外環道三すくみ、虚妄の民営化
道路ネタが続きますがご容赦を。整備計画の凍結が解除され、着工が決まった東京外郭環状道路(外環道)大泉JCT―世田谷間ですが、事業者選定を巡って椿事が起きています。
外環道事業主体に首都高も名乗り 未着工区間、三つどもえ戦に元々東日本と中日本の2社は、以前から事業着手に意欲を示していたのですが、そこへ首都高速道路会社が名乗りをあげ、事業者選定が頓挫してしまいました。
背景は今年度末に開業する中央環状線新宿―大橋間の工事終了後の技術系社員600人の処遇問題があるようです。いわばリストラ回避のために新規事業への参入を模索した結果ですから、それ自体は責められるものではありません。
問題は、東日本や中日本ならば既存の高速道路網と一体的に運営できるということで、国交省で両者の表明しか予想しておらず、国交省としては中央道JCTを境に両社に分担させるいわば談合シナリオを描いていたところに、首都高の表明があって、予定が狂ったということにあります。
ややこしいのは、東日本と中日本は、いずれも国100%出資であるのに対して、首都高は都が26%を出資するために、事業者選定に当たって都の意向が無視できないという点です。まるでとなりのメトロの道路版のような話ですが、ちょっと違うのは、メトロが株式上場を控えていて、都の保有株式の扱いが、上場の阻害要因になっているのに対し、外環道は、道路公団民営化でドサクサ紛れに実現した高速道路整備への税金の拠出によって、1兆2,820億円の事業費のうち、道路会社の負担可能額を除いた部分を国と都が分担する仕組みになっており、都の意向が過剰に働く可能性が高いという点です。
元々道路公団民営化では、新規整備は基本的に凍結されることとされ、整備にあたっては道路会社の意向が尊重される仕組みだったのが、上記の財政資金投入によって骨抜きとなったものです。これも元々は小泉政権時代の歳出削減方針によって、2007年度以降道路財源に余剰が出ることが確定したことから、ずっと積み残されていた宿題を、高速道路整備の抜け穴に利用された結果です。
そして国交省が元々東日本と中日本の談合決着を考えていたように、参入希望が増えたからといって、それが即競争によるコストダウンにつながっていないことが、問題をややこしくしています。というのも、国交省が3社に実施したヒアリングで、負担可能額は3社横並びの2,500億円ということで、国交省が想定したように、既存高速道ネットワークとの一体運営に利があるならば、差がつかないはずがないんで、事前の情報漏えいも疑われます。
というわけで、国鉄改革では明確に財産分割がされて、整備新幹線に関しても、並行在来線を保有する旅客会社が事業主体となるように新幹線整備法が読み替えられたのと違って、元々凍結解除時の事業者選定がルール化されていなかったために、事業者選定が頓挫することになったわけです。後先考えずに利権漁りした結果ですね。
そんなことしてる間に、政権交代が起きて、民主党が暫定予算14兆円の執行停止を睨んだ精査を打ち出しておりますから、おそらく引っかかって再凍結となる可能性が高いと考えられます。あるいはそれを嫌って国交省が都の意向を汲んだ政治決着で首都高へ落札し、予算執行を強行する焦土作戦に出る可能性もありますが、その場合、住民説明会が紛糾する可能性もあり、選挙前の予算執行は限りなく可能性0%と考えられます。
一方で、元々基本計画線だった外環道練馬―世田谷間を着工するためには整備計画への昇格が必要だったのに、整備計画線ながら凍結され、今回解除されなかった第二名神の扱いを巡って、例の名物知事は納まらないでしょう。
「新名神、凍結解除に合理性」橋下知事強調確かに外環道の整備計画線昇格によって、債務の総額は増えるわけで、また国幹会議に提出された資料で費用便益比で外環道と第二名神の未着工区間はほぼ同等とされており、法律家らしい切り込み方です。
というわけで、不透明極まりない意思決定ですが、それもこれも、道路公団民営化がいかにインチキだったかということです。
あと良い機会ですから、民主党の高速道路無料化に関しても見解を述べておきます。民主党の主張の肝は、40兆円を超える高速道路債務の償還方法に関する提案として、財政支出で賄い料金収入によらないことを謳ったものです。現状では各道路会社が収受する料金収入から、保守費や人件費を除いた部分を(独法)高速道路保有機構がリース料として徴収し償還に充てる仕組みですが、保有機構はリース料を裏づけに機関債を発行して資金をファイナンスしているわけです。政府機関ですから、暗黙の政府保証ありと見なされはしますが、政府発行の国債よりは信用度が下がりますから、その分のリスクプレミアムが金利に上乗せされますので、それだったらそれを国債に置き換えて償還した方が、金利負担が下がるから、結果的に国民負担が減るということです。
