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Sunday, November 08, 2009

意外に可能な温暖化ガス25%削減

三島由紀夫の「美しい星」という作品がありまして、テーマはズバリ「宇宙人」。両親と2人兄妹でそれぞれ水星人、金星人、火星人、木製人を名乗る不思議な一家の話です。まるで鳩山由紀夫、幸夫妻の出現を予想していたかのような内容は笑えます。三島作品で笑えること自体稀有なことですが^_^;、市谷での割腹自殺で狂気の作家と見られがちな三島由紀夫が、実は村上春樹に通底するポストモダンな感性の持ち主であることもわかります。早く生まれすぎて周囲に理解されなかったのかもしれません。

んで鳩山首相の「宇宙人」ぶりは、13日に予定されるオバマ大統領来日時の首脳会談で扱いが注目された普天間移設問題でも如何なく発揮されてます。既に10年以上店ざらしされている問題に、拙速に答を出すよりも、文字通り対等な日米関係を構築する意味で、日本の占領民意識とアメリカの日米安保タダ乗り論を乗り越えるテコにしようとしているようです。つまり同盟強化が狙いであって、優男の風貌でなかなか肝が据わってます。

実は日本の政権交代で一番慌てたのが中国でして、元々78年に鄧小平が改革開放路線へ転換したときに、手本としたのは、自民党長期政権下で高度経済成長を実現した日本です。つまり共産党1党独裁体制を維持しつつの経済成長は可能という考え方でした。その意味で昨年の北京五輪や2010年の上海万博は、正しく日本の60年代をトレースする意味があるわけですし、欧米からの民主化圧力も、「欧米とアジアは違う、日本を見よ」という理屈になるわけです。

その日本で政権交代が起こり、民主政治の現実が示されたわけですから、予想外だったわけです。中国流解釈では、日米同盟は「ビンの蓋」、戦前の軍国主義へ回帰しないための安全弁として安心感をもたらすものと見られております。温暖化防止でも、中国が経済発展と共に排出量を増大させて国際的な風圧を受ける流れに対して、日本の前政権の消極姿勢は良い風除けでした。それが鳩山首相の温暖化ガス排出25%削減国連演説で覆されたわけですから、中国にとっては痛し痒しです。

それでいて靖国参拝否定や中国といの一番の首脳会談をセットするなど、親中的な対応を取られているので、公に非難することもままならずです。日本の意欲的な目標の表明は、米オバマ政権でも反対派の説得材料に使われているようですから、アメリカの対応如何では中国のCOP15の枠組み参加もあり得ます。ま、実際はそこまで楽観はできないようですが。

で、現時点で公式の数値が見当たらないのですが、2008年の日本のCO2排出量は、かなり減少したらしいのです。なぜならば、リーマンショックで生産が減少したからで、実際には10-12月期の減少によるわけですが、産業部門で年率換算では90年比20%超という水準に達するようです。つまり財界が主張する「乾いた雑巾」論とは違って、元々海外バブルで高止まりしていた生産水準が元に戻っただけで、25%削減の実現可能性は実は高いということを意味します。

ここで重要なのは、世界規模の経済変動でして、円安と低金利でジャパン老いるマネーを海外投資に誘導し、海外バブルに乗じてモノを売ることは持続可能ではないということです。つまり産業部門はリーマン後の生産水準で利益が出るように、過剰設備の償却と人員整理を行う必要があるわけです。その意味で生産を底上げするエコカー減税や補助金、家電のエコポイントなどの政策は、過剰の解消を遅らせるという意味で不適切な政策です。

温暖化防止に逆行するという意味で、高速道路無料化が遡上に上ることが多いですが、渋滞対策と捉えれば、実は全く異なった意味があります。道路は典型的な公共財で、車が1台増えても、他の車の利用を排除しない性質があります。つまり台数が増えて渋滞するレベルまでは、道路の社会的コストは発生しないわけです(保守費などの軽微な負担は除く)。つまり道路の通行料を課金する場合、渋滞が発生するレベルまでは負担を下げられるということです。加えて渋滞対策としての道路整備費用は、渋滞区間の課金で得られる範囲内に留めることで、社会的コストの最小化が図られることになり、民主党政権が掲げる高速道路無料化は、無駄な道路整備を制限する効果が期待できるわけです。

さらに加えて、特に首都圏などの大都市圏での道路整備は、費用の多くが用地買収費に費やされ、加えて環境アセスメント対策として防音壁や環境側道の整備を求められることで更に負担が増えることになり、必要な道路の整備が進まないという現実もあるわけですが、それで破綻しないのは、鉄道による輸送需要の集約が起きている結果と見ることができます。とすると渋滞対策としての鉄道整備という政策スタンスの可能性も考えられるわけです。

