メトロポリタン・アンダーグラウンド
タイトルで地下鉄問題と直感した方、正解です。東京地下鉄株式会社(通称東京メトロ)の中間決算発表会見のニュースで、メディアによってこんなに違います。
東京メトロ、都営地下鉄と統合協議 メトロ社長が言及
東京メトロ社長「09年度中の上場は困難」
東京メトロと都営地下鉄、経営統合で協議同じ日の同じ会見で、メディアのよってこんなに着眼点が違うことに注目してください。ニュースソースは同じはずなのに全く異なった印象を受けます。
事実関係としては、11日に中間決算発表の会見を開き、その席で09年度中の株式上場が難しいこと、都営地下鉄との経営統合問題を課題として都と協議はしていることを明らかにしたというだけの話です。東京の地下鉄一元化の協議は、営団時代から行われていたことで、特に目新しいことでもありませんし、当時から営団と都の職員の待遇の違いや、都営地下鉄の巨額の累積債務問題が障害となり、協議は前進しませんでした。
そして営団は政府の民営化方針に従って政府と東京都が株式を保有する形態の特殊会社へと改組され、政府は保有株を売却して完全民営化に舵を切ろうとしているのですが、東京都が邪魔しているのは既に述べましたし、メトロ株を狙う法人企業の話もしました。付け加えるならば、三菱地所、三井不動産他の不動産大手や、銀行など、メトロ株に色気を出している法人企業は多数あると考えた方がよいでしょう。
というわけで、上場が難しい理由として、リーマンショック後の株式市場の低迷と主幹事証券の選定遅れを挙げておりますが、公式見解でしかありません。リーマン前の株価水準がグローバルバブルで下駄を履いていただけですから、内需関連で実力勝負できるはずのメトロ株の売却が困難とは考えられません。あと主幹事問題ですが、記憶違いでなければ、営団時代に発行していた地下鉄債券では日興証券が主幹事だったと思いますが、法人部門の日興コーディアル証券の三井住友FGによる買収もあり、主幹事の座をめぐる大手証券の争奪戦があったのかもしれません。この部分はとばっちりといえるかもしれませんが。
いずれにしても、メトロと都営地下鉄の統合は五里霧中と考えるのが正しい見方でしょう。メトロの社長会見では本音は言えないでしょうけど、東京都の株式保有継続の意向が、株式上場の最大の障害であることは明らかです。実際こんなニュースもあります。
石原知事、東京メトロ株「都は売らない」政権交代でどうなるかと思いきや、前原国交相は株式売却を都に働きかけているということで、予算編成で財源探しに苦労している民主党政権としては、株式売却益は喉から手が出るほど欲しいところでしょう。とはいえ都が株式を持ち続け、経営に影響力を行使する姿勢を見せている限り、話は進みません。
完全民営化されたはずのJALでさえ、政府、与党議員、自治体の圧力に屈して現在の惨状になっているのですから、メトロに都の影響力を残す選択肢はあり得ません。それよりも東京都自身が株式売却益で都営地下鉄の累積債務を繰り上げ償還することを考える方が正解です。そうすれば地下鉄統合の障害の一つが消えますし、運賃をメトロと同水準に下げることも可能でしょう。その上で都が職員の新規採用を停止し、段階的にメトロに業務委託していく形が、おそらく考えられる地下鉄統合の唯一現実的な解です。都営バスでは既に一部民間委託は行われていて、都も出資するはとバスの派遣乗務員が一部路線で乗務しています。これがホントの派都バスなんちゃって<^o^;>。
