中央リニア5.1兆円JR東海が自己負担の意味
またしても週末に金融危機です。しかも今回の主役は日本です。
円急騰、欧州市場で一時90円台2003-2004年の大規模為替介入の結果、日本の外貨準備資金として1兆ドルに及ぶ残高を抱えていることは、コイズミノミクスの反動としてのコイズミジレンマとして既に指摘しました。またそれが輸出企業への輸出補助金として企業を助ける一方、国民生活を窮乏化させるものであること、さらに国の外貨準備の肥大化が、低金利の円を借りて高金利国債券で運用するいわゆる円キャリートレードに暗黙の保証を与えた結果、家計貯蓄をリスクにさらしたことも昨年の記事で指摘しました。また長く続いた日銀の低金利政策が世界規模のクレジットバブルの戦犯であり、巻き戻しの危険性があることも以前に指摘しました。今回はアクション自体は欧州発ですが、それだけ欧州各国で円キャリートレードが盛んだったということで、その巻き戻しが起きてしまったんですね。もはや対岸の火事ではありません。
簡単に言いますと、低金利の円資金を調達して、為替市場で投資先国の通貨に交換してそれぞれの債券等の金融商品に投資するという流れで、特に通貨フォリントが対ユーロで最高値から25%も下落したハンガリーでは、個人の住宅ローンにまで円資金で調達した資金が使われたほか、いわゆるサムライ債が多数の国て発行されていた状況で、金融危機で借り手が手仕舞って資金を返済する動きが出てきたものと考えられます。そのために返済資金の円を買う動きが世界的に広がったわけですから、為替介入で押し戻すことは不可能ですし、国際的にも非難を浴びます。
問題はそうやって買われた円が株式の購入などに回ってくれれば良いんですが、長く輸出企業優遇を続けた結果、円高は輸出企業の輸出減速で実体経済の先行き不安を連想させますから、円資金は単純に返済に回り、市場から消え失せるわけです。内需振興を図らなかったツケがまわったわけですね。
そもそもなぜ内需振興かといえば、高齢化が関係します。簡単に申し上げますと、工業化社会ではすべからく高齢化は進んでおります。ただ日本では高度成長の結果として高齢化のスピードが欧米より急なことが特徴です。逆に欧米の後追いですから、欧米の失敗を教訓にできる立場でもありますし、より重要なのは、韓国や中国を含め、アジア各国の経済成長が日本モデルの後追いとなっていることから、将来的に日本同様の高齢化に直面することは確実なわけで、この面でも日本が一定のお手本を示せるかどうかが問われております。
高齢化世代はいつまでも労働市場に留まらず、ある時点で退場するわけですが、それはとりもなおさず現役時代に蓄積した貯蓄を取り崩す生活への移行となります。厳密には公的年金制度の有無などで違ってくるのですが、議論が煩雑になりますので省きます。高齢化自体は公衆衛生の改善と医療の進化によるものですが、工業化の進捗による経済成長の結果として医療への支出が増やせるのもまた事実でして、結果的に救える命が増え、高齢化へと向かうのは必然です。その結果労働力の供給が不可能な高齢者が増えて、彼らは生産せずに消費だけを行う存在ですから、高齢者が増えるということは、国のマクロレベルでは貯蓄が減って消費が増えることを意味します。言葉を変えれば国内消費が国内生産を上回るということです。
これを人為的に回避しようとする試みは欧米で主に移民政策として実行されましたが、これがどういった結果となったかは、今回のサブプライムショックでわかるでしょう。アメリカは中南米のヒスパニック系移民の受け入れが契機となって住宅バブルを生じたわけですし、欧州でもイギリスやスペインは同様です。遡ってドイツでは主にトルコ系移民を受け入れた結果、非熟練労働市場が移民中心に切り離され、社会不安を起こしておりますし、またトルコ系移民の定住によって、彼らの高齢化の面倒を見る羽目に陥ります。重要なのは自国民も移民も等しく齢をとるのであって、移民政策は高齢化の解決策にはならないのです。
その結果貿易収支は赤字基調となるわけです。この部分が理解しにくいでしょうけど、国内消費が国内生産で賄えなければ必然的にそうなります。いわゆる国際競争力云々とは無関係です。ただ実際の貿易収支は為替変動で相殺されますから、その国が偏りのないマクロ経済政策を実行できていれば、貿易収支(実際はサービス収支を加えた経常収支)は、均衡水準を維持できるはずです。そのためには製造業では資本装備の充実による生産性向上が重要なんですが、実際には賃下げや非正規雇用の拡大による労働分配率の低下で対応し、むしろ設備投資も抑制的でした。結果的に日本企業はキャッシュフルになり、外資から買収を狙われることになったわけですね。
