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Wednesday, September 03, 2008

ツアーバスに追い込まれるムーンライトながら

1日、衝撃のニュースが流れました。どっかの国の宰相が辞めた方ではなく^_^;、朝日新聞朝刊のこの記事の方です。

夜行「ムーンライトながら」臨時化へ 18きっぷで人気
他紙の追跡取材は今のところありませんので、あくまでも朝日の独自取材記事ということでしょう。気をつけなければならないのは、JR関係者の中身です。運行計画に係わる関係者の話なのか、社内のウワサの類いなのか、記事からは不明です。

そのあたりを留意しつつ、冷静に考えれば、JRからの正式発表がない現状で、検討はされているでしょうけど、決まったわけではないということは言えそうです。青春18シーズン以外の時期の乗車率の悪さは以前から指摘されていたところですから、むしろ特急東海の廃止と運命を共にしなかったことが、この列車の特殊な位置づけを物語ると思います。

簡単に言えば、国鉄時代からある青春18キップですが、意味合いが変わり、現実にはかつて貧乏旅行の経験のある中高年世代を中心に、普通列車限定という縛りの中で、ゲーム感覚で貧乏旅行の疑似体験ができる商品という位置づけになってきてまして、一方地方のローカル線の最大顧客である通学生を失う学休期の余剰輸送力の有効活用という面で、他の伝統的企画商品である各種周遊券などがことごとく見直された中で、青春18は止めるに止められないものになったと考えられます。特に大都市から遠い三島会社にまで効果を波及させるには、ムーンライト××という夜行快速列車はJRにとっても青春18シーズンの必需品となるわけです。逆に言えばそれだけ採算面の厳しいサービス列車でもあるわけで、予定臨格下げは列車の性格からいえば自然です。

記事中にもあるとおり、夜行列車を巡る環境は激変しておりまして、基本的に1列車を仕立てるに足るだけの基礎的需要があるわけではないということはいえます。もう少し具体的に申し上げますと、季節変動などの需要変動要因を加味すれば、ながらのような定員制列車で収益を最大化できる乗車率は7割程度と考えられます。これは需要期に満席で断る乗客の存在を考えれば明らかです。いわゆるチャンスロス(機会損失)が発生する確率を減らし、逆に閑散期の乗客減による売上ロスも少なくするとすれば、この辺の数字jに落ち着くことになります。ながらの場合、需要変動に応じて6~9連に編成を増減してますが、通年固定編成であれば、6割程度の乗車率が収益最大化ゾーンということになりそうです。

夜行バスでは輸送単位の小ささを逆手に、予約の入り込みから予想される適正台数で運行する前提で8割程度の乗車率を狙うことが可能ですから、3列シート29人で23人程度がペイラインというのが目安と考えられます。当然4列シートの青春ドリームや80人乗りのメガドリームではより少ない乗車率でペイラインに乗りますから、収益の上ブレ分を原資とした値下げが可能になるわけです。

さらに昨今増えている格安ツアーバスですが、こちらは旅行会社の主催旅行形式で、ネットによる事前予約による集客というスタイルとなります。夜行高速バスが道路運送法に基づく公共交通であるのに対して、旅行業法に基づく主催旅行で、事前予約が最少催行人数に達しなければ、運行する義務を負わないわけです。加えて規制緩和で新規参入した多くの中小貸切バス事業者から競争入札で運行社を決める形ですから、いわゆる仕入がかなり安く抑えられます。これらの事情でバスの仕入れ価格を上回る水準で最少催行人数を設定する限り、損はないわけですから、リスクを負わない分運賃を安く抑えられます。実はこのツアーバスが問題なんです。

いわゆる規制緩和で、さまざまな変化が生じております。ツアーバスの興隆を「規制緩和の成果」と言ってのける御用学者はおりますが、同じフィールドで異なった準拠法規で争う高速バスとツアーバスの関係は、公正な競争とは程遠いものです。いわば同じピッチ上でサッカーチームとラグビーチームがそれぞれのゲームのルールで戦うようなものですから、こんなものを規制緩和の成果と見ることはできません。本来はツアーバスを乗合類似行為として乗合認可を与え、同等の安全運行義務を課す必要があります。実際はそれには程遠く、実際ツアーバスが絡む事故は増えております。

