100年に1度の成人式
ハッピーマンデー制度により、成人の日が1月第2月曜日に移動したのが2000年からですが、一方で正月休みでないと新成人が集まりにくい地方の事情もあって、三が日中に行う自治体や、結果的に生じる3連休の頭(今年は10日(土))にやったりということで、ややぼやけた感のある成人の日ですが、今年は新成人に祝いの言葉をかけるのも気が引けます。経済グチャグチャで明るい話題なし、新年早々から年越し派遣村のニュースが流れる現状に、新成人の門出を祝う気分がそがれます。
事態の深刻さからワークシェアリングが議論の俎上にのぼったものの、今までも労使共に乗り気でなかったものが具体化する可能性はほぼゼロに等しいでしょう。この国は「大人の事情」で若者に冷たい国なのです。そもそも派遣切り問題でも、派遣労働者が増えている状況を知りながら、組合員として取り込むわけでもなく放置した連合と傘下組合に、問題解決能力があろう筈はありません。派遣切りの本質は労労対立です。若年労働者を解雇しやすくする初期雇用契約法をゼネスト打って撤回させたフランスの労組とは大違いです。
加えて経営者側も、会社への忠誠心を梃子に個別業務の責任範囲を曖昧にしてきたから、仕事を分割する術を知らず、また労働基準法36条の労使協定、いわゆる36協定でサービス残業を追認してきた日本の労働慣行では、責任範囲が曖昧な方が会社にとって好都合だったのです。結果的にグローバル競争の激化とともにサービス財業は増加の一途を辿り、正社員も楽じゃないのが現実です。今後は正社員の雇用調整も確実です。サービス残業するぐらいなら、その分人を増やせっての(怒)。
しかし企業の内部留保は増え続け、2000年代だけでも大手企業で20兆円にものぼり、株主配当も増やしています。ゆえに「そんな金があるなら派遣切りなどするな!」の声もありますが、株価下落で株主も責任を取らされた形でして、株式持合いの弊害と断言します。それもこれも経営者の自己防衛的買収防衛策の結果ですから、株主重視が問題というよりは、投資マインドの弱い日本の企業経営者に問題があります。
元を辿れば2001年のベアゼロ春闘をトヨタがリードしたことに端を発します。バブル期をピークに労働分配率(企業が付加価値を人件費に充てる比率)は70%程度あったのですが、現在は60%です。しかも若年層ほど非正規雇用の比率が高く、正社員は年功賃金で高給取りとなった人たちですから、若者の手取りはより少ないわけです。その中で、トヨタ首脳が「最近の若者はクルマを欲しがらない」と言い、若者へのアピールとしてF1参戦したりしたんですが、そもそも若者の所得を奪っておいて「買ってくれない」はおかしいです。結果としてトヨタの売上の79%は海外売上といことになるわけです。その結果例えばカローラもヴィッツも海外需要に対応してサイズアップして行き、ますます国内ユーザーのニーズから離れます。こういったチグハグをやっていて、GMの不振で世界一が見えてきたというのは皮肉です。トヨタは堕ちるべくして堕ちたのです。
米ビッグ3の不振も、元々は他社よりも高給かつ企業年金や企業医療保険などの充実した福利厚生で人を集めてきたわけですし、雇用調整は有給のレイオフによっているわけで、どう見ても持続可能なやり方ではありません。労組寄りと目されるオバマ新政権ですが、公的資金で救済する以上、雇用へ切り込むことは間違いないでしょう。ビッグ3不振は日本の派遣切りと同じように、労組の既得権問題なんです。
現在へ通じる近代自動車工業の嚆矢となったT型フォードの発売が1907年ですから、実は自動車産業はたかだか100年の歴史しかないわけですが、燎原の火の如く広がったモータリゼーションの波は、新興国へ波及する段階で、エネルギー資源の制約と地球環境問題に直面し、持続可能性に疑問符がつけられているということはできます。大波乱のうちに明けた2009年ですが、次の100年に思いをはせるチャンスかもしれません。その意味で道路特定財源の一般財源化をうたいながら道路予算を増やす政府の対応も問題あります。一方で定額給付金バラマキを生活支援とうたうのですからめちゃくちゃです。こんなことなら暫定税率を失効させておけばよかったんです。
というわけで、自動車に追い込まれ続けた鉄道の復権にとって重要な年となるかもしれませんが、2008年には京都市営地下鉄東西線延伸に始まり、横浜市営地下鉄グリーンライン、東京都営新交通日暮里舎人ライナー、東京メトロ副都心線、京阪中之島線と新線開業の当たり年だったことと比べると、2009年は阪神なんば線、平成筑豊鉄道和布刈公園線、富山地方鉄道富山市内環状線といったところで、小粒感は否めません。来年には成田空港新アクセスや東北新幹線新青森開業などの大物が控えてますが。
