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Tuesday, February 17, 2009

ジャパン老いるマネー

中川大臣が辞任しました。政界では以前から飲兵衛で酒乱で知られていた人ですが、醜態が世界に配信されちゃ辞めるしかありません。にしても日本の恥ですね(怒)。中央リニア5.1兆円の記事の冒頭でも振れましたが、昨年8月以来の貿易収支赤字化で、日本がいよいよ高齢化社会本番を迎え、産業構造を見直さなければならないときに、緊張感まるでなし、他人事のように「米国の景気対策をオバマにお願い」したり、以前にも日本の金融危機の不始末を自慢した財務金融相のズレた感覚はどうしようもありません。

おさらいですが、高齢者が増えるとなぜ輸出が減るかというと、高齢化して現役をリタイアする人が増えるわけですから、この人たちは生産に従事せずに消費のみを行うことになりますので、国全体では貯蓄が減って消費が増えることになります。で、貯蓄は投資に回ってさまざまな生産活動を支えるわけですので、貯蓄が減り、また現役世代の減少で労働力の投入量も減りますから、国全体の貯蓄の減少は生産の減少を通じて国際収支の黒字縮小となるわけです。これはどう逆立ちしても避けられないことです。

それを無理に輸出を増やそうとすれば、資本装備を高めた上で労働力の投入量を減らすしかないわけです。これを技術革新によって、例えばIT化で生産性を高めることで実現できるならば良いのですが、実際にはIT化で実現できる生産性向上は、主に管理部門など生産現場以外の場所では効果が期待できるものの、人手が必要な生産現場では、人件費の抑制でしか実現できません。その結果正社員はベアゼロでサービス残業という事実上の労働強化と、非正規雇用者を増やして雇用を流動化し、人件費を固定費から流動費にすることなど、主に労働分配率を下げる形でしか実現不可能なんです。結果的に若年層の購買力を奪い、車が売れなくなったんですから世話ありません。

加えて2003-2004年の大規模為替介入による円安政策にも助けられていたわけですが、加えて輸出で稼いだドルを海外投資に回し、それでも足りずに「貯蓄から投資」の掛け声の下、金融自由化の流れに乗って内外の株式や債券やそれらを組み合わせた投資信託を銀行や郵便局の窓口で販売し、家計貯蓄をリスク資産に移転させる政策もとられました。その結果海外へ流出したジャパンマネーがドルやユーロ建ての金融商品に投資され、欧米諸国の中央銀行に代わって流動性供給をした結果、海外で生じたバブルに乗って輸出を加速させたわけです。つまり高齢者世代の貯蓄を海外流出させて米欧のバブルを後押ししたわけで、米政府やFRB関係者の中には、アメリカのバブルはアジアの過剰貯蓄が原因と、暗に日本や中国に責任転嫁する論調も見られます。

もちろん日本人としては違和感のある見方ですが、自動車や電機をはじめ、輸出企業の対応も「売れりゃいいじゃん」というもので、実際自動車は海外市場重視でモデルチェンジの度にサイズアップして国内では使いにくくなってますし、電機業界では高付加価値を狙って不必要な高機能を与え、結果として消費者の離反を招き、また自動車とは逆に世界の趨勢に乗れずにいわゆるガラパゴス化してしまう体たらくです。薄型TVやデジカメなどのデジタル家電も、北京五輪特需が空振りだったという不幸はあるものの、結局在庫を積み増して価格競争の消耗戦を繰り返しているんですから世話ないです。ジャパン老いるマネーで売上を作っていたわけですね。

元々高齢者は若者ほど消費しないと言われます。理由はいろいろあるんですが、一番は若いころからいろいろなものを購入し、既に多くのものを持っているので、新たに買い増すものは少ないということと、若いころから老後を睨んで貯蓄を重ね富裕層に移行することで、消費性向を減らすという説明もあります。ただしこれは社会福祉の充実した欧州では必ずしもあてはまらないようです。日本では老後資金として3,000万円程度は必要と言われますが、欧州では100万円もあれば十分といわれます。

