KANSAIスルッと箱根越え
先月25日ですから、ニュースとしてはやや旧聞に属しますが、ニュースバリューありと判断し、遅まきながら記事を起こします。
西武と小田急、関西の私鉄と資材共同購入 4月から西武鉄道、小田急電鉄、箱根登山鉄道の3社がスルッとKANSAI協議会と鉄道事業関係の資材調達の共同化を決め、4月から実施されます。しかも関東3社の取引先も共同購入の斡旋がされるということで、相互性のある提携関係というところがポイントです。スルッとKANSAI協議会のリリース(PDF)(西武、小田急、箱根登山鉄道と連名)もご参照ください。
というわけで、かなり評価の難しいニュースです。というのも、JR東日本のSuicaが提携先を順調に増やしているのに対し、ローカルカード化が心配されるPASMOという構図が隠れているからです。PASMOは元々寄り合い所帯で加盟社局間の連携が不十分という点に関し、当ブログでも度々指摘してまいりました。一例はPASMO品切れやバスで取りすぎなどの記事で述べているとおりなんですが、そもそも何のためのICカード乗車券だったのかがはっきりしない中で、サーバをSuicaに依存し、提携ハウスカードで乗客を囲い込むことには熱心でも、システムとしての全体最適は置き去りにされている状況で、加盟予定社局の足並みが揃わない中でのこのニュースですから、つい深読みしたくなるというものです。
元々乗車券カードの共通化に関しては、JR西日本の攻勢にさらされていた関西私鉄各社の取組みが早かったのですが、カードの共通化に留まらず、今回関東3社が加わる資材の共同購入などにも守備範囲を広げ、調達コストを約2割削減するなど成果をあげております。おそらく今回参加した関東3社も、PASMOで同様の取組みが行われていれば、違った対応をしていた可能性がありますが、元々寄せ集め感の強いPASMO参加社局間で足並みが揃うのを待てなかったということなんだろうと思います。特に名義株問題で堤前会長が刑事訴追を受け、東証の内規により上場廃止されて経営再建中の西武鉄道には切実でしょうし、また複々線化の進捗に伴ない減価償却負担が重い小田急電鉄、箱根観光の空洞化に苦しむ箱根登山鉄道ではなおさらでしょう。
ただしPASMOに関しても、Suicaの提携範囲を拡大するJR東日本の前に、PASMOが関東限定のローカルカードになるという危機感はあるようですが、一方で過大な初期投資を要求される中小事業者にとっては、加盟のハードルが高まるエリア拡大には慎重姿勢が強く、加盟社局間の意思統一には至っていない状況です。そんな状況でとてもじゃないけど守備範囲拡大となる資材の共同購入なんて話が割り込む余地はないということですね。
一方で加盟社局間の絆が強いスルッとKANSAIですが、ICカード乗車券のPiTaPaに関してはポストペイというクセ球を投げてきております。いわば少額決済用の簡易クレジットカードとなるわけで、いちいちチャージが必要ない上に、記名式でポイントサービスを充実させやすいなどの特長があります。ゆえに発行に手間がかかる分発行枚数は少ないものの、サービスの充実ぶりは大したもので、回数券や定期券制度まで取り込んでおり、関西エリアのみならず、静岡地区(静岡鉄道)や岡山地区(岡山電気軌道)でも使える上、さらにエリア拡大を狙っているということで、加盟社局間の足並みも揃っており、いずれ首都圏にも攻めてきそうです^_^;。となるとPASMO陣営で個別にPiTaPa導入なんてことも視野に入っているかもしれません。
というわけで、これゲームの理論でよく用いられる囚人のジレンマを連想させます。共犯関係にある犯人同士を隔離して別々に取り調べ、証言すれば刑を免除すると持ちかけると、結局囚人同士全てを証言して揃って刑に服することになるわけですが、最適解は共に完全黙秘して証拠不十分で放免されるシナリオです。いわゆる協力ゲームとすることで利益が最大化するという昨今の行動経済学の基本的なスタンスですが、100年に1度の経済危機に、漢字が読めない首相と秘書逮捕で選挙の票が読めなくなった野党党首の足の引っ張り合いを見るにつけ、ちょっと考えさせるニュースです。
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Comments
いつも貴重なお話しありがとうございます。
ICカードのことについては前払いより後払いのほうが
よいと思いました。
あと商売のお話しで大阪で成功すると東京で成功する。
しかし東京で成功しても大阪で成功するとは限らない。
というのはこのスルッとKANSAIのお話しで証明されたと感じました。
くれぐれもご自愛ください。
では、失礼いたします。
とまと
Posted by: とまと | Sunday, April 12, 2009 11:24 PM