いずれも公的支援を得ての整備であるのはご他聞に漏れずですが、気になるのが計画段階での輸送目標をことごとく下回っていることです。もちろんだから無駄だと言うつもりはありませんが、公的支援を得る以上、事業としての客観的な評価は大きな課題です。例えば北海道新幹線札幌~長万部間の新規着工のような事業をどう捉えるかですが、東京とつながってナンボの新幹線の部分着工は投資効率を下げる愚策です。
というわけで、正直なかなか新年を祝う気分になれなかったのですが、本年もよろしくお願いいたします。
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Comments
派遣切り問題、耳が痛いです。何せ当方、「切る側」である大手企業の正社員として、組織にドップリ浸かり始めている身ですので(^^;
派遣社員が契約を打ち切られる傍ら、当方が取り組んでいる課題の1つにBPO (Business Process Outsourcing:外注化)があります。渾然一体としている日々の業務から、パターン化できる定型業務を切り離し、労働単価を下げようというのが狙いです。残る非定型業務は正社員が一手に引き受ける形になりますので、仰せの通り正社員もラクではありません。御指摘の36協定も然りですが、時期・景気による業務の過多の差に非正規社員の活用で対応している欧米に対し、我が国では正社員の労働時間に皺寄せが行っている訳ですから、長時間労働は無くなりません。もちろん、ワークシェアリングの実現など望むべくもありません…
今日の若年層に非正規社員が多いことを思う時、「派遣の品格」のような派遣社員を扱った番組の真意が、実は「派遣労働者に憧れるように仕向けて、いざとなったら簡単に切れる層を増やしておくか」という経営層の企みにあったのではないかと感じます。経営層に御用労組とメディア、やっぱしグルだったんだなと。
地下鉄の中吊り広告で、「正社員の既得権にメスを入れよ」というWEDGE誌の記事見出しに目が留まり、やはり耳が痛くある今日この頃でした。今の日本では凶悪犯罪増加に作用することこそあれど、ゼネストはまず起こらないでしょうね…
Posted by: Super White Arrow | Friday, January 23, 2009 11:43 PM
コメントありがとうございます。現役のSuper White Arrowさんに耳の痛い話ですが、バブル期に正社員やってた私には、心が痛む話題です。
そもそも賃金水準の低かった日本の会社員にとって、残業手当は生活給の一部でしたし、会社側も薄々それを追認していた結果、36協定で労使で月の残業時間の上限を決めることにして、責任範囲を曖昧にしていたことが背景にあります。バブル期に欧米に倣って時短と残業ゼロを目指す動きもあったんですが、経営側が強硬に反対、賃上げにつながらないので組合員にも不人気で、バブル崩壊と共に沙汰止みになりました。
結局それが現在の事態を招いたという意味で、責任を感じております。またこういった背景がある故に、90年代のアメリカで、ホワイトカラーの生産性を劇的に高めたIT革命が、日本では起きなかったんです。その意味では二重に責任を感じます。
輸出主導の経済成長は、以前から「飢餓輸出」と表現してまいりましたが、その通りの現実が出現してしまったことが残念です。しかも政府や企業のトップに危機感が乏しいのも困ったもんです。
一方で、高齢化による労働人口の減少に対応する意味では、出産、育児、介護などの事情で雇用を継続できない人が現れているわけですから、フルタイムの勤務は難しくても、バラバラの空き時間を活用することができれば、本人も雇用を継続できて、社会的にも休眠資源の活用となるわけですから双方にメリットがある話ですが、製造業派遣は、以前から期間工や業務請負などで対応していた需要に応じた雇用調整に派遣制度を悪用したものといえますので、制度自体の問題というよりも、雇用に責任を負わず、むしろ正社員に過度のノルマを課すなどで切り崩す企業の姿勢に問題の本質があります
企業の社会的責任(CSR)が言われる昨今ですが、文化事業や環境保護をアピールするよりも、経常的な企業活動のあり方として社会的にはより重要な問題のはずです。
アメリカがビッグ3救済に動いたのも、最大500万人と言われる雇用の喪失を見過ごせなかったのであって、一部で言われる保護主義台頭の心配は杞憂です。というよりは、そんなことを気にすること自体が、ここに至っても外需頼みの本音が透けて見えるというものです。飢餓輸出をまだ続けようというつもりでしょうか。
Posted by: 走ルンです | Saturday, January 24, 2009 10:23 PM