とすると、実は高齢者福祉というのは、消費性向の低い高齢者の消費を呼び起こすことで内需を活性化させる政策ということができます。加えて老後資金の貯蓄の必要性も減るわけです。医療や介護など高齢者向けサービスを充実させれば、そこに雇用が生まれ、富裕な高齢者から福祉で雇用される若年層へのサービスを媒介した所得移転となるわけです。とすると財政支出は増えても、医療や介護へもっと多くを配分することこそが、閉塞感漂う現状を打開することになるわけですね。

あと加えて、高齢化は必然的にマイカーを手放す人も増えるわけで、公共交通の必要性が高まるわけですが、実際は規制緩和で競争激化の結果、参入退出の自由度が増し、事業採算性だけで路線の改廃が起きて、多くのローカル鉄道やバスが廃止される流れにもなっています。野放図に補助すべきだとは思いませんが、高齢者に消費を促すならば、モビリティの向上は重要といえます。無意味に道路を作り続けるのではなく、地域の生活圏の利便性を高めることに焦点を当てるべきですね。

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Comments

車が売れなくなったのはその費用がケイタイに化けたとも聞きます。移動から情報へと興味対象が変ったのではないでしょうか。
私も最近は車に乗るのが憂鬱です。過度な駐車違反の取り締まりに厳しい交通法規、守るべきは事実ですが逆に言えば守るくらいなら乗らないという選択肢だってあると思います。実際に自家用車使用が2年で2000kmしかなかったことを驚いています。

高齢者の車不要説というのは根拠をいただきたいのですが高齢者といっても前期や後期など色々、60歳からの俗に言う団塊は車文化に育っており、むしろ強化すべき内容でしょうね。

鉄道に肩入れしたい気持ちはわかりますが、乗車してもそのマナーの悪さには閉口し、グリーン車は最近「立ってもいいから乗りたい」とさえ思います。それほど馬鹿どもが増えた事実を何らかの形で対応しないと今度は「車に乗るぞ」と言われてしまいますね。その車でさえマナーの悪い運転が続く日々、日本全体にマナーの強化が必要、そう「教育」予算が一番大事です。

Posted by: SATO | Friday, February 27, 2009 08:54 AM

確かに携帯電話の消費スタイルは、クルマの代替を思わせる要素はありますが、単価が違いすぎます。

料金制度の変更で端末価格が上昇して若干変わってきましたが、毎年何回もニューモデルが出て、それを追っかけるスタイルというのは、モデルチェンジイヤー毎に買い替えられるクルマの消費スタイルと似ていますが、逆に頻繁に買い換えてもクルマほどにはお金がかからないものでもあるわけで、正規雇用比率が低く、賃上げもされない現在の若者には、クルマ道楽は無理があります。

その意味ではiPhonでも4万円で買える携帯に若者が飛びつくのも無理はないんで、単純にクルマから携帯へシフトしたというよりも、若者の所得状況がシフトの原因といえるのではないでしょうか。むしろ少ない収入のかなりの割合を割いているともいえます。

高齢者には車は不要とは申しておりませんが、高齢になれば車の運転を負担に感じたり、視力その他体の機能の衰えと共に、運転から遠ざかる傾向はあるわけで、小金持った年寄りに媚びても数は売れないわけで、消費性向の高い若者が買わなければ、産業としての自動車工業はジリ貧にならざるを得ないでしょう。

Posted by: 走ルンです | Saturday, February 28, 2009 12:29 AM

車をキャッシュで買うというのは40を過ぎた私がまだ若かったころでもあまり見ず、ローンで買う。そのローンが月々2万、ボーナス10万だったように思います。これ携帯電話の月々利用料にシンクロしていると思いませんか?(ボーナスはないけど)

私の根拠はここです。

高齢者と言っても団塊も含め今後ますます「その世代の単純人口」は多くなるはず、生まれる子どもが少ないのですから高齢者が1台買うなら、若者は4台くらい買わないと割に合いません。この消費速度は車が安価だった時代でもなかったと思います。年を取ってそれまで車を持っていた人が免許返上するのと、定年になって高齢者層に参入してくる人口も後者の方が多いでしょう。

