米米蔵負
タイトルは"こめこめくらぶ"と読んでください^_^;。もちろん事故米問題です。当ブログの過去記事でこの問題を取り上げております。要旨は消費されないミニマムアクセス米が腿蔵されていて、税金の無駄遣いになっており、処分法として援助米に回っているというものです。この観点からすれば、現在の事故米問題は北朝鮮向け経済制裁が長引いたからか(苦笑)。
冗談はさておきまして、そもそも食用として消費されないコメをなぜに輸入しなければならないか、それも税金でという謎があるわけです。そもそもの始まりは1993年、冷夏と風水害でコメの作況が悪化し、店頭からコメが減り、外食などでもコメの確保が困難になったことから、緊急輸入の措置がとられたことに始まります。
時あたかもGATTウルグアイラウンドの交渉中で、特に各国で保護対象としている農産物の自由化のステップとして、非関税障壁の関税化による貿易促進が提案されておりました。これに各国が反発していたんですが、欧米では農業分野の補助金を廃止して関税化することへの抵抗であったのに対し、日本をはじめとするアジア諸国の多くではそもそも農産物を自由貿易の枠組みから外すことを主張し、議論は全く噛み合っていなかったのです。
そんな中での日本のコメの緊急輸入ですから、当然日本の立場は微妙でした。それまでは「コメは1粒たりとも入れない」と息巻いていたんですから、他国からのツッコミはおそらく過酷なものだったと推察されます。結局工業製品を中心に自由貿易の恩恵を享受している日本は押し込まれ、関税化と最低輸入義務、いわゆるミニマムアクセスを受け入れることとなります。
ですから関税化は輸入義務とワンセットで、かつ時間をかけた関税の引き下げと輸入拡大の義務も含意されていたのですが、その部分は頑なに無視し、むしろ関税化に抗って農業補助金を廃止しない欧米へのけん制はちゃっかり行うというスタンスを取り続けました。その矛盾がミニマムアクセス米の腿蔵となって現れているわけです。腿蔵されれば当然水没したりカビが生えたりして食用にならないものも出ますし、さらに当初行っていなかった残留農薬検査を在庫分も含めて実施して、メタミドホス汚染米が発見されたわけです。食用にするつもりなら最初からやっとけっての。
その結果、腿蔵されたコメの処分に困るようになってきたんです。とにかく輸入は毎年のことですから、それに見合うだけ消費されないと倉庫が無限に必要になるわけですから、農水省は焦っていたわけです。まともに流通させようとすれば、保護しているはずの農業関係者から裏切り者呼ばわりされてしまうわけですから、できるだけ目立たないようにこっそり処理する必要があったわけです。また廃棄すれば輸入ワクから外される恐れがあるので、食べられなくても棄てることもできなかったわけです。
本来はミニマムアクセスを受け入れた以上、それを消費市場へ届ける流通の整備は欠かせないはずですが、この部分ではむしろ規制緩和の流れに乗ってコメ卸売業への参入を届出制にすることとしたんですが、その結果新規参入が増えて、部分的には競争強化でコメ価格が下がるなどはしたものの、輸入米には高関税がかけられた状態での競争ですkら、国産信仰の強い日本の消費者に輸入米を直接売ることは叶わず、価格差がなければ国産米が売れるのは道理です。かくしてコメ農家は所得を減らし、流通の規制緩和で少しだけ安くはなったものの、関税に守られて国際価格より高いコメを消費者は買わされ、あまつさえ流通業者の増加で市場規律も緩みがちで、以前から食用米への加工用くず米の混入は指摘されてました。スーパーなどでバーゲンで売られる安いコメには、粒が小さかったり割れていたりするものが見られました。多数の業者でやり取りする間に混ぜてしまえばわからないわけで、流通業者に偽装のインセンティブを与えたわけです。
というわけで、大臣や事務次官が辞めたぐらいで幕引きできる問題ではなくなりました。結局農業者、消費者、流通業者全てを不幸にする三方丸損状態となるわけです。というわけで、日本が受け入れた関税化ですが、当事国が関税引き下げや輸入拡大に努力しないのであればうまくいくわけがないんで、欧米式の農業補助金の方が良かったのではないでしょうか。この際問題になるのは、補助金を得て安値となった農産物が輸出されて途上国の農業を直撃することですが、これは基本的に事後的な援助と農業技術移転の促進などで対応するようルール化されることが望ましいと考えます。援助であれ何であれ、保存が利かない農産物を適切に消費することは重要で、農業補助金を交付する場合、貧困国への援助も織り込んだ対応とすることは、結局農業を助けます。
あとこのように農業で食えない状況を放置すると、農業の継承が難しくなる点も問題です。実際日本の農業はボロボロです。その結果農地の地価は収量を反映して安値となりますから、農地保有者には常に農地の転用の期待を抱かせることになります。そして相続などで実際に財産権を盾に転用され、平地で市場アクセスの良好な北関東などの農地でさえ、虫食い状に開発されて農地の生産性を下げています。本来は農地の転用は原則禁止とすべきです。農地であれば相続税は猶予されますが、独立して都市に住まう2代目に営農の意思がなければ農地として安値で売るよりも、相続税を払っても高値で売れる転用は魅力的です。加えて公共事業であれ民間事業であれ、開発行為によって営農が継続しがたい状況になれば、合法的に農地の転用が可能になるわけですから、地方の公共事業のおねだりは、土建屋を潤すに留まらず、地権者である農業者への掴み金となることも指摘できます。ゆえに公共事業をおらが村に運ぶ政治家先生が尊ばれるわけですし、公共民間を問わず開発行為で多額の用地買収費を要するから事業は進まないで非効率になりますし、土地が化ける可能性が土地の流動性を極端に下げているわけです。日本の地価が高い理由です。