あと地下鉄統合がなぜ必要かも考えてみましょう。よく言われるのが、乗り継ぎの場合の初乗り運賃二重払い問題で、旧運輸省時代から国の指導もあって、乗り継ぎ割引が制度化されていて、現在は打ち切り合算した運賃から70円引きが乗り継ぎ1回限り適用されるようになっておりますが、特に1駅同士の乗り継ぎなど短距離で割高となります。
実は運賃制度の問題は、経営統合しなくても解決可能なんです。そもそも初乗り運賃が距離比例でない割高水準になっている理由ですが、駅で乗車券を発行し、改札、集札でチェックするために、駅には人を配置し、設備を整えないといけないので、その部分の固定費という考え方です。現在はさらに自動改札やICカード乗車券など営業設備面で初期投資額が大きくなっているので、この傾向は増しています。一方で閑散路線の無人駅はどうなるというご指摘もあるでしょうけど、これは合理化の結果ですし、そもそも運賃取りっぱぐれのリスクがありますから、そのための上乗せとも解釈できますが、後付け感は否めません。
ですが、例えばJRの会社間またがり利用の場合は、運賃が通算されるのはご存じの通りです。三島会社のように賃率の異なる場合には、擬制キロまたは上乗せ運賃で対応し、運賃通算自体は維持されてます。乗車距離の違いや利用者数の違いなどはもちろんありますが、JR同士で可能なことが、首都圏など大都市圏の事業者同士でできない道理はないわけで、その意味で運賃通算のための地下鉄統合という理由付けは、必ずしも妥当とはいえません。
例えばPASMO導入時に改札分離したJR/メトロ西船橋駅の事例など、事業者の都合が優先されましたが、その結果固定費を増やしているとすれば、何のための打ち切り合算、初乗り二重払いなのか疑問です。適切な事業者間の運賃分配が可能ならば、これでもかとばかりの物々しい自動改札ゲートを減らせるわけで、その分コストダウンできますから、運賃を下げて乗客に還元することも考えて欲しいところです。
特に地下鉄統合で見落とされがちな議論ですが、経営統合と運賃共通化を切り離せば、JRや私鉄との運賃共通化のような、世界の大都市では当たり前になりつつある方向へ向かうことも考えられます。具体的には運賃収入を都や事業者が出資する精算機関に集め、SuicaやPASMOの乗車履歴の集合から推定される乗車実績比率で事業者へ分配するなどの方法が考えられますが、事業者の自主性に任せても実現は難しいだけに、行政機関である東京都がイニシアチブをとって行動する必要があります。
というわけで、東京都は完全に立場というか役割を間違っています。ひょっとしたら事業仕分けが必要なのは東京都かもしれません。とはいえ銀行税問題で二審まで敗訴し、銀行に多額の和解金を支払ったり、公金を投入しながら乱脈融資でどぶに捨てたり、意義が不明確なままオリンピック招致に失敗したりしている石頭都知事じゃ無理か-_-;。
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Comments
都営地下鉄を上下分離することはできないんでしょうか?
都は第三種事業者としてインフラを保有し、メトロが第二種事業者として運行管理を行う形で。
それだけでは運賃問題は解決しませんが、見かけ上はメトロに統合されたことになります。
都営だけでなく、りんかい線も上下分離によって京葉線との直通運転も可能になると思います。
関西では上下分離された路線が多いと聞きますが、首都圏であまり見られないのはなぜなんでしょうか?