また高齢者は目が肥えているので高価な車も買います。そのあたりの戦略もすでにメーカーは考えていると思いますし、なによりの落ち込みは輸出減ですからメーカーにとっては日本人に買ってもらうより中国人に買ってもらったほうがむしろありがたいのかもしれませんね。

鉄道はもはやCo2でのメリットを打ち出すくらいしか他の交通機関には勝てないと思います。原油も落ち着き私もまた車に乗るのを続けてみたくなりましたし、サーチャージも消えつつあり飛行機復権も十分あり、鉄道はJR東の最速新幹線が今では期待の星だと思います。逆を言えばその程度しか伸び代はないでしょうね。(貨物は除く)

旅行だの旅情だのゆっくり旅などは「どうぞ行ってください」の世界で、私には誤差にしか見えません。

Posted by: SATO | Sunday, March 01, 2009 12:35 AM

高齢者の消費性向の低さはいかんともしがたいですから、究極的には年金所得の特別超過累進課税で削るしかないでしょうね。その分は少子高齢化対策枠に全額回すべきでしょう。


ところで前からさっぱり理解できないことなのですが、日銀が政策金利を上げて円高誘導したら一体どのように国内の流動性が高まるのでしょうか。

国内経済が萎縮している状態での通貨高は何を意味するのか。一国内の購買力すら本来のパフォーマンスを発揮出来ていない状態であるわけで、その状態で通貨一単位当たりの購買力が増加をしたとしてどのような意味があるのでしょうか。「買える権利」だけを保持することが経済状況を好転させるならば無限に貨幣を退蔵することで経済が好循環するということになってしまいますが、こんなことはもちろん永久機関と同じく有り得ません。

つまり単純に利上げしたらハイパーデフレに陥り、総合的な対外購買力は下がります。確実に縮小均衡に入るでしょう。


なぜかあまり知られていませんが、円安・円高とインフレ・デフレは同じものの裏表です。分けて考えることはできません。

モノvs通貨がインフレ・デフレ。円という通貨vs他国の通貨が為替レート。ですから、円の供給が増えれば円安トレンドとインフレトレンドが同時に起こりますし、円の供給が増えなければ円高トレンドとデフレトレンドが同時に起こります。もちろん今の円高が投機筋によるバブルなら金融政策は不変のままでも為替介入で円安に転換は起こりますが、今の円高はバブルではないと思います。

金利平価で考えれば、デフレを続け縮小均衡を続けることで利上げ局面を待つという考えもあります。しかしこれは内需をいたずらに縮小させるだけの最悪の方法で話になりません。


製造業へ依存しすぎていることへの批判、円売りドル買いの為替介入による円安誘導の批判は結構ですが、CPIを何ら考慮しない円高待望論は私には正直理解しがたいです。2003-2004年の大規模介入が介入資金の非不胎化を伴うものであったことはご存知でしょうが、製造業や輸出とほとんど無縁の地方、町村の非官業の個人所得でさえ2004年を底に一斉反転したところを見ると、円安による外貨獲得よりもマネーサプライが増えたという純国内ファクターのほうが大きいでしょう。ここ数年は外需主導と言われましたが、年間インフレ率たった1%の状態でさえ実質GDP成長率に占める内需依存は外需主導の半分はあったのです。

政府紙幣にも噛み付いておられますが、この話が出てくるのは上記と関連します。政府紙幣論者は政府紙幣を発行することが目的なのではなく、こういうネタを出してマネーサプライを増やせと言いたいのです。そして、金融政策の是非については与野党ともに賛否を述べるだけの能を持った議員がほとんどいません。

また、政府紙幣論者は25兆円分を発行せよと言っていますが(デフレギャップからの推定でしょう)、これでどうしたらハイパーインフレになるのでしょうか。先述の非不胎化介入は三十数兆円が市場に放出されましたが、デフレから少ーし抜け出ただけです。


