などで鉄道投資が続くのは確実で、既に陣取り合戦は始まっているといえます。

その中で台湾新幹線を投げ出した某社は、リニアを夢見る引きこもり自閉症児がごとき対応ですが、川重の試験車両の試運転には協力しないだろうなあ。伝え聞くところでは、リニアをアメリカに輸出したいらしいという話はありますが、アメリカでは既に貨物鉄道の保有する線路を利用した旅客輸送を行っている地域があり、事故報道で話題のメトロリンクも、カリフォルニア州南部のロスアンジェルス近郊輸送を担う旅客鉄道事業者で、いわゆるモーダルシフト政策で公的支援を得ております。

アメリカは貨物鉄道がインフラを保有し、Amtrakやメトロリンクなどが線路使用料を支払って旅客列車を運行するという日本のネガフィルムのような鉄道事情ですが、貨物鉄道はランドブリッジと称される産業インフラでもあり、船舶やトラックに対して圧倒的な競争力を持っている存在でもあり、新たにインフラ投資する必要は低いでしょう。世界を見ればリニアの入り込む余地はあまりありません。

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Friday, September 12, 2008

バスで取り過ぎ昨年春から

前の記事の続報です。

パスモの過徴収、07年春に把握
ちょっとひどいですね。PASMOサービスが始まってすぐの4月に乗客の苦情で発覚、バス共通ICカード協会(以下「協会」と記す)は大きな問題と思わず公表せず、5月にICカードで決済未了時に取り消し処理をしないよう通達し、12月にはエラー音を他のものと区別できるようにしたが、「運転士のミス」はなくならず、今年7月まで放置したといいますから、ひどすぎます。

こうなると何のためのPASMO導入だったのかを問いたくなります。少なからぬ初期投資をしながら、「運転士のミス」を増やすだけなら、むしろやらない方が良かったとさえ言えます。そもそもバス事業は人件費で売上の8割を占める労働集約型産業です。鉄道など他の交通事業と比べても、人件費比率が飛び抜けて高いのです。これは人口減少社会では、持続可能性が極めて厳しいという意味でもあります。

人口減少下では乗客減も心配ですが、当面の高齢化は運転免許返上などでむしろ追い風になります。それよりも運転士や整備士などの確保が難しくなることの方が問題です。解決策があるとすれば、運転士に高給取りになってもらうほかありません。そのためにはより大勢をより速くより遠くへ運ぶということになります。1人当り乗車人キロで表現可能です。この観点から、単位時間あたりの走行キロを稼ぐ高速バスの収益性の高さがわかります。

その一方で一般道を走る一般路線バスの収益性は低く、大都市圏では表定速度10km/h台も珍しくありません。とはいえ一般路線から撤退するわけにもいきません。むしろ都市交通の一部として鉄道駅を起点とするフィーダー輸送には一定に需要があり、1台のバスで何往復もするシャトル運行であれば、効率性は高まります。実際駅と団地を結ぶ路線などで、そのような路線は少なからずあります。

また鉄道では乗換が発生するとか、大回りしなければならない区間で直通や短絡ルートを構成する場合なども、一般に利用度が高い傾向があります。許認可事業である路線バスで、認可路線を維持するために漫然と運行している路線は、実は結構多かったりします。ICカード乗車券は、そんな現状を変えるインパクトを持つツールであるわけで、その意義が事業者に理解されていなかったというのが残念です。協会は単なる調整機関に過ぎないのでしょうけど、バス事業者の意識の低さは残念です。

せっかく多額の初期投資をして資本装備を積み上げても、労働投入と代替的でなければ生産性の向上にはつながらないわけで、結果的に運転士の賃金も抑制せざるを得なくなる、とすると苦労が多くて稼げない業種ということで、運転士の確保が難しくなる道理です。そこから脱却することが、バス事業の大きな課題であるはずですが、現状で事業者にその意識はなく、システムを追加して「運転士のミス」を増やしているのですから、バス事業の将来を悲観したくなります。

システムは改良すれば済むわけですが、事業者の意識は簡単には変わらないと思います。鉄道を補完するバスの役割はけっして小さくはないので、今回のことを教訓にしてほしいところです。

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Thursday, September 11, 2008

バスでPASMO二重引き落とし

PASMO導入でイオカードどパスネットと共通バスカードが一つになってから1年半、元々鉄道系が乗車券に対してバスは回数券と違いがあったわけですが、これは盲点でした。

