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Tuesday, September 30, 2008

小さな政治

米国発同時株安が続きます。きっかけは米金融安定化法案を下院が否決したことです。

金融安定化法案の修正案、週内策定めざす 米政権
選挙前ということもありますが、不人気な政策が議会を通りにくいのはいずこも同じのようです。この結果NYダウ777ドル安と大幅に下げたのを皮切りに、欧州、アジアと軒並み下げて東京市場でも、日経平均が年初来安値です。
日経平均大幅続落、終値483円安の1万1259円 金融危機で全面安
市場の混乱は丁度世界を一巡りしたわけです。

しかし総額75兆円の金融安定化策ですが、金融機関の不良資産買取りで事態が沈静化するかといえば答は否です。不良資産の元となる住宅価格の下落が続いている状況では、今は健全でも時間の経過と共に不良資産化するものが次々と出てきますから、問題解決にはなりません。それでも政府がコミットする姿勢を示すことで、変化をマイルドにするぐらいの効果はあるかもしれません。

今回の金融危機ですが、メディアは相変わらず意味も分からず騒いでおりますが、1930年代の金融恐慌の再来のように危機感を煽る姿勢は疑問です。金融恐慌は集団心理による現象であり、現在のように情報が大量にかつ迅速に流通する状況ではありえません。当時と比べてあれもこれもこんなに似ているというのは、あまりにも近視眼的な見方です。今回はそんな話です。

貨幣の物理的特性は非線形的です。少額のコインと紙幣は非連続ですし、紙幣でも額面による発行コストの違いは大きくありませんから、高額紙幣ほど通貨発行益(シニョレッジと言います)は大きくなります。そして100枚単位の帯封留の紙幣は見る機会があるかもしれませんが、その量的ボリュームから億単位の紙幣でも、手提トランクに納まる程度であり、銀行支店やATMへの補充などは現金輸送車で間に合うわけです。

それが兆円単位になれば、それでは間に合わなくなり、コンテナに収めて輸送する必要があります。当然セキュリティも含めてコストがかかりすぎて、実際に動かすことは困難です。こうなると現物貨幣は不便な代物なんですが、例えば小切手ならば書き込む数字の桁数でいくらでも大きな金額を指定できます。もちろん決済に使う当座預金口座に残高がなければ不渡りになりますが、現金輸送車やコンテナを使わなくても運搬できる使い勝手の良さはあるわけです。

さらに進むと、銀行口座同士で残高の数字をやり取りすればもっと容易に高額のお金を動かせるわけですが、それもかつては元帳からカーボンコピーされた伝票でやり取りしていたものが、口座自体がデジタルデータとなり、さらに銀行間オンライン通信が可能になり、通信速度も処理速度もどんどん速くなり、流通速度が増すわけです。

しかしこのことは、同時に貨幣以外の財貨の流通速度との相対的な速度差を増すことを意味します。兆円単位の決済でもクリックだけで一瞬のうちに可能な一方、例えば小麦を同額分運搬するとなれば、大型船舶が何隻も必要となりますし、発地と着地の距離のよっては1月以上の時間も必要です。また国境を越えるときは、通関や検疫で足止めされます。

人に関しても、国家間で移動が制限されているのが普通ですし、特に労働力としてはなおさらです。さらに技術となれば、複数年の研修期間を経て習得されるわけですから、ますます流通速度が下がります。また社会的文化的制約から受け入れが滞る種類の技術もありますので、場合によっては世代交代を伴なう形でしか流通しないものもあります。

このことは、貨幣を媒介として自由に財の交換ができる資本主義社会においては、流通速度の異なる財の交換は必然的に生じる時間差に裁定機会が存在することを意味します。つまり将来高い確率でこうなるという事がらに対して資金を提供してリターンを得ることが可能になります。その意味でとかく批判の対象とされているサブプライムローンやデリバティブや証券化商品などは、グローバル化とIT化の必然的な帰結として登場したものといえます。これらの新しい金融手法を悪者にする議論は馬鹿げてます。

