地震で盛土崩落の東名高速、意外と脆かった物流インフラ
道路ネタ連発で"道路的部落"と化している当ブログですが^_^;ご容赦ください。まずはメディアチェックです。
静岡で震度6弱、6人の負傷者確認地震が早朝だったこともあり、地震そのものによる直接被害は少なかったようですが、交通への影響が次第に明らかになります。
東海道新幹線が運転見合わせ 東名高速も一部通行止め新幹線は営業時間前でもあり、ユレダスが作動してき電停止されてますから、マニュアルどおり目視安全点検後再開となり、始発から2時間後の午前8時に運転再開したわけですが、東名高速の方は実は深刻な事態でした。
東名高速「きょう、明日の復旧は難しい」 国交相お盆の帰省シーズンであり、週末限定のETC割引を特例で13,14両日にも実施することが決まっていたことから、当然それに復旧を間に合わせようということになりました。
東名高速、13日にも通行止め解除 駿河湾震源の地震しかし被害は予想以上に大きく、復旧はずれ込みました。
東名復旧、13日午後以降にずれ込み 被害予想より大きくしかし更にずれ込み、復旧を上下線で分離することで当座を凌ぎました。
東名高速下り線、全面開通 上り線も一部通行止め解除とりあえず下り線は開通し、それを知らずに中央道へ迂回した車も多数あったことから、スムーズな再開とはなりましたが、上り線の復旧はずれ込み、「行きは良い良い帰りは怖い」状態は続きます。
東名全面開通「15日中」驚いたのは高速道路の盛土の脆弱さです。特に整備時期が古い東名、名神などでは、耐震強度などはほとんど意識されず、事後的な補強もほとんど行われていなかったし、今回の崩落地点も、復旧工事で搬入した重機の足場が崩れるという形で、予想外の結果となったわけです。それと比べると東名高速より古い東海道新幹線では盛土の崩落はなく、マニュアルどおりに復旧できたことが際立ちます。この差はどこから来たのでしょうか。
結論から言えば、減価償却がされていたか、いなかったかの差ということができます。鉄道事業は営利事業である前提で、事業用固定資産の保全による事業の継続性が求められ、東海道新幹線が開業した1964年から国鉄でも、民間並みに資産の減価償却が行われるようになりました。減価償却はちょっとわかりにくいのですが、企業が事業用資産を取得して操業を続けることで、機械などの現物資産ならば経年で劣化して資産価値を減じることになるのを、会計上一定のルールの下に取得価格の一部を費用化して利益から控除する仕組みです。言い換えれば利益の一部を無税で積み立てて内部留保資金とすることになるわけで、現物資産を部分的に現金資産に交換するという表現がわかりやすいかもしれません。
ルールに従って現金化された資産は、基本的に使途自由ですが、通常は事業の継続性を保証するために、老朽設備の大修繕や交換などに充てます。鉄道のように投資規模の大きい場合は、投資資金の多くが借入金で調達されますから、割賦払いの原資として使うこともできます。また災害復旧の費用に充てることもできます。これらの場合その分会社全体では資産は目減りするわけですから、減価償却で得たキャッシュフローをどのように配分するかは、経営上重要な意思決定といえます。
その辺を踏まえれば、地震の被害が経営に重大な影響を及ぼすことが容易に理解される新幹線では、路盤の補強やP波を検知して本震前にき電を停止するユレダスの設置などの対策が取られたことは当然のことといえます。そのように仕向ける仕組みができていたわけです。
一方の高速道路ですが、道路公団の事業として民間の会計基準によらない特殊な基準で対応されておりました。特に通行料は諸経費を控除後に整備費用の債務償還に回さなければならないわけですから、見かけ上の利益を圧迫する減価償却の仕組みを取り入れることは強い抵抗があったわけです。加えて1996年に東京都日野市が、市域を通過する中央自動車道への固定資産税課税を打ち出したように、高速道路自体が法的にあいまいな位置づけにあることが影響しております。この問題に関しては面白いレポートがネット上で公開されておりますのでご参照ください。
日野市の高速道路課税について地方分権も重要なテーマですが、ここではこれ以上立ち入りません。それよりも高速道路が料金プール製の下で永久有料化が決まった1995年の決定を受けて、地方自治体からこのような提案がされたことが重要です。
~なぜ政策イノベーションは失敗したか~(pdf)
実は高速道路の料金制を維持することの制度上のリスクが明らかになったわけで、だからこそ道路公団民営化が検討されたときにも、道路会社の直接保有ではなく、JR発足時の新幹線保有機構に倣って(独法)高速道路保有・債務返済機構が保有し、道路会社にリースする仕組みとされたのです。道路公団民営化が、いかに矛盾を糊塗するものであったかということです。
