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Saturday, January 02, 2010

坂の上のクラウドソーシング

NHKが大河ドラマ枠を使って2年越しの大作ドラマを仕掛けました。司馬遼太郎原作の「坂の上の雲」ですが、私にはあいにくそのよさが理解できません。というか、所詮司馬遼太郎はエンタメ系流行作家、それ以上でも以下でもない存在です。

そういえば今年の大河ドラマは坂本龍馬ですが、現在語られている坂本龍馬像なるものが、司馬遼太郎の「竜馬がゆく」で形作られていることも指摘できます。いわゆるフィクションすが、歴史自体、書物などの記録を通じて追体験されるものですから、所謂「見てきたような嘘」とまでは言わないまでも、フィクションの余地が大きいものでもあります。それゆえに歴史論争は大概不毛で時間の無駄に終わります。

そんな中で日本の謂わば過去の栄光にノスタルジーを感じる人が増えているからこそ、今、司馬遼太郎がもてはやされるのでしょうけど、今を生きる人間としては今が大事、さらに今が未来へ繋がっている、開かれていることこそが重要な問題です。そんな視点から司馬遼太郎ブームを見ると、いよいよ日本の衰退を本気で心配しなきゃならないのかと暗澹たる気分になります。

明治以来坂の上の雲を目指して日本人が努力を重ねてきたことは確かですし、それはおおむね1980年代、オイルショックで停滞する欧米を尻目に世界の頂点を極めたことで達成されたと評価できるでしょう。と同時に、坂の上の雲に首を突っ込んだら五里霧中の現実に直面して方向感を失い、今日に至る日本の難題を思い知らされます。実際バブル崩壊以来、失われた90年代、停滞のゼロ年代を経て、新たな10年を迎えるタイミングでの司馬遼太郎ブームですから、10年代は停滞を通り越して衰退へと向かう節目と感じざるを得ません。

日経新聞月曜日の「景気指標」欄を見ていると、重大な異変に気づきます。バブル崩壊後の90年代からほとんど横ばいだった名目GDPが08年10-12月期を境に減少に転じております。その一方で実質GDPは90年代から続く長期トレンドと変わらず1%成長で安定しているのです。これが何を意味するかといえば、需給ギャップがより鮮明に拡大しているということです。

もちろんリーマンショックという外生的要因があったからですが、そのリーマンショック自体もオウンゴールの性格を持つものだけに、結局ゼロ年代は日米当局のバブル政策で踊っていただけで、終わってみれば元どおり、その間にアジア地域の経済成長は目覚ましく、実質的にプレゼンスは低下しているわけです。

あと重大な変化は人口動態の変化です。2005年を境に人口減少へシフトした日本ですが、原因は高齢化によるということは、これまでにも再三指摘してまいりましたし、高齢化は結果的に国内消費を国内生産で賄えなくなるというマクロ的意味がありますので、以前にも指摘したように今までのように輸出主導で景気浮揚させることは不可能です。また輸出主導で景気回復を図ったゼロ年代初頭にトヨタが先陣を切ったベアゼロ春闘が、結果的に家計の消費にブレーキをかけた影響が、10年越しで出現したのが、08年10-12月期からの名目GDPマイナスと考えると、ゼロ年代は単なる停滞期ではなく、高齢化を与件とするマクロ経済変動に抗って衰退をむしろ加速したといえます。思えば昨年の新成人はバブル崩壊後の日本しか知らないで成人を迎えたわけで、今の停滞が100年に一度と言われても納得できないでしょう。

私自身はバブルの恩恵でセミリタイアの原資を得たクチですので^_^;、今の若者の置かれた状況に胸が痛みますが、同時にこれから老後を迎える身として、彼らに支えてもらわなければならないのに、彼らにそれに必要な所得を約束できないことがもどかしい限りです。

そういう中で起きた昨年の政権交代は、起こるべくして起きたことなんでしょう。民主党自身には頼りない部分もありますし、個別の政策では不満もありますが、政策決定過程がオープンになったことは評価できます。例えば迷走して見える普天間基地移転問題ですが、台湾海峡や朝鮮半島の有事対策や中国の「瓶の蓋」論など日米を巡る軍事的な「大人の事情」による負担をこれ以上沖縄だけに負わせることが難しくなっているからこそ、沖縄県民の意思を政府が代弁しているわけで、また大阪府の橋下知事の海兵隊受入容認発言や、報道されていないものの、複数の自治体首長から同様の申し出が相次いでいるように、沖縄以外の地域の国民意識も変化が見られます。だから決定を先送りした判断は正しいと言えるのですが、国民意識の変化に無頓着なメディアがバイアスをかけた報道を繰り返しているから、ブレているように見えてしまいます。