バス運賃、パスモで取り過ぎ1100万円
これはPASMOやSuicaをカードリーダーにタッチするときに、中途半端だったり、複数カードの二重読み取りなどでエラーとなったときに、再度タッチして正常処理とすべきところ、運転士が取り消し処理をしてしまうと、運賃が引き落とされてしまうため、再タッチで二重取りとなってしまうわけです。

記事では運転士のミスとなってますが、共通バスカードではエラー処理で取り消し処理をして一旦カードを排出してから再度リーダーに通す仕様ですから、これをミスと言うのは酷でしょう。マン=マシンインターフェースの設計ミスです。バス各社はシステム改修を行うことにしています。

私事ですが、最近うっかりバスカードの残高不足で追加支払をSuicaでと申し出たところ、運転士がかなり焦ってタッチを制してテンキーを操作したことを思い出します。運賃箱のディスプレーでも、SuicaやPASMOでタッチしたときの画面は、現金やバスカードのときと全く異なるものになっていて、処理系が別であるようです。システムの仕様上やむをえないのかもしれませんが、ミスを誘発する可能性はありそうだと思い、PASMO対応のバスでもバスカードで利用するように気をつけておりましたが、案の定でした。

報道によれば7月に乗客からの照会で発覚したそうで、PASMO導入事業者全社で起きていたそうです。この辺はシステム設計の難しさなんでしょうけど、疑問なのは処理系が異なるならばあえて既存の運賃箱システムと切り離して対応できなかったのだろうかということです。日本のバスの運賃箱は元々ハイテクの塊りで、バラ銭を投入しても即座に運賃が表示されるなど乗務員支援の観点からは優れものには違いないのですが、そこへ鉄道から移植されたICカードシステムを後付けしたことで、基本思想の異なる処理系を並存させなければならなかったことが、今回の事態を招いているのではないでしょうか。何でも一緒にすればよいとは限らないわけですね。

これはバス会社の責任なのかどうかは微妙ですが、そもそも運転士が1人1人運賃収受することを前提としたパッセンジャーフローの仕組みは、運転士に過度のストレスを与えるものでもあるわけで、欧州を中心に乗客のセルフチェックを前提とした信用乗車システムが定着していれば、かくもハイテクな運賃箱は必要ないわけです。また運行管理上も停留所での客扱い時間を考慮した運行ダイヤにせざるを得ませんから、道路交通の流れを無視した低速運行が見られるなど、生産性を高められない状況にあります。その結果バス運賃は割高にならざるを得ず、運転士に負担に見合う賃金を支払うことも難しくなっているわけです。これは同時に乗客にとっても、本来はもっと低価格で高サービスが受けられる可能性をみすみす逃しているのかもしれません。

lこのあたりを考えると、そもそもPASMOで鉄道とカードの共通化をはかる意味は何だったのかを考えざるを得ません。カードは共通化されても、乗継割引があるわけではなく、それぞれの独自の閉じた運賃体系の中で、決済だけを共通化したに過ぎないんで、現状では乗客側のメリットがはっきりしません。

一応バスカードの割引部分相当のバスポイント(*1)やバスチケット(*2)という制度は導入されているものの、乗客に理解されているものかどうかわかりません。

*1 =毎月1~末日の間で、バス利用金額10円につき10ポイント付与される。
*2 =バスポイント1000ポイント毎に100~450円相当のバスチケットが付与される(10年間有効)。バスチケットはバス乗車時に優先的に引き落とされ、バスポイントは付与されない。別表参照。










バスポイント バスチケット
1000 100
2000 100
3000 100
4000 100
5000 450
6000 170
7000 170
8000 170
9000 170
10000 170


正直申し上げまして、使い勝手はバスカードよりも後退してます。バスポイントが1月単位でクリアされてしまうことや、バスチケットが付与されると、乗車時に優先的に引き落とされるので、5000円相当の乗車ではバスポイントは4600ポイントにしかなりませんので、かなりの頻度で利用しないと、バスカードと同等の割引を受けられません。現時点ではバスカードは期間指定がありませんので、乗客の立場としてはPASMO/Suicaへ全面移行することを躊躇させます。折角多大な初期投資をして、乗客に定着しなければ、結局高くつくのではないでしょうか。

また対鉄道や、バス同士の乗継割引などで、積極的に需要を掘り起こすことをやってほしいですね。結果的にかなり詳細な個人レベルのパーソントリップが捕捉可能ですから、地点間のOD表(発着地マップ)を作成して輸送計画に反映させるなど、攻めのマーケティングにデータを活かしてほしいと願います。