国内の流動性を高めたいのなら一に利上げを訴えるのではなく、長期国債の買い切りオペレーションあたりではないですか。当然国債価格は下がりますがインフレトレンドになりますので金利も上げるでしょう(ここで利上げしなければ通貨発行益の乱用となり、ハイパーインフレになりますが)。めでたく利上げです。銀行券を充分に回収ができなくなるという長期国債買い切りオペのリスクを避けたいなら、預金準備率引き上げ・準備預金付利利上げなどの対応策を取ればよいでしょう。

マネーサプライの波及経路が気になるなら新たな制度構築が必要ですが、ベーシック・インカムや負の所得税と呼ばれる戻し税で対応すればよいでしょうね。話題の定額給付金を最も効率良く渡す方法と言えばわかりやすいでしょうか。


長くなりましたが、内需振興のためには先ずデフレを解消することではないでしょうかね。政策金利や為替レート、外貨準備はあくまで後付けの話なのです。為替介入で円安にしようが、または円高にしようが、デフレで血の巡りが悪ければどうにもならないではないですか。

Posted by: N.A. | Sunday, March 01, 2009 10:54 AM

コメントありがとうございます。丁寧にお答えしたいので、長文となりますことをご容赦ください。

SATOさんご指摘のように、車の購入はローンが主流でしたから、端末価格を通信料で回収する旧プラン時代の携帯電話の買い替え消費との相似が見られることは確かです。しかしこれは単純な代替ではありません。

月2万ボーナス月10万で36回払いのローンで、支払総額は120万ほどになりますが、これで買えるのは本体価格80万程度の車ですので、トヨタや日産など国産フルラインメーカーでは判で押したようにボトムのエントリーカーをこの価格帯にしておりました。人生最初の1台はここから始まります。

2台目以降は今乗っている車を下取りして新車購入価格に充当できますから、より上級グレードの車に乗り換えられるわけで、ローンが終わればそうやって買い換えていって「いつかはクラウン」のゴールへ向かうというのが、国産メーカーの国内市場戦略でしたし、それはかなり成功し、80年代後半のバブル期には、国内販売のボリュームゾーンはマーク2クラスまで"成長"させることができたのです。

しかしその次の展開で迷いが生じます。高齢の両親を抱えた3世代同居世代向けのミニバンや、道具を積んでそのままキャンプという趣味性の強いSUVなどが一時的にブームになるものの続かず、その一方で人件費アップや円高で若者のエントリーカーを安値で供給することが難しくなり、今や上記のようなローンを組んでも軽自動車すら手に入らなくなりました。

加えて90年代の経済停滞で若年層の雇用が圧縮され、車どころじゃなくなってしまったわけです。それでも携帯にあれだけ入れ込んでいるんですから、収入と価格の関係性如何では、若者は車を買うようになるはずです。

また一旦ユーザーとしてエントリーすると、周期はともかく買い替えは確実に見込めるわけですから、メーカーとしても若者に車を買ってもらえるかどうかに重大な関心を持たざるを得ないのです。

しかし一方で人件費を削りたいわけですから、売りたい相手の給料を圧縮するという矛盾した行動を取って、結果的に墓穴を掘ったと言えるのではないでしょうか。

一方の高齢者ですが、あれほどいたマーク2ユーザーの後日譚として、上級シフトを狙ってレクサスブランドの国内投入をしたのですが、これが滑って、むしろ高級外車に逸走されてしまったり、子どもの独立で近場の買い物しか車を使わないということで、軽に乗り換えられてしまい、ユーザーに深く食い込んでいたはずのセールスマンを青ざめさせるなどの事態がここ数年起きているのです。やはり高齢者はお金を使いません。

ちなみに現時点で日本より購買力の劣る中国で車を売ろうとすれば、今以上にコストダウンの要請が強まりますから、ますます国内の若者は報われません。中国で売る車は中国人に作ってもらう方が自然です。