年末の30日には新成長戦略を管国家戦略担当相が取りまとめて発表しましたが、早速「具体策がない」とか「企業にフレンドリーではない」果ては「社会主義ではないか」などの批判がメディアから上がっておりますが、聞き流してよいでしょう。思えば昨年、GMの敵失でトヨタが世界トップとなったニュースをNHKも民法も誇らしげに報じていたのですが、華々しい戦果を喧伝するミッドウエー海戦報道を髣髴させました。政権が変わって一番はっきりしたのは、日本のメディアの駄目さ加減かもしれません。

政府目標として名目GDP年率3%、実質2%で、2020年にはGDP650兆円を目指すとしており、GDPの名目値を目標に掲げること自体が、従来はなかったことですが、メディア報道ではあまり触れられず、「抽象的で達成不可能」と悪口だけは叩いている状況です。もちろん私も達成可能な数値とは思いませんし、まして2020年までにCO2排出25%削減を実現しながらですから、従来の産業構造を根底からひっくり返すような話です。

重要なのは政策パラダイムをシフトしたことです。名目GDPを目標にし、かつ実質GDPより高い数値を掲げるということは、それ自身がデフレ脱却の宣言を意味します。リーマンショック後停滞が続く欧米でも見られない日本のデフレ状況の解消を約束するというのは、政権にとってはリスク要因ですが、あえて踏み込んだことを評価すべきです。目標はコミットメント(必達目標)ではなくストラテジー(戦略)と捉えれば、政権の決意が見えてきます。

実際には困難な課題ですが、管戦略担当相の発言などを見る限り、雇用の回復が肝と見ているようです。ケインズの「一般理論」で論考された非自発的失業の解消による完全雇用状態とすることで、望ましい低インフレ状況を生み出すということです。とはいえハードルはかなり高く、実現は簡単ではありません。

雇用問題は誤解が蔓延しているので、ひとこと申し上げておきます。完全雇用状態とは、失業率でXX%以下という形で表されるものではないことに注意が必要です。よく言われますが、民主党が掲げる製造業派遣の禁止や最低賃金の値上げなどは、むしろ国内雇用の空洞化で失業者を増やすと言われますが、ワーキングプアを増やして失業率を下げても完全雇用とはいえないのです。

安定した雇用のためには、日常的に労働力の再生産ができなければならないのですが、これには2つの意味があります。1つは労働から離れてのリフレッシュや休養で明日の英気を養う部分、もう1つは高齢になって働けなくなったときのために、次の世代を生み育て教育することで、切れ間なく産業を支えることです。いずれも相当の賃金水準が前提の話ですし、当然ワークライフバランスが実現できていなければならないんで、特に女性の妊娠出産育児によるキャリアの中断が不利になる人事制度の下では成り立たないことなんです。

というわけで、政策パラダイムのシフトはわかるけど、ハードルはかなり高いという状況です。当然無理とか実現不可能といった批判は可能ですが、これは変化を先取りするという意味で、むしろ企業にとってはビジネスチャンスを拡大できるわけで、「企業にフレンドリーではない」というのはおかしいんです。今回の予算編成で赤字が拡大したことも、元をただせば税収減、その中心は法人税の減少によるもので、リーマンショック後軒並みの企業の赤字が原因なんで、むしろ企業経営者はそれを恥じて利益の生み出せる経営にシフトすべきですが「成長戦略が見えない」と言って政府をつつくのは的外れです。企業の最大の社会貢献は納税であり、その前提は利益を安定的に計上できることです。それを実現するためには安定した雇用が必要だし、取引企業への支払いも滞りなく行われている必要があります。とはいえ自社の利益のためだけに納入業者を値切り倒せば、そちらで失業や賃金カットが発生しますから、安定的な取引関係を継続することは困難です。しかし実際は日経の景気指標で見ると日銀の企業サービス指数が減少の一途を辿っており、これが世上言われるデフレの原因と考えられます。

