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Sunday, December 21, 2008

バブルよさらば、グローバルオウンゴール

トヨタショックの後日談として、来年3月期決算予想が赤字転落、加えてホンダも下期赤字予想を発表しました。ナゴヤはオワリどころじゃなくなりました。事態は自動車不況と呼ぶべき状況です。しかし、サブプライムショックやリーマンショックなどの金融危機のせいだけにできない、自動車メーカー固有の問題も見え隠れしております。

元々日本国内では、バブル期に700万台超の新車販売のピークをつけた後、数を減らしながら90年代半ばから500万台超の水準で新車登録台数が推移しておりました。クルマは既に欲しい人に行き渡り、以後は買い替え需要にシフトしたわけです。その結果新車登録台数が横ばいになったわけですが、同時にグローバル化の進展で日本の中古車が海外へ流れ、特に中国やロシアなどの新興国へまとまった数が流れた結果、国内の中古車市場の下支え効果があったと考えられます。その分中古車の価格メリットが出にくいわけで、新車販売の底上げ効果もあったものと考えられます。それが今年春の上海株ショックを契機に剥げ落ちて、中古車シフトが起きたと考えれば、今年の500万台割れ水準は当面の均衡レベルを示唆するものの可能性があります。つまりは当面国内市場は窮屈なまま、商業者メーカーを含めて2桁の完成車メーカーがひしめく構図となります。というわけで、これだけを見ても、自動車メーカーの復活は遠いわけですね。

加えて、リーマンショック後の10月以降、北米市場の急速な冷え込みに襲われ、度重なる決算予想の下方修正となり、いわゆる派遣切りが起こることとなります。その北米市場の回復の可能性も、以下に記すように難しいのが実情ですから、今後は海外拠点も含めて正規雇用者のリストラも避けられない事態を覚悟する必要があります。いやはや「日はまた沈む(sunset)」どころは「日は真っ直ぐ落ちる(sunfall)」事態になりそうです。ホンダが「F1どころじゃない」というのもよくわかります。

脱線しますが、元々欧州の草の根のクラブマンレースの最高峰という位置づけだったF1への量販車メーカーの関与が、開発費の暴騰となってメーカー自身を苦しめた現実も知っておくべきでしょう。大メーカーの撤退はむしろモータースポーツ本来の姿に戻るのであって、ホンダの撤退は英断と評しておきます。

さて、アメリカ国内の自動車市場の規模ですが、年間新車登録台数1,200万台ぐらいで推移していたのですが、2000年代に入ってから、特に9.11ショック後の消費ブームあたりから右肩上がりとなり、1,700万代近くまで増えていきました。この頃から米ビッグ3で始まったゼロ金利キャンペーンが、そもそものスタート地点だったと考えられます。

いわゆるテロとの戦いで愛国心を鼓舞された国民が「消費を控えればテロリストの思う壺」というフレーズに踊らされて消費ブームが演出されたのですが、ビッグ3が一役買ったわけですね。元々新車購入者の8割がローンを組んで購入するアメリカで、ゼロ金利キャンペーンは事実上の値引きであり、メーカーがディーラーへ新車販売のインセンティブ(販売奨励金)として配る形で実施されたわけです。ここまでする理由ですが、単なる消費底上げというよりは、輸入車攻勢にさらされていたビッグ3が体力勝負を仕掛けたという方が実態に近かったと考えられます。

その結果、皮肉なことにビッグ3は財務体力をすり減らし、今、存亡の危機にあるわけですが、同時に環境技術など、未来志向の技術開発への資本投下もままならず、ビッグ3の得意分野としてライトウエートトラックへの比重を高めることとなります。ベースとなるピックアップトラックは、本来農場などで作業用に使われる廉価な車ですが、車関連の諸税の安さもあって、若者のエントリーカーとしてももてはやされる存在でもありました。そのためにオフロード用バンパーやフォグライトその他のオプションを揃えて高く売れるし、ラダーフレームにボディを載せるシンプルな作りが幸いし、オフローダーに似せたSUVや大柄なバンボディを載せたミニバンなどの派生車種を簡単に作れることもあり、利益率が高い上に、輸入車との差別化にもなるということで、とりわけ販売に力が入りました。

