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January 2010

Sunday, January 31, 2010

山梨リニアよ永遠なれ

リニア関連で動きが出てきましたが、まずはこのニュースから。

JR東海会長「リニア、前倒しで部分開業へ」
明らかに山梨リニア実験線の延伸部分を早めに営業路線にしようという意図が見えます。現在18.4kmの先行区間の両側を延伸中で、2013年までに42.8kmとなり、神奈川県境近くの上野原市から甲府盆地の中央市まで伸びます。甲府側は身延線東花輪付近に設置予定の仮称新甲府まで数キロ、起点側も県境を越えれば神奈川県相模原市(藤野町)で、駅設置が見込まれる橋本まで30km弱というところでしょうか。見た目には直ぐにでも伸ばせそうに見えます。

とはいえ市街地に設置される駅の建設費用が問題になります。橋本、東花輪両駅周辺は市街化されていて、山岳トンネル中心の実験線とは用地買収の難易度はかなり違います。今のところ神奈川県も山梨県もリニアには積極的ですが、JR東海が中間駅設置は1県1駅で全額地元負担を打ち出しており、しかも地上駅で350億円、地下駅で2,200億円とされる建設費の見積額から、実際の交渉はかなり難航が予想されます。

当然こんな区間で開業してペイするのかという疑問がありますが、JR東海は東海道新幹線との損益通算で問題なしとしております。それよりも実際に営業運行を早めたい事情があるということですね。

1つは既成事実作りということでしょう。ご存じの通り中央新幹線のルートを巡っては、木曽谷経由のAルート、伊那谷経由のBルート、南アルプス直下の長大トンネルによる直進のCルートの3案が併記されており、JR東海はCルートを希望するものの、諏訪地区を経由するBルートを希望する長野県と対立している状況です。諏訪地区に駅を設けるとなれば1県1駅の原則ならば飯田地区に駅ができないと飯田市はCルートを希望し、自治体間でも対立している状況ですが、新幹線整備法で関与が決められているものの、事業主体でもなく財政支援もしない国は静観の構えです。

実際は今年中にルートを決めて環境アセスメントの手続に入らないと、着工を予定する2014年には間に合わず、当然2025年の開業も後ろへずれることになります。そんな中で関係者は「天の声」を希望しているとか。予算編成で見せた民主党小沢幹事長の鶴の一声が欲しい長野県でしょうか。そういえば山梨実験線も自民党副総裁だった金丸信の「天の声」で決まったと言われます。真偽は定かではありませんが。当の小沢さん自身は今それどころじゃないでしょうけど^_^;。ただ岩手県の胆沢ダムの工事受注も巡る疑惑が取り沙汰されてますが、ゼネコン関係者の証言が明らかになる一方、発注者の国交省は捜査されておらず、当時の担当者も政治家の関与を否定しているあたりに、民主党の言う「国策捜査」の臭いは漂います。とはいえ公訴まで至らなくても、小沢一郎という政治家の力を削ぐ結果にはなりそうです。

というわけで事業の展望が拓けない中で、事業化を急ぎたいJR東海は民主党にパイプはなく、開業できるところから開業するという手段しかないわけですね。

あと実験線はあくまでも実験線で、コストしか発生しませんが、営業線になれば収益が発生します。結果的に赤字だとしても、キャッシュフローが生まれれば、建設費の償還が早まるわけですね。とりあえず東海道新幹線から発生する黒字の範囲を超えない限りは許される道楽となるわけです。

仮に橋本―(仮)新甲府間が開業できたとして、所要時間は10分少々、1時間ヘッドとして折り返し間合いを含めて1編成で営業運行が可能ですから、複線の片方を試験やメンテナンスに使いながら営業できるということです。しかもややこしい複数列車の制御は当面必要ないというわけで、ある種いいアルバイトにはなります。

加えて新宿―橋本間は京王の急行で40分、調布市内立体化後であれば毎時1本程度の特急「リニアリレー」の設定は可能になると考えられ、30分で新宿となれば、乗換時間を含めて(仮)新甲府まで1時間以内、甲府までも1時間強とJR東日本のあずさ/かいじや中央高速バスの半分ということで、相応に競争力を発揮しそうです。

ただし大元の需要からすれば赤字必至、1編成950人という定員も、あずさ/かいじのE351系やE257系より多く、空席を埋めるのに苦労しそうです。早晩HISあたりに格安チケットが流れそうです。京王にとっては高速バスが食われるとしてもビジネスチャンスでもあり、有料特急で増収でもできれば、懸案の複々線化の可能性も出てきそうです。