Posted by: yamanotesen | Sunday, November 15, 2009 12:06 AM
上下分離しても累積債務が消えるわけではありませんし、都営地下鉄の職員も結局メトロが引き取ることになります。問題解決とは程遠いですね。
都営地下鉄も単年度黒字を達成してますから、50年先ぐらいには累積債務の問題は消えますが、少なくとも私は生きていないでしょう^_^;。
あと都財政で累損を肩代わりする方法も考えられます。高速道路無料化と同じ方式で、都議会の同意が必要ですが、志しがあれば不可能ではないことは、国の政権交代が実現したことで示されてます。結局地下鉄統合がなぜ必要なのか、十分な説明がないまま、都がメトロの支配権を確保したい思惑だけが見え隠れしているのが実際です。末は新銀行東京になりかねません。
関西の上下分離というのは、おそらく京阪中之島線や阪神なんば線のことでしょうけど、これは償還型上下分離と言いまして、事業費の半分を国と地方が支出、残りを事業者負担とするもので、わかりやすく言えば整備新幹線の都市交通版のようなやり方です。
整備新幹線で(独法)鉄道建設・運輸施設整備支援機構が担う線路保有の役割を、第三セクターが担う形で、事業者は三セクに線路使用料(リース料)を支払う形になります。
ただしリースで償還されるのは事業者負担分の一部に留まります。どちらかといえば営利企業への直接の財政支援を避けるためにこんなややこしい仕組みにしているのですが、元々地方公営交通を担い手と想定した地下鉄のインフラ補助金が70%という高率の補助率だったものの、自治体財政の逼迫で、大都市圏の鉄道整備に民間企業の力を活かす必要から導入された制度です。首都圏でも相鉄の都心直通プロジェクトで利用されます。
Posted by: 走ルンです | Sunday, November 15, 2009 10:37 PM
ゾーン制運賃はソウルでありましたが距離別に
変えました。またとうとうというかキップも廃止し
一回限りのパスモなどという妙なものを使っています。
と、ゾーン制は必ずしも良いことばかりではないですが
フランスなども国鉄とパリメトロが共通ですし、他国も
それに倣う。世界的にはゾーン制なのでしょうか?
今回は東京のお話ですが関西はもっと複雑なのか単純なのか
阪神なんば線とJR東西線、京阪中ノ島線を地域の人が
どう見るかですね。もう「完全に地下鉄ちゃいまっせ」
とは思うのですが、外国から見れば同じですよね。
私はメトロー都営の統合よりこの「私鉄売却」の方が
良いように最近感じます。
新宿線は京王に、浅草線は新橋を中心に京成と京急に
(西馬込は京急)、三田線は東急とほぼ買ってくれそう
な鉄道は出そうです。大江戸のみネットワーク維持から
メトロへの売却。この方法はどうなんでしょうね。
Posted by: SATO | Monday, November 30, 2009 10:04 AM
欧米では、都市交通は基本的に市当局の深い関与が見られ、地域独占が認められているので、運賃の共通化がやりやすいというのはあります。ただし日本の地方公営交通と違って、事業者は市の委託を受けた民間企業といったケースも多く見られます。
ゾーン制は利用者にわかりやすい制度ということで採用されるケースが多いですが、事業者の多い東京や大阪では難しいのは確かです。とはいえ実は連絡運輸の打切り合算というのは、鉄道だけのローカルルールに過ぎません。
バスで大都市均一運賃エリアと近郊の対キロ区間制エリアを跨ったり、賃率の異なる他の事業者エリアへの越境運行は普通に行われておりますが、これらのケースでは路線ごとに細かく連絡運輸運賃を定めて通算されます。
もちろんバスは車上で運賃収受して地上に出改札システムを置かないので事情が違うかもしれませんが、相互直通が行われていて中間改札が省略されていても打切り合算というのは明らかに取り過ぎです。
都営線の私鉄売却は一案ではあります。幸い浅草線、三田線、新宿線では償還が進んでおりますので、オペレーションの統合でコスト削減余地があるなど、メリットもあります。
しかし大江戸線が問題なんです。現在の都営地下鉄の累積債務のほとんどは、大江戸線の建設費用です。だからメトロはスカを掴むわけで、呑めない話だと思います。また職員の待遇差問題も解決できません。
都営バスでも営業所単位で民間事業者へ売却が検討され、民間側も検討したようですが、赤字路線込みで売却を狙う都の意図が見透かされて失敗しております。というわけではとバスの派遣乗務員受け入れと、一部路線の京王バスやフジエクスプレスへの移管が行われたに留まりました。似たような失敗をしているわけです。
Posted by: 走ルンです | Monday, November 30, 2009 09:17 PM