これを回避するためには産業構造を変えていくしかないのですが、丁度温暖化防止でCO2削減25%という目標を掲げているわけですから、これをテコに脱製造業、脱石油依存の産業構造を構築することが必要ということがわかります。実際エコカー減税や補助金、エコポイントなどの販売支援策が取られているにも拘らず、鉱工業生産指数は2月の69.5を底に回復しても86.1で、政策効果が剥落すれば80を割ることは確実、つまり2割相当の生産設備と人員が過剰で、これが今後企業業績の足を引っ張るのは間違いないところですが、早く手をつけて次世代の新産業に人員や資本をシフトすること以外に出口はありません。これは直近の失業率を押し上げることでもありますが、そこを躊躇していては前へ進めません。

というわけで、新政権の成長戦略は国民にもリスクを求めるものですが、政権交代を実現したことで、国民はある程度覚悟を示したともいえるわけです。次は企業が示す番ですし、それをまた国民が求め、政府が後押しすることで実際のパラダイムシフトが進捗するわけで、ある種政治的クラウドソーシング(オープンソースアーキテクチャー)でもあるわけです。リナックスやウィキペディアに代表されるクラウドソーシングですが、国民が主権者として振舞うことで実現可能になるという点は指摘しておきたいところですし、日本の後追いで急速に高齢化が進むと見られる中韓台ASEANなどのアジア諸国に範を示すことが、東アジア共同体構想の現実的なロードマップでもあるということです。そろそろ坂の上のクラウド(雲)の中でキョロキョロするのをやめて、クラウド(群集)パワーで新世紀を切り拓くことに目を向けるべきではないでしょうか。

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Comments

日本の政治家には古典的なケインジアンが多いのか、成長戦略=バラマキになっているような気がします。
以前、テレビで日銀の白川総裁がおっしゃっていましたが、本当の成長戦略は規制改革だと思います。
よく言われる情報通信分野や労働市場だけでなく、鉄道をはじめとする運輸分野などあらゆる面で改革が必要です。

デフレ自体はそれほど悪いことだと思いません。問題なのは物価と賃金のバランスであって
極端な話、物価が暴落しても賃金が大きく下落しなければ実質的な生活水準は向上します。
生産効率を上げ、結果的に賃金の減少を食い止めることが重要だと思います。

Posted by: yamanotesen | Sunday, January 03, 2010 at 12:18 AM

日本の政治家が伝統的ケインジアンというのはどうでしょうか。もしそうなら完全雇用とまでいかなくても、欧米水準の有効な労働者保護政策が取られ、例えば派遣切りのようなことは起こらないと思うのですが。日本にはケインジアンを詐称する性質の悪い利権屋が多かったというのが実際でしょう。

白川総裁の言う規制改革は、単純な規制緩和というよりも、情報の非対称性や外部不経済などによる市場の失敗を補完することに政府の役割を限定しようということだと思います。であれば鳩山新政権の方針と方向性は一緒です。ただし労組出身者が重要閣僚に起用されていて、労組利権に対して中立かどうかは怪しいところがありますが。

デフレに関してですが、消費者物価は物の価格とサービス価格の双方を含み、どちらが下がっているかで意味が違います。物が安くなるのは良いことです。例えば円高で輸入価格が低下するとか、技術革新で同じ価値の商品が安く供給されるとかであれば、望ましい物価下落ですが、サービス価格であれば、賃金との相関がありますので、サービス価格下落は賃金低下と意味は同じですので、家計所得の減少により消費不況を引き起こすことになります。現在の日本の状況は明らかに後者であり、マクロ経済指標にも現れています。

これを回避するには完全雇用状況を作り出す以外に方法はありません。民主党政権でそれが可能かどうかはわかりませんが、政権交代が起きたことで、国民が政治にコミットしやすくなったことは間違いないところですので、私たちが希望を捨てないことが重要です。