あとはアメリカへの売り込みということでしょうか。こんな記事があります。

新幹線、米に売り込む JR東海「フロリダが最優先」
なんとリニアをアメリカに売り込もうということです。ワシントンDC―ボルティモア間約60kmということで、なるほど神奈川―山梨間の部分開業を先行させれば、売り込みやすいと考えたようです。

とはいえ一方で国交省がJR東日本を帯同してアメリカでセミナーを開催し、新幹線の売り込みをかけております。

米で新幹線売り込み 国交副大臣・JR東の社長らがセミナー
民主党政権は新幹線の海外セールスに積極姿勢を見せますが、JR東日本とJR東海のバラバラな対応は頭痛の種。JR東海は日本車輌を子会社化してトヨタばりの垂直統合を志向しているのに対し、JR東日本は車両や信号その他システムの部分でも広範に売り込もうとしていて、そのために準備室を設けたり世界鉄道連合に役員を送り込んだりと、全く異なったアプローチとなっております。

どちらが正解かといえば、はっきり言ってトヨタの米欧中の大量リコールを見ればわかりますが、垂直統合モデルには明らかに限界があります。いずれも左ハンドル車だけに出た不具合で、身内の論理を優先する企業風土から現地化に失敗した日本企業にありがちな結果と考えられます。加えてジャパン老いるマネーで指摘したとおり、そもそも高齢化が極限に達する今後の日本では、労働力人口が減って扶養人口が増える結果、輸出する以上に輸入が増えるジレンマに陥りますから、完成品輸出は儲からなくかります。

というわけで、橋本―(仮)新甲府間の部分開業も厳しいところですから、正直なところ山梨リニア実験線は永遠に実験線なんでしょうなぁ。これがオチでした^_^;。

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Sunday, January 10, 2010

JAL再建会社更生法適用が決まる

紆余曲折を経たJAL問題ですが、やっと出口が見えてきました。運行を継続しながら会社更生法を適用するプリパッケージ(事前調整)型法的整理となります。企業再生支援機構が提案し、財務省、日本政策投資銀行が賛同する一方、国土交通省と3メガバンクは猛反発しました。

日航の法的整理案、財務省・政投銀が支持 国交省、強く反発
前原国交相が肝いりで進めた旧産業再生機構OBから成る作業部会(タスクフォース)案が銀行の反対で宙に浮いたことは既に述べたとおりですが、融資だけでなく、普通株と優先株を保有する大手銀行にとっては、法的整理は債権放棄のみならず多大な損害を受けるだけに避けたかったのでしょうけど、既にこの段階で実質債務超過が発覚していただけに、支援機構案件となっても選択肢は限られるのは止むを得ないところです。というわけで独自の私的整理案を発表します。
日航再建で3大銀、減資含む私的整理案 債権放棄も増額
タスクフォース案を蹴っておいて何を今さらです。邦銀はサブプライムショックもリーマンショックもドバイショックも軽微な影響で済みましたが、バンカーの矜持を失ったようです。リーマンショック後の実体経済の落ち込みに対して、自行の健全性確保を優先し、企業の育成という役割を失った姿は滑稽ですらあります。というわけで政府方針には逆らえず、渋々承諾ですが、株式上場を維持するかどうかは未だ調整中です。
日航の上場維持、詰めの調整に
機構は株主責任を厳格に問う意味で100%減資としたいところですが、銀行をはじめ多くの事業会社が株式を持ち合っているため、とばっちりを食う企業も多数あります。日本の株式持ち合いは問題を複雑にします。また個人株主にとっては株主優待制度が魅力で保有していた人も多く、上場廃止は企業ブランドを傷つけるという意味で再建の足かせとなる可能性もあるだけに、決定はずれ込みそうです。

結局透明性の高い再建策となったのは喜ばしいところです。実を言うとJAL再建は道半ばで頓挫するシナリオも予想していただけに、政府の努力を素直に認めたいと思います。

ここで残った論点を少し整理してみましょう。株式上場維持問題以外にも、米社との提携問題と企業年金問題が残されてますが、機構は企業年金についてはOBの2/3の同意が得られない場合は解散するとしており、この場合は現時点での積立不足額を確定させた上で一時金を分配することになりますが、将来の負債の増加はなくなることになります。厚生労働省も法的整理ならば解散を認めざるを得ません。

