踏切番、高架不幸か立体化
踏切番は俗称で、踏切警手が正しい呼び方なんでしょうけど、高密度運転を強いられる首都圏の通勤鉄道では重要な役割を担っております。2005年に東武伊勢崎線竹ノ塚の踏切で、警手の判断ミスで横断中に4人が死傷した事故がありましたが、それを機にいわゆる"開かずの踏切"問題が注目され、都内で遮断時間が長く、街を分断している踏切の解消の機運が生まれました。そんな中で先月、京王線代田橋―仙川間の立体化線増事業の都市計画変更素案が住民説明会で明らかにされました。中身に入る前に思い出を語ります。
以前通勤で下高井戸で京王線から世田谷線に乗り継ぐルートを利用していたことがありますが、当時まだ橋上駅舎化されておらず、上り下りの各ホームに独立に改札があったのですが、京王線の上り各停で最後尾車が定位置でした。下高井戸に着くと目の前が改札口で、ダッシュで抜けて直ぐ踏切を渡るんですが、その時点ではまだ各停が客扱い中で後方に急行/通快が信号で抑止されているのが見えます。そして下り列車がないことを警手が確認して遮断機を上げて通行人を通すのですが、その手際よさに感心するとともに、こうでもしないと捌けないラッシュ輸送の現実を目の当たりにしたものでした。
現在は橋上駅舎が完成し、踏切は自動化されて遮断竿が下りる形態になっておりますが、おそらく遮断時間は増えたものと思われます。橋上駅舎が出来たために目の前の世田谷線に乗り換えるのに階段の上り下りを強いられ、以前よりも時間をロスします。加えて大改良で車両が新しくなり、ホーム嵩上げで段差も解消され、保安装置も装備されながら、車両の収容力を減らしスピードダウン、三軒茶屋も乗換動線が延びたというよくわからない"改良"がされた世田谷線では、当時の勤務先に遅刻しそうです^_^;。
それだけに立体化が具体化することは喜ばしいことですが、その一方で一体に進める計画だった線増は、代田橋付近から地下へ潜り、つつじヶ丘で現在線に合流する形となり、その間明大前も含めて駅が配置されない計画素案となっておりますので、当面着手予定のない線増計画を切り離したというのが正しい見方です。その一方で明大前と千歳烏山では副本線を設置して構内4線の待避駅とする計画が素案に盛り込まれております。立体化事業自体は道路の事業で、鉄道事業者の負担は14%となりますが、あくまでも現在線の立体化に係わる部分だけで、副本線設置やホーム延伸・拡幅など鉄道側の設備改善分は全て事業者の負担となります。
この辺は運賃問題も含めて2006年時点で展望した中で最も保守的な想定に沿った内容といえます。その意味では明大前と千歳烏山の改良は踏み込んだものと評価してよいでしょう。具体的な運転計画は不明ながら、両駅ではラッシュ時の2線交互発着で客扱いで生じる遅延を吸収できるようになるので、「よく遅れる」といわれる京王線の朝ラッシュ輸送もいくらか改善されます。ま、これもかつての殺人的ラッシュの時代よりも混雑率が低下し(169%)、駅の改良も進んで駆け込み乗車の余地が生まれたことで却って客扱い時間が延びるという皮肉な事態ですから、やはり抜本的な解決には程遠いものではあります。
今後のスケジュールとしては、都市計画素案を詳細に詰めて行き、環境アセスメント評価などを経て数年かけて都市計画決定し、工事実施計画を策定の後に着工、用地買収などがスムーズに進んだとしてもそれから更に10年程度かかるわけですから、気の長い話ですし、その間は当然線増計画は凍結されるわけです。このあたりの評価は難しいところです。
前の記事でも指摘したように、2050年までは高齢化の進捗による人口減が続くわけですから、線増のような大規模投資に慎重になるのは私企業として当然のことで、仮に実施する場合、相応の公的支援が得られるということでもない限り、難しいところです。ただ京王に関しては運賃水準の低さが、追加投資の余地を生む原資になりうるし、また私鉄随一の自己資本の厚み(30%超)もあり、投資余力は京王自身も自覚しているようです。とはいえ日常的に利用する沿線住民の理解を得るのは容易ではないところです。ましてラッシュの輸送改善ですから、朝のピークタイム以外の時間帯には過剰設備となって生産性を下げるものでもありますから、高齢化でラッシュ利用の機会が減る沿線住民の理解を得るのはますます困難になります。
方法があるとすれば、クレジット機能付PASMOでポイント還元を前提に、普通運賃を値上げした上で、カード所持者にピーク外の時間帯と土休日に追加ポイントを付与するなどで事実上のピークロード運賃を制度化することでしょうか。ラッシュ時間帯は定期券利用者が多いですから、被用者の場合定期代は雇用主負担となるケースが多いですから、ラッシュの解消に企業の支援を得る形にもなります。そろそろそういったことを検討しても良いのではないでしょうか。
元々大都市部のインフラ整備は地価の上昇が阻害要因となって進まないものです。それを踏まえた都市計画がされなかったのが残念です。例えば首都高のような都市高速道路は日本では普通ですが、都市景観にうるさい欧州では見られません。その分環状道路が充実していて、通過車両を減らすことで渋滞対策としております。仮に東京でも首都高の整備に先立って外環道や圏央道整備に着手していれば、当時の土地利用状況からとっくに完成していて機能していたでしょう。それを首都高整備を先行させてそれが渋滞するから今から環状道路をというのは、順序が逆です。インフラ整備は時間がかかるだけに将来を見据えて実行しなければならないものです。
鉄道に話題を戻しますと、12/6に中央線三鷹―国分寺間が高架化され、13ヶ所の踏切が除去されました。こちらも難産でしたし、線増線を地下とする計画も京王線とそっくりです。中央線の場合混雑率は京王よりも高く、改善の要請は強いわけですが、JR東日本は踏み込みませんでした。やはり現状では輸送力増強のインセンティブは働かないのです。それどころか高架化工事で上り線が仮線移設されたために、踏切を渡りきれずに列車にはねられるという痛ましい事故まで起こるという皮肉な出来事まで起こります。