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Thursday, September 04, 2008

リニアで低炭素社会実現のウソ

何か首相が辞めたらしいんだけど、そのドサクサでこんなニュースが流れてます。

リニア中央新幹線:年内本格調査へ 政府、慎重姿勢を転換
うーん、事態はあんまり変わらんと思うぞ。

そもそも総合経済対策ってのが曲者でして、この言葉は小渕政権以来でしょうか。当時の小渕首相は「私は世界一の借金王」とシニカルに語っていたように、現在に至る財政赤字のかなりの部分を作った政策です。当時山一證券の破綻など金融危機で実体経済が冷え込んでいたことから、下支えのために大規模財政出動が行われたわけですが、効果はありませんでした。そりゃそうです。これだけ大盤振る舞いすれば、後に大増税が待ち受けていると誰しも感じます。それに備えて貯蓄に励むだけですから、消費は低迷し、株価も冴えないということになります。そういえば景気後退を政府も認めたように、状況は似ています。

公明党発案の地域振興券なんてのもありましたが、今回も定額減税が提案されております。しかも規模も財源も決まってなくて、ただやるということと、財源その他は年内に決めるということを決めただけというんですから、ほとんど選挙向けのリップサービスです。そもそも11.7兆円という規模を謳いながら、補正予算を睨んで、いわゆる真水の財政出動規模は1.8兆円、これを赤字国債発行せずにやろうということです。そのためになにやら怪しげなものがゾロゾロと潜んでいて、季節はずれの納涼ミステリーです。

それなら財政出動の1.8兆円だけ言えばいいものですが、総合経済対策と言うからには、景気の良い数字が並んでないとカッコつかないということです。しかも中身は各省庁の作文をホチキスで綴じただけ、例えば中小企業対策で資金繰り支援のための信用保証制度ですが、元々中小企業金融公庫の制度融資としてあるものを、信用保証枠を拡大しただけです。これは実は中小企業の救済にはならない制度でして、銀行が窓口ですから、中小企業が相談に行って、自行では貸せないからと斡旋するケースが多いんです。悪質な場合は斡旋して融資が実行されて手にした資金を自行向け債務の一括返済に回させ、事実上の融資の付け替えをするケースまであります。つまりは銀行の貸し渋り、貸しはがしを助け、リスクを移転して破綻したら税金で補填というとんでもない制度です。それもこれもバーゼルIIの自己資本規制で資産の格付けに応じたリスク度合いで引き当てる制度の弊害でして、景気悪化で融資先の格付け低下で自己資本比率を守らなければならないのですが、このルール自体日本の押し込んだものです

あといわゆる財政出動の真水部分の1.8兆円も、赤字国債には頼らないけど建設国債ならオッケー(与謝野経済財政担当相談)というから呆れます。赤字国債と建設国債の違いって、前者は新規発行を法令によって定めなければならない(ゆえにねじれ国会では実現が難しい)のに対し、公共事業の円滑な執行のための後者はその必要がなく、金利が建設利息として事業費に盛り込まれているということですが、もちろん借金に違いはなく、野放図な発行が財政に負荷を与えるのも同じです。あとは予備費の充当などが考えられているようですが、それだけでは足りず、一部特別会計からの繰り入れも使うようですが、いわゆる霞ヶ関埋蔵金論争に火をつけそうなので、明示できないのでしょう。

あとこれも申し上げておきたいんですが、燃料費高騰に苦しむとされる農業、漁業、運送業への支援が謳われているんですが、運送業への支援を今言うならば、なぜに道路特定財源の暫定税率を強引に復活させたのでしょうか。また高速道路料金の値下げで道路の借金返せるんかい。加えて農業や漁業で使う燃料の軽油引取税は猶予されていることも忘れてはなりません。元々負担を逃れていた者をなぜに政府が助けるのか(怒)。

とまあツッコミどころ満載の官僚作文の中に、リニアが紛れ込んでいたわけです。笑っちゃいますね。ま、報道のように手続きとして一歩前進ではあるんですが、基本計画線である中央新幹線を整備計画線に格上げするための調査について、現時点では地質・地形調査に限定しているものを、全般的な調査を認めるという内容でして、確かに財政出動は必要なく、命令に応じてJR東海が自費で実施するわけですから、財政は痛まないし、低炭素社会実現をアピールできるし、良い事ずくめに見えます。それに飛びついたのが辞めた人だったというオチですね^_^;。