N.A.さんの利上げと国内流動性の関係についての疑問ですが、私はむしろ逆の着眼をしております。あれだけ金利を下げて量的緩和で現金ジャブジャブにしておいて、なぜに国内で流動性が高まらないかですが、これは将にケインズの言う流動性のわなです。貨幣を増やしてもお金だけが空回りして流通過程で保蔵され、有効需要の創出に結びつかない事態ということです。ですから、利上げが流動性を高める効果があるのではなく、利下げによる流動性上昇が効果を生まないことが問題なんです。とすれば国内で投資してもろくなリターンは得られないわけですから、過剰流動性が国外へ染み出して、欧米の住宅バブルや消費バブルを生んだとすれば腑に落ちます。

円安円高とインフレデフレの関係ですが、一定の連関は認められるものの、本質的には無関係です。貨幣(money)と流動性(currency)は別物です。流動性はつまるところ人々の選好によって左右されます。単純に貨幣供給量を増やせば流動性が増すわけではありません。

極端な例ですが、いまどき北朝鮮ウォンを喜んで受け取る人はおそらく北朝鮮でも珍しいでしょうし、下落の著しい韓国ウォンも、今なら受け取りに躊躇する人がいると思います。米ドルにしても、グローバルインバランスの解消課程での減価は避けられないところですから、今からドル資産へ投資しようと思う人は少ないでしょう。ただし貿易決済通貨としては、相変わらずドルの使い勝手は良い、つまり取引相手が受け取ってくれる確率が高いわけですから、巷間いわれるドル暴落のようなことは起きないと考えられます。

むしろ利上げは、国内の金融取引の正常化というか、将来収益を期待できるところに、相応の金利をつけて貸し付けることで新産業を興し、逆に利払いもままならないような使命を終えたゾンビ企業の延命を許さないという点で、産業構造の変革を促す効果が大きいといえます。日本ではゾンビほど現金保蔵の度合いが強いので、それを吐き出させることで流動性は結果的に高まることが期待できます。

流動性危機はつまるところ過少消費と貨幣の保蔵に原因があるのであって、それを金融政策で対応すること自体に無理があります。資金の流れを変えるには、財政出動は避けられないところです。

Posted by: 走ルンです | Sunday, March 01, 2009 04:50 PM

> あれだけ金利を下げて量的緩和で現金ジャブジャブにしておいて、なぜに国内で流動性が高まらないかですが、これは将にケインズの言う流動性の罠です。

ケインズの言う流動性の罠だという事については私もそう思います。

実を言えば、現金ジャブジャブは日銀の帳簿の上と、一部の吝嗇家の貸金庫とか庭に埋めた壺の中だけですけど、ま、ベースマネーが多かったのは事実です。

で、それがなぜ流動性の上昇を呼び起こさなかったかですが、これはポール・クルーグマン氏が10年ほど前に指摘した問題です。つまり、一時的減税が効果が薄いのと全く同じで、一時的な金融緩和(あとになればどうせ締めると分かっている=ゼロインフレ以上は許容しないということ)ではデフレからインフレに転じないという現象です。


> 過剰流動性が国外へ染み出して、欧米の住宅バブルや消費バブルを生んだ

ここ数年で日本の経常収支黒字=資本収支赤字が特に増えているわけではありません。また日本円がアメリカに流れていく訳ではなく、あくまでドルに換えてアメリカ人がドルで借りたり使ったりする。だからドルの流動性が高すぎるならFRBが吸収すればよかっただけです。

それに、今回の金融危機の原因は貨幣供給量というより規制のあり方の問題でしょう。往年の日本のバブルだってそうでした。土地政策の失敗とか、特金やらファントラやら、しょうもない制度を放置したのが問題なのであり、金融緩和が特に問題という程ではありません。制度改革とか構造改革を訴える竹中平蔵のような人に限って、なぜバブルだけは貨幣供給量原因説をとるのが不思議でなりません。


> 円安円高とインフレデフレの関係ですが、一定の連関は認められるものの、本質的には無関係です。

実質為替レートで言ってるなら取り敢えずその通りですね。しかしこれだってインフレデフレの期待が織り込まれますから影響されないわけではありません。まして、名目為替レートはインフレデフレに思い切り影響されるのはさすがにおわかりですよね?