まぁ無理もないんで、元々レジャーの多様化で団体旅行が下火なところで行われた貸切バス事業の参入自由化ですから、たちまち供給過剰となり、価格競争の叩きあいとなります。元々乗合バス事業者も兼業していて、春秋の団体旅行繁忙期に対して車両が余剰となる夏冬の帰省バスやスキーバスなどで効率よく車両を運用してきた業界秩序が一気に壊れ、歴史ある大手事業者は撤退傾向を強めております。その一方でタクシーやレンタカーなどからの新規参入事業者が増えて価格競争が激しくなり、旅行会社のツアーバスの仕入が安くなりました。その結果車両のメンテナンスや乗務員の労務管理などで無理な運行の請負が横行し、事故を増やしている現実があります。そういった新規参入社に経験豊富なベテランドライバーを雇用する力はなく、経験不足のドライバーが多いのもまた現実です。

この辺は新宿駅南口に高速バスターミナルの記事でも軽く触れましたが、ツアーバスの問題点は声を大にして申し上げたいところです。と同時に、既に輸送量から一定の役割を得ていることもまた事実であり、これはとりもなおさず従来の輸送キャリアのサービスでは掘り起こせなかった利用層でもあるわけで、この辺は各事業者も真剣に考えるべきことがあります。ネット事前予約制は、集客コストを劇的に下げることが可能なわけで、JRのマルスシステムやバス各社の独自システムの高コスト体質を浮き彫りにします。この辺は既存キャリア側に工夫の余地がありますね。

同時に高速バスならば、専用ターミナルやバス停の整備が不可欠ですが、ツアーバスは極端な話駐停車禁止場所での客扱いすらある状況で、この面でも不公正競争となっていると同時に、道路交通の私物化という点で社会正義にも反するものでもあります。こういったことを加味すれば、航空における国際定期便と国際チャーター便の関係のような、包括的なルールの策定が必要です。現状はとても資源の効率配分とかパレート最適とか言えるレベルには程遠いといえます。

あと昨今の燃料費高騰でバスはコスト面が厳しくなっているわけですが、JRバスではそれを逆手に取った値下げに踏み切りました。元々乗合バスの場合は一般路線で人件費が8割と言われるように、燃料費の比率は低く、特にJRバスのような大規模事業者は有利です。加えて中小貸切事業者よりも車齢が若く、整備も良好で燃費も良いわけですから、中小事業者が支えるツアーバスを振り切るチャンスでもあるわけです。こういった観点からすれば、ながらも運行コストの削減に工夫するとして、存続を模索してほしいところです。例えば一時期中央線夜行普通列車を甲府で列車分離して、車両をそのまま駅ホームに据えつけて翌日早朝の一番列車とするなんて奇策が取られたことがありますが、静岡あたりで夜間留置車内開放扱いの2列車に分離して存続させるなどの方法も考えて欲しいところです。

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Comments

ツアーバスも「秋葉原の加藤」のような問題児が
出てこない限り規制改革は無理でしょうね。

それが大事故となってしまわぬように政府は早めに
手を打つことこそ「安心安全な社会」であるのですが
そこは沈黙。民業圧迫ともいえる是正勧告ですから
政府もそこまでの恐怖政治はしないという公務員なら
ではの「優しさ」なのかもしれません。

そうなると懸命にならなければいけないのが「利用者」
私は常日頃仲間に「ツアーバスだけはやめろ。死にたく
なければ乗るな」というネガティブキャンペーンを
細々としております。効あってか仲間で「これに乗る」
というヤツはいません。

ただスカイマークが安価飛行機を飛ばして「殿様商売」
だった航空各社の体質改善をし、1社を倒産させましたが
バスの運転手もツアーバスによる価格の見直しで「殿様
ドライバー」を駆逐できたのは不幸中の幸いかもしれません。

JRバスも値引きをするようになったし、路線バスはずいぶん
とサービス強化(東急バスは降車ボタンを押すと「かしこ
まりました。お止めします」と運転手が言います)
されました。

いずれにせよ「利用者の外圧」以上に「業界の外圧」
が必要なんでしょうね。大事故がおきないように
祈るばかりです。

Posted by: SATO | Sunday, September 14, 2008 at 11:13 AM

コメントありがとうございます。ツアーバス問題は大問題なんですが、大阪のスキーバス事故で注目されたのも束の間、いつしか忘れ去られてしまいました。

あと団体旅行の幹事さんにも申し上げたいですが、バスを手配するときに、価格だけで決めないで欲しいです。そのバス会社の実勢などを調べてから決めるようにすべきでしょう。今はその気になればネガティブ情報も含めてネットで簡単に調べられますから、労を惜しまず情報を集めて判断して欲しいですね。

Posted by: 走ルンです | Sunday, September 14, 2008 at 02:16 PM

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