実際の日本の直近の貿易収支を見ると、8月に小赤字、9月に小黒字ということで、80-90年代に政治問題化したような状況とは様変わりしております。何が変わったかといえば、それだけ当時よりグローバル化が進んで、貿易収支や為替水準などが世界の人々の関心事ではなくなってきたということです。2003-2004年の日本の大規模介入も、だからこそできたのでしょう。また当時は世界的に経済は好調だったので、非難されることはなかったのでしょう。同じことを金融危機の今やろうとすれば、袋叩き間違いなしですが^_^;。
というわけで、貿易統計から見て奇妙な均衡状態にある今の日本ですが、ここ暫くの政策運営如何で、均衡状態を維持できるかどうかで変わってくると思われます。具体的には資本効率が低いと言われる日本企業の資本効率を高め、労働者1人当りの資本装備率を高め付加価値を拡大することが重要です。外需頼みで国民窮乏化政策を取るのか、高齢化を睨んだ消費主導型経済に舵を切るのかが問われております。その意味で今回の危機に立ち向かうには、バカ殿様宰相では無理でしょう。早く選挙やってくれ。
というわけでやっとリニアですが^_^;、JR東海はリニアの輸出に意欲を示しているということで、日本車輌を子会社化したわけで、理由としてリニア開発の技術情報の秘密保持を掲げております。どうも本気でリニアを売り込む算段のようですが、経済の客観情勢は上記の通り最悪です。そもそも今後の輸出は外貨稼ぎよりもグローバル化のプロセスとしての意味合いの方が重要です。高齢化が進む日本では、為替市場での円高維持こそが重要なんです。そうすれば資源が安く買えて国内消費市場が活性化されるわけです。
その意味でリニアに未来があるかどうかですが、まず欧米では圧倒的に鉄道ストックの厚みがある中で、部分的な改良や高速新線の建設は行われるものの、基本は既存ストックの活用がメインということで、日本流の新幹線ですら出番なしです。そういった意味で欧州方式の線路に日本製車両という組み合わせとなった台湾高鉄で、日本の新幹線技術を欧米流のデファクトスタンダードに摺り合わせるチャンスだったにも拘らず、途中で放り投げてしまいました。JR東海贔屓と見られる曽根悟教授でさえ、鉄道のグローバル化の意義を認め、相互に技術を理解して良いとこ取りすることを"国際化"と定義しているのです。リニアでいかに高度な技術を実現したとしても、システム全体がブラックボックス化された高価なソリューションになれば買い手は現れません。日本の家電や携帯で言われる"ガラパゴス化"になりかねません。
この辺は今までも散々指摘してきたところではありますが、鉄道ジャーナル12月号の佐藤信之氏の論文でヒントとなる部分がありまして、新たにこの記事を書き起こしました。つまり東京―名古屋間の中央リニアの整備費用と言われる5.1兆円の謎についてです。佐藤氏が指摘するのは、1992年10月にJR本州各社が新幹線保有機構から新幹線施設を買い取ったわけですが、その際にJR東海が支払った買取り代金が5.1兆円で妙な符合があるという点です。
このうち4.5兆円は25.5年、残り0.6兆円は60年の半年賦元利均等払いとなるわけで、4.5兆円分の支払が2017年3月で終了するということが重要です。その分のキャッシュフローが余剰となるわけですから、これをリニア実現に利用しようということのようです。ということで、ザックリ言って5.1兆円で実現可能なリニアから逆算された結果としての東名間最短ルート建設ということであれば、JR東海の意図が見えてきます。
つまり全額自己資金での費用負担の上限を示すことで、長野県から出ている伊那谷経由で駅も増やして欲しいという要望や将来出るであろう大阪延伸の要望などに対して、自己負担の限界を示すことで補助金を引き出そうとしている可能性があります。つまり敢えて政治圧力を利用しようということですね。それを証明するような動きもあります。
JR東海、リニア3ルート併記 経路綱引き本格化
リニア新幹線、直線ルート軸に協議 JR東海が国交省に報告本来は新幹線整備は法令により国の事業とされるので、手続上は後者の国交省への報告が必要なんですが、それ以前に報告内容を明らかにし、自民党の部会へ説明したりしているのです。政治的意図ありありです。またこのような行動は企業としていささか不謹慎でもあります。というわけで、リニアと長崎の間の記事で指摘しなかった視点ですが、整備新幹線は政治新幹線だと確信する次第です。
ま、狙いとしては、政治圧力を利用するとともに、世論喚起して事業推進の後押しにと考えているのでしょうけど、間違ってもガラパゴス化を来すような企業の投資行動に公的支援なんかしちゃいけませんね。
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