この地下急行線というアイデアは、西武新宿線の新宿―上石神井間の輸送力増強策として出されたもので、上乗せ運賃積立ての特特法事業として認定されながら、実現しませんでした。公式には人口の都心回帰で混雑が緩和したため、事業の必要性を見直した結果とされてますが、素直に飲み込めない話です。
西武鉄道は踏切立体化は道路の事業として冷淡な態度を取り続けてきたため、環八井荻踏切のような重要踏切放置されていた一方で、地下急行線で線増を計画するというある意味身勝手な対応に、行政側が快く思わなかったふしがあります。具体的には1列車1,000~3,000人乗車の複数列車がトンネル内を走行するのに、計画では避難路や通風孔となる竪坑が少ないという指摘を受け、計画を断念したようです。竪坑を設けるには地上に用地を確保しなければなりませんので、経済的とは言えなくなってしまいます。ちなみに地下鉄では平均1km~1.5km毎に駅があり、駅間に列車風対策の排気ダクトがありますので、0.5km~0.75km毎に竪坑がある形になり、問題なしとなるわけです。この観点からすると大深度地下利用を想定する中央リニアも実現は難しいことになります。
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Comments
確認を取りたいのですが代田橋ー仙川が高架になるんですよね。地下は急行線を「考える」ことになったんですよね。
都営地下鉄の計画が新線をそのまま甲州街道の真下を走り芦花公園あたりで顔を出して調布までの複々線、そんな計画だったやに記憶しています。ちょうど有楽町線と同じ計画ですね。
今回渋滞区間を高架化というアイデアを持ってきましたが事業化は私は疑問で、これはアリバイづくりとは思えないでしょうか?
なぜなら仰るように乗客の減少や肝心の車も現象となると踏切待ちが社会問題となるのもあと10年程度、下手すりゃ10両だって怪しいです。
ただ最混雑区間を少し高架したいのでその同意を面倒だからまとめて取っちゃえという論理ではないでしょうか?
明大前などはあそこまで派手に改造しましたし、烏山は商店会との折り合いは道遠しです(関係者を知るだけにあれは難しい)
京王も真剣に高架は考えてはいませんが、かといって無視もできない、そんなジレンマから発生した説明会だったようにも思います。
東武東上も池袋ー成増を何とかしろと言う声も多く、また埼京線などは池袋ー赤羽は地下化以外は認めないとか地域はほざいていますが柳に風です。
京王は少しは真摯に「聞いたふり」はしたでしょうが、建設費の問題その他で時間切れで何もせずというのが落としどころだと考えます。
Posted by: SATO | Thursday, December 10, 2009 08:51 AM
今回の都市計画素案では、現在線の立体化を高架に、線増線を地下にする形にすることで、立体化と線増を分けたということです。
芦花公園接続は、1960年策定の東京都の都市計画で高速鉄道9号線として指定されましたが、芦花公園から新宿を経て、現在の大江戸線環状部を時計回りに3/4進み麻布までという計画でしたが、都心側ルートが悪すぎるということでキャンセルされました。同時に喜多見―日暮里間の8号線もキャンセルされたものの、こちらは小田急との接続点を代々木上原に変更し、喜多見までは小田急線の複々線化とすることで後に9号線として復活、千代田線として開業しました。
都営新宿線となる10号線計画はそれとは別で、最初から京王線新宿―調布間の複々線化を前提に都市計画決定されております。都市計画では道路計画も決定されるわけですから、線増は立体化と一体のものとして定義されたわけです。それが今回、立体化を先行させるために線増線を地下にしたということです。
そこまでして計画そのものはキャンセルせず保持したのは、東京都にとっても京王にとっても将来のオプションを残しておきたかったということでしょう。計画が残っていれば、いつか着手される可能性はあるわけです。
とはいえ現状は高齢化と人口減少で、投資後の増収が見込めませんから事業者としては踏み込めないわけで、立体化を進めたい道路管理者の東京都が都市計画を見直したというのが現在の段階です。
道路側の事情として、渋滞対策ならば仰るように急いで立体化する必要性は薄いかもしれませんが、この地域は道路整備が進まないことで開発が遅れている地域でもあります。都市計画法では地目ごとに容積率の基準を定めておりますが、都市計画道路の接道延長と道路幅員で容積率が決まりますので、再開発ために道路整備が必要という倒錯した状況になります。加えてピーク1時間中50分遮断される踏切というのは、橋のない川と一緒で、回遊性を阻害しますから、駅前の商業地ならば実質価値半減となるわけで、踏切の危険性の除去の観点もあり、まちづくりの取組みという性格のものと考えた方が良いでしょう。それゆえに地権者の利害も複雑になり、合意形成が進まないということになります。
こういう点を考えると、早い段階で線増に着手していれば、もっと抵抗が少なく済んだでしょうけど、高度成長期のインフレ経済下で、鉄道運賃が公共料金としてスケープゴート化され抑え込まれたことで、決定的な投資不足となったわけです。一方で国鉄が手がけた五方面作戦は、住民の意向どこ吹く風で工事をゴリ押しして、逆に私鉄の輸送力増強計画を難しくしてくれました。ホントしょーもないです。
Posted by: 走ルンです | Thursday, December 10, 2009 09:47 PM