とはいえ大都市部での鉄道整備も用地買収と環境アセスメントの壁は存在するわけで、実際首都圏の通勤ラッシュの解消が進まないことに現れております。加えて国鉄民営化によって鉄道が民間事業者に委ねられている点が、問題を難しくします。

JR東日本ではインフラ整備は最小限として車両の更新と湘南新宿ラインに代表される新サービスの開発で、コストをかけずに需要を喚起しつつ、東北縦貫線のようにインフラはボトルネック部分への集中投資で対応してますが、同時に運賃の将来に亘る据え置きを宣言しており、現行の運賃水準で可能な範囲での混雑緩和しか期待できないわけです。この点は私鉄各社でも同様ですが、特に首都圏のように稠密なネットワークが形成されていると、ある部分に集中投資してボトルネックを解消しても、そのことが需要のシフトとなり結果的に混雑を助長してしまうという悩ましい結果となります。

複々線化に後れを取った小田急線が忌避され、輸送改善著しい田園都市線が首都圏最混雑路線というありがたくないタイトルを得たり、横浜市営地下鉄グリーンラインの開業と実質複々線となる目黒線の整備で、東横線の混雑が助長されたりしております。東急では本業重視で積極的なインフラ整備を行った結果、改善どころか悪化してしまったわけですから、混雑解消が如何に難しいかということですね。ちなみに東急は本業だけ見れば増収増益ですが、度重なる設備投資と関連会社のリストラで疲弊し、自己資本比率を悪化させてます。JALとJASの統合も東急の関連会社リストラ策の中での出来事で、今でも東急はJALの筆頭株主ですから、JAL問題の後ろには東急の支援も隠れているわけです。

話がわき道にそれましたが、設備投資して輸送改善しても、混雑解消に至らないのは、全体として鉄道の過去の投資不足に起因するもので、高度経済成長期のインフレ経済で、鉄道運賃が公共料金としてスケープゴートとされた歴史に由来します。それでも人口が増加している間は、ある程度の輸送力増強投資が行われたものの、人口が減少に転じた現在、事業者の自発的な投資上積みは見込めず、公共部門の関与が必要となります。ただし財政が逼迫する中、それも十分な水準に達する保証はありません。

あとはタブー視されている運賃引き上げぐらいしか手段がないのですが、これとて乗客がマイカーへ流れては元も子もないわけですから、単純な値上げは難しいわけで、あとはJR中電区間のグリーン車や通勤ライナー、私鉄の一部にもある通勤特急などで着席サービスを売りに増収をはかり、それを原資にサービスの底上げを図るぐらいしか方法がありません。それ以前に首都圏をはじめとする大都市圏が今後高齢化が進むことを勘案すると、、通勤需要そのものが減少する可能性もあり、政策的な意思決定の難しさがあります。

もう一方で過疎地の問題も考える必要があります。特に沿線に大都市圏を持たないJR四国では、高速道路無料化の影響を強く受けることになりますので、北海道や九州共々何らかの対策が必要でしょう。とはいえサイドバーのAMAZON鉄道書欄でご紹介した時刻表に見るスイスの鉄道―こんなに違う日本とスイス (交通新聞社新書) (新書) に見るスイスの鉄道事情を見れば、それでもまだまだ打つ手はあると映ります。なにしろ最大の都市チューリッヒの人口規模は36万人程度で、四国の各県庁所在都市と同程度で、比べ物にならないほどのサービスの充実ぶりですから。ただし運賃水準は日本と比べてかなり高いですが。

一つの方法論として、噂されるJR九州の株式上場でネックとなりそうな経営安定基金を本体から切り離し、自治体の資金拠出を仰ぎながら地方版鉄道建設公団に改組して上下分離でインフラ整備を行うことは考えられます。三島会社のうちJR九州以外の2社は、青函トンネルと瀬戸大橋開通でブームとなった88年をピークに輸送量を減らしており、その間に整備された高速道路の影響は明らかです。インフラ投資を促進して競争力を高めることが必要です。

あと貨物に関しては、温暖化対策として国の関与を高めることが考えられます。民営化時の基本ルールであるアボイダブルコスト(機会費用)負担方式の線路使用料をも下回る線路使用料の支払い能力しかなく、並行在来線分離三セクへは国の差額支援を得て高額な使用料を支払っているわけですが、JR旅客会社に対しても、少なくとも列車運行で発生する費用+1%のインセンティブ相当の線路使用料を支払わないと、例えばJR東海による貨物への嫌がらせのようなことを防ぐことはできません。逆に国が関与する以上、あからさまな運行妨害には罰則を設けることも考えられます。