しかし日本メーカーがアメリカ国内で現地生産してこの市場に切り込んできて、競争状態にさらされます。加えて日本メーカーはハイブリッド車などビッグ3が持たない商品でも攻めますから、ますますビッグ3は守勢に立たされるわけで、期間限定のはずのゼロ金利キャンペーンが、いつしか通常の値引きとなり、エンドレスの体力勝負に巻き込まれます。

で、2003年~2004年の日本のドル売り大介入による円安で、トヨタで言えばプリウスやレクサスなどのハイブリッド車や高級車などの現地生産されない高価なクルマが、さらに円安メリットで利益が上乗せされたわけですから、トヨタに限らず日系メーカーもゼロ金利キャンペーンで応酬、円安という事実上の輸出補助金を得て体力勝負を跳ね返してこられたわけですから、ビッグ3といえども、対抗のしようがないです。で、ここがアメリカらしいところですが、さまざまな金融技術を駆使して、クルマ販売を督励することとなります。

例えばホームエクイティローンですが、米住宅バブルを背景に、マイホームの値上がりによって発生した担保余力を利用して耐久消費財の購入に充てる仕組みですが、このおかげでマイカーや薄型テレビなどが多数売れたわけです。あとリース販売というのもありまして、日本でもトヨタが残価設定形ローンと称して国内販売のてこ入れを狙った仕組みです。購入する新車の3年後の残価を設定し、新車価格との差額分を36回元利金等払いで返済し、3年後は残価で買い取る事も、中古車市場で売却することも選べるというもので、残価が中古車の市場価格を上回っている限り、ユーザーは安いローンで3年ごとに新車に乗り換えられるというのが魅力でした。しかしこれが問題を引き起こします。

リース販売の拡大は、中古車市場への供給過剰を生み、中古車価格を押し下げます。すると当然ながら中古車価格が残価を下回る事態となるわけで、そうなると、ユーザーはディーラーに車を返して、よりどりみどりの安い中古車を物色するようになります。となるとディーラーにはリース販売で返品された中古車がたまるわけで、やむなく中古車市場で損切り処分してますます中古車市場を押し下げる悪循環となり、気がつけば誰も新車を買わなくなったということです。リース販売に関しては、日系メーカーも遅れて参入して、いまやどっぷり首まで浸かった状態ですから、9月までは普通に売れていたアメリカの新車販売が急激にストップするのも無理もないところです。サブプライムショックのカーボンコピーのような現実は、つまるところ、メーカー自体がバブルにどっぷり浸かっていたわけで、まさしくグローバルオウンゴールなわけです。

もっと大きな視点で見れば、そもそも上海株ショックも、新興国の経済成長期待で生じたバブルが、原油価格上昇で持続可能性に疑義が生じたことで弾けたものです。当時の中国は北京オリンピック前の高揚感よりも、急速な工業化の弊害による環境悪化やインフレなどのネガティブな話題が多かったのですが、特にチベット騒乱やウイグル人によるテロ騒動などは、つまるところ天安門事件と同じ国内インフレに原因が求められます。その結果元々統制価格だった中国のガソリン価格が、原油価格上昇分を転化できず、原油価格上昇を増長するに及び、資源制約が意識されたものと見ると、新興国経済の成長がアメリカ経済のリセッションをカバーするというデカップリング論の期待がくじけ、9月のリーマンショックに至ったと考えると、そもそものきっかけは原油価格上昇にあったわけで、その大元をたどればイラク戦争に行き着くわけです。間もなく退任するブッシュ大統領の外交政策と、それを支えた日本の歴代政権は、散々ピッチ上を走り回ったあげくのオウンゴールという、何とも腹の立つ結末です。

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