というわけで基準地価が発表されました。
基準地価の下落率拡大 全国平均、08年1.2% 3大都市圏は伸び鈍化昨年と比べて下落傾向が強まっているわけですが、それをサブプライムショックによる外資の撤退に求めるとすれば木を見て森を見ずです。むしろ実態は国内外を問わず地価の上昇は限られた地域の限られた土地だけで、いずれもバブルといえるものだったわけです。それとの対比で日本の大都市圏の中心地は割安と見られていただけの話で、バブルが弾けてみればそうでもなかったし、むしろ昨年段階で上がりすぎていたと見るべきでしょう。
といいますのは、例えばマンションですが、2006年下半期から新築マンションが値上げされ、それと期を一にしてマンションの販売にブレーキがかかりました。また再開発ラッシュが続いた去年までは、再開発による古いビルの取り壊しのために仮オフィス需要が強かったことが、オフィス賃料の上昇トレンドとなっていただけで、一巡すれば仮需要は剥げ落ち、空室率が高まってきたわけです。
元々人口減少が始まった日本において、住宅需要が将来高まることはありませんし、現在世帯総数の2割増の住宅ストックが既に存在している状況で、いつまでも新築マンションが売れること自体あり得ない話です。これからは住み替え促進などで世代間で住宅ストックを再配分することで、大量の建築廃材を生み出す建て替えをなくすことが望ましいわけで、その意味で京王電鉄の取組みは注目されます。
またグローバル化の中で新興国が台頭する中、工業分野は省力化と規模の経済による集約化が進みますから、この面でも土地の需要は減ります。などなど、日本の地価の今回の下落傾向は、バブル崩壊により長期トレンドが顕在化したものと見ることができます。つまりサブプライムショック以来のアメリカの経済混乱が収まるまで景気は回復しないなんて言っていたら、アメリカといっしょに沈みかねません。
80年代後半のバブル崩壊は、アメリカの貯蓄投資組合(S&L)の破綻にしろ、日本や北欧諸国にしろ、国内問題だったわけですが、その後急速にグローバル化が進み、バブルの後始末を3年ほどで終えた米や北欧がその後の世界経済のけん引役となった一方、処理に手間取って15年もの時を失った日本は、外需依存とりわけアメリカ依存を強めた結果、今回のようにアメリカがこけたらどうしようもなくなるわけです。世界中に大量にばら撒かれたドルの信認に瑕がついたわけですから、事態はドルショックとオイルショックとバブル崩壊が同時に起こったようなもので、外需頼みでは浮上できません。
というわけで「コメとアメリカ、2つの米で道を誤った日本」がタイトルのココロなのだ^_^;。
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Comments
確証はないですがマンションの着工遅れや値上がりは
原材料の上昇もさることながら例の耐震偽装問題が
あって検査が厳しくなったとの話を聞いたことがあります。
逆に言えば「遵法」すればこのくらいの件数しかさばけない
のか役人の怠慢なのかはわかりませんが日本としての処理能力
キャパというのはこのあたりなんでしょうね。
どうなんだろう。遵法でほどほどの件数か(これでは採算分岐点
にはなりにくい)違法で採算性を合わすか。
片方は株主に背任だし、片方は消費者を裏切ります。
遵法で採算性があえばベストなんですが今度は消費者が買わない
負のロジックをどう抜け出せば良いものなのか・・・
Posted by: SATO | Monday, September 22, 2008 09:19 AM
耐震偽装事件を受けた検査の厳格化問題につきましては、コンプライアンス不況がやって来る?(http://btrainj.cocolog-nifty.com/hasirundesu/2007/11/post_807a.html)
で取り上げておりますが、結論から言って影響は軽微であったといえます。
実際には前年のマンション価格上昇で新築マンションの売れ行きにブレーキがかかり、在庫が積みあがっていた状況で、検査の厳格化で実質3カ月の新規着工の空白が生じたものの、在庫は減らずむしろ以後も在庫が増え続けて、今年に至ってスルガ、ゼファ、アーバンといった新興デベロッパーが次々に倒れましたが、いずれも在庫が膨らんで資金繰りに窮した黒字倒産でした。もちろん外資の撤退や銀行の融資姿勢の変化はあったものの、それらは背中を押しただけで、それ以前に財務の悪化が顕著でした。
再開発ブームで一部都心の地価が上昇に転じた結果、デベロッパーは土地の仕入れ価格が上昇したわけで、それを価格転嫁した結果、売れ行きが止まったというのが実際です。元をただせばバブル崩壊で地価が下落し、底値で仕入れた土地が再開発されてブームを起こしたのですが、同時にブームの終焉の原因でもあったわけです。
法律は作るより守る方が難しいという格言がありますが、守れない法律を作って混乱させていることの問題点は大きいことは確かです。結果として事業者に「守れるわけがない」という暗黙の了解が生まれると、偽装の温床となるわけですね。
Posted by: 走ルンです | Monday, September 22, 2008 07:02 PM