そしてこの流れをリードしたのがアメリカだったのですが、その結果世界の投資資金がアメリカへ集まる事態となったのです。元々基軸通貨国で他国より優位にあるアメリカで、ベルリンの壁崩壊による平和の配当が後押ししてIT革命が起き、さらに新自由主義的な金融自由化と相まって、貨幣の流通速度が増して他国より多くの投資機会を生み出したわけです。その結果が双子の赤字の拡大による消費ブームだったのです。経常赤字で海外へ流出したドル貨幣は、黒字をため込む貿易相手国の国内投資では消化できず、アメリカへ還流する流れとなり、いくら借金しても次々と資金がファイナンスされる状況が続いたわけです。その結果としての住宅バブルであったわけですが、このアメリカにとって都合の良いシステムは当然ながら持続不可能であり、いつか破綻するしかなかったのです。

逆に言えば破綻の解消のためには住宅価格が底値をつけるだけでは足りず、アメリカの巨大な経常赤字が解消されて初めて、歪みが取れて正常化するものでもあります。それは必然的に円ドルレートを円高へ向かわせるものとなります。つまり外需依存の強い今の日本では、当面の経済停滞は避けられないということです。しかも米経常赤字の解消には時間を要しますので、1.8兆円程度の財政出動で下支えできる程度の停滞ではないと断言できます。つまり政府が打ち出している総合経済対策は全く無意味です。

既に世界の中央銀行は、流動性の供給に奔走しておりまして、特に通貨スワップ協定によって日銀など世界の10の中銀でドル供給を開始しました。

日銀、2兆円の即日供給オペを通知――10日連続の即日供給
欧米金融機関のドル調達が滞る中、円で調達して外為市場でドルに換える動きが日本円の流動性にも影響していることからの協調行動ですが、政治的に為替の円高介入や円高誘導を意図した利上げがやりにくい状況の中、円で調達した資金でドルを買う動きが外為市場のノイズとなってドル相場を押し上げる動きを封じる意味もあります。中長期的にはドルの減価を進めるしか手立てがないわけです。日米共に小さな政府を志向して小さな政治に成り下がってしまったようですね。

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Comments

 いつも楽しみに拝見しております。
 今回ご指摘の「流通速度の異なる財の交換は必然的に生じる時間差に裁定機会が存在する」という点は興味深い点であり、今回の問題の本質かもしれません。
 そこに利源を求め、金融技術者が知恵を出した成果がサブプライムローンであり、庶民も自らの生活を豊かにするために「よかれ」と思って飛びついたのかも知れませんが、結果は庶民がそれを使いこなすことはできなかった。(庶民が飛びつきすぎた?)
 その後生じる混乱を回避するため、別の金融技術者が知恵を出していますが、なかなか混乱が収まらないのが現実という感じでしょうか。
 この件に限らず、最近は技術(科学技術に限らず、あらゆる専門ノウハウ)が複雑化しすぎの感があり、庶民に届く商品の「質」が自ら測りづらいものになっているような気がします。(問題多発の食品はその代表格でしょう。)
 多機能よりもシンプルな機器(携帯電話やリモコンなど)が売れる時代、技術者は複雑な技術を駆使しつつも、庶民が理解しやすく誤操作をしても修理可能な商品に仕立て上げる能力というのが求められているような気がします。技術者にはきめ細やかな気配りが必要なのかも知れません。
 そのあたりを社会規範として確立できれば、今後、同様の社会全体の混乱は回避できるような気がしますが‥‥‥妄想でしょうか?

Posted by: ほねぶと | Wednesday, October 01, 2008 at 12:49 AM

ご愛読ありがとうございます。

ここ20年ぐらいの技術革新で、金融はその姿を大きく変えているのですが、金融危機で時を失った日本は、その変化に乗れずにいたわけです。それが今回トップランナーのはずのアメリカで混乱が起きているのですから、実は変化があまり認識されていなかったのかもしれません。

少なくとも10年前の日本の金融危機で見せた政府の無能力と、今回のアメリカのそれは、実に良く似ております。むしろ好事魔多し、成功の渦中にあるから問題点が見えなかったのかもしれません。少なくともブッシュ政権のこの8年間、経済に関しては全く無策でした。

さまざまな新しい金融商品や金融手法が登場しても、それを律するルールが後追いとなり、実効的な規制がかけられなかったわけです。まさに小さく愚かな政治です。

おっしゃるように、似たようなことはいろいろなジャンルで起きているのですが、対応は後追いになりがちです。統治システムの劣化でしょうけど、結局国民がしっかり監視するしか防ぐ手立てはないのでしょう。少なくとも変化が見えていないアホなリーダーは選ばないようにしなければいけませんね。

Posted by: 走ルンです | Wednesday, October 01, 2008 at 07:58 PM

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