ここまでのパッケージを示せれば、高速道路無料化は温暖化防止に反するという批判は成り立たなくなります。加えて鉄道の競争力強化のためのインフラ整備とメンテで、持続的に雇用を生み出すならば、従来のように輸出産業に雇用を依存しない内需型経済への移行とも整合的です。新政権の交通政策がどうなるか、見ていきたいと思います。鉄道回帰は世界の趨勢でもありますし。

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Comments

ずいぶん民主党を高く評価なさっていますね。
本当に鉄道の活性化とセットで高速無料化を打ち出しているなら良いのですが
どうも民主党は現代版デマゴーゴスのような気がしてなりません。

JRですが、国がイニシアティブを取ってグループ再編とかできないんでしょうかね?
JR西日本と四国、東日本と北海道、東海と貨物というように本州3社に抱き合わせる形で。

JRといえば、先日、中の人から聞いたのですが、東海は都内に進出する野望があって
水面下で「柔軟に検討している」とのこと。
メトロを買収するとかいろいろ噂されていますが、あれも強ち嘘ではないようです。

Posted by: yamanotesen | Monday, November 09, 2009 11:03 PM

高速道路無料化と鉄道活性化の関連がいまいち分かりません。
モーダルシフトと言うなればむしろ、高速道路通行料収入を鉄道整備の財源にしてもいいくらいだと思います。

Posted by: jazz | Tuesday, November 10, 2009 12:22 AM

コメントありがとうございます。

民主党を評価というよりも、10年以上前から「高速道路通行料が高すぎる」とか、「日本は温暖化ガス排出削減に不熱心」とか言って知人に妙な顔をされていたので、むしろ今回の政権交代でやっと時代が追いついてきたというのが正直なところです。枕話は割腹自殺の三島由紀夫と、1Q84ワールドに迷い込んだ青豆の恋愛の対比で時代の変化を表したつもりですが^_^;。

ご指摘のようなJRの再編ですが、一部で役員などの人事交流が見られることから、噂にはなっているようですが、上場3社にとっては収益力に劣る北海道、四国、貨物との資本関係を持つことにメリットはありません。持分法適用で連結業績を不安定にしますから、株主が許しません。

まして貨物を目の敵にするJR東海の貨物への出資はまず有り得ないでしょう。むしろJR東海は東京進出にご執心なようで、メトロへの出資などは考えている可能性は高いでしょう。とはいえ東京都の態度が変わらない限り、メトロの上場は無理でしょうけど。

高速道路無料化に関しては、道路を公共財とする経済学の標準的な理論で説明ができます。道路の渋滞を外部不経済と見れば、渋滞に課金するのが正しいあり方で、TDM(交通需要マネジメント)の基本的な考え方です。ですから渋滞のない地方の既存の高速道路に関しては、無料開放しても渋滞は発生しませんから、料金を取らずに利用を誘導し、並行する一般道の渋滞を緩和するのが正しいあり方です。実際は高速道路が利用されずに、並行国道の渋滞対策でバイパス整備が行われるような状況ですから、無駄な道路を作らないためには高速道路の無料開放が正しいわけです。

Posted by: 走ルンです | Tuesday, November 10, 2009 08:26 PM

>上場3社にとっては収益力に劣る北海道、四国、貨物との資本関係を持つことに
>メリットはありません
おっしゃる通りです。だから、国が強引に手を組ませたらどうかなぁと。
JR北海道や四国に関しては上下分離した上で東日本や西日本と統合しても良いと思います。

>貨物を目の敵にするJR東海の貨物への出資はまず有り得ない
だから敵同士、あえて手を組ませると面白い(笑)。
東海には国がリニアの建設で支援するなどアメを与えれば納得するはず。

いずれにても、JR各社の経営の自由を阻害するほどの強力な政治力が必要です。
さらに、リニアの建設に国が関与するとなると整備新幹線との優先順位で
折り合いをつけないといけませんから、現実的には難しいかもしれません。

Posted by: yamanotesen | Tuesday, November 10, 2009 11:22 PM

経営の自由を阻害しちゃ見えざる手が働きません。国の役割はあくまでも事業者の創意工夫を引き出す環境を整えることです。

えーと、過去ログどこまでご覧になっているかわかりませんが、国がリニア建設を助ける可能性は皆無です。加えてJR東海が開業を見込む2025年の東京、名古屋両都市圏の高齢化率を考えると、リニア建設費の償還で高額となる運賃料金を負担できるビジネス客は、おそらく想定を大きく下回ります。

加えて電力消費が鉄軌道式の3倍といわれるリニアですから、燃費が悪く空席の多いジャンボ機を抱えるJALの二の舞になりかねません。国は事業にブレーキをかけることはあっても、推進することはないでしょう。

Posted by: 走ルンです | Wednesday, November 11, 2009 09:59 PM

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