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Thursday, April 09, 2009

JR東日本仙石線でATACS導入決定

経済危機と高速道路1,000円乗り放題の影響で業績見通しを下げているJR各社ですが、明るいニュースです。

JR東日本、無線による列車制御システム(ATACS)の実用化計画を発表
ATACSに関しましては以前にも記事にしましたが、仙石線あおば通~東塩釜間で2011年春に実用化されます。一応同線同区間では以前から試験は行われていたのですが、一歩を踏み出すこととなりました。JR東日本からの公式発表はこちらです。
無線による列車制御システム(ATACS)の実用化について
重複しますが、ザックリ解説しますと、従来左右のレールを車輪で短絡することで列車の在線を検知し、信号を切り替えたりポイントなどの進路選定の連動関係を取るいわゆる閉そくと呼ばれるシステムを、GPSを利用したデジタル無線通信により、列車間隔や進路選定などをソフト的に制御するもので、従来のATS,ATC,CTC,ATOSなどの運行管理システムを一元的に制御するシステムです。

鉄道の保安装置の基礎となる閉そくですが、前の記事でも指摘したように、メンテナンスが厄介な上に、応答性にも弱点があり、列車間隔を詰めようとすれば先行列車の影響を受けるので、必然的に渋滞が起こり、ラッシュ時の速度低下は日常的に見られるとおりです。また列車間隔を詰めるために固定閉そく長を短くしようとすれば、動力用電力の帰線に使われるレールに脈流である信号電流の絶縁セクションを設けるため、インピーダンスポンドと呼ばれる特殊なコンデンサを用いますが、鉄道信号でしか使われない専用品で高価な上、風雨にさらされ経年劣化もありますので、コスト面で不利なものでもあります。

また高密度輸送を支える保安装置自体も高度化、複雑化の一途を辿り、その分トラブルが起きやすい環境になっているとも言えます。つい先日こんなニュースもありました。

朝の千代田線立ち往生 信号故障で一時7万8000人に影響
原因は、通常は自動制御されるATCを訓練のため手動に切り替えていたときに、係員の誤操作をシステムが異常と認識して停止信号を出したものだったわけで、典型的なヒューマンエラーで、誤操作で停止はシステムが正常な証しですから、安全性に疑義はないのですが、複雑さ故に不具合の発見も簡単ではないわけです。それに比べるとATACSのシステム構成はシンプルです。

あと今の時期にJR東日本がATACSの実用化に舵を切った理由ですが、こんなニュースを見ると見えてきます。

国際鉄道連合に初の日本人会長 JR東の石田氏が就任
JR東日本が鉄道関連の国際機関トップを出したタイミングですので、ひょっとするとJR東日本はATACSで世界標準を取りに行くつもりかもしれません。これ結構重要です。例えば台湾高速鉄道でのドタバタやICカード乗車券でFERICAシステムがISO認証を受けていないことに対する欧州からのクレームなど、日本が誇る鉄道システムも標準化の面で立ち遅れていたことは否めないところですが、まぁつい最近まで日本を代表する産業と目されていた自動車や電機でもそうだったんで、JR東日本がそのことに気づいて標準化に動いたとすれば、日本発の脱ガラパゴス戦略として注目されるところです。

とはいえATACSのようないわゆる移動閉そく(クロージング・イン)システムは、旧国鉄でも混雑激しい中央線への導入を計画していたぐらいで、アイデアは古くからあるにも係わらず、実現できていないように、かなり難易度の高い技術開発ではあります。旧国鉄時代の電気通信技術では、おそらく電算車1両増結して専用の信号線と常時接触などが必要だったかもしれません。当時中央快速線の最混雑時間帯の混雑率は300%超と言われ、東中野東方の神田川橋梁上で混雑でドアが破損し乗客が落下するという事故まで起きており、高加速のモハ90系(後の101系)とクロージング・インで1分間隔運転を実現することが大真面目に検討されておりました。実際は変電所要量不足で計画が頓挫したのは、以前の記事でも指摘いたしました。その意味ではデジタルIT技術の進化が、やっと積年の夢の実現を可能にしたということはできそうですが、課題もまたさまざまあります。安全に係わるだけに、システムとして破綻しないことが求められます。その難易度はおそらくリニアやテポドンにも引けを取らないでしょう。利用価値ははるかに高いですが(笑)。

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Comments

ここは、素直に東日本旅客鉄道株式会社を祝福します。

Posted by: とまと | Saturday, April 11, 2009 at 11:12 PM

とりあえず仙石線で先行投入ですが、首都圏へ波及するのがいつになるかも見ておく必要がありますけどね。

Posted by: 走ルンです | Monday, April 13, 2009 at 09:24 PM

鉄道システムの構成要素の根幹を占める
「閉塞」の概念が無くなるなんて、
国鉄時代に鉄道趣味の知識を植えつけられた世代
にとっては驚天動地の出来事です…。

走ルンです様ご指摘の通り、世界の鉄道システム
変革の先導役を日本が担えるかどうか、注目ですね。

Posted by: KUMA | Thursday, April 16, 2009 at 04:33 PM

コメントありがとうございます。

ホント閉そくがなくなるってのは驚きですが、ネットではあまり話題になっていないようです。こういった保安装置まで対象とするディープなマニアは、昨今の鉄道ブームの中でも少数派かもしれませんね。

厳密には移動閉そくですから、地上設備で固定された閉そくが、GPSを軸に先行列車との関係を連続的にリアルタイムに定義するわけですから、物理的区分がバーチャルになるということですね。