そもそも企業年金はJALだけに留まらず厄介な問題でして、確定給付型企業年金、確定拠出型企業年金(日本版401k)、厚生年金基金、適格年金保険など、思いつきのようにさまざまな制度が混在していて、JALは確定給付型企業年金となります。年金に限らないのですが、日本はアメリカと共に社会保障給付を企業の福利厚生に頼る仕組みが発達していてその分公的社会保障の規模が小さいのです。人口が増加基調にあり、企業が右肩上がりの業績を予想できるならば、小さな政府を実現できる妙案なんですが、高齢化による人口減少で持続不可能となったのです。

企業にとっても利益を賃金で配分して他社から恨まれるよりも、名目上の賃金を抑制するのに役立ちますし、従業員にとっても、賃金の一部をファンドに拠出して後で大きな見返りが得られるのですから、悪い話ではありません。JALでは予定利率を4.5%としていたわけですが、この水準は以前ならば当たり前だったとはいえ、現在の金融情勢では高い目標です。

複利計算では7の法則というのがあります。年利7%で運用すれば10年で元本が2倍になるというもので、これ便利だから覚えておくと良いんですが、半分の3.5%ならば20年、10%ならば7年、5%ならば14年で2倍ということになります。JAL従業員の平均年齢はわかりませんが、退職までの残存在職期間が平均20年とすれば、ザックリ掛け金の2.4倍程度になる計算です。

当然予定利率を実現するためには、ハイリターンな株式投資など元本保証のないハイリスクな投資も組み込む必要がありますが、バブル崩壊後長期低落傾向にある日本株で毀損が激しいのは言うまでもありません。当然リーマンショックも直撃してますから,、ズルズルと問題先送りしてきた結果、傷口を拡げてしまったんですね。恐ろしいのは、この問題はJALの企業年金だけに留まらず、多くの企業が抱えていて、今後火を吹く可能性はあちこちにあります。加えて公的年金のうち民間企業向けの厚生年金に関しても運用利回り3.2%で計算されており、株式を組み入れざるを得ないため、やはりリーマンショックで損失を出しております。公務員等を対象とする共済年金では利回りは決められておらず、国債中心の安全な運用がされております。

あと米社との提携問題ですが、これは現時点で決めず、新経営陣の判断に委ねることになりました。

日航再建、選択肢を確保 米航空の出資受けず
国土交通省やメガバンクは、リストラの余地が大きいということでデルタを推しているようですが、問題はワンワールドからスカイチームへのアライアンスの移行でマイルの移行やシステム統合で追加負担が発生することと、日米路線で現状6割超となる運行シェアで米独禁法の例外認定が受けられない可能性があり、折角締結した日米オープンスカイ協定を活かせない可能性があること、加えてデルタがアジアに強い会社で且つ大韓航空がスカイチームに所属していることから、発着枠の窮屈な日本の空港を素通りする踏み台にJALが利用される可能性もあり、競争条件を考えると、アジアが手薄がワンワールドへ留まる方がJALの存在感は高まる可能性はあります。

実はこの辺が、一部で取り沙汰された国際線のANAへの一元化の難点でもあります。折角オープンスカイに舵を切ったのだから、ANAが加盟するスターアライアンスを含め3陣営で競い合う国際アライアンスのパワーバランスを利用しない手はないのです。同様に国内線でも大手2社体制を維持することは、競争条件の維持という狙いがあります。これは当然、航空会社の負担となる今後の空港整備にブレーキとなりますし、競合する整備新幹線にもネガティブインパクトとなり、五月雨式の新規着工に歯止めが期待できます。整備新幹線に関しては高速道路無料化でも影響されますから、前原国交相の狙いはかなりはっきりしてますね。

というわけで、今回のJAL再建策の着地点としては、私は及第点をつけたいと思います。

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Saturday, January 02, 2010

坂の上のクラウドソーシング

NHKが大河ドラマ枠を使って2年越しの大作ドラマを仕掛けました。司馬遼太郎原作の「坂の上の雲」ですが、私にはあいにくそのよさが理解できません。というか、所詮司馬遼太郎はエンタメ系流行作家、それ以上でも以下でもない存在です。

そういえば今年の大河ドラマは坂本龍馬ですが、現在語られている坂本龍馬像なるものが、司馬遼太郎の「竜馬がゆく」で形作られていることも指摘できます。いわゆるフィクションすが、歴史自体、書物などの記録を通じて追体験されるものですから、所謂「見てきたような嘘」とまでは言わないまでも、フィクションの余地が大きいものでもあります。それゆえに歴史論争は大概不毛で時間の無駄に終わります。

そんな中で日本の謂わば過去の栄光にノスタルジーを感じる人が増えているからこそ、今、司馬遼太郎がもてはやされるのでしょうけど、今を生きる人間としては今が大事、さらに今が未来へ繋がっている、開かれていることこそが重要な問題です。そんな視点から司馬遼太郎ブームを見ると、いよいよ日本の衰退を本気で心配しなきゃならないのかと暗澹たる気分になります。