ちなみに新幹線鉄道保有機構は1987年にJR各社と共に発足し、国鉄長期債務の一部を引き継いでJR東・海・西各社のリース料で償還する仕組みだったのですが、JR東日本の上場準備の過程で東京証券取引所の事前審査で「収益の柱となる主要な事業用資産を自己保有していないことはリスク要因」とする見解が示され、特に日本の税法ではリース資産の減価償却は行われないので、資産の保全による事業の継続性に疑義が生じることが指摘されたわけです。そこでJR東日本が東海と西日本に呼びかけ、新幹線資産の買取りを国に求め、1991年に実現して新幹線保有機構は解散されました。この伝でいえば、民営化された道路会社の株式上場は同様に難しいということになります。
ところで、ここまで来ると、じゃあ現在行われている東名高速の盛土崩落の復旧工事の費用は誰が負担するのかという素朴な疑問が出てまいります。おそらくは通常の道路保守費用の範囲内で道路会社が負担することになると思われますが、そうすると今度は、今回の崩落現場以外にも危険箇所は存在するでしょうから、その計画的補修、補強はどうなるかという疑問が出てまいります。おそらく財政資金を投入する以外にないと考えられます。
とすると民主党がマニフェストに盛り込んだ高速道路無料化は難しいのかという疑問も沸きます。これに関しては私個人は楽観しております。その前に、詳細が明らかでなかった民主党の高速道路無料化案の細部が一部明らかとなりました。
高速無料化「首都高・阪神除く」 民主幹事長が明言今まで具体論には踏み込んでいなかったのですが、2012年時点で首都高、阪神高速を除く全国の高速道路が無料化されるということで、私が考えていたよりも範囲が広いですね。実は東名は無料化から除外される可能性が高いと考えていたもので。
というのも、太平洋ベルト地帯を貫き、物流インフラとして存在感の高い東名の無料化は、首都高などと同様渋滞がひどくなると考えていたのですが、東名だけ有料で残せば、おそらく無料化される中央道へシフトしてしまうだけでしょうから、確かにこの方がすっきりします。
更にオンライン上の記事では割愛されておりますが、紙面上では、高速道路関連の債務35兆円は国が引き取り、国債発行でファイナンスし、60年かけて償還するということで、無理のない返済計画であり、道路の保守費用は首都高と阪神高速の料金収入で賄うことも明らかにしております。つまり債務が消えれば料金収入から保守費用を捻出するのは容易ですので、現実的な解といえます。
そして高速道路保有機構が発行する機関債がなくなるわけです。料金収入が消えてリース料がなくなるわけですから、それを担保に発行される機関債は繰り上げ償還されますが、サブプライムショックで破綻の危機に瀕し、政府が救済した米ファニーメイ、フレディマック両社のように、暗黙の政府保証は、経済情勢次第で隠れ借金として財政にのしかかるリスクがありますので、国債で借り替えるのは、隠れ借金の見える化でもあるわけです。加えて残高800兆円を超える財政状況の中で、35兆円の積み増しは大勢に影響なし、むしろ政府試算で7兆円を超えると言われる無料化の経済効果で税収が増えることも忘れてはなりません。
加えて道路会社の判断に委ねられている高速道路の新規着工が止まる効果が重要です。料金収入があるから借金を積み増して、破綻したら暗黙の政府保証で国に助けてもらうということができなくなるわけですから、中長期の財政再建にも寄与します。
ただ、懸念されるのは東名のように元々物流インフラとして重要度の高い路線の場合、当然無料化は交通量の増大を通じてさまざまな影響があるわけですから、もう少し慎重に考えても良いかもしれません。特に温暖化防止との整合性が問われる部分です。
元々利用度の低い地方の高速道路の無料化は、CO2排出増も知れてますが、東名の交通量が増え、かつ渋滞が増えるとなれば無視できません。むしろ「だから第二東名は必要」という声を増強しかねないし、その可能性の芽を摘む無料化は「間違い」と糾弾されるリスクを民主党は自覚しているでしょうか。そのあたりに一抹の不安があります。
私はこう考えます。第二東名、第二名神の完全整備で物流インフラは確かに増強されますが、そのための費用が10兆円ほどと、何とリニアを大阪まで整備した場合と同等の見積もりとなります。その一方で温暖化対策としてトラック輸送の鉄道貨物へのモーダルシフトを前提とすれば、名古屋の南方貨物線や城北線の整備や変電所増強、着発線有効長延長による列車単位の増強と所要電力を賄う変電所増強など一切合切の合計で1,000億円程度と見積もられており、何と1/100で済むのです。この程度ならば国の財政支援で可能ですから、東名を無料化するなら、ここまでセットでぜひ考えてもらいたいところです。
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