人口の多いアジアの都市鉄道整備において、威力を発揮しそうです。

Posted by: 走ルンです | Saturday, April 18, 2009 at 10:11 PM

新幹線や東京圏のJR線で導入が進むデジタルATCも、実は「先行列車の位置」の代わりとして「先行列車が存在する軌道回路の境界」を用いるという形になっているので、古典的な「閉そく」という概念からは1歩抜け出しているんですよね。
その証拠としてD-ATCは「車内信号閉そく式」とは言わないし、軌道上に閉そく境界を示す標識も存在しません。
# 俗に「ATC方式」などと呼ぶようですね

しかしながら、デジタルATCとて軌道回路の呪縛から離れることはできなかったわけで、ATACSの導入で軌道回路から解き放たれるのは百年来の革命と呼ぶにふさわしい出来事だと思います。

Posted by: FT | Thursday, April 23, 2009 at 03:42 AM

コメントありがとうございます。

確かにデジタルATCでは閉そくの概念があいまいですね。軌道回路を最短数十メートルまで刻んで先行列車の位置情報を細かく捕捉する仕組みです。

閉そく信号を用いるATS-Pでも、地上に多数設置するトランスポンダで先行列車の位置情報を捕捉して、注意などの速度制限信号に拘束されないなど、技術の方向性としては、クロージングインに近づこうとしていたとはいえそうですね。

Posted by: 走ルンです | Thursday, April 23, 2009 at 10:27 PM

メーカで、鉄道の情報システムに携わる者の意見です。

残念ながら、ATACSが世界標準になったとしても、日本の鉄道のガラパゴス状態は解消されないでしょう。むしろ、一層ガラパゴス状態が強くなると思われます。

その理由は、日本の鉄道会社の実力は世界屈指かもしれませんが、日本の鉄道関連メーカや商社に、到底、世界で戦い抜けるだけの実力がないからです。

車両の輸出ではそれなりの成果を上げているのかもしれませんが、それ以外の分野は今ひとつで、特に情報通信関連の技術に至っては、日本企業の国際競争力はほとんどゼロです。

そもそも日本にはメーカが多すぎます。

Posted by: メーカの中の人 | Saturday, April 25, 2009 at 02:39 AM

貴重な重いご意見ありがとうございます。

メーカーが多すぎるのは、自動車や電機など日本の製造業全般に言えますね。無駄に競い合って価格競争で消耗戦を闘っているようにしか見えません。

ただ鉄道車両メーカーの活性化には、JR東日本の積極的な車両政策に助けられたところがあります。元々は国鉄の下請けに過ぎなかった車両メーカーに対して、構造設計から仕様設計に切り替えてメーカーの自主性を引き出したことが効いていると思います。

情報通信関連は確かに企業規模からいっても厳しいところはあろうかと思いますが、JR東日本が世界標準を取れるならば、日本メーカーにとってはチャンスです。

もちろん世界で売り込むためには、それだけでは足りないかもしれません。いずれJR自ら海外の鉄道事業に出資するなど、リスクテイクが必要かもしれませんね。

Posted by: 走ルンです | Saturday, April 25, 2009 at 11:41 PM

はじめまして。いつも拝見しております。

ひとつ気になったのですが、
>GPSを利用したデジタル無線通信・・・
列車位置の検知は車軸の回転数によるものですよね?
GPSは関係ないと思うんですけど?

ATACSって、画期的なシステムだと思うんですけど
それだけに実用化後の初期トラブルが心配です。
ATOSやDS-ATCの二の舞にならなければいいんですが。

Posted by: yamanotesen | Monday, May 04, 2009 at 04:39 PM

コメントありがとうございます。

位置検知そのものは、仰るように地上子と速度計で行うんですが、それを常時デジタル無線で地上へ伝送され、GPS情報と照合されて共有されます。その情報に沿って地上側は信号制御や進路選定を行い、車上側は進路の状況に応じて速度照査パターンを生成し、列車を制御するものです。つまり位置情報をデータベース化して地上車上それぞれを自律分散で管理するもので、この辺がシステムの肝の部分です。

実現すれば画期的ですが、初期故障の問題は確かにあります。その意味で他線と直通運転が無く、独立性が強い上に、首都圏にも引けをとらない高頻度運行路線という意味で、導入線区に選ばれたのでしょう。

Posted by: 走ルンです | Monday, May 04, 2009 at 10:25 PM

はじめまして。

ATACSは、地上にあるデジタル無線通信設備と車上にあるデジタル無線との間を直接通信して、列車や連動装置・踏切を制御しているシステムです。管理人様は、ATACSにはGPSが関係していると思われていらっしゃるようですけど、yamanotesen様がおっしゃっているとおりGPSは関係ないんです。多分、JR北海道が開発中のGPSを用いた保安装置と混同しているのではないかと思います。

ちなみに
http://www.soumu.go.jp/main_content/000070069.pdf
によると、首都圏は2013年度~2018年度にかけて埼京線への導入が第一号となって、以降18年間かけて首都圏へ展開する事になっているようです。

Posted by: ユーブ | Monday, October 11, 2010 at 05:39 PM

ご指摘ありがとうございます。GPS利用は私の早とちりだったようで*^_^*。

軌道回路や地上子などの物理的実態を伴わない無線通信で列車の位置情報を正確に把握できて、且つ鉄道の保安装置に必須のフェイルセイフシステムとするという大枠から、GPS座標の活用を信じて疑わなかったんですが、もう少し丁寧に情報集めしなきゃいけませんね。

感謝、感謝です。

Posted by: 走ルンです | Monday, October 11, 2010 at 08:42 PM

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