明治以来坂の上の雲を目指して日本人が努力を重ねてきたことは確かですし、それはおおむね1980年代、オイルショックで停滞する欧米を尻目に世界の頂点を極めたことで達成されたと評価できるでしょう。と同時に、坂の上の雲に首を突っ込んだら五里霧中の現実に直面して方向感を失い、今日に至る日本の難題を思い知らされます。実際バブル崩壊以来、失われた90年代、停滞のゼロ年代を経て、新たな10年を迎えるタイミングでの司馬遼太郎ブームですから、10年代は停滞を通り越して衰退へと向かう節目と感じざるを得ません。

日経新聞月曜日の「景気指標」欄を見ていると、重大な異変に気づきます。バブル崩壊後の90年代からほとんど横ばいだった名目GDPが08年10-12月期を境に減少に転じております。その一方で実質GDPは90年代から続く長期トレンドと変わらず1%成長で安定しているのです。これが何を意味するかといえば、需給ギャップがより鮮明に拡大しているということです。

もちろんリーマンショックという外生的要因があったからですが、そのリーマンショック自体もオウンゴールの性格を持つものだけに、結局ゼロ年代は日米当局のバブル政策で踊っていただけで、終わってみれば元どおり、その間にアジア地域の経済成長は目覚ましく、実質的にプレゼンスは低下しているわけです。

あと重大な変化は人口動態の変化です。2005年を境に人口減少へシフトした日本ですが、原因は高齢化によるということは、これまでにも再三指摘してまいりましたし、高齢化は結果的に国内消費を国内生産で賄えなくなるというマクロ的意味がありますので、以前にも指摘したように今までのように輸出主導で景気浮揚させることは不可能です。また輸出主導で景気回復を図ったゼロ年代初頭にトヨタが先陣を切ったベアゼロ春闘が、結果的に家計の消費にブレーキをかけた影響が、10年越しで出現したのが、08年10-12月期からの名目GDPマイナスと考えると、ゼロ年代は単なる停滞期ではなく、高齢化を与件とするマクロ経済変動に抗って衰退をむしろ加速したといえます。思えば昨年の新成人はバブル崩壊後の日本しか知らないで成人を迎えたわけで、今の停滞が100年に一度と言われても納得できないでしょう。

私自身はバブルの恩恵でセミリタイアの原資を得たクチですので^_^;、今の若者の置かれた状況に胸が痛みますが、同時にこれから老後を迎える身として、彼らに支えてもらわなければならないのに、彼らにそれに必要な所得を約束できないことがもどかしい限りです。

そういう中で起きた昨年の政権交代は、起こるべくして起きたことなんでしょう。民主党自身には頼りない部分もありますし、個別の政策では不満もありますが、政策決定過程がオープンになったことは評価できます。例えば迷走して見える普天間基地移転問題ですが、台湾海峡や朝鮮半島の有事対策や中国の「瓶の蓋」論など日米を巡る軍事的な「大人の事情」による負担をこれ以上沖縄だけに負わせることが難しくなっているからこそ、沖縄県民の意思を政府が代弁しているわけで、また大阪府の橋下知事の海兵隊受入容認発言や、報道されていないものの、複数の自治体首長から同様の申し出が相次いでいるように、沖縄以外の地域の国民意識も変化が見られます。だから決定を先送りした判断は正しいと言えるのですが、国民意識の変化に無頓着なメディアがバイアスをかけた報道を繰り返しているから、ブレているように見えてしまいます。

年末の30日には新成長戦略を管国家戦略担当相が取りまとめて発表しましたが、早速「具体策がない」とか「企業にフレンドリーではない」果ては「社会主義ではないか」などの批判がメディアから上がっておりますが、聞き流してよいでしょう。思えば昨年、GMの敵失でトヨタが世界トップとなったニュースをNHKも民法も誇らしげに報じていたのですが、華々しい戦果を喧伝するミッドウエー海戦報道を髣髴させました。政権が変わって一番はっきりしたのは、日本のメディアの駄目さ加減かもしれません。

政府目標として名目GDP年率3%、実質2%で、2020年にはGDP650兆円を目指すとしており、GDPの名目値を目標に掲げること自体が、従来はなかったことですが、メディア報道ではあまり触れられず、「抽象的で達成不可能」と悪口だけは叩いている状況です。もちろん私も達成可能な数値とは思いませんし、まして2020年までにCO2排出25%削減を実現しながらですから、従来の産業構造を根底からひっくり返すような話です。