加えて特に利用度の低い過疎地の路線で道路通行料を無料にすることで、遊休施設の有効活用を図りながら物流費が削減され、企業収益の向上や物価下落による家計消費の拡大が望めるので、税収増を通じて償還財源の手当もされるということになるわけですが、うまくいくかどうかは必ずしも明快ではありません。
ただし今回のマニフェストでは「地方から段階的に無料化」の文言が盛り込まれており、政権交代即全面無料化ではないということで、おそらく料金収入の少ない地方の路線から徐々に実施することになると考えられます。その場合でも、不採算路線が道路会社から切り離されるわけですから、道路会社の収支は改善されます。それを原資に繰り上げ償還や料金引き下げが可能となり、そのルートでも国民負担は減ることになります。問題はその超過利潤を道路会社が内部留保したり随意契約などでファミリー企業に所得移転したりすれば表へ出ないわけで、このような利益隠しを許さない監視体制を取れるかどうか、民主党の政権運営に高いハードルを課します。
といように、メディアはマニフェスト選挙で字面を追い、政党間で中傷合戦の様相となっておりますが、マニフェストは行間も読まなきゃなりません。思えば前回2005年の総選挙でも、郵政民営化は約束されたものの、円安誘導で国民窮乏化による企業を支援とは約束されておりませんし、日銀への圧力で低金利を続けますとも言っておりません。
ま、これは日銀法違反に当たりますから明言できませんが、その結果米国内消費バブルをもたらし、外需でも米国向け輸出に過剰に依存した結果、リーマンショックで一気にクラッシュしたわけですから、「百年に1度の経済危機」と他人事では済まされません。対外収支不均衡や円キャリートレードの肥大化は、巻き戻しが起これば経済に多大なダメージを蒙ることは以前から警告されていたにも拘らず、回避策は一切取られなかったわけですから、不作為責任を問われる事態でもあります。
あとよく言われる財源問題ですが、財源の目途もないままに北海道新幹線札幌―長万部間の着工が決まったものの、着手できない体たらくをどう評価すべきでしょうか。
という具合にマニフェストに書かれて実行されたことされなかったこと以外に、書かれなかったけど実行されたことと実行されなかったことも、併せて評価の対象となるわけで、ゆとり世代記者も現場デビューしている現在のメディアに果たしてその力量があるかも試されているのです。外環道を巡る報道でも、日経新聞でさえ政権交代で無料化されれば外環道も白紙という内容の報道をしておりますが、正確には補正予算の執行見直し過程で凍結の可能性はあるものの、無料化とは別の話です。メトロと都営の経営統合というガセネタを流したTBSや、岐阜県庁の裏金問題で嘘の証言を流したNTVなど、アカンタレやってる場合じゃないぞ。
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Comments
この話。首都高の鼻息荒くとも結局は旧のJH系に落ち着くと思います。
その昔鉄道連隊の入札を京成となぜか西武で争ったとか聞きましたが
結果は京成、そりゃ地の利ですよ。そう考えると西武というのは
孤立の多摩川線(是政線)を呼び寄せたのですから飛び地に関しての
免疫がないのでしょうか?
話は飛びましたが首都高はJCTを持っていないので今件はカヤの外の決着でしょうし
仮に首都高に落ちたら異議申し立てが出そうな気がします。
首都高は余剰人員の問題が原因でしたら降りる代わりに転籍を要求するとか
民営化なんですからJR九州のように機関士が庖丁持つこと(小倉のヤキトリ屋に転職)も恐れてはいけない。
と政治色ぷんぷんですが、結果は意外に常識路線で収まるとは
思います。
Posted by: SATO | Sunday, August 02, 2009 08:17 PM
いえいえ、その常識が通用しない知事と副知事のコンビが都政トップだってことを忘れちゃいけません。国にけんか売るなんざ何とも思ってませんから、都の意向が強く出れば、どう転ぶかわかりません。
にしても3社揃って負担額の自己申告が同額というのが笑わせるんで、競争になっていないし、かといって3分割整備はさすがにばかばかしいし、国交省は頭抱えてるでしょう。
ただでさえ政権交代が現実的な中、ビミョーな時期にビミョーな問題が起きたんですから、簡単には解決しないと考えられます。どうする国交省(笑)。
Posted by: 走ルンです | Sunday, August 02, 2009 11:45 PM