これは金本位制の時代や、固定相場制の時代の物価と貨幣供給量の関係を思い起こせばわかりやすいと思います。

円安でデフレとか円高でインフレというのが有る程度の期間は続き得ないことを説明するために、単純化のため小国を仮定しましょう。

小国だから、輸入品も輸出品も世界価格は一定であり、その国が何をしても変化しない。だとすると、為替レートが動くとそれに比例して物価も動かざるを得なくなります。国内価格=為替レートx国際価格ですから。そして物価=輸出品と輸入品そして非貿易財の平均価格ですから、為替レートが動くと最初の二つは直ちに比例して変化します。もちろん非貿易財(サービスの大部分など)は外国の価格に直接影響されませんが、それを国内での生産にも用いるので、割高になると輸出産業は損失を被るし、逆に割安になれば輸出産業は儲かる。また消費者も貿易財と非貿易財への支出を変化させる。こうして、結局はそれなりのバランスにもどることになります。これを為替レートのパススルーと呼ぶわけですが、最終的には為替レートの変化は非貿易財を含めて物価全体に波及します。

裏返して言えば、貨幣供給量が物価に影響すれば、結局為替に跳ね返ってくるのです。


> 貨幣(money)と流動性(currency)は別物です。流動性はつまるところ人々の選好によって左右されます。単純に貨幣供給量を増やせば流動性が増すわけではありません。

ジョン・ヒックスの定義によれば流動性(currency)とは、資産を売り手が思う妥当な金額の貨幣(money)に変換するコスト(これには時間を含めても良い)の逆数です。短期政府証券などはすぐに確実に貨幣になるから高い流動性をもつのに対し、土地は普段はなかなか妥当な値段で買い手が見つからないので流動性は比較的低くなります。もちろん、バブルのような状況ではすぐに良い値段でうれるので流動性は高まることになります。

単純に貨幣供給量を増やせば流動性が増すとは私も思いません。しかし貨幣供給量を増やさずに流動性が増えるとも思いません。人々の選好を変えるには貨幣供給量を増やし流通させるのが最も確実でしょう。つまり、貨幣供給量を増やすことは流動性を増やすための必要十分条件ではないが必要条件ではあるという事です。


> むしろ利上げは、国内の金融取引の正常化というか、将来収益を期待できるところに、相応の金利をつけて貸し付けることで新産業を興し、逆に利払いもままならないような使命を終えたゾンビ企業の延命を許さないという点で、産業構造の変革を促す効果が大きいといえます。日本ではゾンビほど現金保蔵の度合いが強いので、それを吐き出させることで流動性は結果的に高まることが期待できます。

利上げ=金融引き締めを行ったら現金保蔵の度合いが強いところほど有利になります。また悪い意味で保守的な銀行は信用も担保も無い新産業より古くからの信用もあり担保も有る旧産業への貸し付けを行うでしょう。新産業は現金が少ないため利払いもままならないのが普通です。

ゾンビの保蔵する現金を吐き出させるためには日本円を緩やかに減価させていくしかないのですが、これは利上げなんかしたら余計にキャッシュ至上主義を強めるだけでしょう。GDPギャップが拡がる一方だからです。ゾンビ粛清のために全てを傷つけていくのなら、犠牲があまりにも大きすぎます。


> 流動性危機はつまるところ過少消費と貨幣の保蔵に原因があるのであって、それを金融政策で対応すること自体に無理があります。資金の流れを変えるには、財政出動は避けられないところです。

繰り返しになりますが、「いま」利上げを行えば家計の消費性向はますます下がり企業の貯蓄性向はますます上がります。新井白石が行った正徳の改鋳は、前任者の荻原近江守重秀が行った元禄の改鋳により起きた悪性インフレで育った貧富の差が維持されたまま不況を長続きさせた(『ゾンビ』ほど生き延びさせたという事です)と言われますが、これと同じことになりかねません。

以上のような状況を前にしては、走ルンですさんがおっしゃるように金融政策「だけ」で対応しても無理ですし、また、財政出動「だけ」で対応しても1990年代後半の財政出動と同じく無理でしょう。