重要なのは政策パラダイムをシフトしたことです。名目GDPを目標にし、かつ実質GDPより高い数値を掲げるということは、それ自身がデフレ脱却の宣言を意味します。リーマンショック後停滞が続く欧米でも見られない日本のデフレ状況の解消を約束するというのは、政権にとってはリスク要因ですが、あえて踏み込んだことを評価すべきです。目標はコミットメント(必達目標)ではなくストラテジー(戦略)と捉えれば、政権の決意が見えてきます。

実際には困難な課題ですが、管戦略担当相の発言などを見る限り、雇用の回復が肝と見ているようです。ケインズの「一般理論」で論考された非自発的失業の解消による完全雇用状態とすることで、望ましい低インフレ状況を生み出すということです。とはいえハードルはかなり高く、実現は簡単ではありません。

雇用問題は誤解が蔓延しているので、ひとこと申し上げておきます。完全雇用状態とは、失業率でXX%以下という形で表されるものではないことに注意が必要です。よく言われますが、民主党が掲げる製造業派遣の禁止や最低賃金の値上げなどは、むしろ国内雇用の空洞化で失業者を増やすと言われますが、ワーキングプアを増やして失業率を下げても完全雇用とはいえないのです。

安定した雇用のためには、日常的に労働力の再生産ができなければならないのですが、これには2つの意味があります。1つは労働から離れてのリフレッシュや休養で明日の英気を養う部分、もう1つは高齢になって働けなくなったときのために、次の世代を生み育て教育することで、切れ間なく産業を支えることです。いずれも相当の賃金水準が前提の話ですし、当然ワークライフバランスが実現できていなければならないんで、特に女性の妊娠出産育児によるキャリアの中断が不利になる人事制度の下では成り立たないことなんです。

というわけで、政策パラダイムのシフトはわかるけど、ハードルはかなり高いという状況です。当然無理とか実現不可能といった批判は可能ですが、これは変化を先取りするという意味で、むしろ企業にとってはビジネスチャンスを拡大できるわけで、「企業にフレンドリーではない」というのはおかしいんです。今回の予算編成で赤字が拡大したことも、元をただせば税収減、その中心は法人税の減少によるもので、リーマンショック後軒並みの企業の赤字が原因なんで、むしろ企業経営者はそれを恥じて利益の生み出せる経営にシフトすべきですが「成長戦略が見えない」と言って政府をつつくのは的外れです。企業の最大の社会貢献は納税であり、その前提は利益を安定的に計上できることです。それを実現するためには安定した雇用が必要だし、取引企業への支払いも滞りなく行われている必要があります。とはいえ自社の利益のためだけに納入業者を値切り倒せば、そちらで失業や賃金カットが発生しますから、安定的な取引関係を継続することは困難です。しかし実際は日経の景気指標で見ると日銀の企業サービス指数が減少の一途を辿っており、これが世上言われるデフレの原因と考えられます。

これを回避するためには産業構造を変えていくしかないのですが、丁度温暖化防止でCO2削減25%という目標を掲げているわけですから、これをテコに脱製造業、脱石油依存の産業構造を構築することが必要ということがわかります。実際エコカー減税や補助金、エコポイントなどの販売支援策が取られているにも拘らず、鉱工業生産指数は2月の69.5を底に回復しても86.1で、政策効果が剥落すれば80を割ることは確実、つまり2割相当の生産設備と人員が過剰で、これが今後企業業績の足を引っ張るのは間違いないところですが、早く手をつけて次世代の新産業に人員や資本をシフトすること以外に出口はありません。これは直近の失業率を押し上げることでもありますが、そこを躊躇していては前へ進めません。

というわけで、新政権の成長戦略は国民にもリスクを求めるものですが、政権交代を実現したことで、国民はある程度覚悟を示したともいえるわけです。次は企業が示す番ですし、それをまた国民が求め、政府が後押しすることで実際のパラダイムシフトが進捗するわけで、ある種政治的クラウドソーシング(オープンソースアーキテクチャー)でもあるわけです。リナックスやウィキペディアに代表されるクラウドソーシングですが、国民が主権者として振舞うことで実現可能になるという点は指摘しておきたいところですし、日本の後追いで急速に高齢化が進むと見られる中韓台ASEANなどのアジア諸国に範を示すことが、東アジア共同体構想の現実的なロードマップでもあるということです。そろそろ坂の上のクラウド(雲)の中でキョロキョロするのをやめて、クラウド(群集)パワーで新世紀を切り拓くことに目を向けるべきではないでしょうか。

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