リニアが低炭素社会実現に寄与しないという反論は一応真面目にしておきます。一番重要な点は、既に日本では人口減少が始まっていて、かつグローバル化でかつて日本の得意分野だった工業製品の生産、輸出に新興国が低賃金を武器に参入してきていて、現在の産業構造を維持できない局面にあるわけです。いわゆる工業化の果実の収穫の持続可能性に疑義が生じている状況で、実際、工業集積地の東海道ベルト地帯を貫く東海道新幹線の利用者の実数も長らく横ばいが続く中、新たな固定設備を設けても、需要がそれに追いつかないのは明白です。つまりは中央リニアは東海道新幹線と需要を食い合うだけの存在にしかなりません。

にもかかわらず電力消費量が新幹線の3倍と言われております。つまり電力消費の絶対値は純増する一方、需要が追いつかなければエネルギー効率はそれだけ落ちるわけです。クールアース実現を謳いながらアースヒーターにしかならないわけです。

もう一つ指摘しておきますが、東海道新幹線建設時に、中部電力管内の電力不足解消を目的に建設されたのが浜岡原発です。新幹線の3倍の電力消費を賄うためには、ザックリ浜岡の3倍見当の発電所が新たに必要になるわけです。仮に原子力発電所を建設するとして、東海地震などの警戒地域が被る中央新幹線沿線では難しいでしょう。かといって他地域に建設するとなれば、尚のこと反対に遭う可能性が高くなります。結果的に電力確保を火力に依存せざるを得なくなるとすれば、ほら、CO2増えちゃいました。省エネ逆行ですね。

というわけで、あんまり辞めた人を悪く言うつもりはないけれど、しょせんは思いつきレベルの話です。しょーもなー。ところで辞めたの誰でしたっけ?

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Wednesday, September 03, 2008

ツアーバスに追い込まれるムーンライトながら

1日、衝撃のニュースが流れました。どっかの国の宰相が辞めた方ではなく^_^;、朝日新聞朝刊のこの記事の方です。

夜行「ムーンライトながら」臨時化へ 18きっぷで人気
他紙の追跡取材は今のところありませんので、あくまでも朝日の独自取材記事ということでしょう。気をつけなければならないのは、JR関係者の中身です。運行計画に係わる関係者の話なのか、社内のウワサの類いなのか、記事からは不明です。

そのあたりを留意しつつ、冷静に考えれば、JRからの正式発表がない現状で、検討はされているでしょうけど、決まったわけではないということは言えそうです。青春18シーズン以外の時期の乗車率の悪さは以前から指摘されていたところですから、むしろ特急東海の廃止と運命を共にしなかったことが、この列車の特殊な位置づけを物語ると思います。

簡単に言えば、国鉄時代からある青春18キップですが、意味合いが変わり、現実にはかつて貧乏旅行の経験のある中高年世代を中心に、普通列車限定という縛りの中で、ゲーム感覚で貧乏旅行の疑似体験ができる商品という位置づけになってきてまして、一方地方のローカル線の最大顧客である通学生を失う学休期の余剰輸送力の有効活用という面で、他の伝統的企画商品である各種周遊券などがことごとく見直された中で、青春18は止めるに止められないものになったと考えられます。特に大都市から遠い三島会社にまで効果を波及させるには、ムーンライト××という夜行快速列車はJRにとっても青春18シーズンの必需品となるわけです。逆に言えばそれだけ採算面の厳しいサービス列車でもあるわけで、予定臨格下げは列車の性格からいえば自然です。

記事中にもあるとおり、夜行列車を巡る環境は激変しておりまして、基本的に1列車を仕立てるに足るだけの基礎的需要があるわけではないということはいえます。もう少し具体的に申し上げますと、季節変動などの需要変動要因を加味すれば、ながらのような定員制列車で収益を最大化できる乗車率は7割程度と考えられます。これは需要期に満席で断る乗客の存在を考えれば明らかです。いわゆるチャンスロス(機会損失)が発生する確率を減らし、逆に閑散期の乗客減による売上ロスも少なくするとすれば、この辺の数字jに落ち着くことになります。ながらの場合、需要変動に応じて6~9連に編成を増減してますが、通年固定編成であれば、6割程度の乗車率が収益最大化ゾーンということになりそうです。