ゾンビを退治し新産業を興す一石二鳥を期待するならば、GDPギャップを埋める為の金融緩和+資金の流れを変える為の財政出動の組み合わせであると考えます。

……………………………………………………

先述の流動性の罠に関するポール・クルーグマン氏(山形浩生氏訳)の文章はこちらです。http://cruel.org/krugman/japtrapj.html
http://cruel.org/krugman/liquid-j.html
http://cruel.org/krugman/japtrap2j.html
http://cruel.org/krugman/krugback.pdf

Posted by: N.A. | Tuesday, March 03, 2009 09:26 AM

再度のコメントありがとうございます。N.A.さんとはどうやらデフレに関する認識の違いがあるようですね。

90年代から続く連続的な(に見える)消費者物価の下落傾向ですが、実質ベースでマイナス成長となったのは、うろ覚えで恐縮ですが、金融危機の98年だけで、基本的に実質ベースでの経済成長は続いていたんですから、これをマクロ経済現象としてのデフレと呼ぶべきかどうかには異論があります。

その辺はまた長くなりますので呑み込んで、なぜベースマネーの増加がインフレにならなかったかについてですが、ケインズの「一般理論」で非自発的失業が社会的に存在する不完全雇用に関して論考しており、貨幣の増加がインフレになるかどうかを分けるのは、完全雇用かどうかであることを指摘しております。つまり人件費の上昇がインフレをもたらすということです。

実際バブル崩壊後の90年代の日本では、中高年リストラや新卒の就職氷河期で事実上完全雇用状態が失われたわけですから、世上デフレが喧伝される時期と一定の相関があります。つまり人件費が圧縮される課程で、いくらベースマネーを増やしても、インフレは起きないわけです。

とはいえそれだけでは連続的な物価下落を説明できません。おそらく原因はミクロ的な複合要因だろうと思います。考えられるのは、グローバル化の進捗に伴なう内外価格差の解消課程で、相対的に高かった国内物価が国際価格へ収斂されたということです。

加えて緩和的な金融政策が採られたことと、銀行への公的資金注入など一連の金融危機対応策が、淘汰されるべき企業をゾンビ化させて過当競争のダンピングが起こったということでしょう。つまりマクロ的問題というよりは、ミクロの躓きの石の影響というわけで、この観点からゾンビ退治こそが世上言われる「デフレ」対策と考えております。具体的には規制改革や企業統治のオープン化、国内市場の開放度を高めるなどです。ただし即効性は期待できませんが。

それとさすがに私も「いま」直ちに利上げを言うつもりはありません。事実として流動性が損なわれている状況に対しては、中央銀行の果敢な行動は必要ですし、現在のところそれは可能な範囲で果たされているともいえます。

しかしまぁ、そんな現場の苦労も、国際会議での中川大臣の醜態でガタガタ。以後の日本売り(円安、株安、債券安)を招くんですからたまりません。一説によれば捨て身の為替介入だとか(木亥火暴)。

Posted by: 走ルンです | Tuesday, March 03, 2009 08:40 PM

>日本全体にマナーの強化が必要、そう「教育」予算が一番大事です。

文科省に騙されてません?
予算を増やしても教育はよくなりませんよ。文科省は利権欲しさに子供をダシにしているだけです。

昔の日本は貧しく教育予算も少なかったけど、いまよりずっとマナーはよかったですね。

Posted by: yuko | Friday, March 20, 2009 04:25 AM

yukoさんからコメントいただきましたが、SATOさんのコメントに対する突っ込みですし、元のエントリーの内容とも関係ないものですから、私では対応できませんし、またSATOさんにしても、他人のサイトでバトルというわけにもいきませんから、対応できないものと思います。

というわけで、yukoさんへイエローです。意味のない取っ組みはしないでください。コミュニケーションが成り立ちません。

今回はケーススタディとしてそのまま残しますが、同じような書き込みが繰り返されるならば、管理者としてspamと見なして予告なしに削除する場合がありますので、悪しからずご了承ください。

yukoさんが教育問題に一家言あるのかもしれませんが、ここはそれを表明するにふさわしい場所ではないということをご理解ください。

Posted by: 走ルンです | Sunday, March 22, 2009 10:06 AM

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