プリペイドとポストペイは一長一短あります。
プリペイド式では、チャージ額の1/2の引当金を積んでおけば、基本的に使途自由な現金が手に入るわけですから、発行会社にとっては魅力です。利用者にとっても、チャージ分しか使えないわけですから、お財布代わりに使えるということと、紛失の際にチャージ額の範囲のリスク負担で済むこと、無記名式ならば複数枚保有して使い分けることも可能などの手軽さがあります。
一方のポストペイは、基本的に発行会社の立替払いになり、信用度に応じた引当金を積むなどで、資金繰りを窮屈にしますが、記名式で利用を誘発するポイント付与などの個別マーケティングが容易な分、カード保有者の利用度が高まるわけです。いわばヘビーユーザー向けなんですね。
PiTaPaでもJR西のICOCAエリアで利用する場合はチャージが必要で、実際はハイブリッド型なんですが、首都圏の事業者でも、自社線限定でポストペイにするなどの応用編は考えられます。問題はPASMO陣営でそこまでの問題意識が見られない点です。
Posted by: 走ルンです | Monday, April 13, 2009 09:44 PM
オートチャージって実質ポストペイにならないでしょうか。
確かにチャージ分しか使えませんが、3000円までは自動チャージで一日3回までOKだったでしょうか。
昨年はかなり使って月額2万なんて請求書が来た月もあったほどです。
これも貸し倒れてしまったら怖いというので私はポストペイにかなり近いと思います。解釈が異なっていたらスイマセン。
最近、関西に出張でよく出かけるのですが、どうしてもpitapaを買う気にはなれない。それが「年1回使わないと年会費を取る」というあれです。これが引っかかっているということはないでしょうか(ないでしょうね 笑)
あとイコカの凄いところはクレジットカードでチャージができるというので凄腕はanaカードでチャージしてマイルを貯めるなどということをしています。いやはや。
一方の東京はsuicaのメリットをpasmoがどうしても越えることができず、繰り返し乗車でポイントがたまるくらいの差ならオートチャージ3倍のsuicaに軍配が上がるような気がします。
東京はそうそうにSFカードはやめたにも関わらず名古屋や関西は未だ健在、この差は何なんでしょうね。スルット関西こそ名古屋のパノカを共通化するなどで合理化図ればと思うのですが。
Posted by: SATO | Tuesday, April 14, 2009 11:38 PM
オートチャージは確かにポイント加算もありますし、ASAカードでマイルをためる裏技などもありますが、PiTaPaの凄いところは、区間指定割引というのがあるんです。
ユーザーがあらかじめ指定した区間に関する請求額が、1箇月定期代を上限とするというもので、更に11回で10回分の請求など、事前購入でしか受けられない定期券、回数券と同等の割引が後払いで受けられる点です。
サラリーマンですと、毎月会社から支給される定期代が手元資金になるわけです。ですからオートチャージのポイント3倍どころじゃないわけです。
もちろんSuicaやPASMOの定期券代をクレジット払いにすれば同じだろというツッコミはあり得ますが、突然勤め先を解雇された場合の払い戻しが不要です。つまり払い戻し手数料がかからない(苦笑)。
ですから発行会社としては、ユーザーに信用供与をする分コストがかかるわけですから、使ってもらう事を前提にせざるを得ないわけで、クレジットカードと同じですね。
そういう意味で、首都圏で使えるようになれば、PiTaPaは欲しいカードではあります。この辺願望も混ざってますが^_^;。
Posted by: 走ルンです | Wednesday, April 15, 2009 09:45 PM
小田急電鉄はJR東海とくむ方がメリットがあるような気がするのですが。
Posted by: Piichan | Tuesday, May 05, 2009 10:58 PM
えーと、正直言って迷いましたが、外交辞令的なコメントを返したところで、想いは伝わらないと思いますので、はっきり申しあげます。
気がするのはなぜか、あるいはどんな分野で組めばメリットがあるかという具体論があれば、少しは人の興味を引くコメントになるでしょうけど、「気がする」だけでは「へぇ~」と返すぐらいしかできません。
ちなみに私自身は、単独行動主義が目立つJR東海と組んで得られるメリットは思いつきません。むしろあさぎり号の長期低落傾向に見られるように、他社とのコラボレーションがよほど下手だと考えております。
Posted by: 走ルンです | Thursday, May 07, 2009 08:45 PM