Posted by: 走ルンです | Sunday, January 03, 2010 at 08:48 PM

ない頭で考えますが。
農業分野は自給率向上のため大規模(専業)農家、ダメ。
介護分野は成長が期待できますが、低賃金、ダメ。

のこりは製造業に期待して社会を変えるほどの技術革新。
話題の交通料金大幅値下げ競争による旅行、不動産産業。
競争のなかった長距離移動、メディア関係に期待します。

>高齢化が進むと見られる中韓台ASEAN

10年前にタイでも、マレーシアでも3K離れ耳にしましたが、
日本と同じ人口動態になりつつあるというのは、中韓台ASEANは
経済・社会が成熟する前に低経済成長になるのでしょうか。

東アジア共同体の経済での参加条件として気になります。

Posted by: カズ | Monday, January 04, 2010 at 01:47 PM

いえいえ、鉱工業生産指数が100を切っているということは、製造業の生産設備と人員が余剰であるということなんです。ですから、ここを整理しない限り、デフレからは脱却できないんです。

当然短期的には失業者が増えますから、受け皿となる新産業を創出する必要があるわけで、ゆえに決定打が見つからないのです。とはいえ現在規制に護られている部分に新規参入を促して活性化できる分野も多数あり、それが農林水産業や医療、介護、小売サービス、金融、運輸などが考えられます。この辺は民主党のマニフェストにも盛り込まれておりますが、現時点で具体策までは見えていない状況です。

中韓台ASEANなどのアジア諸国は、いずれも輸出主導で経済成長しており、かつての日本と同じ道を歩んでおります。当然日本が現在直面する問題は各国の将来の課題となるわけで、各国とも日本の現状を注視してます。

あとアジア固有の問題として、貿易決済通貨の米ドルのシェアが圧倒的で、ほとんどの国が事実上米ドル連動の為替政策を取っていること、また多国籍企業の製造工程の最適配置の結果、国境を越えたバリューチェーンが形成されていて、相互依存が強いということもあります。

ですから当面は成長が続くとしても、遠からずアジア全体で成長が鈍化することにもなりますので、日本が現在の課題を克服することは、極論すればアジア全体の浮沈に係わる問題でもあります。実際中国でさえ社会保障制度の創設や労働者の権利保護を打ち出している状況で、天安門事件の当事国が様変わりしている状況です。

とはいえタイの政情不安など各国で課題も多く、日本が良い意味で影響力を行使すべき局面です。その意味で昨年の政権交代の意味は大きいのです。

Posted by: 走ルンです | Monday, January 04, 2010 at 09:54 PM

わかりやすい説明ありがとうございます。

>鉱工業生産指数が100を切っている、製造業の生産設備と人員が余剰

今年は派遣切りに続いて、いよいよ社員リストラか・・
3月を目の前に看守の靴音が聞こえてきました・・・。


夢はリニアに乗ってみたい。
早く早く本当に早く着工してほしいです。

Posted by: カズ | Tuesday, January 05, 2010 at 10:39 PM

日本の報道機関の問題と司馬遼太郎の評価について。

http://d.hatena.ne.jp/zyesuta/20100430/1272628004/

私のことを棚に上げて批判する必要がある報道機関は衝撃的でした。

司馬遼太郎については、作品をすべて知らないですけど、
ごくわずかながら執筆の動機を知っていましたので、
管理人さんの評価に抵抗を感じました。
しかしながら、本文の趣旨や執筆の動機などを斟酌すると
やむを得ないと愚考しました。

管理人さんもくれぐれもご自愛ください。

Posted by: とまと | Friday, April 30, 2010 at 10:09 PM

メディアの不勉強は今に始まった話ではありませんが、リンク先のような状況は深刻ですね。迷走する普天間問題ですが、そんなメディアに叩かれている鳩山首相に同情を禁じ得ません。

海兵隊の海外移転、グアム移転は、日本が本気で要求すればおそらく実現します。しかしそれは米軍のアジア地域の防衛ラインを後退させることを意味しますので、究極のところは米軍の抑止力に防衛を依存する日本がそれで良いのかという問題に帰着します。

とはいえそんな「大人の事情」を沖縄ばかりに押し付けることは問題なんで、本気で解決に向けて格闘しているのに、後方から撃たれているようなものです。考えなきゃならないのは日本国民自身なのに、政府にお任せじゃどうにもなりません。

司馬遼太郎についてですが、その面白さについつい引きずられてしまい勝ちですが、あくまでもフィクションです。巷間いわれる司馬史観礼賛は要注意です。

Posted by: 走ルンです | Saturday, May 01, 2010 at 09:22 AM

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