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Saturday, March 20, 2010

遅れてきた2003年問題、オフィス不況が止まらない

2008年の公示地価発表の時の記事を読み直したんですが、丁度JR東日本の東北縦貫線の着工が決まったタイミングでした。同時に前年8月にサブプライムショックで世界規模で信用収縮が始まっていたのですが、まだ東京都心などでは地価は高止まりしておりました。当時まだ実体経済は強かったのですが、9月のリーマンショックで実体経済が傷つき、更に年末にかけての派遣切り騒動へと連なります。

そして今年ですが、全国の地価は観測地点の99%が下落しており、下落幅も大きくなっております。

公示地価2年連続下落 4.6%、商業地下げ目立つ
大まかなトレンドとして、06~08年にかけて三大都市圏で地価上昇局面があった一方、地方圏は下落が続いていて、結局バブル崩壊後20年に亘る地価下落となりました。

ここで気をつけなければならないのは、公示地価の動向は実勢価格より遅れて動くという点です。2006年、姉歯事件を契機に見直された建築基準法改正による強度構造検査の厳格化が06年6月から施工され、建設ラッシュに水を差されたのですが、そのお陰でオフィス需要が逼迫し、賃料を上昇させた面があります。また再開発ラッシュで少なからぬ大企業が本社屋の建て替えで仮オフィスを手当したことで、オフィス賃貸市場に仮需要が生じたことも指摘できます。

オフィスビル2003年問題というのが言われたのですが、六本木ヒルズや汐留や品川港南地区などの一連の再開発でオフィスビルの供給が増えて賃料が下がるのではないかと言われていたのですが、実際は上記の通り再開発で仮需要を生んでいたことと、2003~2004年の大規模為替介入による円安誘導で輸出主導の景気回復があったことで、また丁度ブロードバンド化で光回線などのブロードバンド環境の整った新築オフィスが好まれたこともあって、オフィス需要自体が押し上げられたこともあり、問題は顕在化せず、むしろ賃料の上昇でオフィスビルの新築が高水準で続いた結果、2003年以上にオフィス供給量が増えてしまいました。

問題はその後の変化で、クラウドコンピューティングはオフィスに鎮座していた専用サーバーを代替し、また高速大容量の通信でどこでもオフィスが実現することで、そもそもオフィス自体の必要性も低下しつつあります。加えて団塊世代の大量退職でオフィスワーカーが減少に転じており、更にリーマンショックによる実体経済の悪化がオフィススペースの圧縮を後押ししているのが現状です。この構造変化は当分続くものと考えられます。

何のことはありません。オフィスビル2003年問題が時間差を置いて顕在化したわけです。その結果90年代のバブル崩壊時と同様に、金融機関の不良債権問題が再燃することになります。とりあえず現時点ではダヴィンチ・パートナーズのような不動産ファンドの資金繰り難という形を取っておりますが、ファンドが破綻すれば機関投資家としてファンドを購入していた銀行、生保、年金基金などに損失が広がります。現状は塩漬けにして損失を隠しているものの、2015年にも予定される新国際会計基準(IFRS)の強制適用によって保有有価証券の評価損益の開示を迫られることになりますので、またしても日本発の金融危機となります。

悪いことにJR東日本の東北縦貫線が完成する2013年以降、高輪の操車場跡地がまとまった再開発用地として売り出されます。駅設置も決まっており、ある程度のオフィス供給は為されるでしょう。とはいえ既にこの状況ですから再開発計画自体が見直される可能性もあります。また老朽ビルは2003年問題のときにコンバージョン(オフィスビルの用途変更)が言われ、住宅や倉庫に変更されたものも出ておりますが、下手をすると新築ビルでもテナントが決まらないままコンバージョンにかけられう物件も出てくると考えられます。というわけで、建築計画ではオフィスビルなのに、完成後なんちゃってマンションに化けるなんて事も起こりそうです。

とはいえ都区内でも既に大型タワーマンションが多数建っている現状です。いくら高層タワーマンションは人気があるとはいえ、供給が増えれば値下がりするのが道理です。加えて既に国内の住宅ストックは余剰となり、空屋率は13%を超えている状況です。諸外国の例では空家率は10%程度で安定するのが望ましいと言われますが、現状では更に上昇しそうです。

加えて少子化で、若年層にとっては両親の持ち家が相続される可能性が高いわけですから、そもそも住宅購入の必要を感じていないでしょうし、現在のような雇用情勢ではそもそも長期の住宅ローンなんて怖くて組めないでしょう。というわけで、今年売り出された高層タワーマンションが軒並み即日完売で、マンション市況が底を打ったとする見方もありますが、それはひと頃の高額物件よりも価格がやや下がってきたことの影響でしょう。逆に売るに売れない高額物件は賃貸に回され、ファンド売却によるオーナーチェンジ(賃貸契約を引き継ぐ形での譲渡)を探っているというのが本当のところです。

というわけで金融緩和の長期化と容積率緩和などの政策の後押しによる再開発の行き着く先は、空室だらけのシャッタービルだったと言う笑えないオチです。

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