夜行バスでは輸送単位の小ささを逆手に、予約の入り込みから予想される適正台数で運行する前提で8割程度の乗車率を狙うことが可能ですから、3列シート29人で23人程度がペイラインというのが目安と考えられます。当然4列シートの青春ドリームや80人乗りのメガドリームではより少ない乗車率でペイラインに乗りますから、収益の上ブレ分を原資とした値下げが可能になるわけです。

さらに昨今増えている格安ツアーバスですが、こちらは旅行会社の主催旅行形式で、ネットによる事前予約による集客というスタイルとなります。夜行高速バスが道路運送法に基づく公共交通であるのに対して、旅行業法に基づく主催旅行で、事前予約が最少催行人数に達しなければ、運行する義務を負わないわけです。加えて規制緩和で新規参入した多くの中小貸切バス事業者から競争入札で運行社を決める形ですから、いわゆる仕入がかなり安く抑えられます。これらの事情でバスの仕入れ価格を上回る水準で最少催行人数を設定する限り、損はないわけですから、リスクを負わない分運賃を安く抑えられます。実はこのツアーバスが問題なんです。

いわゆる規制緩和で、さまざまな変化が生じております。ツアーバスの興隆を「規制緩和の成果」と言ってのける御用学者はおりますが、同じフィールドで異なった準拠法規で争う高速バスとツアーバスの関係は、公正な競争とは程遠いものです。いわば同じピッチ上でサッカーチームとラグビーチームがそれぞれのゲームのルールで戦うようなものですから、こんなものを規制緩和の成果と見ることはできません。本来はツアーバスを乗合類似行為として乗合認可を与え、同等の安全運行義務を課す必要があります。実際はそれには程遠く、実際ツアーバスが絡む事故は増えております。

まぁ無理もないんで、元々レジャーの多様化で団体旅行が下火なところで行われた貸切バス事業の参入自由化ですから、たちまち供給過剰となり、価格競争の叩きあいとなります。元々乗合バス事業者も兼業していて、春秋の団体旅行繁忙期に対して車両が余剰となる夏冬の帰省バスやスキーバスなどで効率よく車両を運用してきた業界秩序が一気に壊れ、歴史ある大手事業者は撤退傾向を強めております。その一方でタクシーやレンタカーなどからの新規参入事業者が増えて価格競争が激しくなり、旅行会社のツアーバスの仕入が安くなりました。その結果車両のメンテナンスや乗務員の労務管理などで無理な運行の請負が横行し、事故を増やしている現実があります。そういった新規参入社に経験豊富なベテランドライバーを雇用する力はなく、経験不足のドライバーが多いのもまた現実です。

この辺は新宿駅南口に高速バスターミナルの記事でも軽く触れましたが、ツアーバスの問題点は声を大にして申し上げたいところです。と同時に、既に輸送量から一定の役割を得ていることもまた事実であり、これはとりもなおさず従来の輸送キャリアのサービスでは掘り起こせなかった利用層でもあるわけで、この辺は各事業者も真剣に考えるべきことがあります。ネット事前予約制は、集客コストを劇的に下げることが可能なわけで、JRのマルスシステムやバス各社の独自システムの高コスト体質を浮き彫りにします。この辺は既存キャリア側に工夫の余地がありますね。

同時に高速バスならば、専用ターミナルやバス停の整備が不可欠ですが、ツアーバスは極端な話駐停車禁止場所での客扱いすらある状況で、この面でも不公正競争となっていると同時に、道路交通の私物化という点で社会正義にも反するものでもあります。こういったことを加味すれば、航空における国際定期便と国際チャーター便の関係のような、包括的なルールの策定が必要です。現状はとても資源の効率配分とかパレート最適とか言えるレベルには程遠いといえます。

あと昨今の燃料費高騰でバスはコスト面が厳しくなっているわけですが、JRバスではそれを逆手に取った値下げに踏み切りました。元々乗合バスの場合は一般路線で人件費が8割と言われるように、燃料費の比率は低く、特にJRバスのような大規模事業者は有利です。加えて中小貸切事業者よりも車齢が若く、整備も良好で燃費も良いわけですから、中小事業者が支えるツアーバスを振り切るチャンスでもあるわけです。こういった観点からすれば、ながらも運行コストの削減に工夫するとして、存続を模索してほしいところです。例えば一時期中央線夜行普通列車を甲府で列車分離して、車両をそのまま駅ホームに据えつけて翌日早朝の一番列車とするなんて奇策が取られたことがありますが、静岡あたりで夜間留置車内開放扱いの2列車に分離して存続させるなどの方法も考えて欲しいところです。

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